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いつもの場所で


――集合場所はいつもの場所で!


 ザワがグループメッセージで送った集合場所について書かれたのはそれだけ、だけど俺達にはそれだけで通じる。


 それは通学途中での集合場所、そして放課後のたまり場だった場所、そこは何処かというと。


「お、一番乗りだな」


 ザワが小走りで目の前にあるのは駄菓子屋、ここが俺達のいつもの場所、未舗装の幅3メートルぐらいのT字路交差点に建てられた木造2階建ての一軒家だ。


 ここの主はヨネばあちゃんという女の人。夫と結婚したと同時にここに嫁いできて、夫婦2人でずっと切り盛りしており5年前に旦那さんを亡くして以降もずっと1人で切り盛りしていたのだ。


 ここは神代中学校の、それこそ自分の親の世代が子供の時から世話になっている村の子供たちの面倒見役で、それぞれに色々な相談に乗ってもらっていて、人生経験から来る的確なアドバイス、そして相談内容を口外しないと言った口の堅さから絶大な信頼を得ていたのだ。


 ここから学校まで一本道、いつからかここでみんな集まって、一緒に学校に通うようになった。


 朝は、洗濯物を干しているヨネばあちゃんに挨拶して、放課後はよくみんなでここに集まって、駄菓子を買って話していて、それだけで楽しかった。


 だけど……。


「本当に空き家になっちまったよな」


 駄菓子屋を見上げながら寂しそうなザワの声に俺と江月は何も言えなくなる。


 ヨネばあちゃんは俺達の卒業を待つようにして、この世を去った。


 本当に突然の出来事だった。原因は心筋梗塞、90を超えても元気なおばあちゃんで、死ぬなんてことは考えられないような人だった。


 だけど享年96歳って聞けば、誰が聞いたって大往生だという、死んでも不思議に思わない年齢だったことが何故かショックだったことは鮮明に覚えている。


 葬式でヨネばあちゃんの姿を見た時に、俺達全員が泣いたっけ。身近な人が死ぬってこんなに辛いものだと、俺達のおばあちゃんみたいな感じだったし、さっき言った歴代中学校卒業者達の参列者も多かった。


 喪主はヨネばあちゃんの子供、といってももう70歳ぐらいの人だったけど、その人によれば自分も含めた子供や孫、ひ孫になるまで親族はいるけど、それぞれの場所で自分の家族がいるので駄菓子屋を誰かが引き継ぐといったことは無く、誰かが住むという事もなかった。


 それでも壊すのは家族も忍びないらしく、建物だけはそのままの姿で残っている。


 中の駄菓子は遺族の好意で希望者全員に配られた。余った食品については処分したから残っていないけど凧だったり、スーパーボールだったりが残っている。


「内緒でおまけしてもらったっけ」


 汚れたアイスボックスを指でなぞると砂埃が付いて寂しそうに呟くザワ。


 俺達に担任の先生はいないけど、その代わりとしてのヨネばあちゃんだ。だから同窓会の一番最初にすることはヨネばあちゃんのお墓参りに行くだと決めている。


「笠見! ザワ! 江月!」


 という声と共に振り向くと、そこには黒瀬と谷森と塚本がいた。


「お! 全国模試上位! あれ高3も受けるんだよな! すげーな!」


 早速とばかりにザワが谷森に話しかける。


「うむ、今の環境は実に素晴らしい、県外に引っ越した甲斐があった。まあ本物の天才たちを相手にするのは大変で時々その差に落ち込むこともあるが、それを乗り越えた先で結果を出すという喜びがある」


「はは! 変わってねー! 嬉しいわ!」


「お前もな、お調子者」


「それが俺の取り柄だからな! お、黒瀬は相変わらずイケメンだな! 女紹介しろよ!」


「いいけど、結局俺が全部貰っていくことになるぜ」


「その自信家のところも変わってねー! まあ紹介よりもさ、折角だからさ、女の口説き方教えてくれよ、今のクラスで狙っている女いるんだけどさ、友達以上に見てくれなくてさ」


