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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
最終章 超・初心者の手引き
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L164 最終決戦

 どうして俺が一番最初に覚えた魔法は、<キャットウォーク>だったのか。今にして思えば、俺の爺ちゃん――トーマス・リチャードは、伝説の武器防具を手に入れる為に盗賊のスキルを覚えたのだろう。


 そしてそれは、遥か昔に俺へと受け継がれていた。実際に教えられずとも、文献や資料は全て、家に置いてあった。当時の俺は気付かなかったけれど、俺は爺ちゃんが得た知識と経験を、知らずに俺自身のスキルへと変換させていたんだ。


 俺の周囲に七色のオーラは立ち昇り、赤、緑、青と色を変えていく。目まぐるしく表情を変える様はまるで、生物が持つ『心』をそのまま、映し出しているかのようだった。


 その様子を見て、ふと思う。


 結局の所、『魔力』とは一体、何なのだろうか。


 誰もが同じモノを持っているのに、それぞれが放つ魔力の色は違っていた。その理由は、個々が持つ感情の強さで決まっているのかもしれない。


 若しもそうだとするなら、俺はまるで演技をするかのように、発する魔力の色を変えられるだろうか。


 そんなことを、心の片隅で考えていた。


 俺は長剣を構え、『紅い星』と呼ばれる巨大な戦艦へと跳んだ。強化された脚力が、俺の移動速度を飛躍的に上昇させる。


 きっと、仲間達は未確認生物のように速い俺の動きを、目で追う事すら難しくなっているだろう。


 僅かな自信のもと、俺は覚悟を決めた。


 そうだ。俺なら、大丈夫。


 今なら、どんな事だってできる。証明するかのように、俺は右手から溢れんばかりの魔力を放出し、神々しい輝きを纏う長剣へと纏わり付かせた。


 俺は、斬る。


 レオ・ホーンドルフは、その身に精悍さと、逞しさを持っていた。


 右手と長剣は、真っ赤なオーラに包まれる。魔法公式は、瞬間的に脳裏に思い描かれた。


「<超・ドラゴンブレイク>!!」


 攻撃は、先程と同じように翼を目指した。再び金色に輝くバリアのようなものが出現し、俺の攻撃を弾く――……この速度でも、反応して来るのか。長剣はその華麗な姿に似合わない程に荒々しく、黄金色のバリアに叩き付けられたが。


