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転結



 次の日は、ゆっくりと目覚めた。


 起きた場所は図書室だった、昨日は結局、皆と顔を合わせられなくて、1人で色々考えて、くたくたに疲れて、何もできずに泥のように眠った。


 誰が来たような気もするし、誰も来なかったような気もする。


 寝た記憶が無いってことは、考え疲れて、そして泣き疲れて寝て、床に寝ている所を考えると椅子から転げ落ちたのだろう。


「いつ……」


 軋む体を起こしながら、図書室の壁掛け時計を見ると起床時間はとっくに過ぎて、昼になっていた。


 何かをしなければならない、いや、俺にはしなければならないんだ。


「ナオ!」


 声をかけられて、虚ろなまま振り向くと、そこには息を切らしてきて、塚本が立っていて、そのまま。


「ごめん……」


 と言いながら、俺の胸に顔を埋めて、泣きじゃくる。


「綾香が、綾香が……」


「え? 綾香?」





 綾香は首を吊って自殺していた。


「…………」


 俺はそれをぼんやりと見つめている。


「私も皆も、今日はさっき起きて、2人いなくて、それで」


「死んだのはスガなんだな?」


「う、うん、多分」


「多分って?」


「谷森も黒瀬も、憔悴しきっていて、もう見たくないって」


「……分かった」


 俺はスッと塚本を放す。


「ナオ?」


「俺はいかなければならない、だから行ってくる」





「……スガ」


 見慣れた、なんて反吐が出そうな、表現、全員変わらず、眠ったようで、すぐにでも起きてきそうな、そんな雰囲気。


『さて、第三の夜の犠牲者は菅沼さんでしたね』


「…………」


 予想は当たった、今日死ぬのはやっぱりスガだった。


そして、今日ゲームが終わらない場合、死ぬのは塚本だ。


『笠見さん』


「なんだ?」


『いえ、いつもだと、色々聞いてくるじゃないですか、何かないんですか?』


「いや、スマホは手に入れたからな」


 と言いながら、スマホデータをチェックすると……。


「最初から、説明会の前の時のピカトリクスのデータを全部録音録画してある!!」


 思わず声を出してしまう。


 こんなものがあったのか。


 俺は急いで再生して、聞いてみる。


 録音していたファイルは2つ。


 一番最初の、ピカトリクスとの会話、次に説明会の会話の二つ。


 俺はその全てを聞く。


 何回も聞いて、何回も聞いて。


 やっと、全てが繋がった。


「う、ぐぅ……」


 涙が流れてくる、とめどなく、涙が流れてくる。


 これがあれば違った、最初から、これを、俺がもっと、早くこれを聞いていれば。


 そうだよ、考えるのは俺に任せるって言ってくれていたのに。


 ごめん、本当に、ごめん、スガ、国井……。


 やっと、このゲームのクリアが、やっと。


「ピカトリクス」


『なんです?』


「ゲームは今日終わらせる」


 俺の言葉を飲み込むようにしてにっこりと笑う。


『分かりました、どうぞ、笠見さん』


「まず、そのために責任を追及したい」


『……はい?』


「国井が自殺した、この責任はどう取ってくれる?」


『…………は? なんでですか? 自殺は自分でしたことですよ、えーっと、遺体は就寝時間中にこちらで片づけますでいいですか? コメントは、そうですね、ここは政治家に習い誠に遺憾であります、あたりで』


「政治家に倣うのなら、責任を取らないとな? 政治家でも失言すれば責任を取って辞めるぜ? このゲームで国井の自殺は、ゲームが原因だ、これは明らかにお前たちの失態だろ?」


『……少し苦しいですが、確かにこのゲームに参加しなければ、そして菅沼さんが死ななければ、自殺することはなかったでしょうね。まあ個人的に自殺する人間は遅かれ早かれというのは持論ですが、因果関係は認めてもいいでしょう』


『つまり、笠見さんは何を要求したいのですか? そのために、ゴネているんですよね?』


「まず今日、裏切り者を割り出せない時の犠牲者は、塚本ではなく国井にしろ」


『っ!』


「ビンゴだな、そうか」


『……まずという事は次があるのですか?』


「ある」


『言ってください、吟味しましょう』


「質問の権利を、国井の分を含めて今日使いたい」


『…………』


「…………」


『ルールに抵触すると分かっていて言っていますね?』


「いいや、抵触しないね」


『え?』


「スガがお前の説明会の時の、記録、全部録音していたんだよ、聞き返してみた、自殺者が出る場合は想定していない、それは今決めろ、疑うんだったらここで再生してもいい」


『笠見さん、まさか……』


「簡単だ、裏切り者を割り出すために、最低一つ、二つあれば確実に、それで終わらせる」


『…………』


「言ったろ? こんなクソゲー、一日でも早く終わらせてやるってな」


『…………』


 ピカトリクスはずっと考えていると口を開いた。


『まず、1つ目の件については了承しましょう。ですが二つ目については考えさせてください』


「分かった、なら一つ目の権利行使をする」


『え!?』


「ピカトリクス、裏切り者は▲?」


『っ!』


 無表情な笑顔ではあるが明らかに、相手側に動揺が走ったのが分かった。


『そうですか、そうですね、笠見さんならそこまで至りますか、しかしストレートに聞いてきますね』


『その答えは……』


 ピカトリクスは、俺に答えてくれる。


「…………そうか」


 当たり前の話だが、該当人物は1人だ。


 そっか、アイツが……。


 アイツが、裏切り者……。


『笠見さん、分かりましたよ』


「え?」


『どうやらハッタリでもこちらを動揺させるための手段でもなさそうですね、いいですよ、本日2回目の権利行使、認めましょう、ただし期限については通常どおりで』


「うるさい黙れ、その説明は必要ない」


『え?』

「最後の質問の権利を行使する」


『はぁ!?』


「■」


『っっ!!!』


『そ、そう来ますか』


「問題があるのか?」


『あ、ありません、ありませんね、これは、しかし物語的に、興ざめも良いところですよ?』


「お前のルールにのっとってやったんだ、文句言うなよ、興ざめになったのは、お前が無能だからだピカトリクス」


『ですね、無能の評価、貴方になら甘んじて受けましょう』


 ピカトリクスの言葉を背に俺はスガに最後の別れを告げて、部屋を後にする。



 さあ、裏切り者を暴きに行こう。




 ここまで読んでいただいてありがとうございました。


 まず、繰り返しますが、この物語の中で唯一、笠見忠直は裏切り者ではありません。


 何故なら、役割を与えられている人物は裏切り者ではないからです。


 当然、死んだ人間が実は生きていて裏切り者だった、という展開もありません、これもピカトリクスの説明のとおりです。


 つまり裏切り者の容疑がかかっているのは現在の生存者である。


 江月 摩耶。


 黒瀬 涼。


 谷森 正昭。


 塚本 須美。


 の4人となります。


 笠見がした質問については、このまま裏切り者を特定できてしまうため、伏せてあります。


 1番目の質問は、殺される順番が分かり、それを逆手に取る形でピカトリクスに質問し、誰であるかを特定しました。


 2番目は推理物の犯人が暴かれた後の展開に絡むものです。尚、この質問は、裏切り者を特定するためではなく、言い逃れをさせないために笠見は聞きました。


 

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