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慟哭



『カップル成立おめでとうございます。ちなみに個室は個人所有のスマホ以外で扉の開閉はできませんので、どうぞお好きに使っていただいて構いませんよ。ただシーツの洗濯までは面倒見きれませんので、あー、そういえば洗濯機と洗剤は用意していないですね、適当に水洗いで』


「そのスマホで聞きたいことがある、ザワのスマホは何処だ?」


『スマホ? 知りませんよ、おっと別に隠したりはしませんよ、中のデータをいじったりもしません、プライバシーですからね~、本人が置いた場所にあるんじゃないですか?』


「ザワの個室はお前が封鎖しているだろう」


『……まあ、そうですね、それでなんですか?』


「使うのには問題ないのか?」


『お好きにどーぞ』


「もう一度聞く、何処にある?」


『…………』


 ピカトリクスは答えない。これは……。


「もし「作業」が必要なら、その間臨時で眠ってもいいぜ」


『…………』


「そこでどうするか悩んでいるんだろ?」


「? ナオ、どういうことだ?」


「当たり前の話だが、俺達の中にいる裏切り者は1人だが、単独犯じゃないってことだよ」


「あ!」


「裏切り者のインパクトに騙されて、俺も今の今まですっかり抜け落ちてしまっていた、これは完全な組織的犯行ってことだ。これだけのものを準備して、報酬3億ってことを考えればな」


「でも、どうしてスマホが気になるんだ?」


「外部連絡手段に使えそうなものを全て没収する、それなのに「わざわざデータを移したスマホを持たせる意味」を考えたときにさ、ピカトリクスは説明会でスマホは手掛かりと、直接的ではなくても言っていたんだ、違うかピカトリクス?」


『…………』


 俺の言葉にピカトリクスは無表情な笑顔は変わらずだったが。


『……相沢さんのスマホは、自室に置いていません、それは確認済みです。場所については、まぁ、探してください。まあ、笠見さんの組織的にって部分の承認にもなりますが、ここに至ってはしょうがないでしょう』


「裏切り者って表現をわざわざ使っておいてか?」


『ふふっ』


 お互いに睨み合う。


『それと死亡者のスマホについては、ロックは解除されています、誰でも自由に見ることができますよ』


「分かったよ、何かあればまた来る」


『はい、お待ちしていますよ、笠見さん』





 俺は再び学校の校舎の図書室に行く、考え事をするためには、ここが一番だ。


「ナオ、あの、ザワのスマホを探さないのか?」


「摩耶、あの歯切れの悪い言い方が引っ掛からないか?」


「え?」


「普通に言えばいいだろ、部屋の中に無いから探せって、どうしてあんな言い方をしたのかな」


「そ、それは共犯者がいることを」


「そのこと自体は特段問題じゃないのさ」


「え?」


「特典を使うまでもないってことだよ「考えればわかるレベル」だからな、アイツが言い渋ったのはそこじゃない、俺が今考えているのはね、どうして言い渋ったのか、についてなんだよ」


「ナオ、前々から思っていたのだが、ピカトリクスのあの妙に煙に巻くような言い方を信用し過ぎているような気がするが」


「逆だよ」


「逆?」


「そう、逆、向こうからすれば、俺達の信用を失ってはならないのさ」


「ど、どうして?」


「摩耶、まずはスマホを探そう、ザワのスマホが見つかれば、考えがまとまると思う」


「ナオ!」


 と切羽詰まった感じで声でかけられていたので、見てみると不安そうな麻耶がいた。


「私は大丈夫か、足手まといになっていないか?」


「へ?」


「協力を申し出た直後でなんだが、お前とピカトリクスとの会話に、全くついていけない」


「何言ってんだよ! こうやって色々聞いてくれるのは俺も頭の中が整理できて、どんどん進んでいくからありがたいぐらいだ! だから気になった事とかあればこれからもどんどん意見を言ってくれ」


