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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第四章 初心者と高飛車魔法使いと消えた街の秘密
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E67 不気味な男、テイガ・バーンズキッド

 どうにも軽薄そうな声に呼ばれて、俺は鉄格子の向こう側を目を凝らして見た。薄暗くてよく分からなかったが……<ライト>を使うのは、流石にまずいだろうな。


 鉄格子を握って俺を呼んでいる男が居る。向かい側……か。


「やーっぱり、ラッツだ。ラッツ・リチャードだろ、お前さん。……ヒヒヒ」


 何だ……ラリってんのか?


 男はバンダナを頭に巻いていて、目の上がバンダナに若干隠されていた。髪の毛の色は白に近い水色……だろうか。この暗がりでは姿もよく分からない中、髪の色が妙に目立って見える。


 鉄格子を握る、真っ黒い手袋が不気味に震えていた。


「お前さん、シルバード・ラルフレッドにやられてここに来たのかい?」


「いや……ベティーナ・ルーズって早口魔法使いにやられて捕まったよ」


「そうかァ……無念は晴らせなかったのかァ、可哀想に……ヒヒヒ……ゼエ、ゼエ……」


 何だ、こいつ何かを知ってるのか……? 何やら息が上がっているが……


「シルバード・ラルフレッドは、ソードマスターを辞めたんだな」


「ヒヒヒ! これがァ、傑作なんだなァ。お前さん、シルバード・ラルフレッドに追い掛け回されていたろ。あれ、単なる逆恨みなんだ」


「逆恨み?」


「フィーナ・コフールのことさァ…………アー、薬が切れてきちまったぜ。つまんねえ。これで最後なんだよなあ。くそが、足りねえ。足りねえなぁ……」


 ……なんか、不気味な奴だな。上着の内ポケットに隠していたのか、男は何度も内ポケットを探りながら、ため息を付いた。


 だが直後、俺を見ると陰湿な笑みを浮かべて、鉄格子をガタガタと揺らした。


「おい、ちょっ……止めろよ、保護隊員が来るぜ」


「まさかお前さんに会えると思わなくてね、少々興奮しているんだ。まァ気にするな、楽に行こうぜ」


 お前のせいで俺は気が張っているんだが……そんな事を言っていても仕方がないので、俺は溜め息をついて男を見た。


「名前は?」


「テイガ・バーンズキッド。テイガでいいぜ。……それで、シルバードの事なんだが。あいつ実は、ギルドリーダーになる予定だった男じゃねえのよ」


 シルバード・ラルフレッドが、ギルド・ソードマスターのギルドリーダーになる予定はなかった? ……どういうことだ、それ。


 俺がアカデミーを卒業する頃には、もうシルバード・ラルフレッドがソードマスターのギルドリーダーだったからなあ。そこら辺の情報は、まるで知らない。


 こいつ若そうに見えるけど、意外と年食ってるんだろうか。


「『ノース・ロッククライム』って知ってるか? 北の地方にある、炭鉱で食ってる村なんだが――……」


 ロッククライム? ……それは、俺の故郷だけど……


 俺は首を傾げて、テイガの言葉を聞いた。


「そこに、場違いにも『コフール一族』って聖職者の一族が家を構えていてなあ。ギルド・セイントシスターのギルドリーダーとして、代々バトンを回してきたのがコフール一族。その一人娘が、フィーナ・コフールってわけだ」


「えっ? ……ってことは、フィーナは『ノース・ロッククライム』に居た、ってことなのか?」


「そうだ。で、ここからが面白い所なんだがよ」


 フィーナが、ロッククライムに住んでいた事がある? ……俺、当然知ってる筈だよな。どうしてだろうか、あまり記憶にないが……


 あまり、外に出ない家風だったのかな。それで俺とは接触が無かったとか、そんな所なのかもしれない。


 …………そうか? 思い出せん……


「当時、フィーナ・コフールが次期ギルド・セイントシスターのギルドリーダーとして就任しようって時に、ソードマスターの次期ギルドリーダー候補はシルバードじゃあなかった。当時のギルドリーダー、エトッピォウ・ショノリクスの一番弟子だったんだがな」


 エト先生! ……って、やっぱりエト先生のフルネームって『エトッピォウ・ショノリクス』だったのか。ダサいな……


 エト先生の一番弟子は、シルバード・ラルフレッドじゃなかったのか。その話を聞いた時、俺は眉をひそめた。


「待て待て。じゃあ、一番弟子はどうなったんだよ」


「そう、それよ。エトッピォウ・ショノリクスの一番弟子、名前はなんつったかな。忘れちまったが、ある日行方不明になりやがったのさ。誰も知る所ではないが――――実際にやったのは、裏ギルド『チャンピオンギャング』の当時のボス、ゴールバード・ラルフレッドだと俺は知ってんだなァ」


 ゴールバード・ラルフレッド?


