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牽制



 俺達の来訪を感じ取ると、ピカトリクスは本を閉じて俺に向き直る。


『菅沼さんと国井さんは来ていませんが、思えば複数で来るのは初めてですね、喜ばしいことですよ』


 口調は静かに挑発するピカトリクスであったが。


「ピカトリクス、一つ提案したいことがある」


『なんです?』


「俺たちの特典の質問は、ちゃんと特典の質問として宣言するから、それを受理するという形にして欲しいんだよ」


『……はい?』


「つまりさ、「願い事を叶えてあげましょう」「わかったちょっと待ってくれ」「はいわかりました、待ちました、貴方の願いを叶えました」ってことを防ぎたいんだよ」


『…………』


 明らかに雰囲気が変わるピカトリクス。


『……何が言いたいんです?』


「こんなことをしてくる奴らだ、保険をかけておきたいのさ」


『明らかにそんなことをしないって分かっていて言っていますね?』


「その最終確認も込めて、だな」


『…………』


 そのまま動かず、考える様子のピカトリクス。


『そんなことをしても興ざめも良いところです、ですからしません。いいですよ、そのルールの提案を受け入れましょう、ちゃんと宣言してください、それ以外の質問の場合は、ちゃんと答えられない場合は「答えられません」っていいますから』


「分かった、言質が取れればいい」


『? あっさり理解しますね?』



「ならピカトリクス、俺達の中に「裏切り者以外にお前らから与えられた役割」を持っている人物はいるのか?」



 これ見よがしな俺の質問。


『……なるほどぉ、理解しました、最初の馬鹿な提案は私に飲ませるためのものだったという事ですか、保険をかけたい、そういう意味ですか。んー、これはちょっと油断しました、何も考えずに答えてしまって失言でしたね』


「何が失言だ、人狼ゲームをちらつかせたとき、かなりこれ見よがしに含ませていたくせに、まあ今までピンとこないとは俺も抜けているがな、さて、やっぱり無しってことにするのか?」


『まさか、笠見さんは本当にありがたいですね、うーん、本来なら特典を使うべきなのでしょうが、盛り上がりが大事ですからね…………』


 考えている様子のピカトリクスであったが。


『ああ、そうだ、交換条件ってのはどうです?』


「何をさせるつもりだ?」


 ピカトリクスは後ろにいる摩耶に視線を送る。


『熱烈に口説いてください、私を』


「好きだ、愛している、お前以外考えられない」


『あらら、彼女さんの前なんですから、少しぐらい躊躇しないと、笠見さん、江月さんは一見して平気な顔をしていますが、内心は怒っているので後でちゃんとしたフォローを』


「それで?」



『いますよ』



 やっぱり、いたか。


「笠見、裏切り者の遺骸の役割がいるって、どうしてそう考えたんだ?」


 と谷森が問いかけてくる。


「裏切り者って表現の「視点」が気になっていたのさ」


「視点?」


「つまり「俺達から見て」ってこと、それに引っかかっていたんだ。つまりこのゲームにおいてつまり俺達の中の裏切り者は、このゲームにおける「役割」って位置付けだと判断していい。そもそも俺達の中に犯人を紛れ込ませるというのがクリア条件なら、最初からそう考えるべきだった」


「そうなのか?」


「そうなの、ピカトリクス、それは裏切り者と同一人物なのか?」


『推理してください、名探偵さん』


「…………同一人物ではないさ」


『ほう、どうしてです?』


「特典を使ってくれとこれ見よがしに言っていたからな、裏切り者が誰であるかという問いには当然に答えない、ってお前は明言していたからな」


『はい正解、んー、ちょっとサービスし過ぎましたか、私も甘いですね「彼氏」相手だとね、こんななりですけど、身持ちも硬くて尽くすタイプなんです、江月さんも分かりますよね?』