「そ、そうか、分かった、ならナオ、スマホは全員で探さないのか?」


「……いや俺と麻耶の2人だけで探す」


「何故だ?」


「ザワのスマホは、ピカトリクス側が隠したんじゃない、自分で隠したからだ。ピカトリクスが言い淀んだ原因はここにあると思う」


「まさか、裏切り者が誰か分かったとか!」


「……それは、わからない」


「で、でも、ザワのスマホがどこにあるかなんて、確かに壁に囲まれてはいるが、隠されてしまうとどうしようもない」


「だからだよ、それが肝だ」


「え?」


「ザワが隠したというのなら、俺には心当たりが一か所だけある。そこにあれば、それはザワが俺に見つけてほしいという意思になる、逆にそこになければ、また別の意思があるってことになるのさ」


「??」


「まずはそこに行こうって話だよ」


「わかった、なら、何処にあるんだ?」


 麻耶の問いかけに俺は一言だけ答える。


「秘密基地」





 俺は麻耶を連れてきたのは、何の変哲もない、校庭の隅に立っているただの木だ。


「小学生の時だったかな俺とザワの2人だけで作った秘密基地の場所がここ、この木を御神木とか設定作って2人で何かするときはここで作戦会議とかしてた、んで2人だけの絶対秘密だった」


「小学生って」


「ん? ほら、当時はまだ中学は「おっかない」って感じがしたからさ、だからそこに基地を作れる俺達は度胸があるんだとか、自慢してたんだよっと、あった」


 木の根元に真新しく掘り返した跡がある。そこを掘って見るとプラスチック製の箱が出てきて、何処からか拾ってきたであろうを蓋を開くと。


「あった」


 間違いない、ザワのスマホだ、スマホカバーに1と書いてあるから間違いない。


 俺はスマホをぐっと握りしめる。


「ザワがここに隠したのなら「俺になら」見て欲しいってことだ、誰にも見てほしくないのなら、知らない場所に隠されたらそれこそ見つけることはできないからな」





 ピカトリクスの言うとおり、スマホのロックが外れており、簡単に中を見ることができた。


 色々と読み進めていると、摩耶は絶句している。


「ナ、ナオ、知ってたのか?」


 知っていたのか、俺は頷く。



「ああ、知ってたよ、ザワはさ、親から捨てられて、児童養護施設で育ったんだよ」



 そう、それが俺がザワを「強い」と思った理由だった。


 ザワは、自分の親の顔すら知らない、物心ついた時から施設で育った。この施設自体に特段嫌なことがあったという訳じゃないが、周りの「可哀想」という視線が嫌でしょうがなかったんだそうだ。


 だからそれを嫌ったザワは、選択肢があって、中学に進学する時に遠くて人数が少ないこっちに移ってきたんだ。


「凄いよな、アイツは、お調子者ってだけじゃない、強い奴なんだ」


 ギュッとこぶしを握り締める。


 ザワが残した手掛かりだったが……。


「…………」


 見つからない、全部データを見てみたが、見つからない。ザワのスマホの中は、連絡先、グループメッセージ、写真、動画と言ったもの全てを見たが、摩耶にとっては児童養護施設との連絡記録に驚いたぐらいだ。


 写真も、中学時代の写真がたくさんある、んで進学した後の写真を撮りこっそりと好きな女子の写真を撮っている辺りがまたザワらしい。


 その中で一番怪しいのはもちろんグループメッセージだ。


 一番怪しいのは、当然に俺達との連絡手段だ。全員と均等にという訳ではなく、ザワの俺達とは別の仲のいいクラスメイトとの連絡を見ても特に気になる部分は無し。クラスメイトの仲では主な相手は俺と摩耶とも連絡を取っていて、クラスメイトの気になる子に必死に連絡を取っているとか。


