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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第二章 初心者と電波系マーメイドと空の島の秘宝
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B37 先住民族マウロの遺跡を追え!

 空に浮かぶ島『スカイガーデン』は、思い掛けない程に大きな大陸だった。その街のひとつ、『エリゼーサ』に辿り着いた俺達は、近隣のダンジョンの情報を探しに、街へと繰り出した。


『ムグリ』と呼ばれる案内人に言われ、資料室と思わしき部屋まで辿り着いた俺達は、つい最近までのダンジョンの発生・消滅記録を手に入れた。意外にも律儀な性格なのか、『スカイガーデン』で発生したダンジョンの情報は、かなり詳細まで記録されていたのだ。


 そして同時に、俺達は人の訪れていない場所についての情報も得ることができた。


「……なんか、ダンジョンって言うよりは、廃墟……みたいだな」


 開口一番、俺はそう呟いた。あちこちに立ち並ぶ、異様なオーラを放つ建物の数々。それらはエリゼーサで見たような魔法都市とも似ていないし、勿論セントラル大陸にある街々の外観とも一致しない。


 何に使うのかさっぱり分からない、積まれた石――中には、下を潜ることも出来るほどに高さがあるものもあった。元民家だったと思われる建物は殆どが半壊以上に壊れていて、その原型を留めているものはない。


 とてつもない時間の経過を感じる――俺達が来ているのは、スカイガーデンの先住民族『マウロ』が住んでいたと言われる跡地。ダンジョンですらない場所で、危険なので人の立ち入りを禁じている場所だ。


 だが、ゴボウはその場所について「どうにも、見覚えがある」と呟いた。


 ゴボウの一声によって俺達はあっさりとバリケードを抜け、来ている訳だが――魔物が居るかどうかも分からないし、アイテムがあるのかどうかも分からない。


 最悪、空気がどうにかなれば問題にはならないと思うが――……どうだろうな。


「不気味ですね……」


 ロイスがそう呟いて、自身の肩を抱いて身を震わせた。幼い少女のような少年だが、怯える様は余計に少女のそれである。


「ちょっと、ワクワクしますね!」


 体力的には最も怯えなければいけない筈の聖職者は、何故か意気揚々と一番前を歩いていた。


「本当に、こんな場所に『空の神イングリナム』とかいう奴が残した秘宝があるのか?」


「あるとしたら、自然発生するダンジョンではないと思うが――自然発生するダンジョンでは無いからといって、油断はするな。特に、人を嫌う魔物が住み着いているかもしれん」


 ……ま、そうでなければこんな場所が立入禁止になることも無いんだろうけどな。


 しかし、何だろうか。どうにも奇妙なのは、この廃墟全体に魔力が感じられることだ。一応下調べをした時には、立入禁止としか書かれていなかったが――……手前のバリケードも大した設備ではなかったし、人がここまで来ることは簡単だ。


 ならば、どうして人が来ないのか。怖いもの見たさで来る奴はそれなりに居るんじゃないかと思えるが。


 肝試し以上の危険が、ここにはあることを示している。道端に落ちている石を拾い、俺は形を確かめていた。


「ラッツさん? どうしたんですか?」


「いや、随分丸いなー、と思って」


 その石は綺麗な球体で。投げれば転がりそうな程だった。見れば、あちこちにそのような球体の石が落ちている。自然発生したものとは思えない。あちこちにある石の建物といい、先住民族『マウロ』は石を扱う技術に長けていたのだろうか。


「あら、綺麗ですわね」


「変わってるよな、どうやって作ったんだろう」


 フィーナも俺の手にしている石を見て、微笑んだ。真っ黒で、太陽光に照らされて鈍い光を放っていた。ロイスがそれを見て、駆け寄ってくる。


「ラッツさん、それは……」


「ああ、ここにあったんだ」


「ちょ、ちょっとそれ、貸してください!!」


 目の色を変えて、ロイスが駆け寄ってくる。何だ、急に……? どうにも、何かに焦っているようだった。俺から石を受け取ると、その重さを確かめる――そして、周囲にある似たような石を見た。


「……強い、魔力。人間のものではありません……なんだ、これ」


「魔力?」


 この空間全体が魔力を帯びていて、俺にはどれがどれやらという感じだが――……そうか、ロイスは触れたものの魔力を感じる能力に長けていたな。


 周囲を見渡すと、ロイスは言った。


「この石、魔法じ――――」


 その言葉は、俺の視界が反転する瞬間と同時に消えた。




 ○




 水の音がする。身体の何処かに、液体が当たる感覚もあった。


「……ってて」


 目を覚ますと、真っ暗闇だった。起き上がるが、光が差し込まないからか、何も見えない。


「<ライト>」


 基礎魔法<ライト>を使い、ひとまず俺の周囲に明かりを出現させる。目の前に見えるのは、岩の壁――洞窟、か? 天井からつららのように石なのか二次生成物なのか分からないものが伸び、どこからか漏れた水がその石のようなものから伝って落ちていく。


