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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第一章 初心者とベタ甘ハーピィと山の上の城壁
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A09 激闘・マリンティアラ!

 すぐに俺はリュックを背負い、ゴーグルを装備した。襲い掛かるマーメイドの群れに一人飛び込み、同時に自身へ魔法を掛ける。


「<キャットウォーク>!!」


 移動速度が上がる魔法が最優先だ。マーメイドの懐に飛び込み、スライディングをするように滑って攻撃をかわし、ターゲットを俺に絞らせる。


 フルリュを戦闘に参加させる訳にはいかない。そもそも足を失っているし、まだ何が出来るのかもよく分かっていないのだ。


 魔物の群れのど真ん中に飛び込むと、リュックから取り出したのは二本の初心者用ナイフ。マーメイドの群れは俺に向かって、それぞれ攻撃魔法を放ってきた。


<ブルーボール>。俺も使う、初級の水魔法だ。しかし、数がやばい――マーメイドの群れ、その数は二十体程だろうか。各個から放たれる水の弾丸は、俺を囲むように襲い掛かってきた。


 ――――ちいっ!! 少し魔力は使うけれど、仕方ないか!!


「<ブルーカーテン>!!」


 俺の周りを取り囲むように、水のカーテンが降り注ぐ。水と水は相殺され、弾丸は無に返す。


 炎系の魔法は水辺のダンジョンでは御法度だ。辺りの湿気のせいでいまいち攻撃力が出ないし、水の魔物は火に強いからな。


 それにしても、この量の<ブルーカーテン>は魔力消費が激しいぜ……


 考えながら、俺はリュックから魔力回復薬、カモーテルを一気飲みした。<ブルーカーテン>の効果終了と同時に、マーメイドの一体に向かってカモーテルの瓶を投げつける。


「<ホワイトニング>!! <マジックオーラ>!! <ダブルアクション>!!」


 お決まりの魔法を、一気に使う。ようやく魔力攻撃力と防御力が上がり、ある程度の魔法を使い易くなった。俺は二本のナイフを構え、襲い掛かってくるマーメイドの群れにナイフを向ける。


 今度は物理攻撃か。そう来ると思っていたぜ……!!


「ガアアアアアアア――――!!」


 一斉に鋭い爪を持って襲い掛かってくるマーメイドに、俺はナイフを合わせた。


「<パリィ>!! <パリィ>!! <パリィ>!! <パリィ>!! <パリィ>!! <パリィ>!!」


 二十体余りのマーメイドの攻撃を、踊るように<パリィ>を使って回避していく。爪による攻撃をナイフで受け流し、俺はマーメイド他、数多の魔物達が俺の周囲に集まって来るタイミングを測った。


 上段、中段、下段。ナイフは最も軽く、攻撃を受け流し易い。ロングソード以外で<パリィ>を使うのは初めてだけど、正解だったようだ。


『マリンティアラ』は――――まだ俺の実力を量っているのか、近付いて来ようとはしない。マリンティアラの周囲には、何体かのマーメイドが怪しげな笑みを浮かべて立っていた。


 数が多けりゃ押し潰せると、思うなよ――――…………!!


 右手を地面に這わせて、俺は意識を集中させる。


 魔力、最大出力。一網打尽だ。


「<イエローボルト>ォォォ――――――――!!」


 雷の基礎魔法、<イエローボルト>。水の魔物にはこれが一番よく効くのだ。


 俺の周囲に発生した雷が、マーメイドの群れを感電させていく。周囲で群がっているシーザーやシェルターも巻き添えだ。魔力を雷に変換するため、<マジックオーラ>を付与していても俺の魔力はガンガン削られていく。


 限界ギリギリの所で、<イエローボルト>の出力を止めた。


 一瞬にして雷に焼かれたマーメイドが、俺の周りでバタバタと倒れていく。


「ぐうっ……!! 魔法の連打はキツい……!!」


 すぐにリュックから二本目のカモーテルをがぶ飲み。俺の魔力を回復させた。


 立ち上がると軽い立ち眩みが俺を襲ったが、まだ大丈夫だ。肩で息をしているだけで、戦えない訳じゃない。


「ラッツ様!!」


 フルリュが叫んだ。声を掛ける代わりに、俺は笑みで応対する。


 マリンティアラと、その取り巻き。俺が群れを倒した事で、奴等が俺の所に向かってくる。


 流石に俺も、一人でダンジョンマスターを相手にするのはキツい。すぐに振り返り、フィーナに目を向けた。


「フィーナ!! 援護し――――」


 ――――寝てやがる!? マジか!?


 一体本当に何を考えてやがるんだ、この女は!!


