5 1日目―食料調達
薄暗い森の中を歩くこと約1時間。視界はだんだんと木々が少なくなり、高さの低い草花が茂る場所が見えてきた。
道中は特に会話もなく(とはいっても私とルタは一緒に話していたのだが)黙々と目的地を目指していた。
「・・・あそこ、同じ花がたくさん咲いてねーか?」
アルマンが指した方向の1キロほど先には、確かに同じ薄紫の花がたくさん咲いていた。
「あれは不枯花で間違いないと思います。行ってみましょう」
―――――
そのあと10分ほど歩いて不枯花がたくさん咲いている場所まで到着した。
「あんなところに石板がありますね。行ってみましょう」
人の背ほどのグレーの石板は、高さの低い花が咲いているこの場所ではとても目立っていた。
ご丁寧に花を踏まないように道までできている。
近くに寄ると胸元のブローチが光り、石板に文字が浮かび上がってきた。
―――みなさんお疲れ様です。第1回目の課題は見事クリアとなりました。それでは続いて、第2回目の課題をお伝えします。第2回目はこの石板の後ろ側をもう少し進んだ場所で、明日の朝8時まで過ごしていただきます。歩いて行くと目印の看板が設置されているので、その周辺を活動拠点としていただき過ごしてもらいます。次の課題をお伝えするまでは看板の近くから離れないよう注意してください。
それではみなさん、次も頑張ってください―――
石板より向こう側を見てみると確かに看板が立ててある。
看板が立っている場所より少し前までしか不枯花は咲いていないので、花を潰して寝ることはないみたいだ。
「・・・とりあえず今日はここまでってことか。今何時ぐらいか分かるか?」
「今は16時前くらいかな。試験が始まったのが14時で、ここに来るまでいろいろあって約2時間。このあと明日の朝8時までの約16時間をどうやって過ごすかだね」
ウィリアムスは上着の内ポケットから高級そうな懐中時計を取り出し、時間を教えてくれた。
「とりあえず看板のところまで行くか」
アルマンの提案に従い、みんなで看板の前まで移動することにした。
「・・・・・何も書かれてねーし、明日にならなきゃなにも起こらない感じだな」
看板の前まで移動し、木で作られた腰辺りまでの高さの看板を見てみたが、特に何も書いてなくアルマンの言うとおり明日にならないとどういう仕掛けになっているか分からないみたいだ。
「とりあえず夜に備えておく必要があるよね。夜は魔物が活発になる時間帯だし」
「それもそうだな、腹も減ったし食糧も調達しなくちゃなんねーし。お前らなんか持ってるか?」
受付の際、特に持ち込み禁止の物などは伝えられていなかったので、自分で食糧などを持ってきても問題はないのだろう。
「私は試験と聞いて、こんな場所に3日間も飛ばされるとは思っていなかったのでおやつのクッキーぐらいしか持ち合わせてないです」
試験は机に向かって問題を解くものだと思っていた私は、あとは学園までの道のりで必要だった着替えと、筆記用具、小型の懐中時計、護身用のダガーナイフぐらいしかリュックの中に入れていなかった。
「僕は見ての通り手ぶらだからね。食べ物は持ってないよ」
「俺も食いもんは持ってねえな・・・あ、チョコレートが2粒あるわ。そこのお前は・・・・剣しか背負ってねえもんな」
ウィリアムスとドーキンスは手ぶらで来たようだし、アルマンもショルダーバッグの中を探してくれたみたいだが、お腹の足しになるようなものは持っていないみたいだ。
[お前ら使えねえヤツばっかだな・・・]
ルタがぼそっと何か言ったような気がするが、気が付かないフリをした。
他の人が聞いていればまた言い合いになりそうだったので、私以外が聞こえていなくてよかった。
「それじゃあ二手に分かれて食糧探しでもするか?さすがに1人だとあぶねーし」
