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母校への登校をもう一度①



――村立、神代かみしろ中学校同窓会開催のお知らせ('ω')ノ



 そんなタイトルで始めるグループメッセージがスマホにポンという効果音と共に届いたのは突然だった。


 発信者の名前は相沢修あいざわおさむ、愛称はザワ。


 同窓会は元より企画されていたのは全員知っている。。


 幹事がザワだから、このメッセージが彼から発信されるのも妥当だと言える。


 だけど問題なのが発信時間が午前2時半という点だ。


「まったく、こいつはもう……」


 ベッドでメッセージを読みながらため息をつく、俺、笠見かさみ忠直ただなお


 そもそも健全な高校生なら皆寝ているだろうとか、色々突っ込みどころはあるかもしれないし、おそらく皆そう思っているんだろう。


 おそらく1学期の期末テストが終わっってテンションが上がりまくり、まるで休みの前のように夜更かしして、明日もしっかり学校があるとか考えずに企画して送ったのだろう。


 とはいえムードメーカーでお調子者のザワのやることだと、全員苦笑いで終わらせるところがコイツの得なところなんだろうなぁと思う。


 時期は当初の予定どおり8月1日から3日までの2泊3日、肝心かなめな料金については前に「一番安い所を探すぜ!」と意気込んでいたから不安になったものの。


「おお!」


 と思わず声が出てしまった。


――場所はなんと我が愛する母校です!!


 そうか、その手があったか、ザワにしては粋なことをしてくれる。


 俺と一緒だったのか、読んだであろう皆から「よくやった!」とか嬉しい表情のスタンプが次々に送られてきて、自分と一緒の気持ちだという事がわかってなお嬉しい。


 ザワのいう母校とはメッセージのとおり村立神代中学校。


 もちろん卒業したから今は部外者、本当なら校舎に泊まるなんて出来るわけがないのだけど、それが出来る、いや今は出来るようになったのだ。


 何故なら神代中学校は俺達を最後に廃校になったからだ。


 本来ならそのまま朽ちるところを、村おこしの一環として校舎を改築し、多目的公共建築物として生まれ変わり、宿泊施設としても使用することができ破格の安さで使うことができるのだ。


 村おこしの一環としての事業なので、村民に限らず村外の人間も使うことができる、まあド田舎のこんな施設なんて、部外者の利用者は時々来る観光客ぐらいしかいないみたいだけど。


 とまあ知っていたけど、母校に泊まるか、意外と盲点だったな。ド田舎の更に外れにあるからいくら騒いでも大丈夫ってのが大きい。


「学生料金で1人3000円、食料備え付け、集合場所は当日午後0時にいつもの場所、か……」


 というメッセージで絞められていた。


「~♪」


 と中学時代のことを思い出して自然と漏れる鼻歌、中学を卒業して、当時のクラスメイトとは何人かは会っているけど全員集合は初めてだ。


 2泊3日か、あっという間だろうけど、今から楽しみだ、そうだ、妹の加奈子にちゃんと同窓会に行くから留守にするぞって言わないとな。


 とこの時間にそんなこと言えば、当然怒られるだろうなということを微塵にも感じないまま部屋を後にしたのだった。



 村立神代中学校


 日本ではたった8つしかない海なし県、その県に存在する唯一の村にある唯一の中学校。

 今年の3月をもって廃校、正確には隣接市街にある中学校に合併されるという形で廃校となった。


 廃校自体は、元から少子高齢化に伴う子供人口減少で水面下で準備は進められていたという噂があって、その噂のとおり、俺達が入学した丁度1年後に廃校が決まった。


 廃校に際し、教育委員会は転校による心身負担を減らすためとか何とかで、入学した生徒は俺達が最後になり、後輩たちは合併先の中学校に通うことになった。

 だから俺の妹である加奈子は別の中学校に通っていて、卒業した時は地元のケーブルテレビでニュースになったりもした。


 たった9人の卒業生たちは、俺みたいに地元の高校に進学した人間もいるし、同じ県でも遠方の高校に進学したり、県外の進学校に進学したりしたから、バラバラになった。


 今では頻繁に会うのはクラスは違うが同じ高校に通うザワ、そして一か月に一度ぐらい江月摩耶と会うぐらいになった。


 それでもそれぞれとは予定が合えば時々会ったりしているし、簡単な近況報告は今みたいにグループメッセージで報告しあったりしているから、離れたという感覚はない。


 そんな感じで仲のいい関係がずっと続いている。


 中学校時代だとイジメとか校内暴力とか色々問題になることが多いし、最悪命だって奪われることもある。


 だけどはっきり言ってそんなのは無縁だった。そりゃ喧嘩もしたし、怪しい雰囲気になったことだってある。だけどお互いの長所も知っているので最後はお互いに謝って終わったものだ。