「…………」


 これは手掛かりがないのではない、手掛かりがあるのに俺が気づいていないんだ。


 丁度いいか、考えをまとめよう。


「摩耶、考えをまとめたい、付き合ってくれるか?」


「ああ」


 最初から振り返ってみる、そうはじめからだ。


 俺たちは中学を卒業後、それぞれの道を歩み始めたものの、全員が仲が良かったから卒業した後もちょくちょく連絡を取り合って、近況報告をしあっていた。


 特に仲のいい人物とは頻繁に連絡を取っていたし、会っていたりしていた。


 俺で例えるなら進学先も一緒だったし、摩耶も時間を見つけては片道二時間ぐらいで到着するからここに帰ってきた。


 それが俺達の関係だったが、一同に揃うことはなく、そんな話をグループメッセージでしていた折、ザワが同窓会をしようと言い出したのだ。


 そして高校生になったんだから、泊りがけで旅行しようぜ、勢いだけで言いだして、だけど皆全員乗り気、言い出しっぺのザワが幹事をやることになった。


 とはいえ日程調整やら期末試験の勉強やらで相当苦労したらしく、結局金の管理は不安だからと大城に頼んだそうだが、大城から「もっとしっかりしなさい」なんて怒られたそうだ。


 そしてザワが提案した場所は我が母校である神代中学校だ。今は廃校になり、多目的施設として使われている。


 これが今回のデスゲームの舞台だ。ここで摩耶が口を開く。


「つまり、裏切り者は相当な前から準備をしていたことになるな」


「というと?」


「これだけの大掛かりの、しかも私たちが中学校に来るということを分かっていたということになるだろう?」


「それだ! そこがピカトリクスがぼかしたかった部分なんだ!」


「え?」


「摩耶、悪いがその可能性はありえない。俺達が母校で同窓会を開いたことと、デスゲームの舞台が母校であることはただの偶然だ!」


「ぐ、偶然!? そんなことありえないだろう!?」


「あり得るも何も、ザワが神代中学校にしようと言ったのは2週間前だぜ? それでここまでの設備が揃えられるのか? インフラ設備すら怪しい無人島にか? 本州から離れた場所にあるところに建てられるものなのか?」


「で、でも、ザワは何者かに誘導されてここに決めた場合も」


「同窓会を言い出してから、グループメッセージにそんな記録はない、通話記録を見ても仲間内では俺と摩耶と、大城がいたが、1週間前になっている、金の管理が不安になって丸投げしてきたと怒っていたからな、仮に大城が裏切り者であるのなら、誘導すらできない、裏切り者ではないからな」


「い、いや、それはスマホを見る限りではそうかもしれないが、こんなデータ、いくらでも作り変えられるし、私が裏切り者だったら自分の不利になる情報は削除する」


「それはありえない」


「え?」


「摩耶、このスマホのデータは信じていい」


「ど、どうして?」


「さっきも言ったろ、俺達の信用を失ってはいけないからさ」


「信用?」


「そう、このゲームってのは進行役の嘘はいわばチート技だ。まず俺達は全滅する」


「それは、別に」


「前に少し触れたが今回は俺達を皆殺しにするのが目的なのか、という件についてはここに至っては可能性はない。つまり俺達の全滅という敗北は、一つの状況に過ぎないという事さ、つまりバッドエンド、当然にこの顛末だってありうる」


「だがピカトリクスは、裏切り者を見つけることがクリア条件だと言った、つまりこのゲームはクリアできるんだよ。、その為には自分が作ったルールは絶対に守る、いや守らなければならないのさ。そしてスマホを見る限りザワは誘導された形跡がない、そして……死んだ人間は裏切り者ではない」


「だったら、どうして隠したんだ?」


「ザワは、何かに引っかかったんだと思う、だから自分が死ぬかもしれないと思った。そして自分が死んだとき、スマホを取られたり、中身を変えられるかもと思ったからこそ隠したんだ。だからザワは、この状況が本気の状況だってことを分かっていたってことになる」


