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6 1日目―オーガ

 離れて行動するのは危険なので、ドーキンスが視界に入る範囲で他に食べられる物がないか歩きながら探す。

川沿いということもあって、いろいろな種類の植物が自生している。


「これは家の近くの山に生えている野草に似てる・・・だけど土地が違うし見たことのない植物ばっかりかも」


多少の知識はあるとは言ったが、自分の住んでいる土地の植物とここに自生している植物は、似ているものはあるが普段見かけていた植物があまりない。

ルタとバンの力を借り、人間に害のなさそうな野草を選んでいく。

バンがいなければ毒があるかも分からなかったので大変ありがたい。

ついでにお皿代わりに使えそうな、人間に害がないであろう大きめの葉っぱも取っておく。


(まあ、もし食中毒とかになってもアルマンさんがいるし大丈夫だよね・・治癒魔法が得意って言ってたし)


治療費が1回10万リンとか言っていた気がするが、そこは頼み込んでなんとかしてもらおう。

リュックの中はパンパンになっているので、外側に付いているポケットに野草を入れていく。

葉っぱはポケットには入らないので、くるくる丸めてズボンのポケットに入れておくことにした。


「こんな感じでいいかな?日が暮れる前に戻った方がいいよね?」


[あぁ。暗くなると危ねえし、さっさと帰ろうぜ]


空は夕焼け色になっていて、もう少しすれば辺りは真っ暗になるだろう。

ドーキンスの近くに行けば彼も戻る準備をしていた。


「たくさん捕れましたね」


ドーキンスはどこからか丈夫な(つる)を見つけてきており、魚の口に蔓を通して剣と同じように背負っている。

15センチほどの魚を、10匹以上は吊るしているだろう。


「魚が泳いでいるところを、気配を消して捕まえればいいだけだ。日が暮れるから帰るぞ」


理屈は分かるが実践するとなると、魚が気付かないよう気配を消すのは難しいだろう。簡単に言うが普通の人間に出来ることじゃない。

すごいなぁと感心していると、突然バンが唸り声を上げ川の向こう側を睨んだ。

どうやら何かの気配を感じたらしい。


「すごいスピードで何か近づいて来る、さっき感じたやつとは違うが強い魔力だ。こっちに来い!」


魔力の気配を感じやすいドーキンスも、何かが迫ってくる気配を感じたようだ。


「は、はい!ルタ、バンを家に戻してあげて!バン、いろいろ手伝ってくれてありがとう!」


[おう。ご苦労だったなバン、家に戻してやるぜ]


私はバンの頭をせわしなく撫でてやり、急いで別れを告げてドーキンスの後についていく。

ルタが今度は左回りに杖で円を描くと、さっきまでここにいたバンは跡形もなく消え去った。


私はドーキンスに置いて行かれないように走って付いていくと、森の木々の中でもひときわ目立つ巨大な大木が見えた。

木の高さは20メートルはありそうだ。


「急いで登るぞ。お前、ひとりであの上まで行けるか?」


「え?無理ですよ!」


大木は10メートル上ぐらいから枝分かれしているので、足を引っかける場所がなく登ることができない。


「チッ・・・俺に掴まってろ」


そう言うのと同時に、彼は私を肩に担ぎ思いっきりジャンプをした。


「うわっ!!」


視界がどんどん地上から離れ、あっという間にしっかりとした枝に着地し、私はドーキンスの隣に降ろしてもらった。

ルタもあとからついて来て私の肩に座る。

彼は強化魔法を両足に使い、魔力を足の一点に集中させてからすごい高さを跳んだみたいだ。


「・・・ありがとうございます」


「別に。それより下を見てみろ」


言うとおりに下を見ると、そこには1体のオーガが大木の周りを徘徊していた。

幸運にもこちらには気付いていないようだ。

オーガは人食いの凶暴な魔物であり、本で見たことはあったが実物を見るのは初めてだ。


「私たちを狙って来たんでしょうか?・・・大きい身体ですね。それにオーガが持ってるあの斧、あんなので攻撃されたら一撃で殺されそうです」


重たそうな大きい斧を片手で軽々と持ち上げているオーガの背丈は、5メートルは確実にあるだろう。

もう少し気付くのが遅れていたら・・・と思うと身震いしてしまう。


「俺たちの気配を感じてここまで来たんだろう。おそらくさっき感じた強い魔力のヤツも別のオーガかもしれない」


[エイダなんか一瞬でオーガのエサになっちまうぞ]


