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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第二章 初心者と電波系マーメイドと空の島の秘宝
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B40 凶暴表現(バーサーク・スタイル)

「<ブルー・アロー>!!」


 ロイスが取り出した妙な矢は、放たれるとその奇妙な先端を破裂させた。中に入っていたのは、液体――――透明の、液体だ。ロイスはそれを、ガスクイーンの頭上目掛けて何本も放った。


<ブルー・アロー>による、水分の追加。それによって、元から液体を持っていた矢は水を纏い、更に水分量を増していく。


 まるで、雨だ。矢から降り注ぐ、大量の雨――……フィーナの作り出した<サンクチュアリ>の中から、ロイスは雨を降らせた。


「まだまだっ……!!」


 ロイスは弓を片手に、両手を前に突き出した。魔力が展開されるとエメラルドグリーンのオーラが立ち込め、それがロイスの両手に向かって収束していく。


 そして、ロイスの真下に浮かび上がる魔法陣。これは――真下に浮かび上がる魔法陣、両手の魔力。そして――――…………


「水帝の賢人の理に従い、災いを有るものとせん」


 そして、詠唱。


 間違いない。このモーションは魔法使いの、それも『ギルド・マジックカイザー』の連中の中でも、かなり難しい魔法――『大魔法』の類だ。


 真下の魔法陣で魔法公式を造り、両手の魔力を魔法陣に流し込み、詠唱の完了をもってトリガーとする。同時に三種の魔力を制御しなければならないから、マジックカイザーの連中でも出来る奴はそれなりに限られてくる。


 どうして、それをロイスが――……


「聡明な双眸は高波……賢明な意思は突風……我、海底都市エルガンザルドの掟に従い、汝らを解き放ち給え」


 ……なるほど。上等な弓士は、魔力のコントロールにも、遠距離戦闘にも秀でている。援護射撃ではなく、遠距離で戦うエキスパートだ。ならば、奥の手があってもおかしくない。


 やっぱりロイスは、弓士としてのスキルだけなら既に超一流なのだ。


 後は、度胸が付いて来れば。


 ロイスは、目を見開いた。


「フィーナさん、<サンクチュアリ>を消さないでっ……!! <タイダルウェイブ>ッ!!」


 巨大な津波がロイスの後方より現れ、ガスピープル共を襲う。津波で一網打尽にする気だ――――いや。


 ロイスはすぐに弓を取り、構えた。瞬間的に矢筒から引き抜いたのは、先端の鋭い『鉄の矢』。それを、ガスクイーンに向かって構える。


 緊張に身を強張らせながらも、俺に振り返って笑ってみせた。


「ラッツさんの戦い方を見ていて、思い付いたんです。……見ててください」


 津波がガスクイーンを襲う。逃げ場などなく、ガスクイーンの周辺に取り巻くガスピープルを巻き込んで――やはり、魔力による攻撃は効くのか。ガスピープルは、煙だというのに苦しそうにしていた。


 あの煙のような身体も、きっと実際は煙ではないのだろう。


 いや、しかし。これは――……


「喰らえバケモノ!! ――――<シャイニング・アロー>!!」


 弓を中心にロイスの全身が発光し、波動砲が放たれる。


 勿論それは、<タイダルウェイブ>という大技に巻き込まれたガスピープルよりも早く、<タイダルウェイブ>そのものに接触する。そうして、矢は弾け飛んだ。


 そうか。


 超電力による攻撃の<シャイニング・アロー>は、莫大な水分量の<タイダルウェイブ>に吸い込まれていく。


 俺達は<サンクチュアリ>の中に居るから、水の影響すら受けないが。これは――……


 まるで引火するように、僅かな音と共に。


 拡散する。


 ――――爆発的な、速度で。




「<超・放・電エクストリーム・ディスチャージ>――――――――!!」




 目を覆いたくなるほどの光量で、ロイスの放電攻撃が炸裂した。俺はどうにか、その瞬間的に照らされる広場を見ていたが――――駄目だ。こんな光の中で目を開いていたら、目が馬鹿になっちまう。