「君、食べられる物と食べられない物の区別って分かるの?」
「いや、わかんねーかな・・・」
「奇遇だね、僕もだよ」
アルマンが食糧調達の提案をしたが、ウィリアムス共々そういう知識は持ち合わせていないらしい。
「では、私が行ってきます。バンの嗅覚で食べられそうな物の匂いを嗅いでもらいます。この子は賢いので毒性などを持った植物も分かりますし。私も多少の知識はあります」
「・・・俺も行く。1人は危険だ、人間じゃない強い魔力を感じる」
ドーキンスもついて来てくれるみたいだが、なにやら不穏な魔力を感じているらしい。
「分かった。俺とこいつでこの看板の近くに寝床を確保しておくから、暗くならないうちに帰ってこいよ。魔物に襲われて失格になんてなったらたまったもんじゃねーし」
「はい、お願いします。それでは行きましょう」
ドーキンスに声をかけ食糧を調達へ行くことにした。
―――――
「あの辺りから強い魔力を感じるから、来た道を戻りながら探すぞ」
あの辺り、といって目を向けた先は来た道とは反対の木の看板が立ててある向こう側の、1キロほど離れた森だ。
森は奥まで続いており、日が当らないせいなのか奥の方は真っ黒で何も見えない。
私、ドーキンス、ルタ、バンは来た道を戻りながら食べられそうな物を探す。
"不死の丘"には不枯花と雑草しか生えていないみたいなので、丘まで来る際に通った森まで引き返す。
[おいエイダ、バンが右手の方向から水の音がするって言ってるぞ]
「本当?それじゃあそっちに向かおうか。ドーキンスさん、問題ありませんか?」
「問題ない。行くぞ」
バンは嗅覚ほどでもないが聴覚もいいので、私たちが聞こえない音にも気付くことができたのだろう。
バンのあとをついて行くとだんだん私にも水の音が聞こえる様になってきた。
前方をよく見ればそれほど勢いはない、穏やかな川が流れていた。
川の水質は綺麗なようで透明な川は底がはっきりと見えている。
「川を渡った向こう側に赤い実のなっている木が見えます。川の流れも速くないのでちょっと渡って見てきますね」
「分かった。俺は川に魚が泳いでいるみたいだから捕まえてくる」
川幅も広くないしすぐ渡れたので、赤い実がなっている木まではすぐ着いた。
木から赤い実をひとつ取って、バンの顔まで近付けた。
「バン、これって食べられそうかな?」
バンはクンクンと4つの鼻で交互に匂いを嗅ぎ判別している。
[バンがこの実は食べれるってよ。甘い果実みたいだから皮を分厚く剥いて食べさせてくれだって]
「分かった。ちょっと待ってね」
私は座れそうな場所に腰を下ろし、握りこぶしほどある赤い実を左手に持ち、護身用のダガーナイフをリュックから取り出して皮を剥いていく。バンがいっていたように皮を分厚く剥くと、柔らかそうな白い果肉が見えた。
バンは食べられると言ったが、念のため私が先に食べて毒見をする。
白い果実を一口大に切って口に入れると、柔らかい果肉はすぐ噛むことでき、甘いフルーツの味が口の中に広がる。
「・・うん、美味しい!バンお待たせ、今切ってあげるからね」
[俺にもくれ!]
ルタは私たちと違って生命活動に必要なものは魔力で補っているので、何も食べなくても生きていけるのだが、食べることが好きなようでよく食べ物をねだってくる。
私はルタとバンに残りの果実を半分ずつ分け与え、足りなさそうなのでもう1つ実を取り皮を剥いていく。
[うめえ!バンも美味いって言ってるぜ]
実はまだまだ木になっているので、遠慮せずどんどん剥いていく。
その後3つほど剥いて、リュックに赤い実を詰める。
リュックには自分の荷物が入っているので8個詰めるのが限界みたいだ。
この辺りには他にめぼしいものは特にないので、別の場所を探してみようと思い移動する準備を整える。
「・・・さてと。他も探索してみようかな」