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1 始まり


「気をつけていってらっしゃい!」


「いってきます。受からないと思うからすぐ帰ってくると思うけど・・・」


家の前でにこやかに見送る母に、私は苦笑いをしながらそう告げる。


 私の生まれた故郷は周りを見渡せば山々に囲まれていて、一面草原が広がっている自然豊かな土地だ。

この場所は6つある大陸のうちのひとつで、クルト大陸の最西端に位置している小さな国、アムス国だ。国の中でも南の端の方にある私の故郷のアムテミア地方は、穏やかな気候の土地が多く、自然もたくさん残されているおりとても暮らしやすい国だ。


私、エイダ・ミンターは生まれてから17年間、この故郷を一度も離れたことはなかったのだが、今日はじめて故郷を出て新しい土地―――魔法学校ギルド・レグニールへの入学試験を受けに行く。


そもそもなぜ入学試験を受けに行くことになったのか・・・・・


―――――



 私の父は幼い頃に他界しており、顔も写真でしか見たことがない。私は母と2人で暮らしてきたのだが、私の家は少し変わった家業を行っている。


珍しい幻獣、絶滅寸前の幻獣を育てるブリーダー。


魔族の中でも幻獣は個体数が少なく、人気の高い幻獣は身分の高い人間によって愛玩(ペット)として飼われている。

人間によって乱獲された彼らは住処をなくし、そのほとんどが今なお個体数をどんどん減らし絶滅の危機に陥っている。


私たち親子は広い草原に小屋や放牧場のような柵を作り、そこで幻獣を繁殖させて保護活動をしている人たちに幻獣を譲り渡してお金を得ている。中には母にしか繁殖できない、とても貴重な幻獣もいるのだが、幻獣は母の知り合いである仲介役によって保護活動団体に引き渡し、安全に暮らしていける環境が整えられた住処へと送られていく。


これまでそうして仕事をこなしてきたのだが、最近仲介役を引き受けてくれていた母の知り合いが高齢により仕事を引退することになってしまった。母はその人のことを大変信頼していたので、その人経由でないと幻獣の取引はしないと宣言してしまいブリーダー業をやめてしまったのだ。


私も母の知り合いを信頼していたし、幻獣を育てているこの場所も安易に他人に知られたくなかった。貴重な幻獣たちは高額で取引されているので、下手に信頼関係のない仲介役に私たちの場所を知られるのも怖かったし、幻獣を渡して変なところで売り捌かれるよりは断然いいと思っていたので特に反対はしなかった。

それにどうしてもの場合は、母が直接保護活動団体へ渡しに行くようなので、幻獣たちを育てるという生活は特に変わらない。


ブリーダー業で稼いだお金もまだ残っているみたいで、育てている幻獣と母と2人でのんびり平和に暮らしていたのだが、先日、母のあるひとことで私の試験行きが決まってしまったのだ。



―――――



『ねえ、エイダ、お母さんのブリーダー業を継いでみない?』


『・・・・・・・・・え?』


夕飯を食べ終えたあと、リビングでくつろいでいた私に母は突然聞いてきた。

いつもは幻獣たちの様子や、幻獣たちを育てるのは楽しいか?くらいしか聞かれてこなかったので、会話の内容に驚いてしまう。


『お母さんはね、ブリーダーの仕事をほとんど辞めちゃったけど、ここにいる幻獣たちの中にはお母さんとエイダが育てるのをやめてしまったらもう二度と会えない種族の子たちもいるの。人間のせいで住処を奪われてしまった幻獣たちだけど、この子たちを救えるのもまた人間だと思うの。だからエイダには幻獣たちに安心して暮らせていける未来をつくってあげて欲しいのよ』