 マリンティアラの近くで笑みを浮かべていたマーメイド達が、揃って両手を合わせて口を開いた。やばい、歌系のスキルか……!? 俺はリュックにナイフを戻し、耳を塞いだ。


「ラ――――ララ――――ラ――――」


 くそ、耳を塞いでいても聞こえてきやがる……!! 俺は目を瞑り、意識を集中。幻覚や催眠の類だけは、何としても避けないと……!!


 ここには起こす奴が居ないんだぞ!!


 魔力を微量に使って神経を鋭くさせながらも、俺は薄っすらと目を開き――――そして、目を見開いた。


「げっ……そうか、そうだよな……」


 幻覚でも催眠でもない。マーメイドの取り巻きが使ったのは――――回復。


 俺が倒した筈のマーメイド達が再生し、ゆっくりと起き上がってきた。


 シーザーとシェルターは再生しないのか――……まあ、人魚じゃないしな。種類が特定できた以上、耳を塞いでいる必要もない。俺は襲い掛かってくる前に魔物の群れから離れた。


 親玉を倒さないと、何度でも再生するって事かよ――……このままじゃ、カモーテルが無くなったらジ・エンドじゃないか。


 金も無かったから、五個くらいで手を打ってしまったんだよな……


「まさか、こんな事になるなんてな……」


 何を考えているのか知らないが、フィーナ・コフールのお陰でとんだ災難だ。<イエローボルト>を加減して撃つにしても、ジリ貧ってもんだし……


 ……あれ。俺、やばいかも。


「<ダブルスナップ><ホワイトニング・イン・ザ・ウエポン>!!」


 一先ずリュックからロングソードを二本取り出し、近接戦闘体制に入った。一応、速度はかなりのものになっている筈だけど――遠距離攻撃が主体のマーメイドに、どこまで通用するものだろうか。


「<ソニックブレイド>!! <ソニックブレイド>!! <ソニックブレイド>!!」


 直線上に、起き上がってくるマーメイドをまとめて攻撃。まだ完全回復ではないマーメイドは、再び倒れていく。


<ソニックブレイド>の速度を利用して、俺はついにマーメイドの親玉、『マリンティアラ』へと照準を合わせた。


「<イエローボルト>!!」


 素早く横に移動しながらの一撃。これだけの速度なら、魔法発動の瞬間を捉えられる事は無いはずだ。俺はマリンティアラの裏側へと瞬時に周り、大地をドリフトした。軽い砂埃が舞って、俺は背後からの一撃を浴びせる。


「<ソニックブレ>――……」


 ――――その攻撃は、マリンティアラの水攻撃に沈んだ。


「<ブルーウォール>」


 水魔法<ブルーカーテン>の上位魔法、<ブルーウォール>。巨大な水の塊で自身を防御し、その後に、


 ――――やばい。


 考える前に<ブルーウォール>は弾け飛び、俺は水の塊と共に飛ばされた。


 飛び出た岩に激突し、そのまま岩を砕いて後方を転がる。


 激痛が身体を走ったが、俺はすぐに起き上がり、リュックからパペミントの瓶を掴むと一気飲みした。


 くそ。そこそこの威力で放った筈の<イエローボルト>が、欠片も効いていないなんて予想外だ。


 俺が遠くに行ってしまうと、フルリュが危ない。案の定、再び再生したマーメイドの群れが俺からアイテムカートへとターゲットを変更し、フルリュに向かって行く。


「待てこのクソアマが!!」


 すぐにフルリュの下へと走った。


「ひ、ひいいい……」


 やっぱり、まともに戦える奴じゃなさそうだな、フルリュは……!! くそ、このままじゃ間に合わない――……


「<サンクチュアリ>!!」


 フルリュとアイテムカートの周囲に魔力が立ち込め、マーメイドが動きを止めた。


 俺は呆然と、フルリュの前に立った女を見る。


 ――――フィーナ。


 俺を見ると、可愛らしくウインクをした。


「……何なんだ、お前は……」


 魔力、残ってるんじゃないか。


 何を考えているのか、さっぱり分からん……


「このダンジョンに入る者は、何人たりとも妾の晩餐にしてくれる……」


 マリンティアラが可愛い顔をして、どぎつい目で恐ろしい事を言ってくる。こいつは喋るのか――しかし、まともにお喋りが出来そうな雰囲気ではない。


 ……そうだ。やっぱり、これが『魔物』ってやつだ。人間の言葉を使ったとして、まともに会話なんか出来ないのが普通だ。


 普通の、筈だろう。


 フルリュが守られている事で、俺にも幾らかの冷静さが返って来た。そうだ、我武者羅に戦ったって勝てない。何か、マリンティアラを倒すための策が必要だ。


 俺はリュックにロングソードを戻すと、弓矢を取り出した。マーメイドの群れは俺の射程から考えると少し遠いが、俺は神経を研ぎ澄ませる。


「<イーグルアイ>!!」


 弓職の基礎スキル、<イーグルアイ>。遠くの敵に対する照準が良くなるスキルだ。魔力を込め、俺は弓を引いた。


「<イエロー・アロー><イエロー・アロー><イエロー・アロー>」


 言いながら、雷の矢を連射した。マーメイドの群れに電撃を帯びた矢が向かう。ついでにマリンティアラにも弓を向け、矢を一発。


 真っ直ぐに雷の矢はマリンティアラに向かって行く。飛び道具としての飛距離なら魔法よりも矢の方に分がある、代わりに威力は専門職でなければ悲しいが……今は、威力をあまり気にしていない。


