2 内気な白兎
アリスはかすり傷ひとつ負わず、すぐに立ち上がりました。上を見上げましたが、頭上は真っ暗でした。前を見ると、また長い通路があって、さっきの白兎がまだ先を急いでいるのが見えました。ぐずぐずしてる暇はありません。アリスは風のように走り出しました。そして、ちょうど、兎が角を曲がりながら。
「どうしよう!困ったよ〜!どんどん遅くなってくぅ!」
と言ってるのが聞こえました。その声は可愛らしく優しい声でしたが、焦ってる声でした。
「あの・・・」
頭を抱えてる白兎に話し掛けると、白兎は肩をビクッとさせ、こちらを見て言った。
「だ、だれ? 急がないとぉ・・・」
「ご、ごめんなさい。ここは、どこですか?僕迷ってしまって・・・あ、僕はアリスです」
なるべく優しく話し掛けると、白兎は少しだけホッとしたような顔をしました。
「わ、私はシロウサギです。ここは不思議の国です」
「不思議の国?」
シロウサギの言葉に謎が浮かんだ様子のアリスです。
「貴方は、不思議の国の人じゃないのですか?」
「うん。君に着いてったら落ちてたの」
「あう!?私のせいですか!?・・・・お城に行かれては?」
「可愛い子・・・でもお城って?」
と思ったアリスでしたが、またしても気になる単語が出てきて不思議に思ったアリスです。
「あ、歩いてれば見つかりますから!!」
「あ、待って!!・・・・・行っちゃった・・・」
言うだけ言うとシロウサギは、どこかへ走って行きました。アリスは、その姿を呆然と見るしか出来ませんでした。
「どうしましょうか・・・」
周りを見回すと、天井の低い広間で、天井から下がった一列のランプで照らされていました。
広間のぐるりにはドアがありましたが、みんな鍵がかかっていました。アリスはそのドアを、あっちこっちと、みんな試してみましたが、やがて悲しげに真ん中へ引き返して来た時には、一体どうしたら外へ出られるのかな、と考えていました。
とつぜんアリスは、硬いガラスばかりでできた、小さな三本脚のテーブルにぶつかりました。上にはちっぽけな黄金の鍵が一つきりで、それ以外には何も載っていません。アリスは初め、これは、広間のドアのどれかの鍵かもしれない、と思いました。けれども、錠が大きすぎるのか、それとも鍵が小さすぎるのか、それはどっちにしても、どのドアも開きませんでした。けれども、二回目に周って歩いていた時アリスは、先ほどは無かったドアが現れていました。アリスがその綺麗な黄金の鍵を錠に入れて試してみると――なんと、嬉しいことに、ピッタリと合ったではありませんか!
開けてみると、通路の先には真っ暗な闇が続いてました。
あまりの暗さに顔が引きつってるアリスです。
少し経ってから、遠くで微かにパタパタという足音が聞こえたので、アリスは慌てて顔を戻して、何が来たのか見てみました。シロウサギが帰ってくるところでした。立派な服装をして、片手にはキッドの皮手袋を持ち、もう一方の手には大きな扇を持っています。シロウサギは大急ぎでピョンピョン跳んで来ながら・・・。
「あぁ!公爵夫人がぁ〜!公爵夫人がぁ〜!こんなにお待たせしたんじゃ、さぞかしお腹立ちのことなんだろうぁ〜!」
と言いました。恐怖のあまり、アリスはもう必死で、誰にだって助けを求める心境になっていたので、近寄って来たシロウサギに向かい。
「あの、すみませんが――」
と、低い、怖々した声で話しかけました。シロウサギは再びビクッとして、白のキッドの手袋と扇をその場にバッタリと落とし、猛烈な勢いで暗闇の中へ逃げ込みました。
アリスは扇と手袋とを拾いあげましたが、広間がとても暑かったので、喋り続けながら、扇で自分を扇ぎ続けました。
「やれやれ!今日はまた、どうしてこう何もかもおかしいんだろう!昨日まではちっとも変わったことは無かったんだよ。ということは、夜のうちに僕が変わったのかな?ちょっと待って・・・僕は今朝起きた時、昨日と同じだったかな?そういえば、少し変わってたような気もするけれど。でも、もし僕が昨日と同じ僕でないとすると、問題だよ。僕は一体誰だろう?あぁ、これは実に難しい大問題だ!」
考えたアリスでしたが、浮かばずに結局、ドアの奥に進んだ。