 ……ラルフレッド、だと?


 いつの間にか俺は真剣に、テイガの話を聞いていた。その場の境遇など考える事もなく、鉄格子の前に座り込んだ。


「ゴールバードは強欲な権力者の上、親バカでな。子供の望むもん、何でも与えちまう。当時のシルバード・ラルフレッドが、次期セントラル国王の就任パーティーで出会ったフィーナ・コフールに一目惚れして、表舞台を歩かせようと決心したって所だろう」


「それで、エト先生の一番弟子を殺したのか……?」


「殺したのかは知らねえ。今もどこかで生きてるのかもしれないさ。ギルドリーダーではないがね」


 他の牢屋は、静かだ。この部屋には合計六つの牢屋があるようだが、中央の通路を挟んで三つ並んでいる牢屋の中央に俺、向かい側にテイガという位置関係で、他に人は居ない。


 俺とテイガ以外に人が居ないからか、テイガは妙に饒舌だった。


「ところが、この後任のシルバード・ラルフレッドは見た目良い奴なんだが、中身はしっかり『チャンピオンギャング』のままなんだなァ。ルールスレスレの恐喝やら強奪やら、バレない犯罪まで、何でもしちまう。ところが、唯一望んでいたフィーナ・コフールの気持ちだけは、寸での所で取り逃がしたってワケだ。お前のことよ、ラッツ・リチャード」


 俺は、いつかフィーナがシルバードの事を悪く言っていた事を思い出していた。


『残念ながら、あんな七光りの馬鹿息子に用はありませんわ』


 ……なるほど。人は見かけによらないってのは、この事なのか。まあ何だかんだ俺も、シルバードにはゴールデンクリスタルのことで、やり込められたような格好になってしまっているけど。


 いや、待て待て。出会ったばかりの、しかもちょっとキチガイっぽいこの男の話を信じるのか? ……信じるに足る話ではあるかもしれないが、かといって無闇に信用し、そうと決めつけるのは時期尚早ってもんだろう。


「だが、ゴールバード・ラルフレッドその人は、表舞台でも活躍してた人だろ? 聞いてないぜ、シルバードの親父がチャンピオンギャングのギルドリーダーだなんて」


「そりゃそうだ。ソードマスターのギルドリーダーになるような奴に、悪い噂が立ったらまずいだろ。エトッピォウ・ショノリクスと取引して、そこら辺はきっちり解決してんのさ」


「ふーん……」


 ……まあ、信じるに足る話では、あるのだが。


 エト先生が自分の弟子を行方不明にされて、首を縦に振るとも思えないが……ゴールバード・ラルフレッド、一体どういう人間なんだろうか。


「結局、最終的には恋心を逆手に取られて、フィーナ・コフールのセイントシスター辞任の口実に使われて、挙句他の男にフィーナを取られてるんだから、どうにもならねえ。しかも、そのフィーナ・コフールが話せなくなったってんじゃ――……」


 話の流れに任せて、危うく聞き逃す所だった。だが、その名前に身体は勝手に反応した。


「おい、ちょっと待て」


 その時、俺は。


 信じられない言葉を、テイガ・バーンズキッドから聞いた。


「話せなくなった? ……フィーナが?」


「何だ、お前がやったんじゃねえのかよ? 皆言ってるぜ、お前がスカイガーデンで酷い振り方をして、フィーナに<マークテレポート>を使わせたんだって」


「<マークテレポート>?」


 さっぱり、話が見えない。俺が頭に疑問符を浮かべている事を見てか、テイガは途端に面白く無さそうな顔をして、言った。


「何だ……? お前さん、本当にラッツ・リチャードか? スカイガーデン没落の時、何してた」


 あの時……俺は、<凶暴表現バーサーク・スタイル>を使って。


 フィーナとロイス、ゴボウをスカイガーデンから、セントラル大陸まで飛ばして。


 それから…………


「スカイガーデン没落、ってのは…………」


「スカイガーデンが海に落下したって話だ。人も無事、建物も無事、落下の衝撃もねえ。何かがおかしいと思ったら、その直後に現れやがったのよ。巨大なバケモンが」


 俺は、何も、知らない。


「スカイガーデンから人が逃げ出して、リヒテンブルクに行った。そしたら、バケモンはスカイガーデンから先には来なかった――……。あいつはラッツ・リチャードが召喚して、スカイガーデンを滅ぼそうとしていたんだと。そういう事になってる。当時、スカイガーデンは新規の『スカイゲート』利用者を禁じていてなァ。スカイゲートパスを持った知り合いが居なければ、入れないようになってた。入ったのはラッツ・リチャードと、フィーナ・コフールだけだった」


 あの時俺は、たまたまロイスが『スカイゲートパス』を持っていたから。ロイスに入れて貰おうと、思っただけで。


 決して、化物を召喚しようなんて、思ってない。


「……俺はそんな話、知らねえぞ」


「何だ何だ、すげェ奴が入ってきたと思ったのに……脱獄に協力させようと思ったんだがな。くだらねえ、寝よ寝よ」


 こいつは脱獄作戦を俺に手伝わせる為に、今まで情報を喋っていたのか。……なんだか、納得だ。


 しかし、とんでもない話を聞いた。俺は確かに『真実の瞳』を持って、魔界まで逃げて来たようだったが……その直後に、恐ろしい事件が起こったもんだ。


 俺の、せいか?


