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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第二章 初心者と電波系マーメイドと空の島の秘宝
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B33 盛れやアガれや決勝戦!

「面白くなってきたぜっ――――!!」


 ガンドラが気合一閃、ロイスに向かって初めて移動を開始した。ロイスは全身の神経に意識を集中しているのか、全く余裕がない様子だ。


 まあ、好戦的なガンドラとは相反する性格を持っているからな。今頃、膝が震えないようにするのも必死、というところではないだろうか。


 ガンドラはロイスに向かい、弓を握った。……あいつも当然のように、近接戦闘ができるスタイルか。まあ、遠距離で戦うようなタイプではなさそうだからな。


「オラ行くぞ!!」


 フルスイングされた弓を、ロイスは屈んで避けた。そのまま、ガンドラの間合いから離れるように低い姿勢で跳ぶ。地面に手を突くと、反動を利用して一回転。ロイスは前に飛びながら振り返り――その手には、矢が握られていた。


「<ライトニング>ッ……!! <アロー>!!」


 ガンドラ目掛けて、稲妻の矢が放たれる。ガンドラは振り返り、その矢を視認した。


「……良い攻撃だ」


 俺の隣で、パフィがそのように呟いた。


 パフィが呟いた通り、ロイスの動きは今までの戦闘に比べると硬いが、それでも流れるような動きだった。ガンドラが相手と言えど、試合の緊張感にある程度、慣れてきたのだろうか。


 それでもあっさり、ガンドラはロイスの<ライトニング・アロー>を避け――ロイスに反撃の弓を引く。


「返すぜ!! <ライトニング・アロー>!!」


 やはり、ガンドラの弓から繰り出される技は、どれも桁違いのパワーとスピードを持っている。ロイスは魔力で押すタイプのようだが、ガンドラの<ライトニング・アロー>は電撃がオマケみたいなもので、主に矢による狙撃そのものの――重火力によって、技を成立させているように見えた。


 ロイスはギリギリの所で、身体を振ってガンドラの攻撃を避ける。……何か、口がしきりに動いていた。


 なんだろう。呪いでも唱えているのだろうか。


「ロイスはね、自分に言い聞かせるんだよ」


 パフィが呟いた。誰に言っているのかと思ったが――――俺に話しかけているのか。


「言い聞かせる?」


「『僕はできる、僕はやれる』ってな具合にさあ。そうでもしないと、意識を保てないみたいなんだよね。……そこが、ロイスの弱点なんだ」


 ……ふーむ。そういえば、どこかで聞いたような気もする。


 ロイスはどうにか、体制を立て直した。ガンドラは<ライトニング・アロー>を切っ掛けに、ロイスに連続で攻撃をし続けている――どうにか使った<パリィ>も一度きりで、二度使う勇気はないようだった。


 まあ、<パリィ>って外せば一巻の終わり、ガードも何もなく攻撃が直撃するっていう、そういう防御方法だからな。


 効果が高いスキルってのは、使い方も難しいもんだ。


「オラどうした!! お前の実力はそんなもんかよ!!」


 ガンドラがロイスを煽る。ロイスは怒りに震えているようで――自分が思い通りに動けない為だろうか。今までの、キレのある動きのロイスは何処にも居ない。


 それでも、ガンドラに立ち向かった。歯を食いしばり、弓を引く。


「<シャイニング>!! <アロー>!!」


 ロイスの奥義とも呼ぶべき、<ライトニング・アロー>の上位技、<シャイニング・アロー>。属性ギルドで使う奴は殆ど居ないだろう、その弓士として使える雷攻撃のうち最も火力が高い技を、ロイスはガンドラに向けた。


 ガンドラは――避けない? ロイスの放った光の波動砲は、とてつもない威力だ。予選を見ていたって、それは明白なはず――ガンドラは右腕をロイスに向かって突き出した。


 何考えてんだ……?


