第3話 夢破り
「あんた、意外と臆病者なんだな」
「……どうしてそう思ったのかしら?」
俺が入れられた檻の隣には、『本物』の魔女が座っていた。
「あんたは俺が気付いたことに気付いていた。だから俺を閉じ込めたんじゃないのか?」
そう、あのゲームは本当に『魔女殺し』だったのだ。誰も『偽物』を倒せだなんて言っていないのだから。
「……半分正解で半分不正解ね。確かに、貴方が気付いたことに私は気付いていた。でも貴方を閉じ込めたのは、貴方にはまた別のゲームを用意しているからよ」
「そういうことにしておいてやるよ。でも、……それならそのゲームが始まる前に、あんたを殺しておかないとな」
脳に剣のイメージを描く。自由自在に盾が操れるということは、その形も自由に変形が可能ということだ。そして最強の盾は、同時に最強の矛にもなる。
「っ!?」
狙った通り、魔女は俺の攻撃を『避けた』。こいつの勝ち気な性格なら、俺の攻撃を笑って搔き消しそうなものなのに。
「あんた、俺がガーディアンに向いてるって言ったか?守護?笑わせるな。俺は、優里が居なきゃ、あいつの正しさが隣になきゃ、最低な利己主義の人間なんだよ」
「……考えたじゃない。盾を剣にするだなんて」
「俺は頭だけが取り柄の人間なんでね」
「だったら、貴方に用意したゲームは簡単すぎるかもしれないわね」
「そう思うんなら大人しく殺されて……っ!?」
「というわけで、残念ながらあなたのゲームは『魔女殺し』ではないの。あまり勝手な行動はしないでちょうだい?」
「なんだ、これ……っ」
「ちょっとした重力操作で動けなくしただけよ。痛くはないでしょう?」
「はっ、万能かよ」
「そうでもないのよ?貴方が『夢破り』をクリアできたら、ちゃんと貴方にも私を殺す権利をあげるわ」
「そんなに自殺願望があんなら今すぐ殺してや……る……」
あぁ、失敗した。あの一撃で決めれなかったのは痛かった。ダメだ、早くしないと、このままでは優里を守れない。
後悔しながら俺は、夢の世界へと入っていった。
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「なによこれ、どれだけ倒してもキリないじゃない!どうしたら勝ちなのよ!」
「しかもなんか、倒すごとに増えてるし!朱理はこのゲーム経験したんじゃなかったの!?」
「だって1体すら倒せないまま負けたんだもの!しょうがないでしょ!?」
私たちは現在、ピンチに陥っていた。というのも、あれ1体を倒しただけでは終わらず……むしろ倒すごとに偽物の数は倍に増え、次々と攻撃を仕掛けてくるのだ。向かってくる敵を倒しながら会話を交わす。
「役職がアタリだったのか今のとこ負けはしなさそうだけど……でもこれ以上敵に増えられると……」
「増えない方法はないのかなぁ……」
「無いでしょ。見た感じ倒すごとに増えてるみたいだし……この中に偽物の中の『本物』がいるなら別だけど」
「本物?」
「分身の術みたいに偽物の中にも本物がいて、そいつを倒せばみんな消えるんじゃないかってこと」
「なるほど。でも最初は1体しかいなかったよ?」
「そう、気になるのはそこなのよね」
「偽物……偽物の中の本物……。ん?偽物?」
「何か思いついたの?」
「思いついたっていうか……。ねぇ朱理、本物は魔女自身のことって可能性はないのかな」
「!」
「だって彼女、偽物を何体倒せとか一言も言ってなかったし」
「多分、それ合ってる。行ってみよう、魔女が向こうの扉に入ってくのなら見た」
「りょーかい!でもまずはここを切り抜けなきゃだね!」
魔女の消えていった扉に向かって、攻撃を避けながら走っていく。扉に近付くにつれて邪魔が増えるあたり、私たちの読みは当たっているようだった。
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「そんなに睨まなくてもいいじゃない。どうせ貴方ならすぐに突破できるわ」
「その間に優里たちが負けたら意味ねぇだろ」
「ふふっ、本当に貴方はあの子が好きなのね。口調もあの子の隣にいるときとは大違いじゃない。窮屈じゃないの?」
「うるせぇ。さっさとルールを説明しろ」
「わかったわ」
そうして魔女は『夢破り』という名のゲームについて説明し始めた。どうやら俺は『ある人』のいなくなった夢の世界へと行かされ、その『ある人』を思い出すことが出来たらゲームに勝ったことになるらしい。
「思い出すってのはどの程度までいけば条件クリアなんだ」
「そうね……。名前と、貴方との関係を言うことができたらにしましょうか」
魔女が誰の記憶を消すかなんて、もうほとんど答えが出ているも同然だった。だから俺は、気づかれないように自分の皮膚にイメージで作り出した針を突き刺す。歯を食いしばり、痛みで顔が歪まないようにして。溢れてくる血で、自分の腕に文字を書いた。彼女が見たら呪われそうだからやめてよ、と怒られそうだ。
「では、行ってらっしゃい。夢の世界へ。……あぁ、そういえば言い忘れていたけれど記憶は無くなるだけじゃなくて一部書き換えもされるのよ。って、もう聞こえていないでしょうけど」