「…………被害者は?」


「あー? お前に話して何の得があんだよ」


「頼む、もう少しだけ教えてくれ。結局被害者は、居たのか? 居なかったのか?」


「……分からねえんだよ。誰も覚えちゃいねえ。全員救出されたって認識だったみたいだが、数は合わねえ。不思議なもんだ。フィーナ・コフールも世にも恐ろしいものを見たって顔で震えるだけで、何も喋りゃしねえ。だから、犯人では無いだろうとされた。セントラルのフィーナ・コフールに対する信頼だろうな、これは」


「ロイス・クレイユは。スカイゲートパスの持ち主だ」


 俺がその言葉を発した時、テイガの顔色が変わった。……何だ? 当然、俺は聞くべき事を聞いただけだと思っていたが……


「――――知らねえ」


「え?」


 テイガは嬉しそうな顔をして、一度は寝転んで向けた背を、もう一度ひっくり返して俺の方を向いた。


「何だ? それ。誰だ? それ。もしかして、そいつがスカイゲートパスの持ち主か?」


「……はあ? だから、そう言って」


 テイガが狂ったような動きで、牢屋の鉄格子に体当たりをした。俺は驚いて、少し身を引いてしまった。テイガは涎を垂らしながら目を見開いて嗤い、じっとこちらを見詰めている。


「うるさいぞ!! 静かにしろ!!」


 治安保護隊員に怒られるも、テイガは見向きもしない様子だった。……これだけじっと見られると、流石に気持ち悪い。何もしていないのに、肩で息をしているし……


「そうか。やっぱりお前は、スカイガーデン没落事件の切っ掛けになった、ラッツなのかもしれねえな。面白くなってきたぜ……」


「……面白い事なんか、一つもないだろ」


「いやあ? あるぜ。俺はこれでも、裏ギルドの『ギルド・ローグクラウン』の人間でね。情報を売るのが仕事でさあ。スカイゲートの利用記録までは辿り着けたが、何故かスカイゲートパスの持ち主が消えている事は気になってた」


 ってことは、ロイスは今、どこでどうしているのかも分からないってことだ。


 …………これは確実に、俺の、せいだ。


「それでも、良い値段だったんだよなあ。ノース・ホワイトドロップの記者に売り付けたら、高かった――――まあ、関係者を疑われてこんな所に居るんじゃ、仕方ねえけどな」


「……たったそれだけで、閉じ込められたのか」


「人間でも魔族でもない、訳の分からないバケモンが現れたってな。もう、どいつもこいつも疑心暗鬼よ。お前だって、事件に関わっているのかどうか、それさえ分からないのに、こんな所に居るんだろ?」


 …………まあ、確かに。


 それを差し引いても、こいつは態度や言動がちょっとアレな所あるからな。疑わしいと思われても仕方がないかもしれないが。裏ギルドの人間らしいし……


 しかし、俺の事はまた話が別だ。『真実の瞳』は『ガスクイーン』が持っていたから、それを奪う事で別の化物が現れるってのも、少し考え難いし――……どういう事なんだ? 俺は化物なんか召喚出来ないしな。


 それとも、『真実の瞳』そのものを、あの場所から離す事がトリガーになっているのか――……?


 ……考えたって、分からないが。


「もし、知ってたら教えてくれ。フィーナは今、どこに居るんだ」


 俺が問い掛けると、テイガは厭らしい笑みを浮かべた。


「キヒヒ……それを教えるのは簡単なんだがまあ、俺も情報屋だからな。あんまり、タダで教え続ける訳にもいかねえ。どうよ、同じ境遇で閉じ込められた者同士、ここから出てからやり取りするってのは」


「……ここから、出てから?」


 俺が問い掛けると、テイガは人差し指を立てた。俺が小首を傾げると、テイガは気持ちの悪い笑みを貼り付けたまま、眉をひそめた。


「一万セルだ」


「はあ?」


「だから、一万セルだって。フィーナの居場所。特別に、今迄の情報はタダにしといてやる――――最も、お前が俺に協力するなら、だが」


 協力するも、何も。こんな鉄格子の部屋で、出口はない。常に治安保護隊員が表を見張っていて、とてもじゃないが出られる雰囲気ではない。


 だが、テイガは言った。


「悪い話では、無いと思うぜ? どの道俺もお前も、このままここに居れば三日後には処刑なんだからよ」


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