「ああ分かるよ、まあ、ライバルがお前なら負ける気がしない」


『漢らしいです、というわけで、いつものとおり、期限は午後11時までですよ~』


「勝手に終わらせるなピカトリクス」


『え?』



「殺す順番はあるのか?」



『っ!!』


 全員が「あ!」という顔をして俺を見る。


『……答えられませんね』


「なるほどな、順番があるのか、それが分かればいいよ、ちなみにお前らから与えられた役割はどれぐらいの数がいるんだ?」


『…………』


「答えられない質問には、答えられないって言うルールだぜ」


『答えられませんね』


「これは答えられないが考えれば分かる、といったところか「ありがとな」ピカトリクス」


『……どういたしまして、笠見さん、ちなみに彼女が怪しい動きをしていた時に、浮気ばっかり疑っていると気持ちが冷めてしまうものですよ』


「わかった、参考にしておこう」


『それではおやすみなさい』


 といって、ピカトリクスは自分の部屋のベッドで就寝して、「ZZZ」と寝息を立てる。


「…………」


 いる、やっぱりいるのか、裏切り者以外に役割を与えられた人物がいたのか。


 いや、そんなことは些細なことだ。


 殺す順番がある。


 これだ、ということも分かったのはでかい。


 俺は無意識にこぶしを握り締めていた。





 多目的室を離れて、教室に戻ったところ、スガが国井を連れてきて戻ってきていた。


 国井は取り乱している様子はなくなったが、憔悴しきっている。


 とはいえ、情報共有はしなくてはならない、俺は先ほどあったことを、スガと国井に話した。


「…………」


 スガは、俺の発言を受けて何か考えている様子だったが、塚本が切り出す。


「ねえ笠見さ、ピカトリクスから役割を与えられているものが、裏切り者以外に最低1人以上はいるってことでしょ、それって矛盾しない?」


 塚本の言葉に、黒瀬が頷く。


「裏切り者は1人である、共犯者は部外者である、この前提で今まで話を進めていたわけだよな、ってことは、その前提が崩れるってことになるだろ」


「…………」


 役割を与えられている、だがそれが裏切り者とは別人物である。


つまりもし役割を与えられているのが、裏切り者の仲間だとしたら、裏切り者は複数いるってことになる……。


「いや、それだとピカトリクスの言っていることと矛盾してしまう、この事実は権利行使のレベルなんだよ」


「これはそのまま、役割を与えられている人物がいるが、それは裏切り者ではない、つまりピカトリクス側の人間じゃないってことになると解釈していいってことだ」


「え? よ、よくわからない、つまり、どういうことなんだ?」


「…………」


 そう、どういうことなんだろう。


 結局そこに行きつく。


「ここで行き詰るってのは、ゲーム攻略のためのスタンス、裏切り者を誰かを見つけなければならない、そのためには、疑わなければならない、じゃあ結局どうするってことになるからなんだよな」


「…………」


 全員が無言になる、そう、疑う覚悟も疑われる覚悟もできてはいるが、簡単に言えば方法が分からない。


 しかも、俺達の中に役割を持つ人物がいて、そいつがピカトリクスの仲間ではない。


「なら役割を持つ人物がいるのなら、それが誰かって聞くのはどう?」


「特典を利用くださいって言っていたってことだよな、ということは、それには答えるという事だ」


「あ、それ、いいな!」


「いや、少なくとも役割を持つ人物は裏切り者じゃないから意味はない、それよりも、ランダムで殺していないってことの方が大事だ。ピカトリクスが思わず画面越しでも感情に出てしまうほどの変化を見せた、殺す順番が存在するという点」


「…………」


「確かこの点についてピカトリクスは、事前に告知すると、恐慌状態になるから謎解きどころではないため、こちらで選定すると言っていたんだ。そうなんだよ、はっきり言っていたんだよ、なんでランダムだと思ったのか」


 直後のかたくなな感じがからして、確かに大きいものなのだ。


「この点について、ザワが感じていた危機感がやっとわかった」


「え!?」


「ザワは、裏切り者がだれかはわからないが、殺す順番があるかもしれない、とまでは考えていたのさ、だからスマホを隠したのさ」


「さて、順番があるかもしれないと、裏切り者が誰であるかは分からない、そして自分が一番最初に殺されるかかもしれない、ザワはそう考えた時、この三つが成立するのは一つしかない」


 スマホをくるっと裏返すと一斉に声を上げる。


「出席番号!!!」


「そう、自分の出席番号が1番だから、自分が最初に殺されるかもしれないと思った、これ見よがしに、デカく数字があるわけだから、これが順番だと思ったんだよ」


「それでザワが殺されたってことは!」


「落ち着け、次は大城、出席番号3番、江月麻耶が飛ばされている」


「あ! で、でも」


「そう、可能性はある、その可能性をまだ完全に捨てる根拠はない。仮に出席番号順に殺されていると考えた時、考えられる可能性は二つ、まず一つ目は出席番号順に殺されているのが間違いが、それとも」



「摩耶が裏切り者か」



「裏切り者は飛ばされると考えていい、ピカトリクスが顔色が変わったところを見ると、つじつまが合う」


「ちょっと! あんた、え、江月と、付き合っているんでしょ!? 自分の彼女を疑うの!?」


 塚本が焦るがそれを制するのはほかでもない麻耶だった。


「塚本、大丈夫だ、私をとことん疑えと言ってあるからな、じゃあ私からも質問だ、ナオは、出席番号順に殺されている可能性をどの程度と考えている?」


「……分からない、それを知るためには、もう少し、日が経たないと駄目だ」


 例えば今日死ぬ人物が出席番号順でなければ、この説は間違っているということになる。


 そしてこの絞り方はこのゲームでは最もやってはいけない手法だ。これは人道という意味ではなく、単純にこれを当て込むと全滅するしかない。


 ピカトリクスは、この点についてかなり敏感になっている。罪の状態を防ぐために難易度について相当緩めているのだろう、そもそも俺たちがゲームにちゃんと取り組むことすらわからないからだ。


