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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第三章 初心者と小悪魔ネコミミと魔の国の人々
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D53 北の森の大ネズミ

 翌日になると、俺は早速リュックに荷物をまとめ、宿を出た。フルリュとキュートと港町タスティカァを歩き、どこか人目に付かない場所へと向かう。


「一応確認したいんだけど、昨日言ってた『サッポルェの森』ってとこに、カモーテルはあるよな?」


 パペミントやカモーテルなんて森系のダンジョンなら日常的にどこにでも生えているものだとは思うが、一応確認する。道端に生えている雑草が薬草かどうかを見極めるスキルは、面倒だと言わずにアカデミーでしっかり習っておいたから、見れば一発で分かるのだ。


 店で買えばアホほど揃うから、アイテムエンジニア志望以外は見向きもしない授業だったけど。


「カモーテル……ですか。ラッツ様が持っていた、緑色の瓶ですか?」


「そう、あれの元は草なんだ。ちょっと細長い感じの」


 地面に軽く絵を描いて見せると、フルリュは首を傾げた。


「どこにでもありそうですけど……すいません、魔族はあんまりこういうもの、使わないもので……」


 その言葉を聞いて、安心した。


「ああ、なら大丈夫だな」


「え? ……え?」


 頭に疑問符を浮かべて悩んでいるフルリュを横目に、俺はずんずんと北へ向かう。港町タスティカァを出た辺りで、俺はフルリュを前に立たせ、腰を掴んだ。


「んぁっ」


 …………随分久々に聞いたな、この声。フルリュのエロボイスがずしんと脳内に響いてくる。


「ちょっ、お兄ちゃん!? 何してんのこんな昼間から!!」


 赤面して目を覆うキュートだったが、指の隙間から俺とフルリュの様子がばっちり見えている。……この小娘は。


 俺は苦い顔をして、キュートを一瞥した。


「ちげーよ。空飛んでサッポルェの森まで行こうって考えだ。仕方ないだろ、他に掴む場所がないんだから」


「え? 肩は?」


「えっ」




 ○




「いや、しかしフルリュの成長ぶりには驚いたな」


 肩というかフルリュの首にぶら下がること、二十分。おんぶのように絡み付くことでフルリュの首が締まることを阻止すると、腰を掴んだ時よりは遥かに楽に移動することができた。


 何故思い付かなかった、俺。


 どうにか一時間もせずに俺とフルリュは『サッポルェの森』に到着した。地面に着地すると、遅れて降りてきたフルリュが笑顔のまま、俺に向かって小首を傾げる。


「成長、ですか?」


「前は武器持ったまま飛べなかっただろ?」


「ああ、それのことですか」


 フルリュは目を閉じて、両手を前に突き出した。すると、フルリュの全身に緑と紫の入り混じったようなオーラが立ち昇った。……これは、前にも見たフルリュの魔力だ。


 放出されているうちの幾らかは、フルリュの両手に向かって集まっていく。そのまま、フルリュはサッポルェの森と向き合った。


「<ホワイト・カット>」


 そう宣言すると、フルリュの両手から風が巻き起こった。それはサッポルェの森に向かって飛び、いくつかの木を切り倒す。


 ……おおー。フルリュが攻撃魔法を放ったぞ。


「って、風?」


「はい。私もようやく、一人前にハーピィの魔法を使えるようになったんです」


 攻撃魔法の基礎ってのは、基本的に三種類だ。炎、水、雷。それらはレッド系、ブルー系、イエロー系とも呼ばれるけれど――――現象として起こせる魔法ってのは基本的にこれだけで、後はこれらを複合して何かをする魔法になる。俺の使う<強化爆撃イオン>とか、ロイスが見せた<超・放・エクストリーム・ディスチャージ>とか。


 まあ、三種類の属性を全て混ぜた闇魔法とかいうのも存在するらしいけれど、扱いが難しいから使われる事は少ないと聞く。


 それが、かまいたちとは……どうやっているんだろう。


「やっぱり、魔族の使う魔法ってすごいな。元から複合魔法なんだもんな」


「魔族の持っている魔力と人間の持っている魔力って、性質が違うらしいですよ。同じ部分もあるけれど、微妙に違うんだとか」


「ふーん?」


 よく分からないが、そういうものらしい。相変わらず、魔法学は魔法公式を少し理解した程度のレベルだからな。やはり、魔法学者に弟子入りするしかないのだろうか。


 ふと、背後から地鳴りのような音が聞こえる。それが何者によるモノなのかを理解していた俺は、特に振り返る事もなく、それの到着を待った。


「こらあ――――――――!!」


 普通の人間なら、走り倒す事なんて無理な距離だ。流石のキュートも、僅かに息が上がっていた。


「おお、もう到着したか。流石だぞ、妹よ」


「お兄ちゃんだけずるい!! なんであたしは走らなきゃいけないんだよー!!」


 僅かに頬を紅潮させて――運動によるものだろう――キュートが抗議した。俺は予めリュックに持っておいたものを取り出し、キュートに手渡した。


「よくここまで走って来る事ができたな。まあこれ、食えよ」


「えっ!? くれるの!?」


 キュートに手渡したのは、タスティカァで買っておいたバナナ。ぱあ、と目を輝かせて、それを受け取るキュート。すぐに皮を剥くと、もしゃもしゃと食べ始めた。


 …………安い娘だ。


 さて、ここからが肝心だ。俺の目的は、パペミントでもカモーテルでもない。パペミントは<ヒール>で充分だし、カモーテルもまた、魔力の多い魔族にはあまり回復手段として有効でないだろう。


