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奮起

――


 俺はみんなに図書室に行くと言い残して1人でずっと考えている。


「…………」


 現在は、何も進展することもない膠着状態、こう、何かないか、何かが足りないんだ。


 いろいろ気になることはあるが、それが線が結びつかない。そしてそんな感じで煮詰まると。


(駄目だ! ザワのことを考えるな!)


 振り払うように思いっきり伸びをした時だった


「ナオ」


 図書室の出入口から呼ぶ声が聞こえたから、振り向くとそこには麻耶が立っていた。


「どうした?」


「話がある、いいか?」


「ああ、いいけど」


 と言いつつも図書室の中に入ってこない。


「ここじゃ出来ない、誰にも聞かせたくない話だからな、校庭の隅に来てくれないか?」


「は、はぁ」


 今まで見たことが無い真剣な表情の麻耶に俺は「分かった」と頷き、2人で図書室を後にしたのだった。





「…………」


「…………」


 ここは校庭の壁に近い場所、その場に行くまでお互いにずっと無言だったけど、ついてからも無言だった。


 何故なら摩耶が凄い緊張しているからだ、俺もつられて緊張してしまっている。


「何から話したものか」


 と摩耶が切り出して話し始める。


「まずナオ、私はお前が裏切り者で無いということを信じている」


「あ、ああ、そうなのか、あ、ありがとう、俺も」


「いや、この場合は私を積極的に疑って構わない、そうしないと裏切り者が誰かを割り出せないわけだからな」


「え? あ? うん?」


 うん、なんだろう、いまいちよく分からない。


「言葉にすると安っぽいか、だが言葉でしか言い表せないから、はっきり言えば命を懸ける必要があったからこそ、その覚悟を伝えてに来たんだよ」


「えーっと、つまり?」


「お前のことが好きだ、だから何でもする」


「…………はあ、そうなんだ」


「これでも一世一代の告白なんだが、気の抜けた返事はしないで欲しい」


「え、え、うん?」


 麻耶は変わらず俺をじっと見つめてくる


「……ま、まじ?」


「そうだ」


「っっ!! ~~っっ!!」


 自分の中で突然言っていることを理解して顔が真っ赤になる。


「いやいや! 堂々としてて全然そう見えないよ! え、ほほ、ホントに? 気が付かなかったよ!」


「隠していたからな」


「だってお前! 黒瀬じゃないのか!?」


「え? 黒瀬? ああ、まあ、カッコいいとは思うが」


「2人で会っているって!」


「ああ、元から通っている高校が近いからな、時々会うんだ、お前が行った時は偶然会って、折角だからと2人で食事をした時のことだろう、黒瀬は大事な友人の1人だからな、だがお前が嫌ならば控えよう」