普段はのほほんとしている母だが、このときは真剣な眼をして私に問いかけてきた。


『・・・私も幻獣たち種族が絶滅してしまうのは悲しいし、寂しい。だからお母さんの後を継いでみんなのことを守ってあげたい』


私もそんな母に応える様に母の眼を見て言った。

幻獣の中には未だ発見されていない種族もたくさんいるだろうし、まだまだ生態を把握できていない種族も多い。

育ててきた子たちの中には、生態を把握できずに誤った育て方をして命を落としてしまった子もいる。

そういったことがないように幻獣を研究していきたいと思っていたし、このままでは絶滅してしまう種族の子たちを母のように、幻獣達が昔いた元の住処で安心して暮らしていけるような仕事をしたかったので母の提案はすごく嬉しかった。


『ほんとに!?それはよかったわ!それじゃあ後は入学試験に受かればいいだけね!』


『・・え?入学試験?なんのこと?』


『だってエイダ、学校に行ったことないでしょ?ブリーダーになるためにはまず勉強!その次に幻獣の生息地域の調査でしょ?あと未確認幻獣の確認とか絶滅指定されている幻獣の生態観察とか・・・。とにかく、ここではできないことを学校に行ってやってきてもらいます!そのあとじゃないとお母さんはあなたにブリーダーのお仕事を教えません!』


先ほどまでの真剣なやり取りはどこにいったのか、ビシッと人差し指で顔を指された私は反応するのが遅れてしまい、ぽかんと口を開けて間抜けな顔をしてしまった。


確かに私は一度も学校に行ったことがない。

そもそも近くに近所といえる家すらなく、そこそこ栄えた街には行くが、幻獣達の世話で長い間家を空けるわけにはいかないし、行くにしても足の速い幻獣に乗って片道3時間ぐらいかかってしまうので月に1、2回ほどしか行かず、人との交流もほとんどしたことがない。


母は前から私に、同じ年頃の友達が作れないこの環境を非常に申し訳なく感じていたが、元々母のブリーダー業を継ぐつもりでいたし、基本的な勉強、幻獣については母から教わっており、普段の生活で困ったことはないので学校にいく必要がないと思っていたのだ。


だが母は私に、これを機に学校に行って友達と一緒に遊んだり、みんなと集団行動ができる協調性を身につけてもらいたいらしい。


『けど私、一度も学校に行ったことがないのに入学できる学校なんてあるの?』


現在住んでいるアムス国では、国民は6歳から義務教育がおこなわれていており、私たち家族はそれを無視して学校へ行っていなかったのだが、17歳の私がこれから学校へ行くとなると今までの学歴がない分、どんなにレベルの低い学校でも入学試験すら受けさせてもらえるかどうかも怪しい。


『その点は大丈夫。エイダにはこの国の学校じゃなくてレグニール学校に行ってもらおうと思ってね。入学願書の書類は学校に出してあるから、後はさっきも言ったとおりエイダが入学試験に受かれば通えるわよ!』


『そんな勝手な・・・』


どうやら母は私に話す前から着々と準備をしていたらしい。

こんな田舎に住んでいる私でもレグニール学校の存在は知っている。

超難関で有名なこの学校は年齢、学歴などを問わず誰でも入学することができるが合格できる者は一握りで、場所も遠く今住んでいるところから学校までは、乗り物に乗っても早くて4日はかかってしまう。


『これを機にエイダもいろんな人と出会ったり、いろんな場所に行ったりしてたくさんの経験をしてきて欲しいの。寂しいけどお母さんはここで幻獣たちと帰りを待ってるわね。まぁ、入学試験に受かるかどうかも分からないし気楽に行ってきてちょうだいな』


『うーん・・・分かった。私も学校って場所には興味がないわけじゃなかったし、とりあえず試験は受けに行ってみるよ』


話を聞くと、もしレグニール学校に受かった場合、試験に受かった時点で併設されている寮に必然的に入ることになり、母や幻獣たちと離れて暮らすことになるようだ。不安はあるが学校に入学できる確率はかなり低そうなので、この機会に観光がてらのんびり行ってみることにした。




こうして冒頭でも話した通り、私のレグニール学校への入学試験が決まったのだ。






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