 いや、そもそも魔力回復なんてどうでもいいのだ。俺は別の目的で、今回カモーテルを探しているのだから。


 俺が探しているのは、『ハイ・カモーテル』だ。多少レアなアイテムではあるが……ダンジョンを探せばまあ、一つくらいは見付かるのではないだろうか。


『ラスト・カモーテル』が手に入れば万々歳だけど、中々見付からない高級品だ。あったらいいな、くらいに思っておこう。


「それじゃあ、中に入ろうか」


「ねえお兄ちゃん、そろそろ教えてよ。何を探してるの?」


「秘密。まあ、金が手に入ったら教えてやるよ」


 そういえば、この場所にはキュートの言っていた『ゲート』、あるんだろうか。俺はリュックから『真実の瞳』を取り出した。


 相変わらず、奇妙な魔力に包まれている――……俺はそれを、望遠鏡のように透かして見た。ダンジョンだけあって、色々な魔物の魔力を確認することができる。


 異質なものを探すんだ。一カ所に固定されていて、変な感じのする魔力を……。


 森の向こう側が一瞬、強く揺れた……何だ? 俺は水晶球の向こうを、より遠くを見渡そうと目を凝らす。


「ラッツ様!!」


「お兄ちゃん!!」


 ――――目の前に、巨大なネズミの顔が見えた――――


 瞬間、俺は真実の瞳をフルリュに向かって投げ、同時に右手をリュックに伸ばし、引き抜いた。取り出したるはティロトゥルェで買ったナイフ。ネズミの長剣に合わせて、攻撃を受け止める。


 重いっ――――!!


「<パリィ>!!」


 間一髪、押し切られる前に攻撃を<パリィ>を用いて受け流す。俺の左手がリュックから二本目のナイフを取り出す頃には、既にネズミの長剣は俺の眉間に迫っている。


「ちぃっ!!」


 すぐに頭を右にずらす。ネズミの長剣が前髪を掠り、それでも俺はどうにか、横っ飛びに転がった。


 何だ、何だよ。何でいきなり攻撃されてんだ、俺。


 前転をして体制を立て直す頃には、既にネズミの姿は消えている。どこだ――――!?


「上だよ、お兄ちゃん!!」


 その声は、既に上から聞こえた。上空を見上げると、俺に向かって斬り掛かったネズミへ、キュートが横から飛び膝蹴りをかまそうとしていた。


 キュートの膝が、ネズミに迫る――……


杜撰ずさんな攻撃だな。突っ込むだけで勝てるのは力比べの時だけだ」


 ――――なんだ、今の動き。


 気が付けばキュートは飛び膝蹴りを空振りし、そのままネズミを雲のように通り抜けていた。一瞬の事でキュートは目を丸くして、そのままサッポルェの森に向かって突っ込んでいく。


「にゃあああああ――――――――っ!!」


 ネズミの勢いは止まらない。俺は二本のナイフを持ったまま、全身に魔力を展開した。


「<ホワイトニング>!!」


 間に合うのはこれだけだ。上空から迫るネズミが大上段に構えた剣を、俺は前に跳ぶ事で回避。大きくネズミの下を潜った。今度は奴の動きを見逃すものか。着地前に振り返って、移動のモーションを見極める。


 あれ? もういねえ……


「後ろだ」


 ――――ちっ!!


 次第に焦り始めた俺は、掻き消すようにナイフを背後に一振りした。当然そこにネズミの姿はなく、だだっ広い草原が広がるばかりだ。


 キュートが森に突っ込んで、僅かに砂埃を巻き上げた。


「<キャットウォーク>!!」


 とにかく、見えるようにならなければ。今度は移動速度を跳ね上げ、俺は気配だけを頼りに屈んだ。


 ネズミが横薙ぎに払った攻撃が、真上を通り過ぎる――――あぶねえっ!!


