懐かしの我が母校、そして……
我が母校は木造2階建ての校舎。
ヨネばあちゃんによれば昔は100人を超える生徒がいて、それぞれの科目の担任の先生や教科ごとの先生もちゃんといたそうだ。
それが少子高齢化に加えて都市部への人口流出のせいで徐々に生徒数は減少、結果、俺達が入学した時は、相当にボロくなっていた。
当時の面影と言えば二桁もいない生徒数の為に必要のない程の数の教室があったぐらいで、ほとんど教室は使われていなかった。
ちなみに都会と違い学校の敷地と外の仕切りは目安程度にしか存在しない。校庭にはお決まりの鉄棒に砂場に錆びたサッカーゴール、そして体育館があるだけだ。
つまりなんの代わり映えもしない田舎の普通の学校だ、思い入れが無ければ、観光名所にもなりはしない場所。
「3年の時が一番楽しかったよなぁ、先輩もいないし、先生もいないから我が物顔で使ってたっけ」
大城の言葉に皆同調する。
入学した時にも一応先輩たちがいた。とはいっても先輩だからって威張る人なんていなくて全員いい人だったし人数も2学年で5人しかいなかったけど、やっぱり最高学年の時が、先輩だけではなく後輩もいないから自由にできて一番よかった。
昇降口から校舎に入るとふわっと懐かしい木の香りと。
「へぇ、新しくなってる」
再利用するとあたって、内装が工事されて新しくなっていた。下駄箱はしっかり残っていて、そのまま来客者用に使われている。
その他にも残っているのは残っているけど改築されていた部分も多く、そこだけ少し寂しかった。
「案外、自分たちの学校って、知らないものだなぁ」
ザワがそんな台詞を言うから余計に響く、その空気を察したザワが「まあ俺は細かいことを気にしないからな!」とからから笑っていた。
確かにいくら田舎とはいえどこでも自由に入れるという訳ではなく、かなりの鍵がかかっていて、入れる場所も限られていた。
自然とみんな自分が使っていた場所に靴を仕舞うのが微笑ましかった。
「今日の利用者は俺達だけだよ、だから昔みたいに我が物顔で使えるぜ」
そんなザワの言葉の下、最初はみんなして色々な教室にまわる。勝手知ったるなんとやら。職員室が多目的室になっていたり。家庭科室はほぼそのまま残っていて、料理教室なんかに使われているらしい。
そして宿泊場所は奇しくも自分たちがかつて使っていた教室だった。
ただ当然思い出とは全然違う。畳が敷き詰められており、部屋の隅に、自分たちが使うためであろう布団が重ねて置かれていた。
ちなみに全員でここに泊まる。本来なら男女分けるべきなんだろうけど、いちいち面倒だし、一緒の部屋になることはすんなりの許可が出た。
まあ当然夜這いをかけたら殺すといわれたけど。んで「いやいや、頼まれてもしないから」と突っ込んだらそれはそれで怒られたのは理不尽だと思った。
かつての自分達の教室、といっても黒板しか残っていない。机と椅子は体育館倉庫に仕舞われたらしい。
「あ、ほら見てみろよ!」
とザワがいの一番に駆け込みのぞき込んでいるのは、黒板の横、木製の枠の横だ。
当然ザワが言いたいことが分かる俺たちは駆け足でそこに近寄ると彫刻刀で、卒業の日付と共に当時の俺達の男子全員の名前が彫ってある。
「「「「懐かしい~!」」」」
ま、いけないことだとは分かっているんだけど、こういう事ってなんでしたくなるんだろうか、残っていたのが凄い嬉しい。
その後ろで「ったく男子はさ~」というお決まりのため息が出る中。
その時に誰かの腹がぐぅ~っと音を立てる。
「たはは~」
と頭をポリポリとかくのはザワ、遠方からの考えて待ち合わせ時間は午後3時、今はなんだかんだで午後6時を回っている。夏場とはいえ午後6時になれば空が少しずつ暗くなってくる。そして当然ザワではないが俺も腹も減ってくる。
