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はじまり……

――


「…………」


 今俺たちは自分たちの教室で、呆然と座り込んでいる。


 あの後、事情がよく呑み込めないまま、俺は皆を叩き起こし外に連れて行った。


 俺と一緒でみんな全然状況を飲み込めないようで、しばらくの間立ち尽くした後、弾かれたようにあーでもないこーでもないという不毛な会話を繰り広げた。


 んで、誰かが言い争ってもしょうがないから一旦教室に戻ろうということで戻ったきたはいいものの、当然のように何かが進展することもなく、そのまま教室に座り込んで黙っているのが今の状況だ。


「あのさ、こういう時は、状況を、整理するのが大事だと思うが、どうだ?」


 まだ混乱した様子の谷森が発言し、それに塚本が同調する。


「うん、こういった時ってさ、まずは状況把握からだよね、ほら、バスケでも誰が何処にどういたりとか、誰がどんなプレイが得意だからどうすればとかさ、それを判断するのが大事なんだよね、って、はは、ごめん、わけわかんないよね、えっと誰か、続けて」


 塚本が促すが誰も発言しようとしない。その雰囲気を察して手を上げたのは大城だ。


「わ、私がやるよ、いい?」


 全員が頷く、こういった時の折衝役や司会進行役は学級委員長である大城の役目だった。無論異論はないと、大城に視線が集まる。


「といっても経緯は簡単だよね、私たちは同窓会で母校に集まった、そして夜遅くまで遊んでいた、朝起きたら校舎が壁に囲まれていた。ここまでは、いい?」


 問題ないとばかりに全員が頷く。


「でも状況は分からない、どうしてこうなったかもわからない、分からないことだらけ、まあ、分からないことはまず置いておこう、分かるところから理解を始めようよ」


 自分自身もパニックにならない様に諭すように話し続ける大城。


「経緯が判明したら、次は状況の整理だと思う。自分の置かれている状況を把握するのが大事だよ、まずはさ、なんといっても……」


 大城は自分の首を指さす。


「この首輪のことだよね?」


 そう、首の違和感、俺達全員に首輪が付いているのだ。触れてみるとサイズがピッタリに作られており、触れてみると相当に丈夫な印象を受ける。


「私のついている首輪って、みんなと一緒の奴かな?」


 大城の言葉に、誰ともなくお互いに首を確認する。


 黒と白のツートンカラー。触れてみると革製のように感じる、丈夫な造りになっていて容易に外せるような感じではない。


 だけどもちろんそんな簡単な造りではない、ぱっと見、継ぎ目が分からないぐらいだし、皮だけじゃなくて、何か機械というか別の物が織り込まれているのが分かる。それが何なのか分からないけど。


「とにかく、この首輪が何なのかは分からない、でいいよね、えっと、多分これは今考えても分からないから、後にしよう、次は、えっと、そうだ! 持ち物とかどう!?」


 大城の言葉でハッと気が付くと全員が荷物を急いで漁る。


「携帯が無い!」


と叫んだのは国井だった。それに呼応する次々に自分の携帯が無いと叫び、代わりに。


「なに、これ?」


 同じようにバックを漁った面々が次々とある物を取り出す。


 それはナイロン製の丈夫なカバーに入った……スマホだった。全員が同じカバーの、同じスマホ、唯一違うのはそれぞれ違う数字の番号が赤色で大きく縫い込まれているのみ。それが充電コードと共にパケットの中に入っていたのだ。俺の番号は「4」だった。