「手掛かり、だったら何かメッセージを入れるんじゃないか? それこそ推理物のダイイングメッセージみたいに抽象的なものではなくて、ストレートに」


「…………正直、そこは分からない、だけど図書室で話した時、ザワは何かに気が付いたんだと思う、俺はそれが、隠した理由に繋がると思う、ん?」


 ここで画面を見て見ると、検索履歴があって、そこにある文言に引っかかる。


「裏切り者……」


 そう、ザワは裏切り者という言葉を検索していて、辞書アプリの検索リストで一番に引っかかっていった。


 裏切り者か……。


「なあ摩耶、どうしてピカトリクスは「裏切り者」って表現するんだろうな」


「? それは、私たちは仲間だと思っていたのに、こんなことをしてたのだから、それは裏切りだろう」


「犯人じゃダメなのか「貴方の中にデスゲームを仕掛けた犯人がいます」でいいじゃないか。何を裏切ったんだ、俺達の友情か? 貴方方の中に「貴方達の友情」を裏切った者がいます、んー、まあ間違いないかもしれないが、意味が通じるようになるというだけでだから何といったレベルだな」


「それがそこまで気になるのか?」


「説明会の時のように、ピカトリクスは相当に言葉を選んで発言している。おそらく入念に自分がする発言についてと俺達のどういった質問が来るのか、その答えについてチェックしていたはずだ」


 アプリで意味を見てみる。


・約束や同盟関係を捨て相手に寝返る行為。

・想像と違った期待外れた事象に対して用いる。


「…………」


 じっと考えるが。


 やっぱりピースが足らない、そうだ、このピースが何なのかを話し合わないといけないわけか。


 本来ならそうやって、権利を使うために話し合わなければならないわけか、だがその権利はもうすでに使ってしまっている。


「よし、皆と合流しよう」


「ザワのスマホはどうするんだ?」


「全員に公表する」


「え?」


「ザワの意思は分かった、アイツが何を考えていたのかは分からない、だけど俺にだけなら知らせてほしいって意志なら、俺は俺の考えに従うよ」


 覚悟を持った俺の言葉に。


「分かった、私はナオに従うよ」


 と摩耶は笑顔で答えた。





「これが今わかっていることの全てだ」


 クラスに戻って、俺の考えを伝えた。みんな最初から最後まで聞いてくれて、俺の言葉に塚本が手を上げる。


「ちょっと待ってよ、言いたいことは分かったし、なるほどとは思ったけど、あのさ、それを全部私たちの前で話すって」


 塚本の言葉に谷森も同調する。


「ああ、リスクがあるんじゃないか? 裏切り者に今の情報が伝わるのは不利じゃ」


「いや、逆だ」


「え?」


「いいか、さっきも言ったとおり、人狼ゲームはピカトリクスのミスリードなんだ。逆にどんどん積極的に情報共有をしていくべき、確かにこうやって情報を出し合うってのは、当然裏切り者も知ることになるが、それよりも怖いのが大事な情報を知ったまま死ぬことなんだよ、何故なら死ぬ……」


 ここでふと思いついた。


「ど、どうした?」


「い、いや、わるい、何か思い浮かんだような気がしたんだけど、話を戻す。だから例えば俺の知っている情報と誰かが知っている情報が繋ぎ合わされば、裏切り者特定のヒントになるかもしれないってことになるんだ」


「なるほどな……」


 とここで言葉が途切れて、全員が黙ってしまう。


 進展は少しはあったかもしれない、けど……。



 結局、今日は裏切り者をあぶりだすことは出来ないということだ。



 それは明日になるということ。



 それはこの中で誰か1人死ぬという事。



 その夜は全員が震えていた。




 全員が手を握り合ったまま、意識が途絶えた。








――多目的ホール


 映像の中のピカトリクスは、読んでいた本をぱたんと閉じる。


『さて、笠見さんが想定以上の働きですね、こちらもついサービスし過ぎましたか。さて、今後の展開はどうしましょうか、っと、まずは今宵の犠牲者を……』




次回は14日か15日です。

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