そしてザワを含めた男子陣は期待を含めた視線を女性陣に送る。
「はいはい、さて男子たちのリクエストもあったことだし、私たちは料理の下ごしらえをしないとね」
と言い出したのは大城、続いて国井も頷く。
「材料はいいのが揃っていたからね、これは腕の振るい甲斐があるね!」
家庭科室にあった巨大な冷蔵庫に専用の食材が入っているらしくそれを自由に使ってもいいらしい。
これで2泊で3000円で採算大丈夫なのかと思うが、これは地元の作物で、補助金が出ているらしく、そもそも採算をとるための物でもないそうだ、色々あるものだと思う。
さて、自慢ではないが我が女性陣の女子力は相当なもの、特に国井と大城の2人は実家の家事の一切をこなしているため、林間学校ではどれだけ助けられたことか。
江月と塚本は2人は及ばないものの下ごしらえといったものが出来るため、林間学校の料理作りの時などは家事をてきぱきとこなしていた。
ちなみに男子はその他雑用、つまり料理以外全てだ、凄いこき使われた。こき使われたが誰も文句言わない、いや、言えなかった。
だってさ、まあでも女子の手料理だし、家事をしている女子って可愛いし、それは全員の共通認識、そんなこんなで結局逆らうことなく、バカだなぁって思いつつも料理系イベントの時は全て女性陣の指示に従っていたのだ。
んで今回も、料理以外の雑用を全て引き受けることを条件に、2泊3日の食事を全て作るという契約を結ぶことになったのだった。
「「「「うまー!!」」」」
食べ盛り男子をしっかり考えたがっつり系メニューをちゃんと用意してくれて、出来上がった料理に舌鼓を打ち、食事の後も後片付けをして、ちょっと待ったり
さて、日本人ならば、次は当然。
「風呂だーーー!!!」
全員全裸で思いっきり叫ぶ、風呂、プールを改造しての風呂だ。変わっているのは使うためには風呂掃除まではしなくていいが、自分達でお湯を入れて調整することだ、んで元になったプールは当然1つだからとちょっと期待したからが……。
「くそう、混浴じゃないんだよなぁ」
悔しそうにザワが呟く。広いのは良いがしっかりと改造されて、壁が立ちはだかっているが。
「そのシャンプーいいよね~」
だが耳を澄ませば微妙に会話が聞こえてくるのだ。
「「「「「…………」」」」」
知っているクラスメイトが、すぐ隣で風呂に入っている、もちろん裸、これで妄想しないのは男じゃない。
「なあなあ、みんな、あの4人の中じゃ、誰が一番いい? ダダダダダダ!」
当たり前のように話題を振ってきたザワの頬をつねったのはスガだ。
「おい」
「イデデ! わかってるって! 国井は除くよ!」
そんな意外なスガの姿を見て微笑んでしまって、スガにじろりと睨まれる。
「ごめん、いやぁ、しっかり彼氏してんなぁってさ」
「そんなんじゃねえ、つーか、お前はどうなんだよ?」
「俺? 全然だよ、彼女がいるってどんな感じなんだよ」
「まあ、色々助かっているよ、アイツの明るさにさ」
「そっか」
大事に思っている様子、俺にもそんな相手が現れるのだろうか。
「一番の巨乳は塚本だ、あれは良かったな」
と割り込んできたのは谷森だった。谷森らしく空気を呼んでくれたのだろう。
全員が「まったくもってそのとおり」と頷く。確かに男にとって巨乳というのはそれだけで威力があるものだ。
「一番美人なのは江月だよな~、いいよなぁ、黒瀬は」
「……え? なんで俺?」
「とぼけるなよ~、お前江月なんだろ? いいなぁ、巨乳じゃないけど、さっきは滅茶苦茶美人な彼女とか惚気やがって! 2人会っているところは見られているんだぜ」
「え? なんでそんなことになってんだよ、2人で会っているってのは、たまたま街中で会っただけだよ、それで一緒に飯食べただけだよ!」
そんな慌てる黒瀬にザワは意外そうだったが、谷森も「江月ではないみたいだぞ」と補足する。