「ああああああああっ――――――――!!」


 ロイスが叫び、<シャイニング・アロー>を放った。ステージを削り、跡を付けながら、ロイスの放った<シャイニング・アロー>がガンドラを襲う――――!!


 爆発があり、煙がステージを覆った。あまりの光量に、俺も目を閉じてしまう。


 二人の姿が煙の向こう側に消え、やがて煙が晴れる。


 誰もが目を閉じる中、俺はどうにか目を開いた。晴れた煙の向こう側には――――…………


 おいおい、マジかよ。


 ガンドラは――――無傷? ……いや、右腕に矢が刺さっている。だが、それだけだ――――ロイスを睨み付けると、ガンドラは余裕の笑みを浮かべた。


「効かねえなあ」


 …………冗談だろ。半端な魔物なら多分、即死の威力だぞ。


 ロイスの表情が一変して、怯えたそれになった。自分の最大火力を持つ技をぶつけても、ビクともしなかったことが衝撃だったのだろう。


 そこまで見て、俺にもロイスの弱点というのか、そういったものを初めて理解することができた。


 あいつ、自分の技に頼りきりだ。動きにキレもあるしスピードも良いのに、技に頼り過ぎている事で戦闘がワンパターンになっているんだ。


 ガンドラは既に、ロイスに興味を失ったようだった。戦闘の意志を折られたロイスは、ステージに膝をつく――まだ、これからだ。何も戦いは始まっていないのに。


「……やっぱ、駄目かあ」


 パフィが溜め息をついた。気が付けば俺は立ち上がり、腕を組んでロイスを見ていた。


 ……うーん。ここまでは、順番に強い技を出せば相手が勝手に倒れてきた、って事なのか。強いスキルが撃てるだけに、なんとも複雑な『弱さ』を抱えている。


 ガンドラは少しやり過ぎた事を後悔したようで、ロイスをつまみ上げると、場外に降ろした。


 …………たったそれだけで、その決勝進出戦は、幕を閉じてしまった。


 勝者は、当然のようにガンドラ・サム。


 勝利宣言を受けると、ガンドラはすぐにロイスの下に駆け寄った。


「おめえ、やっぱダンジョンはまだ無理なんじゃねえか? それか、魔法使いか何かにでもなれば良かったじゃねえか」


 ……同感だ。幾ら強い技が使えたとしても、それが自らの強さに直結しないことは、俺が一番よく知っている。


 だったら、前衛としての動きも求められる弓職より、後衛に徹して強いスキルを矢継ぎ早に使う魔法使いや聖職者の方が、ロイスには向いている気がする。


 ロイスは動けなくなってしまった自分が恨めしいようで、一人、一筋の涙を零した。


 誰にも聞こえないよう、見えないように、顔を背けた。


「弓じゃなきゃ…………ダメなんだ…………」


 その呟きは、きっと俺にしか聞こえなかった。


 一体ロイスがどのような問題を抱えていて、何故弓士にならなければならないのか、俺には分からないし、分かる気も無いけれど。


「『クレイユ家の落ちこぼれ』には……なりたくない……」


 まあ、セレブにはセレブで、色々な悩みがあるのではないかと思った。


 俺が勝てば、決勝戦。対戦相手は、ガンドラ・サム。ロイスの<シャイニング・アロー>を受け止めるような奴だ、それは強いのだろう。対する俺は、武器を弓に限定された上に攻撃魔法の使用を禁止されている。


 …………上等だ。


「パフィさん、次の試合、俺等でしょ? さっさとやりましょう」


「おおっとォ――!! 実はあたし、急用を思い出したのら!! ギルドリーダーだから参加せざるを得なくなってたけど、これは辞退せざるを得ないっ――!!」


 めちゃくちゃ棒読みなんだが……有りもしない腕時計を確認する素振りを見せ、慌ててパフィは荷物をまとめ始めた。


「……パフィさん?」


「ごめん、ラッツ君。あとよろしく!」


 パフィは俺の顔を見て、楽しげに笑った。……この人、チークよりも空気が読めるタイプだな。


 まあ、良かったと言うべきなのかどうなのか。パフィは審判に何かを話して、足早にコロシアムを去って行った。


 トーナメント表からパフィの文字が消え、俺は決勝戦に上がる――――なんとも、お膳立てされたみたいで少し気に食わないが。パフィ・ノロップスターもギルドリーダーなので、まあ仕方ないだろうか。


