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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第一章 初心者とベタ甘ハーピィと山の上の城壁
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A17 激闘・エンドレスウォール!

 エンドレスウォールと言えば、ゴーレムの親玉みたいな魔物だ。岩石のように強固な皮膚と巨大な身体を持ち、一発の攻撃力が大きい大型のモンスター。


 向かって来る敵は倒すけれど、自分から狩りに向かう事は殆ど無い。その代わり、仲良くもしないらしいけれど――……


 その孤高な性格から『山の神』とも呼ばれ、魔物は供物を捧げてきたのだ。今となっては理性を失い、召喚された時に生贄を喰らい尽くす邪悪なダンジョンマスターと化しているが。


「<キャットウォーク>!! <マジックオーラ>!!」


 とにかく、戦わなければ。勝てる見込みが無い以上、どうすれば良いのかは分からないが黙って立っている訳にはいかない。俺はリュックを背負い、リュックからゴーグルを取り出して装備した。


 まずは、だ。俺はアイテムショップで買ったステッキを振り翳し、魔法を唱えた。


「<ブルーカーテン>!!」


 最大出力の水が上空に現れ、エンドレスウォールに降り注ぐ。どうすればダメージが入るようになるのかは分からないが、とにかく先制攻撃だ。


 ストーンゴーレムにはしっかりと効いた、水の魔法。エンドレスウォールはその水攻撃を受け、ターゲットをレオとフルリュではなく、俺に向ける――――…………


 ヒュン、と風を切る音がした。


 俺の茶色の髪が揺れ、広場の脇に飛び出ている、壁のように盛り上がった岩が崩れる。


 俺は振り返り、崩れ落ちた岩壁を見た。


 ……さっきまでと、随分ビジュアルが違いますね。


「えっと……何したんスか…………?」


 当然、エンドレスウォールが答えてくれる筈もない。だが、よく見ればその巨大な掌に魔力が込められると、これまた巨大な岩が手中に収まっているようだった。


 エンドレスウォールは、俺に狙いを定め。


 それを、俺目掛けて振り被るぅゥゥァァァア――――――――!?


 俺は全力で横っ飛び、エンドレスウォールの岩攻撃を避けた。見えない程に速度の速い岩は俺の後ろの岩壁を削り、ものともせずに崩していく。


「ぎゃあああああああ――――――!!」


 恥も外聞もなく、俺は叫び狂っていた。どう考えても岩の大きさは俺の身体なんかよりも遥かに大きいのに、それが見えない速度で投げられるときている。


 見えないというのがやばい。既に殺される事は確実と言われているようにさえ感じる。


 仮にも<キャットウォーク>使用後だぞ!?


「ラ、ラッツ!! 大丈夫か!? 今、助ける!!」


 レオが愛刀を抜き、戦闘意思を見せた。


「ぎゃあああああ待て待て待てお前絶対に絶対に絶っっっ対に手を出すなよ!? フラグじゃないからな!? 黙ってそこに居ろォ――――!!」


 今この場でレオがターゲットになったりしたら、俺は絶対にレオを庇って戦う事なんて出来ない絶対に!!


 とにかく、防御力が第一だ。俺は走りながら、リュックから初心者用の盾を取り出した。盾でどうにか攻撃を防いで、返しの魔法でダメージを与えていく作戦しかない!!


 エンドレスウォールは、岩石を投げる度に精度を上げている。三度構えられた岩を、今度は避けられる自信が無かった。


 盾にすっぽりと収まるように、俺は身を隠す――――


「ふっ――――――――」


 それは、俺が息を吐き出す音だった。


 何が起こったのか、分からなかった。俺は盾で岩石をガードした筈が、岩石の勢いを防ぎ切れずに飛ばされたようだった。恐るべき速さの岩石によって――――俺は広場の岩壁に叩き付けられ、息と同時に血を吐いた。