 フィーナの防御が無ければ、俺達も即死級のダメージを受けていたであろう連携攻撃。フィーナは何も言わないが、一体何を考えているのだろうか。


 …………少しだけ、心配だったが。


 ロイスは魔力を使い果たしたのか、それとも反動からか、その場に尻餅をついた。膨大な魔力の攻撃が止み、出現していた津波も、電気も、その場から姿を消す。


 そこには――――世にも大量の、ガスピープルのドロップアイテムが転がっていた。


「よしっ!! これで――――――――」


 ロイスの言葉は、そこで止まった。


 すぐに、その表情は絶望の色に染まる。一瞬でも起きた期待は奈落の底に落下し、一転してその場に混乱を巻き起こした。


「なっ――……なんで!? ……どうして!?」


 誰にも、分かる筈がない。


 巻き込んでやられたガスピープルは跡形も無く消えているのに、その場に居た赤い煙の大女は、まるで何も起きていないと言ったかのように、そこに浮かんでいた。


 怒っていた。取り巻きがやられたからだろう、もしかしたら当分は再生しないのかもしれない。そこら中に転がった、ソフトボール大のドロップアイテムを見て、ガスクイーンは額に青筋を浮かべていた。


「”#$%!? ’’’!&$%!?」


 何かを喋っているのだろうが、ガスピープル以上に言葉が聞き取れない。奴等の声も高いのに、このガスクイーンとかいう親玉はそれ以上だった。耳を塞ぎたくなる、超音波のような音だ。


 残念ながら、今の俺では塞ぐ両腕が機能しないのだけど。


「…………どうして…………? このままじゃ…………ラッツさんが、死んじゃう」


 うわ言のようにフィーナが呟いて、その場に崩れ落ちた。硝子が割れるように、俺達を守っていた<サンクチュアリ>が消える。


 ロイスが、驚愕の瞳でフィーナを見た。


「フィーナさんっ!? 大丈夫ですか!?」


 ……駄目だ。事情は分からないが、フィーナが機能停止してしまった。零れた涙を拭く気配もなく、その瞳には最早、何も映っていない。


 一体、どうしたんだ。このままじゃ、俺だけじゃなくて、皆も――――…………


 俺が動けていたら、何かが変わっただろうか。


 口が、動かない。フィーナに声を掛ける事さえままならず、俺はただ、この状況を見守っていた。ガスクイーンの右腕が、突如として巨大な槍に変わる。


 真っ直ぐに、フィーナ目掛けて振り被られた。


「フィッ――――!? フィーナさんっ!! 避けて!!」


 ロイスが弓を捨て、フィーナに向かって走った。


 おい。やばいぞ。


 ――――このままじゃ、全滅しちまう。


「フィーナさんっ!!」


 ガスクイーンの攻撃がフィーナに向かって刺さる直前に、ロイスはフィーナを突き飛ばした。


 そして。


「――――あっ」


 声が出ない筈の俺の口から、僅かに吐息が漏れた。


 ――――――――ロイス!!


 巨大な槍が、ロイスの腹を貫いた。何が起きたのか分からなかったのだろう、ロイスは自分の腹を見詰めて、呆然としていた。


 ガスクイーンが巨大な槍を抜き、ロイスがその場に崩れ落ちる。


「くそっ!! 解毒の魔法公式さえ作れれば、どうにかなるかもしれないのに……!!」


 ゴボウが悲痛な声を出した。


 フィーナは最早どうにもならず、ただ震えていた。


「私は『また』、助けられない…………」


 俺がやられてしまったことが、フィーナのトラウマのようなものを呼び起こしてしまったのだろうか。


 フィーナの瞳には、何も映っていない。……いや。


 映っているのは、『過去』。


 そんなにも衝撃的な何かが、あったと言うのだろうか。


 俺に、関わること?


 ――――さあ?