 自分のギルドメンバーを心配するのは、ギルドリーダーの仕事だからな。当然、この場合はロイスの後始末を、俺に任せたって事なのだろう。


「ロイス。負けちまったもんは仕方ない。……まあ、前を向こうぜ」


 ロイスが顔を上げ、俺の言葉の真意を読み取ろうと、表情を見ていた。


 俺はそんなロイスに、不敵に笑って見せてやる。


 そうだ。


 人間、壁にぶつかってからが本番だぜ。どうしようもなく挫折した時に諦めなかった奴にだけ、先の道ってのは用意されてるもんだ。


 俺は客席を見上げて、ササナを見た。リトルと並んで、俺の様子を見守っている。


 そもそも、あいつが優勝賞品の『虹色の指輪』が欲しいと言い出さなければ、ロイスに関わる事も無かったわけで。


 これも、旅は道連れってやつか……


『真実の瞳』探しも、リトルの登場によってどうなるか分からなくなってきた。それも、このトーナメントが終わらなければどうなるか分からない――……


 今は、トーナメントを全力でやるしかないってことか。


「ロイス、お前は初心者として重要な課題をクリアできてない」


 何も言わず、ステージに上がる。ロイスが顔を上げて、俺を見た。


「『初心者』の手本、見せてやるよ」




 ○




 ステージに上がると、決勝戦ならではの歓声が聞こえてきた。この対戦、俺にとっては幾つかの意味を抱えた戦いになる。


 ひとつは、ササナの欲しがった『虹色の指輪』。


 ひとつは、ガンドラとの賭け。


 ひとつは、ロイスに『初心者としての戦闘』を教えること。


 今回は、散々使ってきた痺れ薬は使わない。俺は指貫グローブを装着し、初心者用の弓を手に取った。


「しかし、何だかんだ勝って来たんだなァ。ラッツ、お前俺のパーティーに入らねえか。パフィに申請してやるよ」


 ガンドラが準備運動をしながら、俺にそう言って笑い掛けた。俺はガンドラに笑みを返した。


「いやー、ぶっちゃけ参加すると決まった時はそんな事も考えたよ。このまま弓士でも悪くないかー、とかさ」


「良いじゃねえか。俺もそう思うぜ」


「でもさあ」


 一歩、前に出る。ガンドラも前に出て、俺達は向かい合った。


 審判が、笛を構える。タイミングを頭の内側で図りながら、俺は言った。


「やっぱ俺、弓に縛られてんのはこの大会だけでいいわ」


 不敵な笑みを浮かべると、ガンドラが楽しそうに笑った。


「――――ほう? 縛られるときたか」


 そして、試合の笛が鳴らされた。


 俺は素早くバックステップをしてガンドラから距離を取る。ガンドラの主力技は、間違いなくロイス戦で見せた<スマッシュ・アロー>だろう。


「<キャットウォーク>!! <ホワイトニング>!! それから……<マジックオーラ>!!」


 対して、俺が決勝戦の切り札として隠しておいた必殺技は一つだけ。限りなくグレーに近いアウト、バレれば反則負けになってしまうかもしれない。


 だが、絶対にバレない。仮にバレたとしても証拠を突き止める事はできない。


 そもそも、何処までが攻撃魔法か、ってことだ。俺は腰に括り付けておいた二本の矢筒のうち、一つから『鉛の矢』を取り出した。


 俺が支援魔法を掛けている間に、既にガンドラは攻撃態勢に入っている。ロイスはあいつの<スマッシュ・アロー>を<パリィ>で受け流していたが、正直あのレベルの攻撃力があるスキルを<パリィ>で受け流すのは得策じゃない。


