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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第四章 初心者と高飛車魔法使いと消えた街の秘密
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E74 消えた街、リンガデム・シティ

 レオの隠れ家に戻ってから俺は、今使う事のできる魔法公式をもう一度洗い直し、新しい手段を探っていた。


限定表現レストリクション・スタイル>だけでは、足りない。基礎スキルでどうにか戦うと決めた以上、戦闘スタイルのレパートリーを増やしていかなければならない。


 テイガに言われた『人類宇宙人説』から、あるヒントを得たのだ。自分の意思とは関係なく、動く――――だがこれが、驚くほど魔力が足りない。俺に使いこなすのは無理ではないかとさえ思えた。


 だが、俺は研究を続けた。どうにかして、もう一段階強くならなければと――――そんなことを、考えていた。


 テイガに言われた事をどのように受け止めるべきか、悩んでいたのかもしれない。俺は、誰かを助ける為に全力を尽くすと決めた。もう、半端な事はしないと。


 セントラル・シティでベティーナと戦った時、ベティーナは殺すだの何だの言っていたが、殺す気はなかった。……そもそも、そういう事が出来るような奴ではないと思った。度胸もなかったし、生き残る為に必死という感情しか伝わって来なかったのだ。


 だけど、俺に向かって攻撃してきたのは確かな訳であって――テイガからすれば、ベティーナは『敵』だろう。


 でも、俺にとってはベティーナは『敵』じゃなかった。治安保護機関と犯罪者、という構図が無ければ、俺はベティーナと戦う理由がない。


 …………だったら、助けるだろ。助けないか? ……どっちだ。


「お兄ちゃん、何してんの?」


 俺はまとまらない思考のまま、振り返った。


「……ああ。新しい魔法公式が作れないか、ちょっと試してたんだ」


 キュートはふと、その耳をだらりと下げて、俺の隣で魔法公式の羅列を見ていた。……ああ。難しいという顔をしている。……あ、諦めたらしい。


 ちょっと思ってたけど、こいつ性格は『猫族』って言うより、『犬族』だよな。明らかに。常に構って構って、という感じだしな。


「ごめんね、あたし……お兄ちゃんの役に立てなくて」


「何の話だよ?」


「セントラル・シティで。あたしがちゃんと、<ニードルロック>を砕けていれば、逃げる事もできたわけで……」


 俺はキュートの頭を撫でた。怒られるとでも思っていたのか、キュートは僅かに頬を染めて、上目遣いに俺を見ていた。


 ……何を、馬鹿なことを言っているのだろうか。


「無理はしなくていい。結局逃げられたんだから、問題ないよ。……これからだ。俺達は、これから」


 キュートの足は、<ヒール>を掛けることで少しは良くなった。だが、もう暫くは安静にしておくべきだ。キュートはアサウォルエェを出てからずっと、まるで妹のように、俺に寄り添っている。俺が一人で捕まる事は、もしかしたらキュートに不安を与えていたかもしれないか。


「……そうだね。今は、あたし一人じゃないもんね」


「そうだ。アサウォルエェに居た時とは違う。今は、手を貸す奴なんか幾らでも居るよ」


 そう言った時、自分の中で何か、ピンと来たものがあった。


 ――――手を、貸す。


 そうか。発動側の魔力に大地の魔力を使う事は無理だと諦めていたけれど、サポート側で使うのなら考えられるかもしれない。……何しろ、一度発動してしまえばそれまでだ。後は魔法公式の通りに作用させるだけ。


 ……俺の魔力に、手を貸させるんだ。当初の予定とは、少し違うけれど。


 気持ち良さそうにキュートは頭を撫でられていたが、ふと立ち上がった。


「あたしっ、次はちゃんとお兄ちゃんを助けるからねっ!! がんばるよ!!」


 全く、何がそんなに嬉しいんだか。


 両手でガッツポーズを作って、キュートは飛び跳ねた。……いや、だから、足は暫く安静にしていないといけなくてだな。


「めっちゃ特訓する!! 次は、壊す!!」


 何度か足で素振りを……だから、足は暫く……


 キュートは扉の前に走り、茶色のツインテールを揺らして振り返った。鉄拳を放つかのように左手を前へと突き出し、ポーズを決めた。


「兄よう!! 妹の活躍を、待っておれよ!!」


「……お、おう」


「あはははははは――――!!」


 高笑いをしながら、去って行くキュート。……せめて扉は閉めろ。


 あいつ、どうにも旅が長引くにつれて幼児化している気がするのは、俺の気のせいだろうか。安心できる相手が居なかったから、今までは子供としての自分を表現出来なかっただけなのかもしれないな。