 覚えていないな、昔のことは。『あの炭鉱で、何が起きたのかなんて』。


「聖職者の娘――――フィーナ!! フィーナよ!! 目を覚ませ!!」


 ゴボウが必死で、フィーナを呼び掛ける。だが、フィーナがそれに応える事はなかった。


 ガスクイーンはロイスが倒れた事を喜び、そして再びフィーナに向かって槍を構えた。


 悪夢だ。


 ――――ああ。


「なあ、ゴボウよ」


 その言葉は、言葉になっていただろうか。それとも、俺の麻痺してしまった唇はもう、動かなかったのだろうか。


 だが、ゴボウには伝わっているようだった。俺の様子に気付き、振り返ったように見えた。


 その、『神具』の中で。


「二人を助ける方法はないか?」


 俺の慢心が、招いたことだ。


 実際の所はどうだ、なんて、どうでもいい。あの状況下で俺が動いたのはベストだったとか、ベストではなかったとか、実際の所どうだったのか、なんてことは、どうでもいいことなんだ。


 ただ、俺は間違いなく慢心していた。


 余裕だった。


 余裕な振りをしていたんだ。


 いつも、そうだ。俺の慢心が、被害を呼ぶんだ。……フルリュの時も、レオの時も、ササナの時も、そうだった。


 あの時俺が、事態が深刻化する前にフルリュの妹をちゃんと探しておけば。


 ダンドにとどめを刺していれば。


 リトルの思い出し草に、気付いていれば。


「…………今度は、ちゃんとやるからさ」


 どうせ、このままじゃ死んでしまう。だから、暴れる事で死んだって良いんだ。


 俺に出来ることは、もうそれくらいじゃないか。


「主よ…………」


 良いから、出せよ。どうせあるんだろ、命を捨てる事も厭わなければ、爆発的に強くなる方法くらい。


 程なくして、俺の頭に魔法公式が流れ込んできた。……あまり魔法公式の内部事情に詳しくない俺でも、それが何を意味するのか、薄っすらと理解することができた。


 …………なるほどな。魔法公式の殆どは魔力を犠牲にするものだけど、これは体力を犠牲にして発動するものなのか。


 体力とは言わないかもしれない。或いはそれは、『生命力』――――…………


「分かった。主よ、最早私も主と運命共同体――その覚悟、私の命を持って受け止めよう」


 俺の、寿命のようなもの。


 それを、犠牲にして。




「<凶暴表現バーサーク・スタイル>」




 静かに、音もなく、俺の口が動いた。


 ガスクイーンの槍が、飛んでくる。それは、フィーナに向かって。鋭い槍はフィーナの腹部目掛けて、圧倒的な速度で放たれた。


 フィーナはその様子を、呆然と見詰めていた。


 大丈夫だ。


 もう、大丈夫。


 俺はそれがフィーナへと直撃する前に、素手で受け止めた。


 それは誰にも悟られない程に、一瞬の出来事だった。


「$%%――――!!?」


 突然動き出した俺に驚いたのだろう。ガスクイーンは俺の様子を見ると驚き、目を丸くし、そして――――その表情は、恐怖に変わっていた。


「なるほどなあ。普通の『ガスピープル』は物理攻撃を受けず、魔法攻撃だけを受けるヤツだったけど。つまり、お前は逆ってことか」


 全身を満たす、巨大な魔力。俺の身体から溢れ出ると、まるで湯気のように立ち昇っていく。<重複表現デプリケート・スタイル>は魔力を使うものだったが、これは。


 巨大な槍は魔力によって作られたものだ。俺はその直刃を、左手で割った。


 自分の力を制御することができない。<重複表現デプリケート・スタイル>と違い制限はなく、俺の能力は底無しに上がっていく。


 後何分かすれば、俺は自我を失い、ただ何かを壊すだけの化物と化すだろう。


 今回は、間違いなくそうなる。それは自覚することができた。


「ラッツ、さん…………?」


 そうなる前に、二人――――いや、三人を何処かに送らなければ。『この空間を支配している魔力なんて、今の俺の魔力からすればゴミみたいなものだ』。俺はロイス目掛けて右手を振るい、倒れたロイスの真下に魔法公式を描いた。