「ラッツ様!! こちらへ!!」


 フルリュが<マジックリンク・キッス>の準備を終えて待っているが、正直この状況でキスなんかしている場合じゃない。<キャットウォーク>込みでも相手の姿すら捉えられないのだ。――――なら、どうする。


 地面に右手をつき、全身に魔力を展開した。こいつは割とコントロールが楽な魔法だから、<レッドトーテム>と違って自分自身がダメージを喰らうことはない。


 代わりに威力は弱点でなければゴミみたいなものだが、一瞬怯んでくれればいい。


「<イエローボルト>ッ――――!!」


 俺の周囲に向かって、範囲攻撃を放った。


 案の定というか、ネズミは一旦俺から距離を取った。バックステップのモーションを見たことで、俺にスキル付与の余裕が生まれる。


 両手のナイフをネズミに向かって投げ、俺は宣言した。


「<イーグルアイ>!!」


 これで三つ目。近接戦闘においては、俺のフルスペックだ。間を通り抜ける事は出来ないように投げた二本のナイフを、ネズミは屈んで避けた。


 その間に、俺は既に弓を引き抜いている。一瞬だけネズミが顔色を変えたのが、確かに分かった。


「ほう…………!!」


 三本の矢はネズミを跳ばせるよう、間隔を空けて足下に放たれた。すぐに弓を戻し、今度は魔法の杖を取り出して魔力を高める。


「<マジックオーラ>!!」


 付与、四段目。これで魔法戦闘に関しても限界の付与だ。ネズミが前方に跳んだ瞬間、俺は歯を食いしばって杖を振り翳した。


「<レッドトーテム>!!」


 ネズミが突っ込む位置に、全力の<レッドトーテム>を配置した。森系の魔物だ、流石に火は効くだろう。……今度こそ、絶対に姿を見失うような真似はしない。


 キュートの事は心配だが、とにかく倒す事が先決だ。ここが森でなく、森の手前の草原で救われた。


 杖を戻し、両手に魔力を展開。ダメ押しの火球を、両手に構える。


「オマケだ受け取れ!! <レッドボール>ッ!!」


 いつかリザードマンにやったように、<レッドボール>の雨霰を降らせた。ネズミの姿が完全に<レッドトーテム>に消え、奴は火柱と火の雨に突っ込む――……


 ――――えっ?


「ラッツ様!!」


 おい、ちょっと待てよ。


 何で、<レッドトーテム>に突っ込んだ筈のネズミが、まるで何事も無かったかのように俺の目の前に現れているんだ。


 つい先程までネズミと俺を隔てるように存在していた、<レッドボール>と<レッドトーテム>は、どうして抜かされているんだ。


 思考が完全に停止し、俺は目を大きく見開いた。


 動け、俺の身体。呆気に取られるな。


 ――――動け!!


「うおおおおおっ!!」


 瞬間的にリュックから長剣を引き抜いて、ネズミの攻撃を受け止めようとした。大上段に振り被られた剣――――では、ない。ネズミは上からの攻撃にも関わらず、下から掬い上げるように剣を構えている。


 だから決め付けてかかるなって――――――――


「……やはり、人間か。その猫耳はフェイクだな」


 長剣は弾かれ、大きく真上に跳ね上がった。


 俺はバランスを崩して仰向けに落ちる。ネズミ男の顔が、目前にまで迫る。背中から地面に落ち、二足歩行のネズミに身体の自由を奪われる。


 ――――そうして、頭の真横に剣が突き刺さった。恐怖に思考が塗り潰され、俺は全身を硬直させた。


「答えろ。その『真実の瞳』、どこで手に入れた」


 胸を踏み潰され、息が止まる。……なんだ、こいつ。あまりの動きに、まるで身体が付いて行かなかった。……真実の、瞳? なんだかよく分からんが、こいつは真実の瞳を知っているのか?


「どこでって……お前に何の関係があんだよ!」


「質問をしているのは俺だ。質問に答えろ。……そいつは、半端な者が使って良いアイテムではない」


 ……なんだか分からんが、感じの悪い奴だ。恐怖に一度塗り潰された思考をどうにか奮い立たせ、俺はどうにか、不敵な笑みを浮かべた。


 策はある。武器が落ちた場所は、大体把握している。


 ネズミの眉とも言えない部分に、皺が寄った。


「――――やなこった。<強化爆撃イオン>」


 広場が、光に包まれた。


 想定通り、ネズミは俺から離れた。放っておけば、自分が攻撃を受けるからだ。


「あっちぃっ――――!!」


 俺はすぐに後方に飛ぶと体勢を立て直し、自身を<ヒール>で回復する。


 ネズミの背後――――先程俺が放った<レッドトーテム>を爆発させたのだ。爆発に少しだけ巻き込まれた俺は、軽い火傷を負いながらも自身を回復、すぐに立ち上がった。


 全身に魔力を展開。足下から吸い上げる異質の魔力を体内に取り込む。混ざり合った、完全には混ざり合わない不思議な魔力は、俺の両手に集中される。


 煙が晴れると、ネズミは俺の様子を伺うように見ていた。前回は自爆くらいしか策がなかった。


 今回は、違う。


 全身全霊を持って、俺は宣言した。


「――――<限定表現レストリクション・スタイル>!!」



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