「やっぱり問題なのは、戦い方なんだよ、それをはっきりしないことには」


「あ、あのさ、いいか?」


 ここで手を挙げたのは菅沼だった。


「ナオが言う、戦い方ってのは、俺たちをいかに疑うかってことだよな」


「ああ、そうだけど」


「疑うって聞いて、ずっと考えていたことがあったんだけどよ、その、こんな状況だから、正直に話す、俺が警察に逮捕された、とか知ってるだろ?」


 スガの言葉に谷森が頷く。


「知ってる、まあ驚いたが、それだけだ」


「ありがとよ、んでさ、逮捕された時の話なんだけど、警察の取調べってさ、こう、おそらく皆が想像する感じじゃないんだよ」


 警察による取調べ、脅された、暴力を振るわれたなんだとは今でも問題になるし、冤罪問題も取りざたされるが。


「それがさ、お互いに冗談言いあったり、雑談したりするんだよ。一番すげえなって思ったのは、別の取調室でさ、お互いに歌ったり、お笑い芸人のネタとかやったりして取調べをしてたんだよ」


「う、歌? お笑い芸人? そ、そりゃいくらなんでも嘘だろ? いや、嘘じゃないよな? って、そんなことしていいのか?」


「俺もいいのかって聞いたら、「取調べで歌ったり、お笑い芸人のネタをしてはいけないという法律はないからな」ってあっさり返された」


「え、えー、なんか、怒鳴ったり、脅されたり、暴力を振るわれたりってイメージがあるけど」


「昔は普通にあったとか言っていたけど、逆に今はそれをやると、犯罪者相手でも警察の責任が問われるからやらないんだってよ、俺の時も無かったよ」


「でも事件のことはしっかり聞いてくるんだよ、矛盾点もしっかり追及してくる。警察の疑い方ってさ、話を聞いて、それで不審に思ったりした時に質疑応答を交えて追及してくるのがやり方なんだよ」


「しかもそれだけじゃない、身上調書って言って、俺がどういう人物かも凄い詳細に聞かれるんだ。生まれた場所から、交友関係から事細かく、なんでこんなことを聞くんだって聞いたら、検察庁に送る時に、こういう人物であるというのが大事で、窃盗の常習犯なら、いつごろから手癖が悪くなったのかとかも大事なんだってさ」


 ザワの話の内容は、それこそ全然知らない世界の話だったから全員が感心したように頷く。


「なるほど、いや、これは、普通に感謝だ、そうか、疑うってのは、一直線に一方的に事実のみではなく、臨機応変にその分野に限定せずに追及するってことか、それが警察の疑い方」


 疑うというのは今まで俺達が考えていた怪しい動きをしていた、という表面的なことだけではなく、もっと多角的にってことだ。


 そう、そう考えた瞬間に色々と繋がってくることがある。


「裏切り者の特定の仕方は何となくだけど見えたな」


「え!?」


「それとピカトリクス側から役割を与えられているのが誰なのかも見当がついた」


「ま、まじかよ!?」


 全員が俺の顔を見て本気だと思ったのだろう。


「じゃあ、それは誰なんだよ」


 黒瀬の言葉に俺は答える。


「スガの警察の取り調べで閃いたんだ、これがこのゲームの攻略方法、そしてこの攻略方法を元に推理ゲームとして成立させると考えた場合、絶対に外せない条件がある、それはなんなのかわかるか?」


「??」


「言い方を変えるぜ、スガの取調べってのは、スガが犯人もしくは容疑性があるからこそ成立する、そしてもう一つある」


「取り調べる側が犯人ではない」


「犯人ではないって」


「この場合は裏切り者ではないという意味になる。つまり探偵役が存在する」


 ここまで言えばわかるのだろう、谷森がはっとする。


「自分だといいたいのか!?」


「ああ、俺は実は、みんなに話していないことがある、聞いてくれ」


 話していないこと、加奈子が誘拐されて今日まで行方不明なこと、書き置きがあったことを正直に話した。


「そしてピカトリクスはこう言った「推理してください、名探偵さん」とな、これだとピカトリクス側から与えられないと、裏切り者ではないという説が同時に成立することになるだろ、何より、この役がいないとこのゲームが攻略できないんだよ」


 全員が黙っている。これは特段事実を示されているわけではないし、何より自分の推論にすぎないし、しかも疑うと言いつつ自分の潔白を主張しているのだ。


「笠見、探偵役は収集した情報を集約し分析し、そして秘匿する。お前が以前に情報共有をする、という点について、自分の言を返すことになる」


「……その点については、集約して分析はする、だけど秘匿にするという点については正直決めかねている」


 全員が黙っている、当たり前だ、俺が裏切り者であった場合は、全滅を意味するからだ。


「笠見、悪いが、お前が裏切り者ではない、という結論については一旦保留させてくれ、そこから先の方が大事なのだろう?」


「ああ、ここからは俺が裏切り者ではないという前提で話を進める。だからこそ今回の質問が裏切り者を特定することに使わないという点に絞れるんだよ」


「え?」


「俺が提案する質問は……」



次回は20日か21日です。

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