 そうか、ここは空に浮かぶ島、スカイガーデンの地中深くなんだ――――大陸同士の魔力を感じて、俺はそう判断した。ならば。


 俺は、セントラル大陸に目的地を定める。


 場所なんて、何処でもいい。とにかく、人の居る場所だ。人の居る場所に転送されてくれ。


 到着地点を乱暴に決め、有り余る魔力をもって無理矢理に転移先を指定した。


「飛べッ――――!!」


<マークテレポート>と表現するには、あまりにも荒い空間転移の魔法公式。転移魔法なんて縁がないかと思っていたけれど、理論だけでもアカデミーで覚えていて助かったな。


 どうせここに居たら、死んでしまうのだ。一か八か、助かる道を求めて吹っ飛ばしてしまえばいい。


 続けて、フィーナ目掛けて左手を向けた。ロイスと同じ事をするのだと気付いたのだろう、フィーナが顔を上げて、涙混じりに叫んだ。


「嫌!! 嫌、ラッツさん!! やめて!! 私も、一緒に――――」


 その言葉は、最後まで発される事はなかった。


 俺が何も聞かず、フィーナを転移させたからだ。


「失敗作の魔法公式が、こんな所で役に立つとはな――――すまない、主よ。私が余計な事を言ったせいで、こんなダンジョンに足を踏み入れる事になってしまった」


 何か、毎度のようにうるさいゴボウが喋っている。


 まあ、いいか。


 俺は自身のリュック目掛けて、瞬間的に魔法陣を描いた。


「…………主よ? …………何を、考えている?」


 飛ばすのはリュックだけじゃない。勿論、『ゴボウ』も一緒だ。


「待て!! 踏み止まれ!! 分かっているだろう、その魔法公式で主は死ぬ!! 私だけ助けて、どうなると言うのだ!!」


 神具の向こうでは、今頃泣き喚いている頃だろうか。……似合わないな、そういうの。


 失敗作なんかじゃねえよ。こうして、二人を助ける事ができた。――まあ、本当に助けられたかどうかは分からないけどな。


 勿論、お前も転移先の保証なんて出来ないぜ。


「馬鹿者がッ――――!! 死の魔法に助けられるなど、魔法学者として最低の生き様だ!! その有り余る力で、私を殺せ!! 共に逝かせてくれ!!」


 喚くなよ、お前らしくもない。


「やめろ、ラッツ――――――――!!」


 俺は、笑みを浮かべた。




「すまんね。元に戻してやれなくて」




 そうして、ゴボウをその場から転移させた。


 全身が悲鳴を上げている。おそらくそれは、肉体の限界以上に跳ね上がった俺の筋力と魔力によるもの。既に俺は半分以上自我を失っていた。身体が殺戮を求め、快楽に染まり、そして痛みに飢えていく。


 痛みが欲しい。


 ――――もっと、痛みが。


「”+%$&……」


 謝罪なんか聞かねえぞ、太古の魔物。俺はガスクイーンが逃げるよりも早くそいつの後ろに回り込み、その醜い頭を右手で掴んだ。


 遠慮無く、その頭を握り潰した。


 まるでリンゴか何かが崩れるように、ガスクイーンが潰れる。頭部を無くした無惨な魔物はジタバタと両手を動かし、その場から消滅した。


 他のガスピープルと同じように球体をドロップする。だが、それは真珠のように美しく輝いていた。


 なんとなく、直感的に理解した。


 空の神イングリナムが残していったという、『真実の瞳』というアイテム。それは長く、空の島『スカイガーデン』に眠っていた。


 しかし、人々の手には渡らなかった。話題にもならなかったのは、化石とも言うべき魔物が地中深くに隠していたからだ。


 良かったな、ササナ。これで、お前を人魚島から救い出せるよ――――




 そこで、俺の意識は完全に途切れた。


ここまでのご読了ありがとうございます。

第二章はここまでとなります。


※第三章開始までに、少しお時間を頂きます。詳細は活動報告まで。

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