 苦笑して、扉を閉める――……


 …………盗賊のプロは弱者を見捨てる、か。


 あまり深く考えるのは、俺の性に合わない。らしく行こう。


 俺は、初心者らしく。




 ○




 リンガデム・シティへ向かうメンバーと、隠れ家に残るメンバーを整理し、俺は現地へと向かっていた。


 情報を整理すると、マウス五世の言っていた『深淵の耳』はリンガデム・シティ付近にあり、そのリンガデム・シティはある日、唐突に姿を消したという。リンガデム・シティと言えば、サウスだのノースだのウエストだのと街が分かれているが、それら全てを『リンガデム』と名付けている、仲間意識の高い街だ。


 その中央にあるリンガデムの本拠地、『リンガデム・シティ』。話によれば、消えたのはこの街らしい。すっぽりと、リンガデム・シティそのものだけが影も形もなく姿を消し、砂漠になったと言うのだ。


 そんな事が起こり得るかどうかと言えば当然起こらないだろうが、とにかく事実確認が先だ。ということで、俺は消えた街『リンガデム・シティ』を目指す事にした。


 ……フィーナも、その先に居る訳だからな。


「やめてっ!! 高いところは苦手なのよっ!! 今すぐ降ろして!!」


 さて、リンガデム・シティに向かうメンバーは、レオ、俺、ササナ、そしてベティーナの四人と決めた。隠れ家では今戦えないキュートと、それをサポートするためにフルリュを配置。特に危険はないが、キュートが特訓と称して暴れる事を抑えるためには、フルリュの協力が必要だ。


 それに、結構この四人で冒険をすることは、バランスが良いのだ。


「お前……ラッツの犬の癖に、我儘を言うんじゃ……ない……」


 ササナがマーメイドの姿で、髪に手櫛をかけながら言った。


「だれが犬よ!! ていうかアンタ、やっぱり魔物だったのね!? 今すぐ<シャイニングハンマー>で押し潰してやろうか!!」


「杖なしで……やれるものなら……やってみろ……ポチ……」


「誰がポチよ!!」


 ササナがそう言うと、レオのドラゴンが不満そうに振り返った。……そういえばこいつも、『ポチ』だったな。レオが前を見たままで苦笑していた。


「どうやら、一緒にされたくないらしい」


「じゃあ……タマ……」


「どっちもイヤよ!!」


 ササナの毒舌に、ベティーナが反抗。だがまあ、魔法使いが杖を奪われたら、大魔法を使う事は難しい。この勝負はササナの勝利だろう。


「ラッツ。……俺的には、ベティーナは置いてきた方が良いと思ったんだけど……やっぱり連れてくのか……?」


「連れてくよ、勿論」


 レオがドラゴンを操縦しながら、俺に問い掛けた。さて、今回の俺のプランニングとして、折角パーティーが組める状況なので最も安定しそうな組み合わせを目指した。


 まず、最前衛にレオ。すっかり剣士として一人前以上になったレオは、<ドラゴンブレイク>による驚異的な破壊力と、前衛としての体力を持っている。後ろに隠れていても、レオが多数の魔物ないし敵を相手に出来るという利点から、まずレオは必須だ。


 前衛のレオが必須なら、後ろには魔法使いだろう。ということで、ベティーナを選択。まあ、俺が杖を持っている以上は逆らう事は出来ないし、こうなるとベティーナもただのツンデレである。


 それから、妨害・範囲魔法に長けているササナ。支援職の代表格である聖職者が居ないので、ここはトリッキーなサポート魔法の使えるササナだ。このポジションをフルリュと迷ったけれど、<重複表現デプリケート・スタイル>よりも、パーティーの安全性を重視した。


