九話目 言い訳をしよう!
目次『異世界の者』
著 黙示録を司る者カナン
なんとなく次のページをを開くと、ズラリと異世界に関する考察が述べられていた。
魔方陣が何層にも重なったページには、『異世界召喚魔法』なんて書かれた項があり、東大の受験生もビックリの書き込みがなされていた。
……馬鹿にしちゃいけない感じの奴だ……ガチだ……『厨二、厨二!』とか言ってた自分がめっちゃ恥ずかしい……
「……そういやこの世界って、俺にとっては厨二的な世界な訳だから……俺が痛いなぁ、って思うことも立派な学問ってことなのか?」
実際、勇者はドラゴンを三体も倒しているらしいし、俺の今までの架空的な存在は現実になっていたりする。
……つまり、これを書いた人からすれば『飛行機って魔法の力を使わずに飛べるんだぜ!』とか俺が言ったならこっちこそ中2野郎になってしまうということか……。
ガチのモノホンを見て、さらに異世界にまで来てから分かる俺の異常である。
「なんで、来ちまったんだろーなぁ……」
思わず眉間に皺が寄る。
おっとイカン。農業を営む奴はいつもポジティブにいないと!
親父言ってたもんな……!
『何時土地が地上げされるかわかんねぇから夜逃げの準備は万端にしてある。……あ?、本当に地上げされんのかって?……』
『――ギリギリだよ――』って……。
なんてシビア。それまだ未成年の男子に言う話じゃなくない?
「……いや、しかしだ。ここでの俺の存在はどういう扱いかを知っておくのは別に悪いことじゃない」
決意も固い中、俺は深い眠りを誘う文字の羅列を読み始めた。
ガタリ……と、窓が揺れる。
現在はハルヤの体内時間において夜十二時を回った辺りである。
以前彼が居た、現代らしい世界での彼はこんな時間まで起きていることはお茶のこさいさい、というか朝飯前なことではあったが、今の彼は『功労者』になろうとする故、ランプの油ももったいないこの世界では十時が就寝時間なのである。
つまり、現在十二時を過ぎた時点でも彼は夢の中で『やっていたゲームが全てリセットされる』という夢を見て魘されていた。
……なので、小さな来訪者には気づかなかったようである。
窓から、スッと身を滑り込ませるようにして入ってきた少女に。
彼女の名前はカナン。ハルヤが十時まで睡魔と戦いながら読んでいたノートの作成者である。
見た目の年齢は12やら13辺りを思わせる。ハルヤが実はロリコンな性格だったなら、我を忘れて飛びかかってしまいそうな美少女だが、本当は●倍も年を重ねているお姉さんである。まぁ、元よりハルヤはそんな性格ではないので起こり得ないことだが。
また、彼女はこの世界の考古学者であり、一権力者である。とある理由で征服派には反対しエスタ党に付いている。
そして、エスタ党にとっては数少ないスポンサーの一人であるカナンは寝室を一つ与えられていたのだが、考古学的好奇心で長く部屋を空けていた。
その間、十年程。あまりにも長い時間空けているものだから、いつの間にかカナンは行方不明扱いとなっていた。
それでも、エスタはいつか帰ってくるとは思っていたのだが、それがまさか今夜だとは予想することができなかったようである。
……さて、その人が今日偶然自分の家に戻ってきたとして、自分の机に涎垂らして寝ている男が、いたらどう思うだろう?
しかも、自分の研究成果をよりによって枕にして、涎を大量にぶっかけられているのである。
一体、どう思うので、ショウカ……?