「それに、俺はクラスメイトには手を出さないんだよ、だから……」
ここで言葉を切る。
「だから、大城は大事な友達だ、ずっとな」
「…………」
まあ、全員知ってたが、そうなのか、ちょっとだけ空気が重たくなるが。
「難儀だねぇ、まあ色々あるさ! それにしてもびっくりなのが谷森だよな、お前高校で彼女で来たんだって?」
「ああ、塚本のおかげだ」
と再び盛り上がるのだった。
●
一方ここは女子風呂、男子たちと同じように壁を見上げている国井。
「なんだろうね、なんか、胸がどうこうとか聞こえてきたけど」
その言葉を聞こえてきたのか苦い顔をして胸を隠す塚本。
「ったくさ~、男子共は、ほんっとにさ~、マシな男はいないものかね~」
「高校生って言ったら、中学時代は凄い大人っぽく見えて憧れてたんだけどなぁ~」
「確かにガキ! 全然ガキ!!」
「って国井は置いといて塚本はどうなのよ、彼氏は出来たの?」
「私? 私は、ライバルはいるかな、いやぁ、手強そうなんだ」
と女子陣は女子陣で盛り上がるのだった。
●
中学生にとって、自分達専用の遊び場所なんて中々持てるものではない。
放課後は、それぞれの用事があれば、ヨネばあちゃんのところで、駄菓子を買って、雑談して、そして日が落ちるまで、いや落ちた後も中学校で遊んだりしていた。
田舎の中学校らしくセキュリティ概念は余り無いので、それこそ「やらかさない」限りはお目こぼし状態だった。
そう考えれば自分で言うのもなんだが随分と健全な中学生だったと思う。
そんな思い出話で盛り上がり、教室に戻ってひたすら話しているだけ。
同窓会だからといって特別に何かをするという事はない、こうやって集まるだけで楽しいし、色々なパーティーグッズを持ってきて、夜遅くまでどんちゃん騒ぎをした。
ずっとこの楽しい時間が続けばいいのにと、結局眠りについたのは日が昇る直前だった。
そんなずっと楽しいことをしていたせいか、その日の夜に見た夢は中学時代の夢だった。
入学式だったけどすぐに夢だと分かった、何故なら入学式の筈なのに今のメンバーが全員揃っているからだ。
過疎化が進んでいる地域で、人口が増えるなんてことはちょっとしたイベントだ、ほとんどが家庭の事情だったけど、たまに都会から引っ越してくる人物もいる。
例えば江月なんかは進学と同時に中学2年の時に親の都合で引っ越してきたのだ。
今の高校生活も楽しいけど、やっぱりこいつらと過ごした中学時代は別格だったとその気持ちは薄れることはなかった。
●
「ん……」
パッと目が覚めて、最初天井が全然違うことに疑問に思った。そして同窓会で集まったかつての仲間達と教室でどんちゃん騒ぎしていたことを思い出す。
いつのまにか寝ていたのか、腕時計を見ると午前8時た。辺りを見るとまだ全員がぐっすり寝ていて、遊びに使ったカードや飲み物が散らばっていた。
不思議とその姿が嬉しくて、切なくて、しばらくぼんやり見た後、喉が渇いて、ジュースでも飲もうと思った。
だがここは中学時代を思い出して、水面台で蛇口を上にあげて飲むかと思って教室を出る。空気が心地よく、ふわっとした磯の香りが鼻孔をくすぐる。
「ふわ……」
自然と出るあくび、なんか外の空気を吸いたくなってきた。そのままぼんやりと外に出て、校舎の外に出る。
「…………」
やっと目が覚めた時、内陸県ではありえない磯の香り、そして自分の首の違和感に気が付いて、何より目の前の広がる光景にその全てを忘れて立ち尽くす。
俺の目の前に広がる光景。
空に広がるのは雲一つない青空。
視線を落とせば校舎を取り囲む高さ10メートルの壁。
「……………………え?」
そこは見知らぬ場所だった。
序章終了。
次は6日か7日です。
※ 申し訳ありません、諸事情により連載最下位は今月下旬辺りになります。