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139.最終決戦-ブラック・ボール

 発射されたブラック・ボールは、アドラに当たったため、弾道が逸れ、世界樹への直撃コースは避けられた。

 しかし近くの岩山まで届き、地上30メートルほどの場所で衝突、大爆発を起こした。


 しかし、ボール自体は破壊されず、その場で停滞した。


 それを、世界樹の手前に史郎が展開した結界に、いったんは封じ込めることができたが、ブラック・ボールはその場所で急速に拡大を始めようとする。


 そして、史郎の結界では耐え切れず、結界は破壊された。


 そして、ブラック・ボールは急速に大きくなり、それにつれて、空は黒くなり、世界中で雷が鳴り響き、地面が揺れる。


 ボールの直径は、既に直径百メートルを超え、次第に拡大しつつある。そして、それが下降し始めた。


「くそ、やっぱり簡単にはいかないか!」と史郎は叫び、仕方ない、と考えて、


「【スナップショット】起動」と史郎はつぶやく。あらかじめフィルミア様に頼んでおいた、新機能の一つだ。史郎の目が淡く光る。



 ブラック・ボールはとうとう地面に接触、すべてを飲み込む勢いで破壊し始めた。



「シロウ、この場面に見覚えがある……」とシェスティアが泣きそうな顔で史郎を見た。

「史郎、まずいですね。あの魔力の塊は……」とミトカも続きが出ない。

「先輩、あれって……もしかして、惑星ごと破壊するんですか?」琴音も、詳しくは分からないながらも、事の重大さは理解していた。



「いや、まだあきらめるのは早い。この時のために俺はずっと考えていたんだ。以前がどうだったのか知らないが、今回は絶対大丈夫だ。奥の手だ!」


 と、史郎は叫び、「【スドー(管理者権限昇格)】」と詠唱した。


 すると、史郎の神術レベル2が発動、全身が白く光り輝き、眉間と頭頂のチャクラが輝く。


「今から、新しい神魔術での結界を発動する。前回のアドラの時と同じように、魔力増幅と供給を頼む!」と史郎は叫んだ。


「わかった」「わかりました」「はい!」と三人は答え、全員が配置につくように移動する。


 史郎が上の頂点、ミトカ、琴音、シェスティアが底辺の頂点に位置する、正四面体の結界だ。


 そして、シェスティアが、つぶやく。

「【赤い糸】スキル発動」


 シェスティアが赤く光り輝き、光の帯が、三人と史郎を結んだ。


 そして、

「よし! 【神封印結界】!」と史郎が叫んだ。


 すると、正四面体が黄金に光り輝き、結界が作られる。


 ブラック・ボールは、結界の内部に引き寄せられ、閉じ込められた。


 しかし、ちょうど、その瞬間、ブラック・ボールがさらに膨張をはじめ、結界と接触する。


 その瞬間、バリバリと轟音が響き渡り、結界がさらに光り輝く。




 エルフの街からは避難した高台から、戦闘の様子が見える。避難したエルフ族の皆や、映像で見ている世界中の人は、その場面に目が釘付けになった。


「すごい……」


 声に出せないほどの光景なのだ。先ほどまでの、巨大な黒い球が地面に埋もれていき、何もかも飲み込み、破壊しようとするその様子に、見る者はみな恐怖した。


 しかし、今は、その黒い球の周りには、黄金に輝く正四面体の結界。皆は理解している。それが、最後の望みなのだと。




「大丈夫だ、持ちこたえている。このまま結界を縮小させる!」と史郎は叫ぶ。


 史郎の体は、今までにないくらい輝いており、頭頂のチャクラが天使の輪のように輝いている。


「【リストア・ノバ】!」と史郎は叫んだ。


 その瞬間、正四面体に内接する白く輝く球状の結界が現れ、強く白く輝き、ブラック・ボールを覆う。そして、結界全体が、収縮を始めた。

 あまりにも強いエネルギーのせいで、彼らの周辺は、嵐のように風が吹きすさび、木々や岩を吹き飛ばしている。


 周りには、ありとあらゆる属性の魔術の矢は()()()()()()


 魔獣はほとんどいないのだ。トレクト・ランスの群れは、みんなの力を合わせて、すでにほとんど無効化されたのだ。


 アリア達が史郎達のそばに集まってきた。あらかじめ打ち合わせしてあったのだ。史郎が正四面体の結界を発動したら、可能なら集まってほしいと。


 ソフィアはシェスティア、シェリナは琴音、アルティアはミトカの後ろに立ち、魔力供給をする。


 そして、その周りには、アリア、アルバート、ミラーディア、エミリア、真琴、正明、美鈴が結界の柱となり、魔力供給を兼ねて、史郎からの光の帯を維持する。

 史郎が全員の周りに、対魔獣・対デブリの結界も張ったのだ。木々や岩が容赦なく飛んでくるからだ。


 史郎はシェスティアの赤い糸スキルと完全に同調した。4人による制御で、ブラック・ボールをリストア・ノバの完全同期により中和しようとしているのだ。


「くそ、あと少しだが……まだ、向こうの方が速くて強いか……」

 史郎は、苦しみながらも、全力で白い球体に魔力を注ぎ、中和をしようとした。


「先輩……」琴音が心配そうな顔で史郎の方を見る。

「史郎」とミトカも見た目は平静だが、内心少し焦っていた。予想以上の魔力消費なのだ。そして、ミトカには、史郎の苦しみが感じられた。

「シロウ、今度は大丈夫。私が何とかする」

 シェスティアは確固たる自信をもって、決意する。

 そしてその強い思いは、他の二人の心配を打ち消すように、伝わっていく。


 三人の思いは、魂リンクでつがっているため、通じ合った。そして、三人とも思い出す。


『全員の魂の信頼と親愛による接続と同期。そして深い愛情』が鍵よ、とフィルミアは以前シェスティア達に告げた。この必要性についてはミトカは理解していた。なので、シェスティアと琴音と史郎との関係を親密にするような言動となっていた。

 ただ、ネックは琴音だった。地球での文化が枷になり、以前の時は、四人の関係性について、思い切りがつかなかったのだ。しかし、皆で世界を廻っている間に、女性陣三人の仲は、以前と比べ物にならないほどの親密になった。


 シェスティアが、念話でミトカと琴音に伝える。


「三人の思いを込めて発動する」

「はい」

「うん、わかった」

 二人は、力強く答えた。


「【赤い糸】レベル2」と、シェスティアが静かに詠唱した。


 その瞬間、全員がそれまで以上に光り輝く。そして、高速並列処理速度が10倍になり、三人の深い愛情が魔力変換され、史郎に流れ込んだ。


【赤い糸】レベル2で発動可能な【愛情魔力変換】は、フィルミアが彼女たち三人に贈った切り札だ。愛の思いが強ければ強いほど、それが魔力に変換されるのである。


「!」


 史郎は、三人から流れ込んだ強い思い、愛情、そして、魔力に驚く。


「……三人とも、ありがとう。これで、終わりにしよう」


 史郎はそう言うと、「【ニュートロン】」と詠唱した。


 その瞬間、史郎と三人はひときわ強く光り輝く。

 そして、結界は、黄金と白の混ざった不思議な光を発し、一挙に収縮。消滅したのであった。



 そして、そのとたんに、青空が現れ、嵐が止み、静寂が取り戻された。


 あとには、直径百メートルほどのクレーターが残されただけであった。



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