「ラッツ!!」


「ラッツ様!!」


 レオとフルリュが、同時に叫ぶ。俺は盾を取り落とし、その上にうつ伏せに倒れ込んだ。


 …………あー、駄目だ。


 幾らなんでも、こいつは規格外だ。


 ダンドだって、ティリルを生贄に捧げた所で勝てるような相手ではなかったんじゃないか。


 ……くそ。動けなくなるまで殴っておけば。


 しくじったぜ……


「いやああああ!! ラッツ様――――!!」


 多分エンドレスウォールの岩石は、俺に向けられているんだろう。でも、衝撃で顔を上げる事すらままならない。


 フルリュの叫び声が聞こえた。


 俺は、目を閉じる――――…………




「<ガードベル>!! <ハイ・ヒール>!!」




 暖かな魔力に包まれ、俺は目を開いた。一瞬にして傷は塞がり、俺は即座に身体を起こす。


 俺とエンドレスウォールの間に立ちはだかる、白銀の髪が目に映った。


 その端正な顔は俺を一瞥すると、怒りの表情を見せていた。


「どうして『エンドレスウォール』なんかと戦っているんですか、貴方は……!!」


 フィーナ。


 まさか、後を追い掛けていたとは。


「すまん。……ありがとう」


 俺は立ち上がり、フィーナに礼を言った。フィーナは俺の事など目もくれず、小さな肩掛け鞄から――聖水か。聖水を取り出した。


 フィーナと俺の半径二メートル程の周囲に、光の魔法陣が浮かび上がる。エンドレスウォールは岩石を構えていた。


「<サンクチュアリ>ッ――――!! きゃあ!!」


 岩石がフィーナの作り出した<サンクチュアリ>に激突し、揺れた。生み出された半透明のドームはすぐにヒビが入り、後一発もあれば壊れてしまいそうだ。


 フィーナは歯を食いしばり、魔力を継続して<サンクチュアリ>に流していた。ヒビの入ったドームは修復され、元に戻る。


「……なんでっ……、召喚したんですかっ……!?」


「ちょっと手違いでな!! 別に俺が召喚させた訳じゃない!!」


「そういう事ですかっ……!! ぐぅっ!!」


 何度も襲い掛かる豪速の岩石に、フィーナが胸を押さえて苦しそうに息を吐いた。<サンクチュアリ>に、恐ろしい程の魔力が注がれているのだろう。


 くそっ。攻撃はワンパターンなのに、どうして良いのかさっぱり分かんねえ……!!


「と、とにかくっ、私がガードしていますから、何か作戦を……!!」


「作戦っても……どうすりゃ……!!」


 フィーナの<サンクチュアリ>を破れないと知ったからか、エンドレスウォールは俺達に近付いてきた。


 無機質な瞳の下が、まるで扉のように勢い良く開く。


 その向こう側には、無数の牙がってこれ口かよぉォォ――――――――!!


「きゃああああああ――――!?」


「おわああああああ――――!!」


 俺は素早く<サンクチュアリ>を解除したフィーナを抱えて、考えられる限りの全力でその場から逃げた。反対側で見ているフルリュとレオの下まで、一瞬で戻る。


 あんな牙に噛み付かれたんじゃ、<サンクチュアリ>なんかでガードする事は出来ない。俺達ごと喰われて無くなってしまう。


 火事場のなんとやら、とはよく言ったもので、俺はどうにかフィーナを抱いて牙から逃れる事に成功した。先程まで俺が居た場所に、エンドレスウォールは噛み付いていた。咀嚼の音は重苦しく、機械か何かの音のように聞こえるほどだ。


「ラッツ様!! 大丈夫ですか!?」


「あァ…………なんとか……」


 エンドレスウォールはその場に俺達が居ない事にようやく気付いたのか、咀嚼の途中で身体を傾けた。……もしかして首がないから、あれは首を傾げているのと同じ動作なのか? それは分からないが、とにかく辺りを探し始めた!


 依然としてエンドレスウォール攻略の手段はなく、思い出し草は使えず、このまま山を降りる訳にもいかない俺達。フィーナが居たって、直接渡り合う事が出来ないんじゃどうしようもない。


「どうにか、ダメージを与える手段はないのか……!?」


 レオが苦い顔をして、そう呟いた。何も出来ないことが悔しいのだろうが、今はお前に手を出させる訳にはいかない。


 そういえば、フルリュの妹、ティリルは――――? 思ったが、この場には居なかった。よく見れば、岩陰の見えない所に避難して、ガタガタと震えている。


 フルリュが避難させたのだろう。少しだけ、俺は安心した。


 エンドレスウォールが振り返り、俺達を発見した。目はあまり良くないのか――頷き、今度はそのまま近寄ってくる。


 岩石攻撃は、破られたという認識なのだろうか。わざわざ歩いてくる――……口と思わしきものが上下し、巨大な牙が見え隠れしていた。


 元々、大きさからして論外なんだ。ダメージも何もあったものではない。


「主よ、聞け。今から主に、<重複表現デプリケート・スタイル>と呼ばれる魔法を教える!!」


 珍しく、ゴボウは声を荒らげていた。


「<重複表現デプリケート・スタイル>……?」


「今の主に使えそうな魔法の中で、唯一『エンドレスウォール』と張り合えそうな魔法だ。但し膨大な魔力を喰うので、この面子でそこをどうにかして欲しい!!」


「どうにかって……どうすんだよ!?」


 俺の魔力じゃ全然足りないって事だろ!? 人の魔力を増強するなんてスキル、聖職者でも聞いたこと無いし。なら、常に回復させるか? ……どうやって。


「カモーテルをがぶ飲みすりゃ、どうにかなる話なのか?」


「いや、そんなものでは全く足りない」


「じゃあダメじゃねえか!!」


 その時、フルリュが目を見開いた。


「魔力――――…………?」


 その言葉に反応し、澄んだ瞳で虚空を見詰めるフルリュ。だがもう、すぐそこまでエンドレスウォールは近付いていた。


「できます!! それ私、どうにかできます!! ラッツ様、なんとか時間を稼げませんか!?」


 フルリュが叫んだ。


「時間ってどれくらいだ!?」


「数分あれば!!」


 ゆっくりと、大きなモーションで拳が振り被られる。俺は他のメンバーが攻撃に巻き込まれないよう、横っ飛びに逃げる――――


 あれ? エンドレスウォールは、構えた拳の位置を変えてない。狙われているのは、


「――――えっ」


 思わず、呟いた。狙われているのは、俺じゃ、ない――――


「<ガードベル>!! <レデュースダメージ>!! <セイントベール>!! <ラジカルガード>!!」


 フィーナが前に出て、一斉に魔法を唱えた。狙われていたのは俺ではなく、フィーナ。それを理解していたフィーナは、エンドレスウォールが攻撃を放つ前に支援魔法を自身に向かって使ったのだ。