 当然中身を確かめるべく、カバーを開き適当に画面をタップしてみると。


『zzzzz』


 とそこには、いかにもな女の子の部屋という中で、中央のベッドの上で、掛け布団をかけた茶髪の女の子がスヤスヤと寝ていた。


 その画面は全く動くことが無く、何回もタップしてもそのまま何の変化もない。当然の如く放置していたらそのまま画面は暗転した。


 ザワが引きつった顔を浮かべながら話す。


「その様子だと、みんな一緒みたいだな」


 結局荷物検査の結果、スマホの他は、いわゆる外部接続手段のみに使うことができる、もしくは使えそうな電子機器が全部無くなっていた。


 後は異常なし、増えたのはこのスマホだけだが……。


「多分これ、出席番号じゃないか?」


 という俺の言葉に注目が集まり、俺はスマホを裏返して数字をみんなに見せる。


「まだ卒業して半年も経っていないから覚えているぜ、俺は4番だった、んでザワは1番だろ」


 ザワのスマホには確かに1番と書かれていて、出席番号順に並べてみたらピタリと一致、それをみて全員が「確かに」と頷くが。


「だからなに、って感じなんだよな、デザインが一緒だから間違わないようにするため? 分からないけど、取り外しは、出来ないか……」


 終わり、結局何かが変化があるという事はないけど、それでも考え続けてきたおかげで、全員に少しずつ冷静になってきて、頭が働くようになった。


 となれば次はと考えたところで発言したのはやっぱり大城だ。


「まずは、色々と見てみない? 自分の把握の次は、ここが何処なのか、手掛かりがあっても無くてもさ、動くことが大事だと思う」





 最初に今までの経緯の確認、続いて自分たちの状況の確認、そして次にやることは周りの状況の確認だ。


 まずは自分の教室を確認する、ぱっと見は全く変わっていない、一見して造りは全く一緒だ。


「そういえば……」


 何かを思いついた黒瀬が黒板の横を見る。


「見てみろよ、俺達が卒業記念に彫った痕まであるぜ」


 全員が黒板に近寄ると確かに黒板の横に彫刻刀で彫った痕までちゃんとある。


「これってどういうことなんだ、磯の香りがするけど、やっぱりさ、ここって建物ごと何処かに移動したとかなのか」



「いや、違う建物で違う場所だと思う」



 俺の言葉に全員が「?」と首をかしげる。俺は「こっちに来てくれ」と教室の後ろにある個人棚、かつて使っていた自分の場所に案内する。


「俺さ、卒業した後、1人でこっそりと来てさ、自分が使ってたロッカーの奥に自分のイニシャルを彫ったんだよ。それも結構大きく、それが無くなってる。昨日こっそりとあったことを確認したから間違いない、それが見てみろよ、塞がれたのではなく、最初からなかったって感じだ」


 俺の言葉の全員が黙ってしまう。


 ということはやっぱりここは……。


「まあまだ、決めるのはもうちょっと先にしようよ、今は動こう、教室が終わったらさ、その時にみんなで話し合って、まずは校舎内を調べてみよう」


 と気丈に振舞う大城を見て、自分たちも校舎内の調べ始めたのだった。



――家庭科室


 校舎内を調べると言っても、普段の姿を知っている教室なんて自分の教室ぐらいしかなかったことに驚いた。


 しかも改築されていたから、かなり変わっているところも多く、元の姿がぼんやりとしか覚えていなくて、外観上の違いしか分からない。


 となればまず調べるのは家庭科室、昨日女性陣が料理を作った場所、ここは俺たちよりも女性陣に見てもらうのがいいとことにより、俺達は外から見張っている。


「食料はたくさんあるね」


 国井の言葉に大城も同調する。


「うん、でも、これ、綾香」


「そうだね、明らかに食料が3日分じゃない、増えてる。2週間分ぐらいはあるね、そっちは?」


 大城は調理器具を確認している江月と塚本に話しかける。


「食器類は全く変化なしだ」


「ポットとかの備品も変化なしだね」


 答えるのは江月、塚本。


 つまり家庭科室は、食料が増えていること以外は変わっていないという事になる。


「そっちはどうなの?」


 塚本は見張りをしている俺達に話しかけるが、こっちも特段に変化がない。何かが出てくるとか、何かが襲ってくることもなかった。


 家庭科室以外の場所、と言ったところで、他の教室を探索するも、先述したとおり、改築されて変わっていたりするし、教室のほとんどにはカギがかけられているから入れないし、調べてもよく分からないがもどかしい。