 タイミングは難しいし、仮に受け流すことが出来たとしてもダメージを負う。だから、必要なのは触れずに避けることだ。


「行くぞラッツ!! <スマッシュ・アロー>!!」


 ロイスの時に見せた通りの技で攻めてくるのは、俺の実力を測っているからなのか、どうなのか。襲い掛かる豪速の矢を、俺は屈んでかわした。


 再び、ステージ脇の壁に矢が激突する。確かにスピードも威力も段違いだが、それは人間としての強さだ。


 少なくとも、エンドレスウォールの拳とは比較できない程に遅い。


 俺はちらりと、控えの席を一瞥した。ロイスは不安そうに、俺の様子を見守っている。


 …………まったく、なんで初心者が弓士に戦闘の基本なんざ、教えないといけないのか。


 苦笑を禁じ得ない。


「<ホワイトニング・イン・ザ・ウエポン>」


 俺は初心者用弓に<ホワイトニング>を付与し、鉛の矢を構えた。同時に、魔力を右腕に展開する。


「<レッド・アロー>!!」


 ガンドラの足下に向けて、数本の<レッド・アロー>を放った。ガンドラの周りを素早く回るように移動し、俺はまるでガンドラを囲うように、外側から矢を放つ。


「むっ……」


 これで、ガンドラは俺に狙いを定める事ができない。


 純粋な威力同士の対戦になってしまえば、力の強い者勝ち、スキルの強い者勝ちになってしまう。


 ロイスは、相手の火力に自分の火力をぶつける事しか知らない。戦いの引き出しが少ないから、怖くなってしまうんだろう。威力の高い技をカチ合わせるというのは、怖いことだ。何故なら、押し負けた側はもろにそのダメージを食うことになる。


 そして、俺達初心者は『攻撃力』『火力』『スキルの強さ』といった面で、当然経験の長い者に勝てる訳がないのだ。


 ならば、どうするか。俺達弱者が、スペック的には完全な強者と戦って勝つためには、どうしたら良いのか。


 簡単だ。


 スキル同士がカチ合わない状況ってやつを作ればいい。


 当たらなければどうということはない、という、頭の悪い理屈を実践で示すことができればいいのだ。


 相手の戦闘における作戦の、上を行けば良いのだ。それが出来れば、の話だが。


「そんなもんで俺の弓から逃れようってかア!? 甘いぜ!!」


 ガンドラが吠えて、上空に向かって弓を構えた。このモーションは知っている。<アロー・レイン>。レインとは名ばかりで、水の矢ではない――自分の周囲に向かって、拡散された矢を放つスキルだ。


 一網打尽にして捕らえようって発想なんだろうが、その技には隙があり過ぎる。


 俺はガンドラの背中目掛けて、弓を構えた。


「<ソニックブレイド>!!」


 一直線に通り抜け、すぐにガンドラの様子を確認する。


 ガンドラは――――何事も無かったかのように、矢を放った。


「<アロー・レイン>!!」


 一度真上に向かって放たれた矢は、ある程度の高度に達すると反転して俺を襲う。範囲が俺の周囲に集中している――走って避けるのは無理か。


 俺は弓の中央を握って回転させた。武闘家が稀に握る、棍棒のようなイメージだ。


「<パリィ><パリィ><パリィ><パリィ><パリィ>ッ――――!!」


 ヒュウ、とガンドラが口笛を鳴らした。


「ドリトルの時も見たけど、お前のそれすげえな!! 曲芸みたいだぜ!!」


 ……あまり、焦っている様子はないな。


 つまり、こいつは攻撃力もそうだが、防御力に特化した弓士なのだ。生半可な攻撃ではダメージ一つ与えられない――ならば、どうするか。奴の装甲を根こそぎ破壊するような攻撃を放つしかない。


 一応、読み通りではあるか――――…………


 俺は腰に括り付けておいた、もう一つの矢筒を取り出した。



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