 地面は土だ。辺りを見回すと、フィーナとロイスもそこに倒れている。


「おい、大丈夫か」


 声を掛けると、二人共目を覚ました。皆特別な外傷はなく、どうやら本当に魔法で飛ばされただけらしい。


『スカイゲート』といい、エリゼーサの特別な文化といい、空の連中はワープを作るのが好きらしい――――足下には、いくつもの白骨が転がっていた。今度はササナの幻覚魔法でもなく、本当にただの白骨だ。


 それは、この場所に迷い込んだ魔物や人間が、ついに地上に辿り着けずに死んでいった事を示している。


「……ここは?」


「どうやら、魔法で飛ばされたらしいな」


 それにしても、変な場所だ。<ライト>を使っても遠くの場所は見通せないため、俺は実際に歩いてその場所を確認した。下は地面だが、岩の壁はどうにも立方体を描いていた。場所は広いが、出口がない。どこを見ても岩の壁があるだけだ。


 ……つまり、トラップだろうか? 安易に訪れた人を閉じ込めて殺すための場所。……しかし、理由がない。ダンジョンならばそういう事もあるだろうが、ここは『先住民族マウロ』の跡地と思わしき場所だ。トラップを仕掛けても、守らなければならないものが無いのであれば意味がないからな。


 フィーナとロイスも立ち上がった。この謎ばかりの場所で、一体どうすれば良いというのだろう。


「きゃっ!! ……嫌ですわ、こんな所に無様な死体が……」


 フィーナがそう言って、俺の腕に抱き付いた。……悪いが、可憐な乙女は「無様な死体」とか言わないんだよね。


「……これ、もしかして部屋ですか?」


 ロイスが岩の壁をまじまじと眺めて、そう言った。部屋……? まあ、確かに部屋と言えば言えなくもないかもしれないけれど……結局のところ、ただの壁が続いているだけだ。先に進む事もできない。だからこそ、ここで何も出来ずに死んでいった奴が居たんだろうからな……


 フィーナが魔力を指先に集中させ、自らの左手に陣を描いた。


「<シャイン>」


 瞬間、その辺り一帯を楽々見渡す事が出来るほどの、巨大な光がフィーナの上空に現れた。……為す術もなく、俺は基礎魔法<ライト>を閉じる。空間把握の上位魔法、<シャイン>だ。照らされると同時に、使用者にはその辺りの地形やマップの情報などが頭に浮かんでくるとか何とか……はいはい、プロの聖職者様は一味違うスキルを使いますことで。


 俺が苦い顔をしているのに気付いたのか、フィーナが楽しげに笑った。


「あらラッツさん、どうしましたの?」


「……なんでもねえよ」


 まあ、俺には誰も知らない奥の手があるんだから、いいさ。ゴボウと居る限り、それが俺のステータスになるのだから。


 ……言い訳でしかない。


 辺りがより強く照らされた事で、俺達にはその場所の事がはっきりと分かるようになった。


 天井から伸びている二次生成物と思わしきモノは二次生成物と言うより、明らかに人工的に作られたものだ。コードのような――いや、この場合は照明、か? 部屋の中心に設置された照明。そのように見えなくもない。


 その人工物の上に土が貼り付いて、このような形になってしまったのだろう。


 ロイスが近くの壁を手で払った。岩の壁のように見えていた壁のうち、薄っすらと模様の見えている壁――土が払われると、そこには地面ではない、これまた人工的な壁の存在が見える。


「ここは、部屋……か?」


「そのようですね。……ということは、どこかに扉があるかもしれません」


 と言ったって、見た所ここは地中深くだ。もしかしたら、既に扉が開かない事だってあるかもしれない――……開かない可能性の方が高いのではないか。辺りをうろうろと見回し、俺は別の壁の存在を発見した。


「主よ、少しそこに近寄ってくれないか」


 ゴボウが俺に指示する通り、俺は壁に近寄った。ロイスが見付けた壁と同じように、模様が見える。しかし、そこに彫られた暗号のようなもの――これはもしかすると、文字ではないか?


