事実の提示
次の日。
強制睡眠なんてどんなものかと思ったら、時間になった瞬間に何かがチクっとしたと思ったら、徐々に視界がボヤけていって、気が付いたら日が昇っていて朝になっていた。
なるほど、こんな感じなのかと妙に感心したまま起床、ちゃちゃっと朝食を済ませて、探索組は今日の行動予定を入念に確認した。
探索組にとって問題なのは「何が起こるのか」ということだが、全員意見を出しあったが、結局予想のしようがないので、それぞれに担当区域を決めて、説明会が終わり、説明会参加組が呼ぶまでひたすら検索する、という流れになった。
今は説明会開始五分前、説明会参加組は既に待機しており、大画面ではピカトリクスがベッドで寝ている。
「しかし女子は全員参加すると思ったけど、本当に我が女性陣は元気だよな」
俺は大森に話しかける。
「何かしていないと落ち着かないってのもあると思うよ、私も外を見回りたかったんだけど、一応委員長だからね」
「流石、スガはどうだ、この説明会」
「散々言ったが分からねえよ、意見が聞きたきゃ適当に聞いてくれ、俺は言権だけ言うよ、考えるのはお前に任せる」
「はいはい、ってそろそろ時間だ」
定刻になると大画面で寝ていたピカトリクスの目が開くと、むくりと起き上がり、伸びをしてきょろきょろと辺りを見渡す。
『皆さんおはようございます、おや、参加人数は3人ですか、んー、予想よりも少ないですね、まあでも気にせず始めちゃいましょう!』
『さて今回は皆さんの為に用意したゲームについてですが、どういったものにするか色々考えました。まず頭脳系のゲームについては却下しました、何故なら例えばカードゲームのようにルールの基に相手の思考を読み、策を仕掛けるのは得意不得意の差が大きいからです。そして身体能力を駆使するゲームは圧倒的に男有利ですからこれも却下しました』
『さて、この欠点を全て補うためにはどうすればいいか、笠見さんだったらどうします?』
「え?」
突然指名されてびっくりする。
『説明会と言えど、コミニュケーションは大事、笠見さんならどうします、この全ての欠点を補うためにはどうすればいいか?』
「…………」
ゲームと言いつつ、頭脳ゲームや身体ゲームは現実的ではないのはそのとおり。何故ならこれは身内同士で遊ぶようなゲームではないからだ。
つまり優劣が付く物では駄目だ、とはいえそれに拘り運要素が入るとそもそもゲームではなくなる。
つまり……。
「ゲームの勝利条件そのものをルールにするってことだな?」
『流石笠見さん、大正解です』
「え? どういうこと?」
大城が聞いてくる。
「つまり全員参加型のゲームってことだよ。例えば「宝物を見つける」というのが勝利条件とする。そしてその勝利条件を達成するために全員が協力するってことだ。そして宝物を見つければ、全員が勝利者、見つからなければ全員が敗北者となる。その宝物を見つけるために様々なルールを設けるってことだな」
「そう、なの?」
「そうなの、つまり、俺達VSピカトリクスって構図を描いて、そこからゲームを設計するとこいつは言っているのさ」
「う、うーん、分かるような、分からないような」
大城は「?」を浮かべているが。
(だがデスゲームでこのルールってのが全く分からない)
と考えた時に俺と目が合うと、ニヤリと笑うピカトリクス。
これは俺が気づいていることに気付いているな、俺の反応を見て楽しんでいるわけか。
『まさに今笠見さんが言ったとおり、ゲームの勝利条件をルールにするのはそのとおりです、さて、それでは皆様の勝利条件を伝えます。心して聞いてくださいね』
ピカトリクスは言葉を区切ると。
嬉しそうに、その衝撃的な一言を告げた。
『皆さんの中に裏切り者がいます。この裏切り者を突き止めることが勝利条件です』
「「「…………」」」
最初、言っていることが理解できなかった。
裏切り者がいル?