 フィーナの頭上でベルが鳴り、虹色のベールに包まれ淡く光り、その目の前に大きな光の盾が現れる。その盾に向かって、エンドレスウォールの恐るべき速度の拳がめり込んだ。


 衝撃のためか、フィーナの前面にある盾から真横に突風が発生し、砂埃が舞う。


 後ろのフルリュとレオに向かって、苦しそうにフィーナが叫んだ。


「はやく私から離れて!!」


 堰を切ったように、二人が動き出した。フルリュは何かの呪文を唱え出したようで、レオはフルリュを抱えてフィーナから離れた。


 あれだけの衝撃のある攻撃を吸収しているのだ、フィーナが無傷な筈がない。フィーナは脂汗を垂らし、両手を突き出して魔力を送り続ける。


「ふっ……く、うっ……<ガードベル>!! <ガードベル>!! <ガードベル>!!」


 一度では足りず、何度もフィーナは<ガードベル>を乱発する。フィーナの目の下に、薄っすらと隈が見える――――やばい。魔力切れを示すサインだ。


 どんだけ高出力で魔法を使ってるんだよ!!


 フルリュが何かを仕掛けているようだが、間に合うのか……!?


「<ホワイトニング>!! <ダブルアクション>!!」


 とにかく、ターゲットをフィーナから俺に移さなければ。俺は申し訳程度に自身を強化し、エンドレスウォールの背中目掛けて全力で走った。


 リュックからロングソードを取り出し、直線上にエンドレスウォールを捉える。


「<ソニックブレイド>!!」


 エンドレスウォールの背中からフィーナの所まで、一閃を放った。エンドレスウォールがフィーナに拳を突き立てる事をやめ、攻撃された背中を見る。


 ……どうやら、かなり反応は鈍いらしいな。そこだけが救いかもしれない。


 フィーナは糸が切れたように脱力した。俺はその身体を抱き、支えた。憔悴した瞳が薄っすらと開き、その瞳孔に俺の姿を捉えた。


「すいません……、もう、ちょっと限界が……」


「大丈夫か、しっかりしろ。これ、飲め」


 俺はリュックからカモーテルを取り出し、フィーナに飲ませた。魔力量の多いフィーナには焼け石に水かもしれないが、無いよりマシだ。


 エンドレスウォールは再度、俺をその視界に入れる。ターゲットは移り変わったのだろうが……何かの手違いで、またフィーナに攻撃が向いたらまずい。俺はフィーナの前に盾になるように立ち、ロングソードと初心者用盾を入替えた。


 くそ、フィーナでも一杯一杯なのに、俺にガードできるとも思えんが……やってみるしかない!!


「<ヘビーブレイド>!!」


 えっ……!? <ヘビーブレイド>……!?


 見れば、エンドレスウォールの影からレオが、愛刀を構えて攻撃していた。同時に、俺に向かって何かが投げられる。


 俺はそれを、左手でキャッチした。これは……『ハイ・カモーテル』!? 何でこんなもんを、レオが?


「飲まっ……!! 飲ませてやってくれ!! お、俺、俺が時間を稼ぐ!!」


 レオはぎこちない動きで、エンドレスウォールに愛刀を向けた。滝のように汗を流し、笑う膝をどうにか抑えているように見えた。


 エンドレスウォールが徐ろに振り返り、レオを見る――――…………


「おおおおおおおお俺をおオオオナメんなああああああああ――――!!」


 ――お前、本当に。


 そうだ。アカデミー時代から、こいつはそういう奴だった。昔から自分と相手のレベル差なんて全く理解していなくて、相手がどんな奴でも恐怖に身体が動かなくても、絶対に後ろで隠れている事をしない。


 だから、ダンドのパーティーに居た時は余程苦痛だったのだろう。


 天下無敵の、馬鹿野郎だ。


 レオは下段から掬い上げるように、愛刀をエンドレスウォール目掛けて振り上げた。


「<ウェイブ・ブレイド>おぉォォォ――――――――!!」


 俺はレオから貰った『ハイ・カモーテル』をフィーナに渡し、レオの行動を見ていた。


 レオの放った<ウェイブ・ブレイド>の波動は申し分なく、初めて放ったとは思えない程に正確な軌道を描いて、エンドレスウォールの瞳目掛けて突っ走る。


 斬撃の音がして、エンドレスウォールの目に傷が付いた。


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