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ヘングルゲーム  作者: 茅椰
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第2話 魔女殺し

次に目を開くと、そこはもう私たちが居た部屋ではなかった。

「何ここ、森……?」

「みたいだな。もしかしたら、ヘンゼルとグレーテルが迷い込んだ森って設定なのかもしれない」

「なるほど……?ってことは、まずは魔女の家を探さなくちゃ」


辺りは一面緑だった。見回したところ特に動物がいるわけでもなく、危険性は低いように思える。立ち止まっていても仕方がないので、私たちは勘の示すままに辺りを散策してみた。


「おい、見ろよ優里」


海成が指をさした先には、童話の世界からそのまま抜け出したかのような、ファンシーなお菓子の家があった。


「あれ……っぽいわね」

「むしろあそこ以外無いだろうな」

「行く?」

「あぁ、急ごう」


怖さはなかったわけでは無い。でも、私の心の中は好奇心と、朱理を助けるんだという気持ちでいっぱいだった。それに、隣には海成もいる。



ーーお菓子の家の扉を開けた


「私の家へようこそ?愚かなる人間たち」


部屋の中にあるソファに座っていた少女が、ゆっくりと顔をこちらへ向ける。魔女らしくない、白いワンピースで身を包んだ彼女は、ゆっくりと私たちに近づいてきた。


「なるほど、どうやら冷やかしではないようね。歓迎するわ、勇敢な少女。どうぞ、座りなさい」


背は私よりも低いのに、それを感じさせない威圧感が彼女にはあった。命令口調なのに、それに嫌味を感じない。むしろそれが当たり前だと錯覚するほどに。座らされたのは、彼女の向かい側にあったソファ。私たちを阻む障害物は背の低いテーブルしかなく、彼女の全てを見透かしているような視線を避けきれない。


「あなたが、魔女ですか?」

「貴女たちの呼ぶところではそんな役回りになるのかしらね」

「朱理、横井朱理も、ココに来たんですよね?」

「えぇ。2日前だったかしら。連れてきましょうか?」

「会えるんですか……?」


その言葉に、彼女はぞくっとするような極上の笑みを浮かべる。すっという効果音がつきそうなほど優雅に立ち上がり、たくさんの装飾が施された扉の奥へと消えていった。


「海成、どう思う?」

「どうって?」

「彼女。私もっと、魔女って怖い人を想像してた。でも、案外話せば分かり合えそうな雰囲気がするなぁって」

「まだ今は判断できない。油断させるために、わざとそう振る舞ってる可能性もあるからな」




*****


「横井朱理、起きなさい」


手をかざすと、オレンジ色の飴玉が元の人間の形へと戻った。


「っ、お前は魔女……!弟は、柊はどうした!!」


血気盛んなその子は、目を開けた瞬間に私へと攻撃を仕掛ける。たとえその蹴りをまともにくらったとしてもダメージなど無いに等しいが、痛い思いはしたくなかったので、それを躱して軸となっていたほうの足を払った。「わっ」と声を出して、その子が倒れかける。


「あのときと違って今の私は本体なの。痛覚もあるし傷も付くのだから、下手な行動は慎しんでほしいわ。それと、弟さんはまだよ。彼女たちが勝ったら、あの子も解放してあげる」

「……彼女たち?」

「貴女にもう一度チャンスを与えに来たのよ。感謝しなさい、あの橋山優里という少女に」

「優里!?優里がここに来てるの!?」

「えぇ。貴女を助けに。健気なものね、貴女の願いが叶ったら、彼女がここにいる予定だったというのに」

「それは……」

「安心しなさい。まだ彼女には言っていないわ。私の口から言っても、何の面白味もないもの」


私の言葉に、目の前の子は口を噤んだ。自分が悪いというのに睨んでくる彼女が、愚かで可愛いらしくて思わず笑みがこぼれる。


「ついて来なさい。お友達と、貴女の想い人に会わせてあげるわ」


*****




「朱理!?ほんとに朱理だ!!」


魔女が消えていった扉が開いたかと思えば、宣言通り、朱理も一緒にその扉から出てくる。


「朱理!よかった……っ!私、頑張るから!帰ろう?柊くんも一緒に!!」


駆け寄って朱理をぎゅっと抱きしめる。幻影ということはなく、しっかりと暖かさを感じることができた。


「優里……どうして……」

「病院でおばさんに会った。優里は、泣いてるおばさんを見て居ても立っても居られなくなったらしくてな」

「海成……?なんで、海成まで……」

「優里だけに行かせるわけにいかないだろ。なんだ、俺がいるのは意外か?」

「海成は基本的に冷たいからねー」

「うっせ」

「……ありがとう、2人とも」


ーーパンッパンッ。手を叩く音が響く。


「はい、懐かしむのはそこまでよ。せっかくここに来たのだから、早速ゲームを始めましょう?貴女たちには……『魔女殺し』が最適かしらね」

「魔女、殺し……?」

「えぇ。その子も経験したゲームよ。『私』を殺したら勝ち。ハンデとして貴女たちには役職と、それに特化した能力をあげるわ」


そう言って魔女は、私にウォーリア。朱理にウィザード。海成にガーディアンの役職を与えた。ウォーリアは身体能力の向上。ウィザードは治癒をはじめ、他にも簡単な魔法が使えるように。ガーディアンはあらゆる攻撃を防げる盾を自由自在に出せるようになるのだそうだ。


「我ながらいい選択ね。貴女たちの性格によく合ってる。では始めましょうと言いたいのだけれど……」


ーーガシャン

突如床から現れた檻が、海成の四方を囲んだ。


「海成!?」

「っ、なんだこれ」

「本来このゲームは2人用なの。大丈夫、ウィザードとウォーリアだけでもある程度は生き残れるわ。30分ほど経ったら出してあげる」


そう言って魔女が指を鳴らすと、それと同時に一面真っ白な部屋に海成以外が移動した。


「では、始めましょう?」


その声を合図にして、魔女とまったく同じ容姿の、人間なのか幻影なのか、詳しくは分からないモノが形作られる。


「ハンデとして『偽物』は一切の魔法を使わない。簡単に倒せるはずよ」


偽物は私に向かって一気に距離を詰めてくる。状況についていけない私がまったく動けずにいると突然視界が白く染まった。


「何ぼさっとしてるのよ!」


どうやら朱理が電気系の魔法を使ったらしい。カメラのフラッシュを間近で見たときのように、少しの間景色が白みを帯びる。


「ごめん、朱理」

「私を助けるんじゃなかったの?」


悪戯っぽく笑う朱理が朱理らしくて、肩の力がふっと抜けた。大丈夫、運動神経にも動体視力にも自信はあるから、これは決して勝てない勝負ではない。それに、


ーー知ってるか?ヘングルゲームの勝率を上げる方法。パートナーとの信頼度が高いほど、勝てる確率は高くなるんだって。


海成の言葉を思い出す。だったら、なおさら負けるはずがない。


「うん、一緒に帰ろう」


今度は私から偽物へと近付く。特殊能力のおかげなのか、身体が嘘みたいに軽かった。一気に距離を詰めて、偽物の鳩尾へとまっすぐに拳を伸ばす。風に乗るように速いスピードで動けることに、気分が高揚した。


「ありがとう、優里」


私が攻撃をする隙に、朱理が偽物の後ろに水の球を作り出す。偽物にもう逃げ場はなかった。


「くっ……」


痛みに小さな呻き声をあげた偽物は、水の中へと吸い込まれていく。


「やった!!」


勝った。魔女殺しの本当の趣旨を理解していなかった私たちは、そう思った。いつの間にか『本物』は、奥の扉へと消えていた。


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