「んー、お前は顔は悪くないんだからさ、少しそのテンションを隠すというか、まずはそこからだぜ」


「隠すって、これが俺の長所だからなぁ」


「はは、って笠見も久しぶり、卒業以来だな」


「久しぶり、いや、こうやって会うと本当に変わっていないよな、遊んでるって噂聞いたけど」


「とっかえひっかえを遊んでいるというのなら事実だぜ、だけど二股はかけてないからな」


「なるほど、重なる時間がないってだけで、誠意は微塵もないってことだな、ん~、だけど本命はいる感じがするんだがな」


「ははっ、お前のその妙に目敏いところも変わってないな、ま、それについてはノーコメントだよ」


 江月との事とは噂になっているが、黒瀬は、確かにモテる男って、こう余り女のことを話すイメージが無い、まあモテる男のことはよくわからん、まあそれよりもということで、ザワがガシっと肩を組む。


「なあ、黒瀬、今日の夜は男同士の話しようぜ、ここにいる男だけで」


「男だけ? ああ、俺は巨乳好きも変わってなくて」


「ちげーよ! とっくに童貞捨ててんだろ!? その話!」


「あー、なるほどね~、いいぜ~」


 とニヤニヤ笑う黒瀬の傍に俺と谷森が近づく。


「「詳しくだ、分かったな?」」


 その4人でムフフと話しているのを白い目で見つめる女性陣。


「何話してんだろうね?」


 という塚本の問いかけに江月はため息をつく。


「大方、ロクでもない話だろう、いかがわしい本をこっそり回し読みしていたことを思い出したよ」


「あー! あったね! 読むのは良いけど私たちの前で読むなっつーのね! まーったく男子共は高校になってもバカでガキでスケベで全然変わらない!」


 ぷりぷり怒る塚本に江月は微笑む。


「同窓会って言っても、一週間前に会ったばっかりだと久しぶりって感じはしないな、嬉しいけどな」


 江月の言葉に塚本も頷く。


 先述したとおり元より女子達は卒業した後も仲良く女子会を月一で開いており、江月は都内の学校に進学したこともあって、女子会を口実に4人で遊びに行っているのだ。


「女子会か、ナンパ事件の時、摩耶は本当に男前だったよねぇ」


「男前って、それは女に対してどうなんだ?」


「褒め言葉だよ、キュンときたもん、カッコ良かったなぁ、木刀を構えて対峙して、ナンパ男たちはスゴスゴと退散する、うんうん、少女漫画の一コマのようだね」


「少女漫画って、やはり完全に私が男の役だよな? それに友人を助けるのは当たり前だ、だが、男前とはやっぱり不本意なんだがな」


「クスクス、って、あ!」


 ここで塚本は視線を移した先、そこには、最後に国井、大城、菅沼がこちらに向かって歩いてきていた。


 男性陣もそれに気付いたようで、3人を見る、さて久しぶりの再会を楽しむ。


「…………」


 ではなく全員集合したというのに少しだけ雰囲気が重たくなる。


 何故なら、それは菅沼の格好にあった。



 髪は真っ赤で、ピアス穴もあけていて、威圧するような雰囲気、背も高くガタイもいいから、赤の他人だったら街中で道を譲ってしまいそうだ。



「…………」


 だけどその菅沼自身は俺達に目を合わせようとせず、俯き加減でバツが悪そうに立っていた。


(やっぱり噂は本当だったのか)


 菅沼とは中学卒業から会っていない、菅沼はグループメッセージでも余り返信をしないのは元からだったし、近況は余り分からなかったけど、当然に噂は入ってくる。


 進学先の高校で不良になって、タチの悪い奴らとつるんでいるらしいってことだ。


 ついにこの間は警察にも逮捕されたって聞いた。んで日本には少年法があるから、成人と違って素直にしていれば、すぐに釈放されるみたいで、すぐに留置場から出られたらしいとか。


