2 出会い
母に別れを告げ故郷を離れて4日が経過した。
近くの街までは自分で来たが、その後のレグニール学校までの道のりは、母の知り合いで幻獣たちの仲介役であるおじいさんに連れてきてもらった。
高齢とはいえまだまだ元気な彼は、母に頼まれてクルト大陸から出航しているレグニール学校までの船を私に案内してくれたのだ。
私はおじいさんにお礼を言い、生まれて初めて船に乗り学校がある島に無事辿り着くことができた。
入学試験の日だからか、港にはたくさんの船が入港しており人が溢れ返っていた。
普段は人より幻獣の数のほうが圧倒的に多い環境に居たため、人の多さに驚きつつも試験まではもう少し時間があるので、学校までの道のりをゆっくり見て回ることにした。
港から学校までの道のりにはたくさんの店が軒を連ねており活気に満ちている。
レグニール学校の校舎は周りを高い塀で囲んでおり、学校の敷地内に一般の人は入れないのだが、学校の外は誰でも自由に行き来できるので店を営む人や観光に来た人、学校の学生たちなどで賑わっている。
店の多くは学生に必要な勉強道具や武器などが置いてあり中でも武器は、腕のいい職人が作ったものが多いらしく、それを目当てに買いに来る人も多いらしい。
飲食店なども多く、店のあちこちからいい匂いが漂ってくる。
いろいろ見て回ったり、お腹が空いたのでお昼ご飯を食べたりしているうちに時間になったので、学校を目指そうと振り返った際に誰かにドンっとぶつかってしまった。
「あっ!すみません!」
「いってえなぁ!よそ見してんじゃねーよ!」
口が悪いなと思いながら相手の顔をみてみると、そこには私と同じくらいの身長のとても可愛らしい女の子が、ぶつかった肩を擦りながら睨んでいた。
サラサラとした綺麗なラベンダー色のショートカットの髪は流れる様に動いていて、こちらを睨む二つの瞳は猫の目のように大きい。
「あの、本当にごめんなさい」
「・・・っち、気をつけろ!」
彼女は舌打ちをして立ち去り、学校の方にさっさと歩いて行ってしまった。
(彼女も入学試験を受けに来たのかな・・・・)
同じ方向に用があるのだが、彼女のすぐ後ろを付いて行くのも気まずいので、少し時間が経ってから同じように学校を目指した。
―――――
レグニール学校の前まで行くと、高い塀に囲まれているがそれよりもっと高くそびえ立つ学校の校舎と、大きな門扉が見えた。門扉の前には試験を受けに来た人のための受付が設置されていた。
先ほどぶつかった女の子と時間をずらすように来たので受付時間がギリギリだったらしく、受付用の簡易テントの前には試験を受けに来た人はまばらにしかいなかった。
自分も受付をしようと思い、テントまで足早に向かった。
「こんにちは。入学試験の受験票はお持ちですか?」
「はい。お願いします。」
「・・・・・確認できました。エイダ・ミンターさんですね。それではこちらのオーブに手をかざしてください」
事前に母から渡されていた受験票を係りの女性に渡し、言われるままに透明な球体に手をかざしてみると、球体は一瞬白色に強く光ったかと思うとすぐに元の透明な球体に戻った。それを見ていた女性は受験票と引き換えに、直径5センチほどの綺麗なエメラルド色の石が付いたブローチを渡された。
「こちらをご自身の服の胸元に着けて学校にお入りください。こちらのブリーチを身に着けていないと学校には入れませんのでお気を付けください。」
さっそくブローチを胸元に着けて門を潜ると、そこにはさきほど見えていた学校の校舎はなく全く違う場所なのか、見渡す限り広大な草原が広がっていた。
どうやら胸元に着けているブローチによって学校とは違う場所に飛ばされてしまったみたいだ。
あまり転移魔法については詳しくはないので原理などは分からないが、ブローチに付いている綺麗な石は魔力が込められている魔石らしく、この魔力によってここまで飛ばされたようだ。
周りを見渡すと同じように受験者と思われる人たちがたくさんいた。
どうやら試験開始を待っているらしい。
特にすることもないのできょろきょろと辺りを見渡していると、見覚えのある人物がいた。
(やっぱりあの子も受験しに来てたんだ・・・)
先ほどぶつかった彼女もやはり受験者だったらしく、つまらなそうに草原に足を伸ばして座っていた。
目を合わすのは気まずいので見るのはやめようと、彼女がいる場所とは反対方向に顔を向けておくことにした。
どのくらいの人数がいるかは分からないが、今回の入学試験も例年通り1000人ぐらいはいるのではないだろうか。
(こんなに人が多いと受かる気が全然しないな・・・さっさと終わらせて家に帰ろう)
家に買って帰るお土産は何がいいだろう・・・なんて考えているとどこからともなくピーっと笛が鳴る音が聞こえた。
≪―――それではみなさん、お待たせしました。時間になりましたのでこれから入学試験を始めさせていただきます。試験内容ですが、みなさん身に着けているブローチがあると思います。そちらのブローチの魔石と同じ色を付けた方と4人1組のチームとなり、3日間過ごしていただきます。途中、学校より課題をお伝えしますので、力を合わせてクリアをして下さい。みなさんの行動は常に監視されており、みなさんの身に危険が及んでいるとこちらが判断した場合は、強制的に試験が終了となり失格となります。また、自己判断で身に着けているブローチを外してもらうと、同じく試験終了となり失格となりますのでお気を付け下さい。3日間1人も欠けることなく4人で課題に合格することができれば試験は合格となります。また、みなさんが試験を平等に受けられるように、チーム内のバランスが同じになるよう先ほど受付で手をかざしたもらったオーブで、同じようなレベルの魔力を持つ方とチームを組んでもらうようになっています。
それではみなさん、3日間頑張って下さい―――≫
女性の声がブローチから聞こえてきて説明をきいていたが、女性の声が聞こえなくなった途端、また目の前の景色が変わってしまった。
今度は木々に囲まれた薄暗い森の中で、どんな生物かは分からないが遠くから鳴き声が聞こえてくる。
「ここはどこなんだろう・・・」
辺りは薄暗く、気味が悪い。
日が見える場所でもう少し明るい場所はないかと少し歩いていると、目の前の草木が、ガサッと音がしてそこから人影が見えた。
「・・・・お前、さっきぶつかった女じゃねーか」
「・・え?」
さっき聞いた声だなと思い、目を凝らして前方をよく見てみると、先ほどぶつかった可愛い女の子が立っていた。
胸元には同じ色をしたブローチが見える。
(同じチームなんだ・・・さっきのこともあるし気まずいなぁ)
「どこ行ってたんだよ。あとの2人はあっちにいるから、ついてこいよ」
「・・・はい」
どうやら彼女はぶつかったことにはもう怒ってない様子だが、機嫌が良くても悪くても口は悪いようだ。
先に進む彼女の後ろを言われた通りに付いていくと、前方に2人の人影が見えた。