「案外自分たちの学校って、分からないモノなんだな」


 そんな寂しいセリフをザワが言うから余計に響く、ザワも自分が似合わない台詞を言ったと思ったのか慌てて「まあ俺は細かいことは気にしないからな!」とカラカラと笑う。


 そうだよな、案外分からないものだよな。自分たちの通う学校が、だから、ザワの言葉ではないけど。


 たった一か所だけ、劇的に変化を遂げている教室があった。


 それは平屋の一番奥にある教室、確か使われていない教室の一つだった。


 鍵はかかっているのまでは一緒だったが、木製の扉ではなく鉄製の重厚な造りに変化しているのだ。


 押しても引いてもビクともしない。


「ちっ、なんだよこれ」


 スガが軽く蹴っ飛ばすが当然開くわけがない、ここだけ別に作るられているようで、窓が一つも無いから、中の様子は分からない。


 結局ここでもどうしようもなく、校舎内で見て回れる範囲では変化はない。


「となれば……」


 次はそのまま外に出るために昇降口から外へ出ようとしたが。


「あれ?」


 全員が一斉に立ち止まる、下駄箱に入れておいた靴の場所が違う。俺だけじゃない全員が違っていた。


「…………」


 全員が何も言わない。


 結論が出かかっているが、ひとまず外へ出た。



――校舎外



 建物の外へ出る。


 まあ外の場合は違いも何も、敷地内に少しだけスペースに余裕を持たせて囲まれている代り映えの無いコンクリートの壁、それが円形に囲まれている。


 高さは10メートルぐらい、とっかかりはない、そして当たり前だが外へ通じる扉なんてものはない。


「机とか椅子とかを重ねれば、なんとかなりそうかなぁ」


 黒瀬が見上げてそんなことを言う。


「それは、どうかな、危険だと思うけど」


「確かにな、こんな足場な不安定なところで、もし落ちて怪我したら」


「いや、違う」


「え?」


「なあ黒瀬、この壁って何のためにあると思う?」


「え? いや、何でって、俺達を閉じ込めるためじゃないのか?」


「それにしては変だって思わないか?」


「変って?」


「俺はどっちかというと、閉じ込めるというよりも、外の状況を俺達に知られたくないため、ってのはあるかもと思っている」


「あ、ああ、だから、なんとか脱出を」


「だから、この状況でここから逃げ出そうとしたらどうなるかってことだよ」


「あ……」


 言いたいことが分かるのだろう、黒瀬は自分の首輪に触れる。


「閉じ込める側からすれば当然に脱出させないようにするよな? だけど見た限り脱出させないような、例えば見張りをしているような人物がいない、機械的なギミックも見当たらない、そして行動に制限が全くかけられていない、それこそ黒瀬が言った、机を積み上げるってことも十分に可能なほどにね」


「となれば、そして閉じ込める側からすればここまでの自由を認めるのなら、その認めなければならない理由ってのがあって、その自由の代わりにルールを破ればペナルティを課すというのが現実的な手段だと思う」


「うん、うん? ああ、なんとなくわかるか、わかるか? つまり?」


「さっきの黒瀬のとおり、この首輪がギミックだと思う」


「首輪、ああ、えっと、フィクションとかだと、例えば脱出しようとすれば爆発するとか、思いっきり締まるとか、か?」


「その可能性は高いと思う」


「ま、まじかよ!」


「確定ではないがな、ペナルティって考えるとな、それに多分、壁を超えたところでどうにもならないと思うけどな」


「え? どうにもならないのか?」


「そもそもこんな広い敷地にでかい建物があるって時点で、人目のつかないところにあるだろうし、外部通信手段を取り上げているってことは、取り上げてしまえば後は大丈夫ってことになるだろ、それに……」


「…………」


「ど、どうしたんだ?」


「いや、ごめん、何か引っかかってるんだよな、それが何なのか分からないのだけど、今の状況を考えると、こう、もっと違う道が見えてくるというか、意志って言えばいいのか?」


 そう、違和感というか、なんだろう、今の考え方がとっかかりになりそうな気が。うんうん捻っていると、黒瀬がジーッと俺を見る。


「どうしたの?


「はは、懐かしいなって思って、水着泥棒事件思い出した」


「へ?」


 という会話をしている時に谷森が話に入ってきた。


「俺も同じことを考えていた、黒瀬の言うとおり笠見の直観力と思考力は頼りにしている」


「え? そうなの? 思考力とか谷森に言われると凄い意外なんだけど、お前の方がよっぽど」


「俺は出されるであろう問題を予測し、出された問題を解くのが得意というだけだ。昨日も話したが、中学の時に水着泥棒を捕まえた時のお前の分析の仕方が面白くてな」


「そうだっけ、俺の分析が?」


「ああ、犯罪の性質と犯罪者の分析をして相手を嵌めるという点がな」


 水着泥棒事件。


 プール開き後間もなく、体育の授業中に何者かが校舎内に侵入、大城の水着が盗まれた事件だ。


 先生に報告をするも、一応警察に相談はしてみるとのことだったが、結果、防犯カメラも無い状況では犯人を捕まえるのは難しいとのことだった。


 これで終わればよかったのだが、第二の被害が発生する。


 さて、ここで女子陣が怯えてしまうと思いきや、むしろ「女の敵は許さない! 絶対に捕まえてやる!」と奮起し、むしろそれに引っ張られる形で俺達も参加することになった。


 そして俺の家に集まり作戦会議を開くことになったのだ。


「あの時お前はこういった、窃盗は常習性があるからもう一度やること、犯罪者は絶対に嘘をつくこと、この状況では犯人が誰かを確定させるのは不可能だから、現行犯でしか捕まえられないこと、その為に犯人がこっちの思惑に気付かれないのが大事だって」


「ああ、そんなこと、言ったな」


 こういった犯罪は繰り返して犯行に及び成功することにより絶対に油断する、証拠に徐々に犯行が大胆、つまり雑になってきたから、そして言い逃れを防ぐために現行犯が一番いいという事で、いつものとおりに過ごすことが第一であると説いた。


 だからわざと、水着を「上手に隠して」おく。カメラを中継モードして、携帯で遊んでいるふりをして、張り込みを実施。スガを張り込み役にした。


 そして男が侵入して水着に手を付けたところで男勢で制圧。


 逃げ出さない様に犯人を周りを男子たちで囲んで、警察に通報したのが女子陣だった。


 そしたら田舎なのにパトカーが何台も来て、警察官も何十人も来て大騒ぎになったのだ。


 んで結局学校の先生とか色々な大人に危ないことを勝手にやったからとかで凄い怒られたけど、ずっと武勇伝として話してたっけ。


 谷森は俺の肩にポンと肩を置いてにっこりと笑う。


「事件解決に必要なのは推理ではなく分析と解析である、という着眼点が面白いと思った、だから今回も頼りにしているぞ、名探偵」


 とザワのように調子のいいことをいったのだった。



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