 ……というのは建前で、ぶっちゃけササナではキュートを止めるどころか、悪ノリして足を悪化させ兼ねないという配慮だった。


 フルリュは良い子だからな。安定のフルリュ。……まあ、フルリュも今は俺から距離を置きたい時間だろう。と思うのは、俺がそうだからだ。


 テイガの所から隠れ家へと戻る手前、俺はリヒテンブルクでフルリュに引き止められた。


 その時に俺は、ついうっかり思い付いた事を、そのまま喋ってしまったのだ。


『あの、ラッツ様。私の、その、告白の件は……』


『そうか。フルリュって人形みたいに可愛いから、ちょっと返事がし辛いだけなんだよな……』


『えっ』


 本当、一人で悶々と考えているのは良くない。良くなさすぎる。テイガの野郎。いや、八つ当たりだが。


 お陰でフルリュは俺と目を合わせると真っ赤になって逃げ出すし、ササナには疑われるし、良い事なしだ。いや、俺のせいだが。


 不意に、背中に柔らかい感触が走った。腹に両手が回される――……


「……あのー、ササナさん?」


「ううん……ラッツの中で……サナレベルが……下がったかと……」


「下がってない、下がってないから落ち着け」


 あててんすね。わかります。


 ベティーナが気持ち悪そうに青い顔をして、俺とササナの様子を見ていた。


「……よく、そんな芋臭いのに抱き付けるわね。キモっ」


「お前、俺に助けられておいて、それは流石に酷いと思うぞ」


 俺が苦い顔をすると、ベティーナはふふん、と言わんばかりのしたり顔で笑った。


「はあ? 助けられた? 違うわね。私が居なければ、あんたも助からなかったじゃない。都合の良いように解釈してんじゃないわよ」


 瞬間、ベティーナの身体が高く持ち上がる。……ポチが尻尾をベティーナの服に引っ掛け、持ち上げたのだ。瞬間的にベティーナの顔が青く染まり、ばたばたと騒ぎ出した。


 ポチでさえ、ベティーナの態度には腹が立ったらしい。


「ごめんなさい!! 私が悪かったです!! だから戻して!! お願いします!!」


 まあ、この場ではレオもササナも俺の味方だ。例え杖を奪い返す事に成功したとしても、ベティーナ一人でどうにかなるものでもない。


 それにまあ、こいつは俺に逆らわないだろう。そろそろ、レオが切り出してくる頃ではないだろうか。


 俺とレオは、お互いだけが見えるように、軽く笑った。


「あー、ラッツに何でもすると誓うか?」


「誓います!! 何でもします、奴隷のようにこき使ってくださいっ!!」


「……だとよ、ラッツ」


 ようやくベティーナが背中に戻され、浅い息をしていた。レオもほんの一年前までそこいらのギルドメンバーだったのに、すっかり安定している。……認めたくはないが、エト先生はやっぱりすごいってことだ。


 そのエト先生は、今は別のパーティーでダンジョンの調査をしているということらしいけど。今、どこに居るのだろうか。


 レオは一度だけ振り返って、ベティーナに睨みを聞かせた。


「お前、いつか治安保護隊員……っていうかベティーナ親衛隊が自分を助けに来るだろうと思ってるだろ」


「おっ……思ってないわよ? ちゃんと仲間として働くわよ。だから出て行くのに賛成したんじゃない」


 わざとらしい。……嘘が下手な奴だ。


「出る前にリヒテンブルクに寄った時、こんなものを見付けたんだ。諦めた方が良いぞ」


 レオはポケットから折り畳まれたチラシを取り出して、俺達に見えるように広げた――――何々? 重罪人ラッツ・リチャード、ベティーナ・ルーズを救出? 共犯の疑いも……なんだこれ。


 なるほど。あくまでも俺は悪者扱いってことか。ベティーナの顔が、見る見るうちに青くなった。


「うそ…………私、リストラ…………?」


「俺の顔も写ってる。……何れにしても、俺達はもうラッツの仲間ってことだ。セントラルに認められる何かを証明しないと、もう帰る場所はないってことだよ」


 がたがたと、ベティーナは震え出した。こいつが傲慢な態度を取らなければ、俺だって別にここまで虐め倒したりはしないんだけど……まあ、プライドがあるみたいだからな。無理なんだろうが。


 いや、それにしても震えすぎだろ……


「パパに殺される……」


 ベティーナの様子がおかしい。……幾らなんでも気にし過ぎだ。どうしたんだ……?


「さて、と。ラッツ、そろそろだ」


「おう、サンキューな」


 ポチの背中から、遥か遠くの地面を見下ろした。『リンガデム・シティ』に近付いて来たのだ。リヒテンブルクからは随分と離れていたから、それなりの時間が経ってしまったが――……やはり、ドラゴンの力というのはすごいな。俺がフルリュに捕まって飛ぶ速度とは比較にならない程速い。


 消えたというのは……あれか。東西南北、四つの方角へと続く道があり、その中心はただの草原だった。草原から伸びる四つの街。あれが、『ノース・リンガデム』、『ウエスト・リンガデム』、『サウス・リンガデム』、『イースト・リンガデム』だろう。


 ということは、やはり中心の草原に『リンガデム・シティ』はある筈だ。いや、あったと言うべきなのだろうが……レオに言われた通り、影も形も無くなっている。


「街一つ、まるごと消える事なんて……あるのかな?」


 俺が問い掛けると、レオは何とも言えない顔で頷いた。


「まあ、あるって事だろうが……何度見ても、信じられんな」


 もう少し、近付いてみる。何も無い草原だが――……一体何をどうしたら、こんな事になるんだろうか。建物の破片一つ見当たらない。元々の敷地がどうだったのか、それさえ分からないのだ。


 ……あれ? 四つの街のちょうど中心、草原の真ん中に何か、光るものが見える。黄金に光り輝くそれはかなり小さいが、確かな光を放っていた――――あれは。


「レオ、草原の中心に向かってくれるか」


「何か見付けたか?」


 まさか、こんな所で見付けるとは思っていなかった。




「……『ゴールデンクリスタル』がある」



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