ルタも下を覗いてオーガを確認できたのか、私の顔の隣でニヤニヤ笑っているが、これには同意せざるを得ない。


「オーガが此処から離れたのを確認したら降りるぞ。早くあいつらと合流した方がいい」


「分かりました」


少し時間が経つとオーガは私たちがここにはいないと判断したのか、先ほど走って来た道を戻って行った。

ドーキンスにもう一度肩に担いでもらい地上に降ろしてもらうと、私たちは足早にアルマンとウィリアムスの元へ急ぎ足で向かった。


―――――



アルマンとウィリアムスがいる看板があった場所の近くまで戻ってくると、そこには全体が緑色の(ツタ)が生い茂っているドーム型の物体が見えた。

正面に見える人ひとりが通れる場所だけは蔦が(おお)っていなかったので、私たちはそこから中へ入った。

中は意外と広く、4人が寝転んでも十分広さはある。


「お前らおせーよ!死んだかと思ったぜ!なんか食べもん見つかったか?」


下も蔦でできていて、蔦の上に布を敷いてアルマンは足を伸ばして寛いでいた。


「はい、明日の朝の分までの食糧は確保してきました。それにしてもこの蔦、すごいですね。」


リュックの中で潰れてはいけないと思い、採ってきた食糧をとりあえず出して蔦の上に並べる。

蔦をじっくり見てみると茎は意外と太く、しっかり蔦と蔦が絡んでいるので頑丈にできているようだ。


「すげえだろ!俺様ぐらいの魔法使いになれば治癒魔法を応用して植物の成長を促すことだって出来る訳よ。まぁこんな事ぐらいは簡単にできるけどな!しかもこの蔦は魔物除けの効果もあって特定の魔物が嫌うニオイを発してるんだぜ」


「なるほど。確かに薬品のようなニオイがします」


[さっきからくせぇと思ったらこの蔦のせいかよ・・・]


人間にとっては気になるようなニオイではないが、どうやら魔族であるルタにはこのニオイは気に入らないらしい。

文句は言うが出て行かないようなので、我慢できるニオイではあるようだ。


「・・・魚を(さば)いてくる」


「あ、あとでお手伝いに行きますね」


ドーキンスはそういって魚を持って出て行った。


「ところでウィリアムスさんは?おふたりにお伝えしないといけないことがありまして・・・」


「あいつならさっきどっか行っちまったけど、そこら辺にいるだろ。んで、伝えたいことって?」


「実は・・・・・」


二度手間になるので2人が揃っている時に伝えたかったのだが、ウィリアムスがいないので先にアルマンにだけ森で出会ったオーガのことを話す。


「・・・・・そうか。この蔦はオーガも嫌うニオイだけど、それだけじゃ襲われるかもな。今までなかったのに急にこんなのが出来てたら、いくらオーガの頭が弱いからってさすがに気付かれるか」


「・・・頭が弱いかどうかは別として、確かに何か策を練らないといけませんね。とりあえずもう少しで辺りが暗くなりそうなので、先に食事を用意します。ドーキンスさんを手伝ってきますね。ルタはどうする?」


[俺様は周りを少し散歩してくるぜ]


暗い外を出歩くのは危険だと判断し、ダガーナイフを持ちドーキンスを手伝うために外に出た。

出入り口のところでルタと分かれ、そう遠くはない小川が流れていている場所で、ドーキンスが魚を捌いていた。






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