ピカトリクスは意に介さず続ける。
『ここでの裏切り者は、例えば人狼ゲームでいう「役割」ではありません。本当の裏切り者です、つまり私たち側の人間がいるんです』
「ちょ、ちょっとまって!!」
悲鳴に近い大城の言葉に首をかしげるピカトリクス。
『なんですか?』
「い、いきなり! いきなりすぎる! 整理させて! 裏切り者!? アンタ側の人間!? そんなの本当!? 本当にいるの!?」
『まあ確かにいきなり言われても信じられませんよね。それはまあ、最終的に嫌でもわかりますから』
「え!?」
『さて細かく詰めていきましょう、当然誰が裏切り者であるかなんて、人数が少ない以上はあてずっぽうでも当たってしまいます。故にもちろんそれが正解でも当然に裏切り者はしらを切りますから、ちゃんと正解に導かなければなりません』
『でもこれだけだと停滞するのは目に見えているので、あるギミックを設けました、これは先述した人狼ゲームのあるルールを採用したんです』
ここでわざと言葉を区切り、歪に笑うピカトリクス。
「このクズ野郎!!」
と思わず出た言葉に2人はびっくりするが、ピカトリクスは嬉しそうに笑う。
『やっぱり笠見さんは鋭いですね、大正解、人狼ゲームは人狼が誰であるかを当てる、それを外した場合は……』
『一日過ぎるごとに1人殺されるんですよね、狼にね』
ピカトリクスの言葉に全員が凍り付く。
『呑み込めていますか? ここは非常に大事な部分です。皆さんは合計9人、裏切り者を除いて8人、1日1人ずつです。つまり7日でゲームが終わります』
「……7日? 8日じゃないのか?」
スガが反射的に質問をする。
『はい、何故なら8日目になると裏切り者とそれ以外の2人になるからです。故に裏切り者以外はこう言えばゲームが終わるんです「貴方が裏切り者だ、何故なら私は裏切り者ではないからだ」とね。ちなみにこの場合は裏切り者を当ててはいますが敗北となります。故に7日なんですね、ちなみに3人の場合でも裏切り者を割り出せない場合は、特例としてその日は、2人死に、裏切り者だけが生き残り、このゲームは終わります』
「…………」
つまり裏切り者以外の者は自分が裏切り者でないことは分かるから、自分以外の人物が裏切り者だと分かるという事か。
「なるほど、シラを切るが正解に導けば自供するってそういうことか、ピカトリクス、念のため確認しておくが、証拠は論拠でも構わないってことだな?」
『もちろんです、証拠を出せなんて、半分自供しているような言葉は言いませんので』
「わかった、続けてくれ」
『はいな、さて、次にこのゲームにおいての大きな肝の一つ、誰が死ぬかについてです』
『これについては誰が死ぬという指定することも考えましたが却下しました。仮にもし例えば今日ゲームクリアができない場合に自分が死ぬと分かっていては恐慌状態になるからです。故に死ぬ人間については、こちらで選定し、強制催眠中に殺害します。そしてハウスルールの説明の時に言った出席番号に対応した部屋で遺体が発見されることになりますね』
『死体を異動させる理由については、当然のことながら人間の遺体は腐敗するので衛生管理上必要不可欠なことだからです。皆さんは知らないと思いますが、腐敗した遺体は病原菌だらけで大変危険な物なのですよ』
『それと殺害すると言っても凶器等を使った苦しませるような殺害方法は採りません。一酸化酸素中毒なので文字通り眠るように死ぬことができます。そうそう、一応補足しておきますがゲーム中にこちら側から、ゲームのルール手段以外で貴方方を殺すことはありえません。つまり皆さんに傷害を与えるようなことは存在しないということですね』
「「「…………」」」
殺す、ということを淡々と説明するピカトリクスにぞっとする。
自分が死ぬと分かると錯乱するから教えない、発見場所は個室の中。理由は衛生管理上のため、確かにそうであるけど、本当に、俺達の命がこんなに簡単に……。
『それとこれも大事な事ですが裏切り者の特定はいつでも、どこでも、何回でも、大丈夫です』
『そうそう、昨日は皆さん個室には向かっていないようですので補足説明しますが、個室は住居及び死体発見場所としてではなく、モニター越しで私と個別で会話することができるんです』