「……ブッコロ」
彼女は短気であった。所謂損気でもある。
ともあれ、既にキレてしまったカナンは自身の手が赤く染まっていることに気がついてはいない。
カナンは火の精霊である。怒りが増すと、自身を構築する火のエネルギーが外へ噴出しそうになる。
火は怒りの象徴。今、カナンがそうであるように、右拳が怒りを主張している。
そして、彼女は振りかぶり思い切り彼を殴った。
「ファイアーエンドフィニッシュバーニングシャイニングパンチ!、……かーらーの!……切りもみ三回転爆熱キックマークスリィィイー……スペシャルッ!」
灼熱に包まれたパンチと切りもみの意味は然程無い蹴りのコンボでハルヤは吹っ飛ばされ近くの壁に激突した。
「あっつぅぅううううッッッ!?」
「……うやややあぁあああああッッ!?」
ふやけてぐにゃぐにゃになったページを彼女が手から出した炎で暖めつつ、事を話された。
話をまとめると、俺この人のノートを読んでる間に寝落ち→涎がバーバーかかっていたらしい。
「あの、マジで、……すみません……」
「すみませんですんだら地獄なんかないんじゃ!!バカかお前ッ!!」
「ひぃぃッ!!」
思わず閻魔様も身もすくむこの怖さ……、あの……お化け屋敷にでも行って下さい。活かせると思うんで、(精一杯の煽り)
「文字までふやけてるッ!!見えないしッ!!」
少女の悲鳴は耳を塞いでも聞こえてくる。ほっぺと腹に来る痛みに堪えながら薄目を開けてみると俺が開いていたページはぐちゃぐちゃになっていた。
結構なものが俺の涎で消えてしまったようである。事の重大さと、拷問でもされるんじゃないかな?……いや、殺されたっておかしくない状況に頭がどうにかなりそうです……、
「すみません!なんかすみません!」
せめて、土下座を繰り返し繰り返し……機嫌を取ろうと試みるが、一向に怒りは収まりそうにない。
「がぁぁああああーーっ!!」
激昂する少女。髪は逆立ち、赤く染まっている。その一本一本が擦れ会うたびに火の粉がパチパチと飛んでいるのに気づく。スー●ーサイヤ人かお前、ってくらいヤバい。
なんで自分より年下の子供が怒ってんのにこんなに怖いんだ……?
……いや、それどころではない。人間の動物的本能がコイツに今逆らったら殺されるのだと言っている。
しかし、わかってはいるのだが、こんなロリ少女にビビってることが情けない。
とりあえず、目の前の少女が俺を何かの間違えで刺し違えたりすることのないよう祈るばかりだった。
「……さて、貴様に質問が幾つかある。」
未だに怒気のこもった声で彼女は言った。
「貴様は何者だ?、……何故私の部屋にいる?」
「……私の部屋?」
『そうだ』とでも言わんとするように深く頷かれる。
そういや、エスタがここには同居人が居るのだとか言ってたっけ。
すっかり忘れてた。
「えーと、それはエスタに招待されて……、」
「……ふん、下手な言い訳だなぁニンゲン。あの引っ込み思案のエスタが男を招き入れるなど……あるはずがない!!」
沸点、低ッ!!
首根っこ捕まれて、揺さぶられる。
足は地に着いているというか、膝立ちの状態なのでそんなにキツくない。背がちっこいから。
「いや、だから、そうなんだって……、」
ぶんぶん首を揺らされても、そうであるから仕方がない。
「じゃあ、その理由は?……私が納得できる理由を今ここで言ってみせろ。嘘をつけば分かるからな?……私は精霊なのだから」
精霊だったら嘘を見抜けるもんなのかその辺の理屈はよく分からないとして……、この状況、……どうするんだ?
まさか、『自分の●●コに槍が突き刺さって、直すためにここに来ています』なんて言えるわけがない。
もう、これ以上俺の秘密を知る者を増やしたくない……。
というか、死にたい……。
しかも、今その理由を話すかもしれない相手は正真正銘の『ロリ』!
火の精霊だがなんだか知らんが、少なくとも教えてしまうと俺の心のどっかがポッキリと折れてしまいそうである。まぁ、今も若干折れそうなんですけど…ね…、はい。
「早く、答えなさい!場合によっては貴方をギリギリ生きられるレベルまで……火炙……拷問するわよ?」
おいこの人俺の事火炙りにするつもりだーッ!?
『助けてーッ!!』と叫びたい衝動にかられたが、この理由はエスタ、クライス、レガーリアの工房のおっさん達しか知らない。来ても、せめて最小限にまで事を押さえられる確率は少ない。
どうせ、ハリスさんとクライスは今日お楽しみなんだろうし……、
一方その頃、クライスとハリス一向。
レガーリアの工房にて……、
「お、おいッ!!なんだそれわッ!?」
「……あらぁ、そんなことも知らないのネ!?……ウブな子ってかーわいッ!!」
「ウホウホ!」
『アーッ!』
背筋に走る悪寒を我慢しつつ、結局頼れるのはエスタしか居ないのを再確認する。
……いや、まだ考えようによってはこの場を切り抜けられるかも知れない。
「ほら、言いなさいよッ!」
「俺は、……ッ!」
続く……