 でも高校を辞めないでいるのは彼女の国井のおかげで何とか踏みとどまっているとも聞いたけど。


 確かに中学時代のスガは喧嘩っ早いところはあったけど、ただそれだけで普通に友人だった。

 だから特段今の格好を見たところで友人だから怖いとかはないけど、でもちょっとどうやって話していいか分からない感じ。


 そしてこんな雰囲気の時には。


「なあスガ、その髪何処でどうやって染めたんだよ?」


 そんな空気を「わざと読まず」ガシっと肩を組むのはザワだった。


「ど、何処でどうやって……」


 思わぬ質問に狼狽えるスガ、俺も片方からガシっと肩を組む。


「お前喧嘩強いとか本当なの? 他校のヤンキー3人相手にボコボコにしたとか聞いたけどさ、暴力はいけないなぁ~」


「そ、それはアイツらが絡んできたんだよ!」


 そこでスッと黒瀬が目の前に立つ。


「人様の迷惑にかかることはいかんよ、俺嫌だぜ、マスコミから「容疑者の昔からの友人」とかのテロップでインタビュー答えるの」


「う、うるせえな、女たらし、お、俺は喧嘩しかしねえし、人の物盗んだとか、そんなだせーことしねえし」


 しどろもどろの菅沼に分かっているとばかりに頷くザワ。


「わかってるよ~、喧嘩しかしないんだろ? 喧嘩の噂はマジだと思ったけど、盗んだとかの噂は嘘だって分かったぜ」


「ちっ、お前は変わらないよな、お調子者」


 カラカラと笑うザワを受けて今度は谷森が発言する。


「菅沼、逮捕された時に国選弁護人が選任されるまで一度だけタダで当番弁護士を呼ぶことができるのは知っているか?」


「お前も相変わらずだな、ガリ勉」


「つまり努力家という事か、褒め言葉だな」


 と全員に憎まれ口を叩く菅沼だったが。



 その菅沼の顔は中学時代に何度も見た笑顔に戻っていた。



「さて、ヨネばあちゃんのところ、行こうぜ~」


 というザワの先導の下、ぞろぞろと墓参りに進む男子たちだった。


 その姿を見る女子達。


「ったくさ、彼女のメンツ潰すよね、私が頑張ってもなかなかあんな感じに笑わないくせにさ」


 とブツブツと不機嫌気味にいう国井に、周りはまあまあとなだめる。


「私達にはわかんない男同士の友情って奴でしょ、いいよね、男子は」


「確かにね、だけどそれに負けないぐらい私たちの友情も堅い! 女同士は女同士! 男子禁制! 私たちの友情も不滅よ!」


 と国井は自分を中心として肩を組む。


「ちょ、ちょっと恥ずかしいよ!」


 大城の抗議などどこ吹く風とばかりにどや顔の国井。


「いいの! 女だって肩組んで歩いていいでしょ? それにしても、ムハハ! 塚本巨乳~! これはたまりませんな! 摩耶はいい匂い! クンカクンカ!」


「出た! オヤジがいる! 外見女子高生の中身オヤジがいる!」


 と女子達は女子達で騒いでヨネばあの墓へと向かったのだった。



 墓というものの設置一つにも墓地埋葬法と始めとした法律があるから好きな場所には作れないそうだ。


 だけど昔からある家だから、その法律ができる前のことなので、こうやってヨネばあちゃんの墓があると、葬式に時に親族が話しているのを聞いた。


 そんなヨネばあちゃんの墓は亡くなった元夫との初めてのデートの場所である思い出の見晴らしのいい高台にある。


「素敵な2人だったよね~、小学生の時に時々ここで2人でお弁当食べているのを見てさ、あの姿に子供心にすっごい憧れた記憶がある」


 とは国井、それにうんうんと同調する女子達。


 亡くなった旦那さんも俺がまだ小学生のガキンちょだった時から可愛がってもらっていた。時々店の中にある鉄板で昼飯を振舞ってくれたりしたものだ。


 元々2人は神代村の住民ではなく、旦那さんは小さいころに親に連れられて、ヨネばあちゃんは旦那さんと結婚した時に来たそうだ。だけど元から住んでいた村民以上に神代村を愛していたそうだ。


「…………」


 全員で手を合わせて、墓参りをすませる。


 2人に小さいころから可愛がってくれた感謝を、冥福を、そしてなにより自分のこれからを守って欲しいという事を願った。


 全員が同じタイミングで祈りを終えて振り返る。


 その墓から見下ろした先にあるのが我が母校、神代中学校だ。



――――登場人物紹介


 菅沼浩二 (すがぬまこうじ)

・進学先の高校で不良になってしまい、質の悪い連中とつるむことになり、先日は警察に逮捕された。

 だが中学時代の仲間たちのことは大事に思っており、国井の献身的な支えにより、停学処分を受けたものの、高校に通っている。





次回は9月3日です。

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