136.トレクト・ランス・スタンピード1
エルフの森の北区と西区。かつて、トレクト・ランスの森ともいわれた地区は、今は、大量の魔獣で溢れかえっていた。元からいたトレクト・ランスに加えて、高濃度瘴気でポップして増え続けているのだ。
そして、一部は、さらに瘴気を吸収して、凶悪なエルダー・トレクト・ランス、さらには、凶悪で巨大なギガント・トレクト・ランスなどに進化する物も現れ始めた。
また、瘴気とトレクト・ランスのせいで、普通の森の植物や木がどんどん枯れ始めた。
トレクト・ランスは、狂暴化すると、生い茂った枝を槍のように繰り出して360度全方向に突きで攻撃してくる。物理的な手段では、その攻撃のためなかなか近づけない。
そして、トレクト・ランスの木材は、魔法の杖の良い材料になるということからわかるように、魔術伝導率が高い。なので、魔法耐性も高く攻撃魔術が通りにくい。
さらに、狂暴化したトレクト・ランスは、根を地上に持ちあげ、まるで、タコのように移動するのだ。
さらに厄介なのが、共生している魔獣の蔦だ。自身を触手のように動かして、獲物を巻き付けて捉えようとする。いったんそれに捕まると、非常に強い力で締め上げられる。そして、蔦についている細いとげのようなものが体に刺さり、体液を吸収されてしまうのだ。
蔦はその一部を宿主であるトレクト・ランスに分けることと、枝よりも長距離の攻撃をカバーすることで、共生をしているのだ。
これらのトレクト・ランスが、北地区から西地区へ、大量に移動しつつあるのであった。
西地区から南地区へ移動しようとするトレクト・ランスだが、そこには地区を隔てる強固な壁が築かれている。万が一の時のための壁なのだが、今回初めてその効果を実証することになったのだ。
エルフの里の冒険者たちは、西区と南地区をつなぐ砦を守ることになった。今回のトレクト・ランスは狂暴化しており、通常の冒険者では刃がたたない。なので、とおり道を小さくし、集団で少数を相手することによって、なんとか対処しようとしているのだ。
砦の上からは、魔術師たちが、魔術で対抗していた。
「魔術部隊は、牽制だけでいいぞ、とにかくゲートと壁に近づかせるな!」と冒険者が叫んだ。
「防御に自信のあるやつは、突っ込め!」
ある程度の防御能力、たとえば、魔力纏のスキルや、盾と鎧を装備すると、気をつければ大斧などで対抗はできるのである。
エルフ族は、良く知られているように弓が得意だ。そして、今回、史郎から大量のあるアイテムを渡されている。
「弓部隊、斉射!」
エルフ達はいっせいにトレクト・ランスに向けて矢を撃ち放った。
矢が、トレクト・ランスに刺さった瞬間、バリバリッ! という衝撃音とともに、電気ショックが発生し光り輝く。そして、トレクト・ランスが蔦もろとも停止した。
「おー! すごいぞ! トレクト・ランスが止まったぞ!」
「蔦が黒こげだぞ!」
みなは、その効果に驚いた。
史郎がせっせと作ったのは、衝撃で電気ショックが発生するやじりだ。既にあるやじり部分に簡単に接着できるようになっている。発生する電気ショックも、樹木対象用に、かなりの威力に調整した。まるで雷が落ちたかのような攻撃になった。
こうして、冒険者と兵たちは、砦を守りつつ、少しずつだが確実に魔獣を倒していくのであった。
◇
その砦から、北へ入ったところで、勇者組が戦っていた。
「おー、触手だな」と真琴。
「あー、触手だな」と正明。
「あんた達バカなこと言ってないで、攻撃しなさいよ!」と美鈴。
ここのところずっといっしょにいるので、二人の行動パターンを理解し、容赦なくなってきた美鈴が、二人に怒鳴った。
正明と美鈴は魔術でトレクト・ランスに攻撃を仕掛ける。主に、氷系、土系の攻撃魔術だ。森が火事になるといけないので、火系の魔術は使えない。さらに、トレクト・ランスは水系に耐性があるので使えない。
真琴は相変わらずつっこんでいき、トレクト・ランスをひたすら切り倒していく。
ただ、その様子でみんなが感心するのは、縦横無尽に飛びかう蔦や枝を難なく避けているその人間離れした動きだ。そして、史郎が作った聖剣と真琴のスキルの効果で、直径2メートル程度のトレクト・ランスの幹だと一振りで切断するのだ。
「相変わらず、感心する動きと、無茶苦茶な切り方だな……」と正明があきれる。
「ははは、彼らしいな。だが、以前よりはかなり剣捌きが上達しているな。流れるように一太刀で切っていっているぞ」とスティーブン。
「……まあ、スティーブンの言うとおりね。真琴も少しは成長したのかしら」と美鈴は返した。
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