『もちろんこの部屋でも会話できます。この教室は、この説明会以降は常に開放状態で誰でも入れる状態となります』
『それとこれも大事な事なのですが死んだ人間は裏切り者ではありません』
『死んだ人間は実は生きていたとか、死んだ人間が実は裏切り者だったとか、そんなハメ技みたいなことはしません。何故なら人狼ゲームの犠牲者の役割は自分の考えが間違っていたか正しいかの検証材料としての役割を果たしていますからね』
『それと、死体を確認したら部屋は閉鎖して二度と入ることはできません』
「ふざけるな! 圧倒的にこちらが不利すぎるだろ! これじゃ自滅を待つようなものじゃねーか!」
菅沼が声を荒げるが「まあまあ」ととなりなすピカトリクス。
『それはまあ貴方方次第ですが、もちろん無駄死になんかではありません。ゲームクリアに至らず1人死亡した場合、特典を用意しております』
「と、特典!?」
『それは質問に一つだけ答えます』
「質問!?」
『はい、ちなみに内容に制限は持たせません、それこそ私のスリーサイズだったり、男性経験の有無も聞いていいですよ』
『ま、一応言っておきますが、裏切り者は誰だなんて聞いたところで答えないのは当たり前に分かりますね、この言葉の意味をよく考えてください』
『それと、繰り返しますが判定は公正に行います。明らかに裏切り者と暴かれておいて、開き直るという事はありえません。例えば世の犯罪者たちは、防犯ビデオカメラに自分の姿が映っていても「俺と似ている別人だ」なんてことを平気で言うそうですが、こんなのは興ざめもいいことですからしません。無論私も質問に対して嘘はつきません』
「お前のいう事が本当のことという保証が何処にあるんだ!?」
菅沼の言葉にピカトリクスは不愉快に顔をしかめる。
『そのレベルの質問をしているようじゃ、間違いなく全滅ですね。だから言ったでしょう? 信じる信じない? 勝手にしてくださいよ、私は貴方を納得させる必要なんてどこにもないんです、貴方方は高校生だからしょうがないですけど、大人の世界では相手が自分の意に沿う説明をしてくれるというのはただの甘えです』
『いいですね? 分かりますね? 何の質問するか、命の引き換えにするんです、繰り返します、よく考えてくださいよ』
『ああそうそう、私のスリーサイズは84‐63‐84です、ウエスト太いとか思った君! 言っておきますけど、ウエスト50代とか全部嘘ですからね~、こんな格好してますけど、身持ちは堅いんですよ』
「くっ!」
スガが顔をしかめるが、それは俺も同じ、大城は完全に真っ白になっているみたいだし、俺自身も、混乱して頭がよく回らない。
まずい、これは……。
『さて、次は報酬についてです』
「は!?」
思わぬ言葉に俺は思わず聞き返してしまう。
『? 不思議ですか? デスゲームに勝利をするんです、報酬を用意するのは当たり前だと思うんですけども、っと話を元に戻しましょう。報酬についてですが、これについても考えました、で、結果命を懸けるのに「物」は妥当ではないと考えまして、シンプルに』
『1人頭、報酬3億円を支払います』
『一般的なサラリーマンが生涯をかけて稼ぐ額だと言われている2億円、そしてこちらが強制的に参加させる意味での「イロ」が1億、これが貴方方の命の値段です』
『もちろん税金なんてしゃらくさいこと言いません、税金もこちらでちゃんとお支払いします。手取りで3億円、豪勢に過ごすというには足りない額ですが、それでも貴方方が真っ当な人生を歩み、通常な金銭感覚を持つのなら、それこそ人生に困らない金です』
ここまで説明してピカトリクスは両手をバンと広げる。
『以上がゲームの説明となります。さて、もうすでにゲームは始まっていますよ! 全員無事生還エンドは、本日の午後11時までです! 大丈夫! 皆さん力を合わせれば必ずクリアできます! 何故なら皆さんはキセキの学級なのですから!!』
そのまま再びスカートの端をつまんでお辞儀をするピカトリクスは、そのままベッドに戻り、腰を掛けると何処からともなく本を取り出して読み始めた。
「ナオ、わ、わたし……ぐすっ、ど、どうしたら……いいの」
現実が呑み込めていないのか、泣きながら俺に話しかける大城。
「…………まずは、皆に言わないと」
だが大城と同じ状態の俺はそれだけしか言う事が出来なかった。
次回は30日か31日です。