ある日突然0ptになったなろう作者
「さて……、今日の更新終了、っと!」
俺―なろうネーム「黒翼キラ」―のスマホ画面に、「投稿が完了しました」の文字が現れる。
俺はここ1ヵ月、毎日22時頃に「世界最悪のヴァージニア」の投稿を行っている。文章書くだけで毎日電池が20%すり減っているが、電池の残はこの日も持ったようだ。
そして、俺はただ一つのルーティンを始める。
「PVとポイント、どうなってんだろう」
PV=総閲覧ページ数
ポイント=ブックマークの数✕2+評価
単純な書き方をすれば、こんな感じになる。
計算自体は非常に単純な二つの数字だが、特にポイントは「なろう」のランキングの全てを決めると言ってもいいほど重要な数字だ。これが高くなければ、作品はブクマをしてない人にとって埋もれてしまう。
PVのほうも、それが多ければ、ポイントもそれだけ付き「やすく」はなる。それが、感想やレビューにだってつながる。
だから、俺は二つの数字だけを毎日見るようにしているんだ。
「世界最悪のヴァージニア」の小説情報までスクロールし、増えていれば喜ぶし、増えてなければ喜ばない。そんな世界だ。
だが、そんな俺に待っていたのは、これまで見たことのない数字だった。
総合評価:0pt
評価者数:0人
ブックマーク登録:0人
「マジかよ……!」
俺は目をこすり、もう一度スマホ画面を見た。
全てが0になっていた。
「昨日は、4000pt以上あったはず……!ブクマも800人くらいいたはずなのに……!」
俺は、画像フォルダを見て、1日に200pt以上増えた日に取ったスクショを確かめた。
日付は1週間前。その時にも3217ptと書いてあった。
そこから突然0になることなど、正直言ってあってはならないことだ。
あるとすれば、「なろう」のバグか。
俺は、普段ほとんど見ることのない「ホーム」の文字をタップし、障害が起きたかを見る。
「何も……、ないみたいだな……」
そう口にして、俺はスマホを机の上に置こうとした。
そこに、二つの赤い文字が、まるで俺の目を見て笑うように輝いていた。
"感想が削除されました"
"レビューが削除されました"
「削除……!?」
俺は、赤い文字を何度も読み返した。
そこに表示される文字は、これまで「レビューが書かれました」などという、思わず飛び上がりたくなるものしかなかったはずだ。
逆によほどのことがなければ、読み手が削除をやることはない。今まで交流した「なろう」作家から、何度もその話を聞いている。
「どうしたんだ、俺……。よーく考えろー……」
突然、何もかも剥がされた俺の小説「世界最悪のヴァージニア」の管理ページを戻したまま、俺は頭を抱えた。
書いた文章を何度読み返しても、読み手を傷つけたり、予想外の展開にしたり、文体を変えたりしていない。そうでないとすれば、どうして評価を0にされてしまったのか。
SNSで叩かれたのか。
運営に目を付けられたのか。
可能性だけが生まれては、消えていく。
ただ一つ言えることは、俺の小説が「その程度の」評価しかなかったということが、いまネット上にはっきりと表示されていることだけだ。
評価0の作品で、誰も閲覧していない作品だという評価を。
「俺、『なろう』に向いてないのかな……」
俺は、何もする気が起きず、ベッドに潜りこんだ。
理由も分からないまま寝つけるわけがないが、起きている意味もない。
物書き失格なんだ。
そう思って、俺は心の中で泣いた。
決して文字にすることなく、泣いた。
翌朝、俺がネットを開くと、何故かPVも評価も元に戻っていた。
削除されたとか出た、感想やレビューもだ。
何が起きたのか分からないけど、きっと神様の、一連のイタズラだったのかも知れない。
不思議な現象が何万作も溢れている「なろう」。
いつかもう一度、俺も不思議な体験をするかも知れない。
数日前、twitterにネタとして書いた「感想が削除されました」「レビューが削除されました」を、そのままちょっとした物語にしました。
実際に表示されたら、たいていの「なろう」作家は落ち込むよな……、と思って、短い文章ではありますが作家のショックを受ける描写を取り入れてみました。
削除こそされていませんが、これまでレビューや感想を送って下さった方が、今ではどなたも「なろう」を更新されていないので、書いていても少しずつ不安になってきます。ただ、万が一この物語のようなことになっても、立ち上がれるような強さを持ちたいものです。