表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白い悪魔の誘惑~近所のダンマスがうちのギルド長についに言ってしまった件~

「何と言う事だ…」


 グリセライド王国レステール支部のギルド長室に、リーリリカのうめく様な呟きが響いた。


「こんなことになっているだなんて…」


 手に持った資料をまじまじと見つめるリーリリカ。こぼれ落ちる彼女の苦渋に満ちた呟きに、書類の整理をしていたブフェンは手を止めて声をかける。


「ケーイチ殿に言われるまで気づかなかったのですか、リーリリカギルド長」

「そう言ってくれるな。私は数字には強くないのだ」

「ええ、よく知っていますよ。数字・事務仕事に滅法弱く、ついでに甘いものにも弱い事は。おかげで私の仕事がまったく減りません」


 ブフェンから投げかけられる言葉に顔をしかめるリーリリカであったが、その顔色は事の次第を確認する前よりも青白くなっている。

 そんなリーリリカの様子にブフェンは内心…どころではなく、態度に表して大きくため息を吐いた。


 現場からの叩き上げでギルド長となったリーリリカが数字に弱いのは、エルフなのに脳筋…?と一部から問題視されてはいるが、仕方ない。エルフにも色々いるのだ。その補佐のために副ギルド長として事務方に強いブフェンが付けられている。

 エルフの女性であるリーリリカとリザードマンの男性であるブフェンが並んで他所に行くと、ブフェンがギルド長でリーリリカが補佐官だと思われることが多い。種族特性より個人特性の影響が大きいこともあるのだとブフェンは大きく抗議したいと常々思っていた。

 そして、その大柄な体躯に見合わず荒事ではなく事務方を得意とするブフェンとは異なり、年齢不詳の元S級冒険者であるリーリリカが、今回の件に気づいていないなどとは思ってもみなかったのだ。


「ギルド長なんですから、このくらいはその身でもってわかった上であえて放置しているのだとばかり思っていました」

「面目ない」


 ブフェンの言葉にリーリリカは大きくうなだれる。


「確かに、今思い返せば違和感が無かった訳ではないのだ。しかし、非常に巧妙だったのだ。日々の変化は微々たる物で、すっかり慣らされてしまっていたようだ」


 そう、本当に巧妙な手口であったとリーリリカは思い返す。


 ギルドの1日の討伐数が1000としたら、1日毎に1づつ増えるようなものだ。

 1000が急に2000になれば異常発生だが、1000が1001になったところで誤差の範囲ととらえてしまう。それが1002、1003と増え、しかし時に減り、そしてまた少しずつ増えを繰り返す。

 長期で見れば確かに大きく変わっているのだろうそれが、常に見ていることで気づくことが難しくなった。

 一般的に、離れて暮らす親戚の子供の成長はわかりやすいが、ギルド員のお子様たちの成長はわかりにくいのと似たようなものだろうかとリーリリカの思考は脱線する。実際、リーリリカの親戚はエルフなので、ちょっとやそっと離れていたぐらいでは成長も何もわからなかったりするのだが。


「それで、ケーイチ殿に指摘されるまでのこの1年間でいったいどれだけ増えていたんですか」


 リーリリカの脱線した思考はブフェンの言葉により直視したくない現実に戻される。


「そう、これはたった1年での変化なのか…」


 グリセライド王国の1年は365日である。

 年の初めの誕生月は短く、5日間である。その期間は聖誕祭として祝われ、リーリリカも毎年楽しみにしていた。後は30日ごとにひとつの月としてまとめられ12の名が付けられている。


 1年ほど前にこのレステールに現れた青年がケーイチであり、荒くれ者が多いこの辺境の地では珍しく穏やかな空気を纏う青年だとリーリリカは思っていた。

 実はこのケーイチがヒトではなく、ダンジョンマスターと呼ばれる存在であると知ったときには少なくない混乱がレステールにもたらされた経緯もあるのだが、彼と彼の支配下の者たちは常にこちらに対して友好的であった。


 友好的であった、と過去形にしなければならないとリーリリカは思う。

 それほどに気づいてしまったリーリリカの1年での変化は大きかった。


「で、どれだけ増えていたんですか」


現実を突きつけたいのか繰り返されるブフェンの言葉にリーリリカは覚悟を決めなければならないのかと息を吐く。


「……ろだ」

「いくつですか?」









「10キロだ!!!」








「まぁ、毎日ケーイチ殿のショートケーキ食べていれば体重は増えますよね。今日からはデザート、おやつ抜きです。ケーイチ殿も気にしてましたよ」


 ブフェンの残酷な言葉にリーリリカの口からは悲鳴が上がる。






 ギルド長室から上がった悲鳴に、小休憩をとっていた受付嬢たちは一瞬戦闘体制を整える。が、すぐに声の主がギルド長であることに気付くとお菓子をお茶請けに話に花を咲かせた。


「やっぱりダンジョンモールのケーキはおいしいわねぇ。流石にギルド長みたいに三食デザート付きとおやつにまではしないけど」

「あー、ケーイチさんがギルドでも『定期健康診断』してみませんかって遠回りにギルド長心配してたよねー」

「ねぇねぇ!ダンジョンモールと言えば、今度『えすてさろん』ができたんだって!次の休みに行ってみない?」

「そろそろ新作ドレスも出るころだし、いいわねぇ。1日くらい男衆にまかせて皆で行ってみようかしら」


 今日も冒険者ギルド、グリセライド王国レステール支部は平和です。


ショートケーキって一切れ約300kcalなんですよね。

体重って1キロ減らすのに7000kcalなんですよね。

ははは……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