1 兎の穴に落ちる
文章だらけで、しかもお姉さんが、良いキャラしてます
アリスは、土手の上で、お姉さんのそばに座ってるのが、とても退屈になってきました。おまけに、何もすることが無いのです。一、二度、お姉さんの読んでいる本をのぞいてみたけれど、その本には、絵もなければ会話もありません。
「変なの」
とアリスは考えました。
「絵もなければお話もない本なんて、なんの役にもたちやしないよ」
それよりも、アリスの今の姿を聞きました。
「お姉さん、どうして僕は・・・女の子の洋服を着てるの?」
「それは、可愛い・・・じゃなくて・・・・萌え・・・じゃなくて・・・・まぁ仕方無いのよ」
変な単語が聞こえました。しかも、話を逸らしました。ですが、アリスには何か分りません。
アリスの容姿は、金髪で肩までの長さでサラサラで指通りがよさそうです。顔も女の子寄りで可愛らしいです。だけど、男の子なんです。
暇なアリスは、心の中で出来るだけ考えようとしました。――というのは、その日はとても暑かったので、眠くて頭がぼんやりしがちだったのです――シロツメクサで花飾りをつくりお姉さんを脅かそうと思ったが、わざわざ立ち上がって立ち上がってシロツメクサを摘むだけの価値はあるだろうか? と、そのとき、とんでも無いものがアリスの前に現れました。
「え・・・ウサギの耳をした女の子?」
赤い目にウサギの耳を着けてる(カチューシャとかじゃないから生えてるんだと思う)チョッキを着た美少女でした。
白髪で二つ結いの三つ編みが腰まで伸びてます。それだけなら、女の子に見えるがズボンを履いています。
それは、とくに驚くことではありませんでした。それにアリスは、その兎が。
「あう〜、あう〜、遅くなっちゃうよ!」
と独り言を言ったのも、それほど不思議とは思いませんでした。(もっとも、あとでそのことを考えた時は、おかしいと思わなければならなかったのだ、と思いましたが、その時は、ごく普通のことのように感じたのです)けれども、その兎が、目の前でチョッキのポケットから時計を取り出し、時間を確かめて、また先を急ぐのを見たときには、さすがのアリスも思わず立ち上がっていました。なぜといって、チョッキを着ていたり、そのポケットから時計を取り出したりする兎は、まだ見た事が無いのに気が付いたからです。たちまち燃えるような好奇心にかられたアリスは、あの格好のまま野原の中を、兎を追いかけて走り出し、ようやくのことで、兎が、垣根の下の、大きな兎穴に飛び込む所を見るのに間に合いました。
次の瞬間、アリスもその穴に飛び込んでいました。どうやってそこから出るのかなどいうことは、これっぽっちも考えませんでした。
兎穴はしばらくの間、トンネルのようにまっすぐ続いていて、突然ガクンと下り深い井戸のようなところへ、グングンと落ち込んでいました。
井戸が本当にとても深かったのか、それとも落ち方がひどくゆっくりしていたのか、落ちていく途中で、周りを見回したり、これからどうなるのかと考えたりする時間は十分にありました。まず、下を見下ろして、どこへ行くのか確かめようとしましたが、暗くて何も見えません。次に井戸の回りの壁を見ると、そこは戸棚や本棚がいっぱいでした。所々に、地図や絵が釘にかかっていました。それには『オレンジ・マーマレード』というラベルが貼ってあったのです。けれども、それは空っぽで、アリスはがっかりしました。それでも、壺を下にいる誰かに当たって死んだりするといけないし、と思ったので、落ちながら、戸棚の一つの上にようやくのことで載せました。
「さあて、これだけ落ちたんだから、今度は階段から転がり落ちたって平気だよね。家に帰ったら、みんな僕が、すごく勇気があるってびっくりするだろうね!そうだ!家の屋根から落ちたって、一言も痛いなんて言わないに決まってる!」
(これは、確かにその通りでしょう、屋根から落ちたのでは、口もきけません)
下へ―下へ―下へ。いったいどこまで落ちたら止まるのか。
「もう、何キロぐらい落ちてきたかな?」
と、アリスは口に出して言いました。
「もう地球の真ん中辺りまで来たに違いない。ええと、そうすると、六○○○キロ以上も来たことになるね」
(アリスは学校の授業のとき、こういったことをたくさん勉強してきました。だから、その知識をひけらかすには、聞いている人が誰もいないのだから、あまりよい機会とは言えなかったけれども習ったことを何度も声に出して言ってみることは、いい復習になると思ったのです)
「そうだ、たしかそのくらいの距離だよ。でも、緯度と経度とは、どのくらいなのかな?」
(実はアリスには、緯度も、何のことかさっぱり分らなかったのですが、いかにも立派そうな言葉なので、使ってみたのです)
やがて、アリスはまた喋り始めました。
「このまま落ちていくと、地球を突き抜けてしまうんじゃ!頭を下にして歩いてる人達の所へ飛び出したら、おかしいんだろうな!対情地人というんだな」
(この時にはアリスは、誰も周りに聞いてる人がいなくて良かった、と思いました。どうも、正しい言葉のような気がしなかったからです。注――その通り。本当は、antipodes 対蹠地 アンチポーズ、またはそこに住む人間が正しいのです)
「でもそこの国の名前ぐらいは聞かなければいけないね。ここはニュージーランドでしょうか、それともオーストラリアでしょうか、すみませんが教えてくださいませんか?」
アリスは喋りながらお辞儀をしようとしました――でも、考えてみてください、空中を落ちながらお辞儀をする格好を! あなたは出来ると思いますか?
「きっとそんなことを聞くなんて無知な男の子だと思われるに違いない。そう、そんなこと聞いちゃ絶対ダメだ。たぶん、どこかに書いてあるから、それを見れば良いんだ」
下へ―下へ―下へ。他に何もすることが無いので、アリスはまたすぐに喋り出しました。
「ダイナが今夜、とても寂しがるね――僕がいないから!」
ダイナというのは飼い猫です。
「お茶の時間に、ミルクをやるのを家の人が忘れなければ良いけど。あぁ、ダイナ!お前も、僕と一緒に来れば良かったのに!空中には鼠はいないたろうけど、コウモリなら捕まえれるかもしれないよ。コウモリは鼠によく似てるでしょ。でも、猫はコウモリを食べるかな?」
このあたりで、アリスはとても眠くなってきました。それでも、夢の中で言うみたいに言い続けました。
「猫はコウモリを食べるかな?猫はコウモリを食べるかな?」
時には間違って。
「コウモリは猫を食べるかな?」
と言いました。というのはアリスには、どちらの疑問にも答えられなかったから、どっちにだって同じ事だったのです。そのうち自分がだんだん眠り込んでいくのを、アリスは感じました。そして、ちょうど、夢の中で、ダイナと手を繋ぎ、歩きながら。
「ねぇダイナ、本当のことを言って。お前はコウモリを食べた事があるの?」
と、こう熱心に聞き始めた途端でした。いきなり、ドシン、ズシーンとばかり、小枝と枯れ葉の山の上に落ちたのです。これで墜落は終わりでした。