 俺は飛んで行く矢を、じっくりと眺めた。


 避ける素振りも見せない。マリンティアラに<イエロー・アロー>が突き刺さる。


「……やっぱりか」


 俺は軽く舌打ちをして、その場に魔法を放った。リュックに弓を戻す。


「<レッドトーテム>!!」


 目の前に火柱が現れ、淡く見えている洞窟内部をより強く照らす。襲って来る魔物ではない『ライトサンゴ』が幻想的な明かりを創り出す空間に、俺は新たな光源を生み出した。


 レッドトーテムの持続時間は魔力ではなく、術者のスキルレベルで決まる。出力を加減した<レッドトーテム>でも、一定時間は燃えているはずだ。


 俺はマリンティアラの周りを、大きく走った。アイテムカートに居るフルリュとフィーナを狙う事が無理だと分かったからか、マリンティアラは再び俺にターゲットを向ける。


「<レッドトーテム>!!」


 俺は広場の角に明かりを灯すように、二本目の火柱を出現させた。続いて、反対側の角へと走る。


 マリンティアラの顔色が変わり、取り巻きのマーメイド達が俺に向かって襲い掛かってくる――……


「……ほう、なるほど。主よ、考えたものだな」


「思い出したように話し掛けて来んじゃねーよ!!」


 リュックからロングソードを取り出した。とっくに<ホワイトニング>の効果は切れているし、<キャットウォーク>を使う時間もない。一発でも攻撃を受ければ、俺の体力なんてごっそり持って行かれてしまう。


 歯を食いしばり、俺は襲い掛かるマーメイドを見据えた。


「オラ来いやあ――――――――!!」


 野獣のように咆哮し、マーメイドに向かって意識を集中させる。一体目のマーメイドが、俺の喉元目掛けて爪攻撃を繰り出してきた。


 勝負は一瞬。……しかし、使い慣れたスキルだ。こんな所でしくじってはいられない。


「<パリィ>!!」


 ガツン、という音は、剣と爪が接触する音だ。擦れ違うようにマーメイドを通り抜け、二体目、三体目からは全力ダッシュで逃げる。


 そうして、三つ目の角に左手を向けた。


「<レッドトーテム>!!」


 マーメイド達は、俺の繰り出す炎には目もくれない。当たり前だ、炎に強いマーメイドにとって、レッド系の攻撃魔法は意味が無いも同然。元々森に住まう魔物が苦手とする攻撃魔法だ。


 そう。ただ一匹、マリンティアラを除いては――――…………


「くそ、間に合うのか……?」


 再び走り、今度はフルリュとフィーナが居る四つ目の角へ向かう。その間に残り少ないカモーテルを飲み、俺は瓶を背後のマーメイドに向かって軽く投げた。


 猫騙しにもならないだろうが、時間稼ぎは必要だ。俺はロングソードをリュックに戻し、続けて両手に魔力を展開した。


 俺の掌から放たれる淡いオーラが魔法陣と化し、対象を俺に向ける。


「<キャットウォーク>!! <マジックオーラ>!! もいっちょ……<イエローボルト>!!」


 付与魔法の掛け直し。二度目のタイミングは、ここしか無かったのだ。


 ゆらゆらと動いているマーメイドに向かって、雷を飛ばす。既に闘争心のみでフィーナに攻撃していたマーメイドが感電し、その場に崩れ落ちた。


 俺は走り、最後の角に左手を向ける。


「<レッドトーテム>!!」


 マリンティアラを囲むように火柱は燃え盛り、周囲の温度を幾らか上昇させる。凍てつくとまではいかないが、冷え切って不気味さを醸し出していた洞窟内が照らされ、暖かさを感じるまでになった。


 俺はリュックから最後のカモーテルを取り出し、飲んだ。


「属性ギルドの加護が恨めしいぜ……」


 息もかなり上がっている。これで倒せなかったらまずいな……。マリンティアラの一撃のせいで、かなり俺にもダメージが入っていた。


 パペミント程度じゃ、気休めにしかならないか。


 だが――――…………


「どうする、おつもりですの?」


 フィーナが怪訝な顔をして、俺を見ていた。振り返る余裕はない。俺は視線だけを向け、フィーナに不敵な笑みを浮かべた。


「決まってんだろ――――燃やすのさ」



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