「…………」


 そうか、確かに美男美女は目立つからな、しかも都内は人が多いから余計に。


 でも、なんで、いきなりこのタイミングでと恥ずかしさのあまり肘で顔を隠しながら問いかけるが。


「今回生き残ったのは偶然だ、隠すのは辞めにしたのさ」


 だそうだ。


「やっぱり、お前って、男前だよな」


「それは女に対しての褒め言葉ではないよ、それと返事についてだが」


「ああ、もちろん、今すぐに」


「いや、それはこのゲームが終わって、私とナオが生き残れたらしてほしい」


「え?」


「もしここで気持ちを受けいれてくれたら、私は多分戦えなくなる」


「…………」


「一方的で悪いが、まず私の立場を明確にしておかなければならなかった。それと、これでも私は尽くす方だぞ、だからお前とは別行動をしていて、皆の様子を見ていたんだよ」


「そ、そうなんだ」


 だそうだ。こう、中学の時からそうだったけど、行動が一貫しているというか、度胸もあるというか、なんだろう、なんで男としての敗北感を感じるのがちょっと悔しい。


「ありがと、麻耶、凄い勇気が出た、わかった、お前のことを疑いまくるよ、んでその後は精いっぱい謝る」


「わかった、だからこそ、一つだけ、どうしても確認させてくれ」


「おう、なんでもいいぞ!」



「加奈子ちゃんはどうした?」



――



「…………」


 麻耶はずっと、俺を見ている。


 加奈子はどうしたと聞かれて、俺は何も言えない。


「……だから友達とお泊り会」


「どうも様子が変だから突っ込まないでおいたが、ここに至っては明白だな。とはいえあの時の私は「本当なら彼氏の家なのだが認めたくない」という理由で納得したが」


「なんで様子が変だと思ったんだ?」


「このゲームが始まった時、お前だけは戦う準備が既にできていた。この状況を現実としてとらえ、冗談のような雰囲気に流されることなくだ。塚本が言ったまるで起こることを知っていた、という部分だな。ナオは自分の身に危険が迫る何かが起こることを知っていたのではないかとな」


「…………」


「言えないのは理解する、確かに、私が裏切り者ではないという保証はない、だが信じて欲しい、という言葉しか言えない」


「…………」


 無言を貫く俺に、摩耶が語りかける。


「ナオ、実は私は両親はいるが、もう何年も会っていない」


「え?」


 突然の話題転換に聞き返してしまう。そういえば摩耶は確か、両親ともにエリートで、確か両親共に検事という家系だったけど、思えば、麻耶がこうやって家庭のことを話すって、始めて聞いたかも。


「お互い全国転勤でな、物心ついた時から私はずっと1人だった。別に虐待をされたとかそんなわけではない、好きに生きさせてもらったし、今みたいに経済的には全く不自由していない、進学先を東京にしたのは、たまたま両親が東京に赴任しているからという理由だけだ」


「ただ夫婦仲は冷めきっていてな。お互いに仕事が忙しく、それどころではないのさ。その時に自分は本当に愛されているのかと不安になった時期があった」


「だから、私にとってあの中学時代は大事だった、楽しいことがあると、意外と人は何とかなるものなのだな。ナオたちがいなければ、私は不良になっていたかもしれない。その中で私に懐いてくれた加奈子ちゃんは、僭越ながら妹のようなものだと思っている」


「……そうだったんだ、ごめん、摩耶の気持ち、気づかなかった」


「いいさ、こうやって伝えられたわけだからな」


「まず兄としてありがとうと言わせてくれ、加奈子もお前のことが大好きでさ、お前が遊びに来るときは、心待ちしていたんだぜ」


 もし麻耶が男だったら絶対にアタックしてた、なんて言っていたっけ。妹は武勇伝を持つ摩耶に憧れていた。


 そう、このゲームの肝は信じることだ、自分で言っていたじゃないか。


「分かった、全部話す、最後まで聞いてくれ」





 それは一番最初、ザワからの同窓会開催のメッセージを受け取った後のことだった。


 俺は久しぶりに皆に会える嬉しさで、深夜であるにもかかわらず妹の加奈子の部屋に行った。


 ドンドン扉をノックしたものの、声をかけても誰も出ず、そういえば深夜だったからこのまま起こすと怒られるよなと思いながら、その日はベッドでそのまま寝て。



次の日、加奈子はいなかった。



 夏休み中とはいえ、何の断りもなく長時間家を空けるのはありえない、携帯に連絡しても電源が切られていて繋がらず、探しても見つからなかった。


「警察には?」


「いや、届けていない」


「どうして?」


「探しても見つからず警察に届けようか迷っていた時の話なんだが、帰宅したとき、手掛かりがあったからだ」


「手掛かり?」


「いつもの飯食っているテーブルの上に、書置きがあったんだよ、それがこれだ」



――妹に会いたければ、同窓会に参加し、その時を待て



「…………」


「もちろん家に出る前にこのメッセージがないことは確認している、そしてこのメッセージにタンポポを添えて置いてあったのさ」


「タンポポって、確か加奈子ちゃんが好きな」


「そう、中学生にもなってさ、タンポポグッズとか持って大事に使ってたのは知っているだろ?」


「…………」


 絶句している摩耶であったが、今の話を聞いてあることに気がついてハッとする。


「まさか、盗撮盗聴されているってことじゃないのか!?」


「だからあの時は友達のお泊り会だって言ったんだよ、変にバラすと加奈子がどうなるか分からないからな、そして思い出さないか?」


 俺の問いかけに首をかしげる麻耶であったが、俺は頭の部分を指さすとすぐに合点がいく。


「ピカトリクスの花飾り!!」


「これ見よがしだろ? だから俺は今の状況が冗談でも何でもなく、本気であるってことが最初から分かったってたんだ、そして裏切り者がいるって聞いた時、その裏切り者が加奈子を誘拐したんだって分かった」