 フィーナとロイスも、ゴボウの発言に近寄ってきた。文字のようなものは、土の壁に隠れてしまっている――俺はリュックからナイフを取り出し、辺りの土を削った。


 程なくして、その文字の全貌が明らかになった。


「……間違いない。これは、『先住民族マウロ』の言語だ」


 ゴボウは、そのように呟いた。俺はごくりと喉を鳴らし、その理解出来ない文字を見詰める。


「まさかお前……読めるのか?」


「……少し待ってくれ。当時から既に、マウロは我々の前から姿を消している……今、思い出す」


 読めるのかよ。


 複雑な魔法公式に対する理解といい、<重複表現デプリケート・スタイル>といい、このゴボウは魔族として生きていた頃は学者だったのではないかと思える程に、難しい事を知っている。


 程なくして、俺の頭の中に知識が舞い込んできた――なんだ、これは。また、ゴボウの魔法による何かだろうか――エンドレスウォールの時もそうだったが、何もしていないのに知識が擦り込まれていく感覚は、お世辞にも気持ちが良いとは言えない。まるで、人の過去が身体に刻まれていくみたいだ。


 ゴボウから僅かに魔力の波紋が光となって漏れ出た。その光が俺に向かっていくのを、フィーナとロイスが生唾を飲み込んで見守っている。


 ただの記号の羅列だったものが、少しずつ意味を持つようになる。俺は壁を撫で、その言語を変換して口に出した。


「――――助けてくれ」


「えっ?」


「いや、ここに書いてある事だよ。今、ゴボウの記憶で読めるようになった」


 フィーナが俺に身を寄せて、珍しく青い顔をしていた。……怖いものなしの元ギルドリーダーも、流石に恐怖を感じたか。対照的に、ロイスはひどく落ち着いていた。


 アーチャートーナメントの時とは、雲泥の差だった。……こういう、未開の土地には強いのだろうか。


「助けてくれ……此処は間もなく、地中深くに埋まるだろう……あの紅い星が、我々を殺しに来る……?」


 なんだ……? 中途半端に途切れている。文字の右端には縦の線が伸びているだけで、何もなかった。


「……ラッツさん、続きは?」


 ロイスが前に出て、文字に手を触れながら言った。俺は首を振って、ロイスに意志を示した。


「そこまでだ。それしか書いてない」


「『紅い星』って、なんだろう……」


 そう言って、真剣にロイスは文字を見詰めている。


「随分、落ち着いてるんだな」


 俺が問い掛けると、ロイスは苦笑した。


「なんだか、エリゼーサの造りに似ているな、と思って。ほら、部屋の模様も、よく見れば天井も」


 ……ああ、確かに。言われてみれば、壁の模様も如何にもエリゼーサやスカイガーデンで見たような、メビウスの輪の形をした模様だ。円と三角を中心とした建物のエリゼーサと違って、立方体の空間のようだが。


 つまり、『先住民族マウロ』の文化が空の街『スカイガーデン』には今でも継承されている、ということか……?


「……ど、どうしましょう。どうにかして出る手段は……」


「……なんで、お前は急にそんなに慌ててるんだよ」


「なんか、お化けとか出そうな雰囲気じゃありませんか……?」


 え、ダンジョンには一人で意気揚々と潜れるのにお化けは駄目なの……? 暗い時は平気だったのに。


 怖がるポイントがよく分からなかった。


 いや、待てよ。『先住民族マウロ』の文化を、スカイガーデンやエリゼーサが受け継いでいる? ……ってことは、そうか!


 俺は文字の途切れている縦のラインに沿って、土の壁を削っていった。縦のラインは、人の身長の少し上辺りで角を描き、横のラインへと変化している。そのラインに従い、ナイフで慎重に削っていく。


 崩れでもしたら、敵わないからな。


「どうしたんですか、ラッツさん?」


「分かったよ、この部屋の仕組み。これは――――スカイガーデンの街と、同じ造りだ」


「同じ造り?」


 程なくして、そこに扉程のサイズの線と――やっぱり、そうだ。俺はその中央に描かれた、魔法陣を撫でた。


「――ここは、魔法で移動する部屋だ」


 土に阻まれていた上に暗いので、フィーナのようなスキル持ちでもなければ部屋の全貌を確認する事はできない。紛れ込んだ人間や魔物が出られずに死んでいったのは、そういう訳だったのだろうか。


 ゴボウの知識のお陰で、古代文明の言語や魔法陣の公式が理解できる。書けなくとも、発動させる事くらいはできそうだ。


 でも、ここから先は少し危険だな。どこに繋がっているか分からない。……だからといって、行かない訳にも行かないのだが。


「俺が出て行って、五分して戻って来なかったら死んだと思え。他の出口を探すんだ」


 それだけ言って、返事も聞かずに魔法陣を発動させた。




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