7 1日目―夕食
「ドーキンスさん、魚を捌くの手伝いますね」
「あぁ・・・」
鱗がついてなかったらしく、あとは魚の内臓を取り出すだけだったようで3分の1の魚はもう捌くのが終わっていた。
調理方法が限られているので、頭を落とす必要もないだろう。
残りの魚を2人で黙々と捌き、10分もかからず終わらせた。
「この魚どうやって食べるか考えているか?」
「そうですね。半分は普通に焼いて、もう半分は熱に強い大きな葉を採ってきてるので、その葉に魚と野草を一緒に包んで香草焼きにして食べようかと思っています」
「分かった」
ドーキンスは近くに落ちている折れにくそうな枝を拾い、ナイフで枝の先を尖らせてから魚の口から尾にかけて魚を串刺しにする。
半分は串刺しにしないので私は両手に魚を持ち、ドーキンスと共にドーム型の蔦の場所まで戻る。
辺りはもう薄暗く不気味だったので、足早にこの場を立ち去った。
蔦の中に戻ると、ルタとアルマン、先ほどまでいなかったウィリアムスがいた。
中は明るく、どちらかがドームの中心に明りを灯してくれたらししい。
ウィリアムスの隣には50センチほどの長さの平べったい黒茶色の石が置かれていた。
ドーム型の中央に置かれたこの石は、さながら天板しかない机のようだ。
「君たちも帰ってきてたんだ。その魚をこの石の上で焼くといいよ、そろそろ熱くなってると思うし」
どうやらウィリアムスが石を拾ってきて魔法で熱してくれたらしい。
確かにこの蔦の中で火を起こすのは自殺行為だ。
「ありがとうございます。さっそく使わせてもらいますね」
ドーキンスが持っている魚を石の上にのせると、ジュッと音がして魚が焼ける。
ちょうどいい温度で、すぐ焼けて焦げることもなさそうだ。
私は香草焼きの準備をしようと、とりあえず持っていた魚を大きな葉の上にのせる。
調理をするスペースがないので、邪魔にならないよう端の方で目についた野草を適当に手に取り、千切っていく。
別の大きな葉に千切った野草を全部のせ、混ぜた後内臓をとった魚のお腹にどんどん詰めていく。
均等に詰め終わると、採ってきていた果汁が酸っぱい実を魚に絞り、大きな葉に包んで焼いていた魚の隣に置いておく。
とりあえず一息つく時間ができたので、座りながら魚の焼き加減が見える場所に腰を下ろした。
お尻が蔦でガサガサするので、リュックから大きめのタオルを取り出し蔦とお尻の間に敷く。
「4人揃ったし、出入り口は閉めとくわ」
「あ、ちょっと待って。外に用事があるから」
ウィリアムスが外に出ていき懐から杖を出すと、蔦に向かって何かの魔法をかけている。
すぐにこちらに戻ってきたので、アルマンが出入り口の方に行き蔦に手をかざして魔力を込めると、蔦同士が絡み合い、出入り口は綺麗に塞がった。
「綺麗に塞がりましたね」
「まあな。治癒魔法と原理は同じで、生物の細胞を上手く活性化させて蔦同士を絡ませ合うんだ。細胞を直接コントロールしてるから、逆に細胞を壊して蔦を枯らすこともできるってわけよ」
アルマンがすげえだろ?と言って得意そうな顔をしている。
ウィリアムスとアルマンが先程まで座っていた場所に戻り、4人それぞれが中央に置かれた石を囲み、楽な体勢で座っている。
私が出入り口に一番近い場所に座り、向かい側にウィリアムス、両隣りにアルマンとドーキンスが座っている。
「あの、ウィリアムスさん、アルマンさんからオーガのこと聞きました?」
「あぁ、聞いたよ。それに僕もちょっと気になったから君たちとは反対の森に行ってみたんだけど、どうやらこの辺り一帯はオーガの住処になってるみたいだね。何体も遭遇したよ」
「オーガと遭遇してバレなかったのかよ?」
「うん。そんなに近付いてないし、気配も消していたからね。特にこの辺りは多かったかな」
ウィリアムスはもう一度杖を手に取り軽く振ると、1回目の課題の際に受け取った地図が広がり、杖を持っている右手の近くに浮かせる。地図を垂直にしてそのまま私たちに見える様に、オーガと遭遇した場所を杖で示す。
地図を見ると今いる"不死の丘"は、岩場の場所もあるがほとんどが周りを森で囲われている。
「私たちがオーガと遭遇したのはこの辺りだと思います。1体だけでしたがもっといるかもしれません」
ウィリアムスが杖を振ると私の方に地図が来たので同じように遭遇した場所を指で差し、オーガがどの方向から来たかも伝える。
伝え終わると地図はウィリアムスの元へと戻り、片付けられた。
「オーガは群れで行動する生き物だ。縄張り意識も強い。近くには複数のオーガの群れがあると考えていいだろう」
「それじゃあこの丘はオーガ達が縄張り争いをする際の、緩衝地帯のような役割をしているのかもね。この辺りだとこの丘が一番安全だと思うし。だから学校側もこの看板の近くに居ろっていったのかもね」
「そう考えるのが妥当だろうな」
ドーキンスとウィリアムスが自分の考えを口にする。
私は串に刺した魚の片面が焼けていたので、魚をひっくり返していく。
「なるほどな・・・ところでお前、俺が作ったこの場所になんか魔法をかけただろ?何しやがった?」
アルマンは先ほどウィリアムスがかけた魔法の事が気になっていたらしい。
「消える魔法をかけたんだよ。オーガは知能も低いし騙せるんじゃないかと思ってね。まあ見つかった時は戦わないといけないけどね」
「俺は戦うのは専門外だからな」
「もちろん私も無理です」
「それじゃあ君たちは囮にでもなってもらおうかな。その間に僕が倒してあげるから」
笑みを浮かべながらそう言ってきたウィリアムスは、冗談ではなく本当にやりそうで怖い。
「・・・魚が焼けたのでご飯にしましょう」
「そ、そうだな!早く食べようぜ!」
私とアルマンは聞こえなかったフリをするように別の話題へと変えた。
魚は綺麗に焼き目が付いていて、いい匂いがする。
「あ、コップを作ったからこれで水を飲むといいよ。あとフォークも」
ウィリアムスはそう言うと後ろから取っ手のついたカップとフォークを持ってくる。
どちらも茶色で地味な色だが、カップのフチは綺麗なカーブを描いており、取っ手の造形もオシャレだ。
フォークの先端も同じく綺麗に揃っている。
「すごく素敵なカップですね。これも魔法で作ったんですか?」
「そうだよ。土壌の元素をベースに頭の中でカップをイメージしながら作るんだ。魔法は芸術的なセンスも問われるから、このくらいは作れないとね」
そう言いながら魔法でカップに水を注いでくれている。
ウィリアムスはさすが元素魔法が得意というだけあって、個人的にはかなり難しいと思う魔法も息をするようにできるみたいだ。
カップとフォークを渡してもらい、それぞれが自分の近くの魚を取り食べていく。