 ここで一息つく。


「だが俺はそれ以外は何も知らないし、分からない、だから、一つ聞きたい、摩耶はどうなんだ?」


 俺の問いかけに摩耶は自分の記憶を必死で呼び起こす。


「えーっと、私の方は何もない、いや、なかった、と思う。普通に同窓会を楽しみにしていた、この状況に巻き込まれて、ナオが覚悟を決めていて、ナオに尽くそうと決めて、そして、ザワが死んだのを見て……」


 摩耶はそのまま固まる、そう俺を見て固まっているのだ。


「ああ、そうだよ、ザワは、もう戻ってこない」


 涙が流れる。


 急に感情が押し寄せてきて、止まらない。


「ナオ」


 ポロポロ涙が強引に拭う。


「信じたくなかったよ!!」


「加奈子がいなくなって! 同窓会に関係があるって聞いて! 俺は! 俺は! 別の誰かが! 何かを仕組んだと思ったんだ!!」


「だから! 犯人が俺達の中にいるって聞いた時! 信じたくなかった! だけど! いるんだよっ! 俺たちの仲間の中に、ほ、ほんとうの、人殺しが!!」



「一生の付き合いができると思った親友の中に、その親友を殺した奴がいる!!」



 大城はしっかり者で、ザワに次に付き合いが長く、俺とザワはいつも怒られてた。でも後を引くことなく、面倒見も良くて、学校行事なんかではいつも相談に乗ってもらっていたし、大城がしっかりしているからこそ俺達はいつも好き勝手やらせてもらった。


 国井は、女子陣のムードメーカ、明るくて、菅沼のことが大好きで、一途で尽くして、見ていて微笑ましかった。何気にクラスで一番空気が読めて、調整役も兼ねているから、ウチの女子陣全員が仲がいいというのは国井の功績が大きい。


 黒瀬は、女遊びのイメージがどうしても先行するし、中学時代から凄いモテて、女をとっかえひっかえしていたが、欠点と言えばそれぐらい。実は真面目で努力家で仲間には義理堅く、一本筋が通った奴だ。


 谷森は、真面目ではあるがカタブツではない、意識が高くそれに向かっての目標をもち、努力し乗り越えられる胆力を持っている。キャリア官僚になりたいと公言しているが、友人としてではなく、こういった人物になって欲しいと思う。俺とザワがそこそこの進学校に合格できたのは谷森の集中特訓のおかげだ。


 菅沼は不良になって、確かに気が短くてけんかっ早いのは中学時代からそうだった。だけど性格は裏表無くて、そのくせ不器用で物事をあまりはっきりと言えない、不良の癖にセコいことが嫌いって言ったら怒られるか。


 塚本は、とにかくひたむきな奴だ、一度決めたらその道に突き進む、物おじせず世界を広げるのに積極的で、好奇心旺盛で、今は漫画制作に没頭していて、でもちゃんと俺たちの仲を大事にしている。


 全員、全員の良いところもちゃんと言える、絆があるって、俺は信じていた。


「俺は! ザワを殺した! 裏切り者を! 絶対に許さない!!!」


 ボロボロと涙が出てくる。


 もう、会えない、俺は慟哭を目の当たりにして、初めての決意表明。


「だから俺は、俺達はこのゲームを絶対に生き残ってやる!! 俺はそう決めたんだ!!」


 やっと頭が覚醒した、摩耶も俺の言葉で涙を流して、お互いに目を腫らした状態だが、やっと覚醒する。


「ごめん、麻耶だって悲しいのに」


 麻耶は目を袖で拭いながら、なんてことないと首を振る。


「いいさ、思いっきりぶつけてくれ、私はそれを支えよう」


「ありがとな、だったら早速動くぜ、一つ思いついたことがある、今から多目的に室に行くから付き合ってくれ」


 俺は、摩耶の手を引いて立ち上がった。




次回は、11日か12日です。

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