 一番仲のいいザワとだって、中学2年の時にちょっとしたことで殴り合いの大喧嘩になったことがある。


 だけど不思議と殴られた痛みはあっという間に忘れたのに、殴った痛みはずっと残っていて、向こうも同じだったようで最後はお互いに土下座して仲直りしたものだ。


 そんな楽しい思い出をシャワーを浴びながら蘇る。


「…………」


 どうして朝のシャワーがどうしてこう気持ちいいのだろうと思いながら、じっと風呂場の壁を見つめている。


 さて、そろそろ時間だ。


 ザワの指定した「いつもの場所」は、俺達の通学路の途中にある。だから中学時代、俺はザワと摩耶と一緒に登校していた。


 卒業後も住んでいる場所が変わっていないのはザワと俺だけ、となれば待ち合わせ時間を考えればそろそろ来るだろうと脱衣所で体を拭いている。


 別に待ち合わせする必要もなくいつもの流れだとばかりに思った時に、計ったようにピンポーンとチャイムが鳴った。


 そら来たと、俺はボクサーパンツ姿で「はいはい~」と扉を開けると。



 そこにはザワではなく江月摩耶えつきまやが立っていた。



「…………」


「…………」


「きゃあああ!!」


 という「俺」の悲鳴に摩耶は「いや、なんでナオが悲鳴上げるんだよ、上げるのなら私だろ」と冷静に突っ込みを入れられたのであった。



「はいお茶!」


 とドンとお茶を出してそれをすする江月。


 あの後速攻で服を着て、部屋の中のアダルトチェック(本やらDVDやらパソコンの履歴やら)を終えて江月を招き入れたのだ。


「別に隠さなくていいのにな」


「いやいや! いくら友達でも気にするよ!!」


「はいはい」


 と再びお茶を出してズズッとすする。


 江月摩耶。


 彼女は神代中学校時代のクラスメイトでマドンナ、クラスのスリートップの1人だ。


 少人数学級と侮るなかれ、クラス一のイケメンの黒瀬、クラス一の美人の江月、そしてクラス一の秀才の谷森のスリートップはレベルが高く、黒瀬は進学した先の高校ではモデルにもスカウトされて女子からモテまくっているし、谷森は東大に多数の合格者を輩出している全国トップクラスの公立高校に合格し通っている。


 両親もエリートで、全国転勤して、2年の時に転校してきた以来の仲だ。俺はクラスの中ではザワを除けば江月と一番仲が良かった。


 江月は無愛想であまり喋らないから周りは冷たいとか言うけど、マイペースなだけで男前というと失礼かもしれないけど、気を遣わずに済む間柄だ。


 摩耶は余り積極的に遊ぶタイプではなかったけど、自分たちが楽しそうにしているのを見るのが好きなんだそうだ。


 んで江月は中学卒業後と同時に親の都合で東京都に引っ越して都内の高校に進学した。卒業した後も時々こんな感じで訪れる。


 妹の加奈子とも仲が良く家に泊まる時は2人で一緒に寝るほどだ。


 とはいえ2Kのマンションの一室、んで俺は男、いくら気心の知れたクラスメイトとはいえ江月は女だ。


 そんな漢気を発揮した俺は、マンションのベランダで寝たらよりにもよって「そこまで紳士だと若干気持ち悪い」とかぬかしやがったので、その後は自室の部屋で寝ている。


「お前はもっと恥じらいってものをだな、加奈子の部屋だろうが男の家に泊まるなんて、バレたら噂が立てられるぞ」


「大丈夫だ、既に噂が立ってるからな」


「立ってんのかよ! そういうのは大丈夫とは言わねぇ!」


「おかげで、彼氏有のキャラになっているから外面を作らないで済む、便利に使わせてもらっている」


「便利なのかよ、まあならいいけどさ」


 とここで江月はキョロキョロとあたりを見渡す。


「加奈子ちゃんは?」


「……今日は友達とお泊まりだってさ、だからいないよ」


「……………………彼氏か」


「あいつに男なんていない! 何故なら俺が許さないからだ! そもそも男の家にお泊りなんてそんなふしだらなことは加奈子に限ってしない!」


「はいはい、シスコンシスコン」


 ズズッとお茶を飲み干すと勝手知ったるなんとやら、そのままキッチンで湯呑を洗う。


 と一見して淡々としているけど摩耶も今回の同窓会を楽しみにしているのは分かる、これで愛嬌もあるので付き合いが長くなれば上機嫌なのはわかるようになるのだ。


「楽しみだな、同窓会」


 俺の問いかけに首だけ頷く摩耶。


 その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。


「おっす~」


 と今度こそ予想どおりに見慣れた笑顔を浮かべてザワが立っていた。


「遅かったな」


「ああ、折角だから久しぶりの通学路を楽しむ……」


 と俺の後ろに立つ江月を見て、ちょっと考えるそぶりを見せると耳打ちをしてきた。


「2時間ぐらい待ち合わせ遅らせるか?」


「絶対言うと思ったよ!」


 という定番のやり取りにカラカラ笑うザワ。


 相沢修あいざわおさむ


 クラス一のお調子者でありムードメーカー、裏表ない盛り上げ役と言えば相沢だ。空気が読めないこともあるし、鈍感なところもあるが、いつも明るい彼の言動に救われた奴も多く、俺もその1人だ。


 中学卒業後は、俺とクラスは違うが同じ高校に通っていて。そこでもこんなキャラで通している、クラスメイトに可愛い女子がいるらしいが、そのキャラが災いして友人以上に見てもらえないと嘆いていた。


「いやぁ~楽しみだよなぁ~同窓会!」


 部屋の中に入ってくつろぐザワ、まだ少し早いので俺の部屋で待つことになった。


「ってあれ? 加奈子ちゃんは?」


「……友達とのお泊り会だよ」


「……ほーう、なるほど、へえ」


 こそっと摩耶に耳打ちする。


「なあ? どう思う?」


「彼氏だな」


「ああ、やっぱり、確かに可愛いからな、だけど加奈子ちゃんまだ中学生だろう? 早くないか?」


「まあそこらへんは信用してもいいんじゃないか、ナオと比べてしっかりしているし、あの子はちゃんと分をわきまえているよ」


「うん、お前が言うのなら大丈夫だろう、ぐぉっ!!」


とガシっと俺はザワの肩を握る。


「イデデデ!! ちょ、ちょ! 強い! 痛い!」


「何回も言うが、加奈子に男はいない、まあ、事前に俺に話を通して、俺の許可があれば、特別に放課後一緒に帰るぐらいは認めよう」


「ダダダダ!! わかった!! そうだ! そのとおりだ! 加奈子ちゃんに彼氏はいない!」


「うむ、分かればいい」


 と手を放す横で肩をぐるぐる回すザワにため息をつく摩耶。


「そんなだから嘘ついて男と遊ぶようになるんだよ」


「違うもん! 加奈子はちゃんと「彼氏なんていないよ」って言ったもん!」


「はいはい、ほら、そろそろ時間だ、準備は出来ているのか?」


「…………」


 もう、ホントにもうと、ブツブツ言いながらリュックを持ち、ザワも摩耶も同じよう荷物を持つ。


「懐かしいな、この感じ」


 ザワはニコニコしている。


 中学時代、いつも俺の家の前で待ち合わせて、3人で学校に行っていたんだっけ。


 さて時計を見ると、今から行けば待ち合わせ時間にちょうど間に合う。ザワもそれを悟ったのか声を張り上げる。


「じゃあ、良い時間だし、いつもの3人で「登校」しようぜ!」


 そうやって俺たち3人は同窓会の舞台である母校に登校したのだった。


――――


:登場人物:


・相沢修・(あいざわおさむ)

 クラスではお調子者のムードメーカー。常に明るく前向きな彼は、時々空気が読めないことをしてしまうが、それを「ザワだから」という理由で許される。彼自身の明るさに救われた者もの多い。

 笠見忠直と江月摩耶と仲が良く中学卒業後は、笠見と同じ中学校に進学した。


・江月摩耶・(えつきまや)

 クラスのスリートップの1人。クラスのマドンナ。クラス一の秀才である谷森には及ばないものの明晰な頭脳を持つ。

 両親ともにエリートで全国転勤を繰り返す過程で神代中学校に転校してきており、2年間を過ごす。転校ばかりで友人がいなかった中、自分を受け入れてくれた神代中学校のクラスメイト達のことをとても大事に思っている。

 相沢修と笠見忠直と仲良く、中学卒業後は都内の高校に進学し1人暮らしをしている。





次回は25日です。

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