 それを、破るまでには至らなかった。


 だが、俺の速度に『紅い星』は付いて来ていない。ボディに取り付けられた二つの銃口は、まだ俺の方を向いてはいなかった。


 イメージすれば、伝わってくる。仲間達が考える事と、その性質のことが。


 俺は、詠唱する。


「天空都市スカイディアに導かれし吹き荒びてはし疾風はやてよ!! 飛竜の羽撃きと共に舞い、億万の愚かなる病を滅せよ!!」


 フルリュ・イリイィは、全てを受け入れる包容力。あと、優しい所が良いところだ。


「<超・ホーリーウィンド>!!」


 長剣を右手から消し、両手を広げるように『紅い星』へと向ける。間もなく、爆風を生み出す魔法を使った。その反動で俺は『紅い星』から離れるように吹き飛ぶ。


 攻撃と退避。その両方を一度に補う一手だ。


 地面に着地すると<ホーリーウィンド>を解き、俺は別の魔法陣を二種類、右手と左手に出現させた。


 こんなものでは、終わらない。まだ俺は、強くなれる。


 笑みを浮かべる余裕は無かったが、代わりに俺は付与魔法を唱えた。


「<超・ホワイトニング>!!」


 マーブル模様を描くが、決して混ざり合うことはない七色の魔力。恰もそれに同化させるかのように、白い光を放つ。


 俺は、強化する。


「<超・トリプルアクション>!!」


 ロイス・クレイユは、状況を的確に把握する判断力と、相応するだけの技術。


 自分を卑下していたけれど。みんな、昔からお前の実力を買っているんだ。


 左手から、球体の魔法陣が出現した。瞬く間にそれは光の粒となり、一度霧散してから別の個体を形作る。そうして、俺の身長程もある巨大な弓が、音もなく現れた。


 伝説と呼ばれた弓。


 艶やかなカーブを描き、太陽光を反射するルビーのような色。その曲線は美しく、武器とは思えない程に煌めいている。


 ロイスが息を呑んで、俺の様子を見詰めていた。


「すごい…………」


 同時に三本、右手から矢を出現させる。その矢を使って弓を引き、緑色の輝きを持つオーラで全身を満たす。そうすると、ロイスの気持ちが分かるようだった。


 空気にまで触れる事が出来るかのような、圧倒的な繊細さだ。……俺には、無かったものだな。


「<超・ライトニング・アロー>!! <超・ブリザード・アロー>!! <超・フレイム・アロー>!!」


 放つと同時に弓を消し、素早く前方に駆け出した。『紅い星』は俺の姿をようやく確認し、その無骨な銃口を俺に向けた。


 武器の出現と消去は、自由自在。瞬時に行う事が出来る。


 場所を移動したのは、他の仲間達に攻撃が当たらないようにする為だ。銃口に魔法陣が描かれた。その内容は、俺の動きを封じる為の、凍結系の魔法だろう。


 一瞬光り輝いたかと思うと、その銃口は俺に向けて魔法を放った。俺はそれを見てから、両手を広げて攻撃を受け入れるような姿勢を取った。


 勿論、ただ攻撃を受けるつもりなど毛頭ない。


 ササナ・セスセルトは、どんな事にも動じない冷静さと、裕福さを鼻に掛けない素直さ。


 俺は、跳ね返す。


「<超・トリック・オア・マジック>!!」


 放たれた青白い光は俺によって跳ね返され、『紅い星』の銃口へと反射する。それは銃口を凍り付かせ、次なる攻撃を遅らせる為の一手となった。


 良いぞ。『紅い星』は、全く俺の行動に対処出来ていない。


 さっさと、本体を出現させろ。


 奴はこれまで、『境界線』を越えたからこそ使える力というものを、一切使って来なかった。それは俺に、ひとつの推測をさせた。


 あの戦艦のように見える物体は、『本体』ではないと。


 だとするならば、あの巨大な物体が持つ機能は、身を守る為のバリアと、攻撃の為の銃口程度なのかとも思えた。手っ取り早くこの星の生物を消すために、奴が用意した手段なのだとしたら。


 こんなものは、俺の敵ではない。


 七色のオーラは、今度は黄色へと変化した。溢れんばかりの気力が湧き上がり、俺は魔力のオーラについての性質を理解する――――やはり、この『色』は人が持つ感情に近いモノなのだろう。


 キュート・シテュは、どんな逆境にも負けない覚悟と、相反するような無邪気さ。


 俺は、増える。


「<超・キュートダンス>!!」


 弾丸のように『紅い星』へと突っ込み、空中で三人に分身して蹴りを放った。勿論、本当に分身した訳ではない。空中を蹴って左右に移動し、恰も分身しているかのように見せているのだ。


「ぶっ壊れろやおらああああ――――――――!!」


 この星で最強の存在。俺は『境界線』を越え、トーマス・リチャードの知識を得たことで、それに限りなく近い存在になっていた。


 攻撃に意識を奪われた脳裏の片隅で、僅かな自信が芽生える。


 ならば、勝てるだろうか。


 俺は、過去に人類と魔族が越えられなかった壁を、越える事が出来るだろうか。


 心中に秘めた蒼い炎は俺を冷静にさせ、その上で前へ前へと突き動かす原動力にもなっていた。


 咄嗟に出現した黄金色のバリアと、俺の右脚が衝突する。


 まるで鉄壁に足を叩き付けているかのような衝撃が、俺の全身を駆け抜けた。だが、その攻撃は確かに、黄金色のバリアを破壊させるに足る威力を持っていた。


 攻撃は、一発では終わらない。残像のように俺は広範囲に動き回る。……どうだ。まるで三人に分身した俺が、黄金色のバリアに向かって蹴りを放っているかのようだろう。


 瞬間的に、途方も無い数の蹴りを繰り出しているのだ。<限定表現レストリクション・スタイル>を思い付くに至った、キュートの足技。


 これまでに行った技は全て、俺の戦術には無いものだ。仲間が使っていた……生物は、一人では生きられない。逆に言えば、それが強みだ。


『紅い星』は、所詮は一体しか存在しないもの。だったら、『数』は。


『数』こそが。


 ――――俺達の、力だ。


 黄金色のバリアに、亀裂が入った。


 思わず、僅かに笑みを浮かべた。


 一度後方に宙返りし、その間に武器を創造する。取り出したのは、先端に水晶のような宝石の嵌め込まれた、豪華な杖。何も無い所から出現したそれは、俺の魔力を自ずと増幅させる。


 俺は、放つ。


「受け継がれし火の意志よ、汝の呼び声をもって答えよ!! 獰猛なる野獣の如く空を駆け、我が前に立ちはだかる理知乏しき危害を消し飛ばせ!!」


 ベティーナ・ルーズは、確実に物事を積み上げていく勤勉さと、少しばかりの勇気を。


「<超・ダイナマイトメテオ>!!」


 空中に居るうちに、発動させた魔法。球体となり、俺の全身を包み込むように組まれた魔法陣は、巨大な隕石の連撃を与える為に桃色のオーラを放つ。


 まだ、だ。杖を戻し、取り出したのは小さな黄金色のハンマー。俺が念じるだけで、掌に収まる程度だったハンマーが巨大な戦艦にも匹敵する程の大きさに変化した。


 余裕だ。これだけの魔力を放出しても、俺には何の反動もない。この星が、俺に味方をしているんだ。


 胸の奥から、闘志は奮い立つ。寒気にも似た、己の実力を全て発揮する時の瞬間。


 行くぞ。


 俺は、殴る。


 横薙ぎに、それを振り抜く。巨大な隕石が『紅い星』に着弾する瞬間と殆ど同時に、光り輝く石槌は相手を粉砕するべく、暴風と共に突撃した。


 チーク・ノロップスターは、溢れんばかりの元気さと、どんな事にも首を突っ込む陽気さ。


「<超・インパクトスイング>!!」


 隕石攻撃と、ハンマー攻撃の挟み撃ち。『紅い星』の全身に展開されたバリアが、その衝撃に震える。まるで地鳴りのように、辺り一面に轟音が響き渡った。


 結局、冒険者アカデミーを出て俺がやりたかった事って、一体何だったんだろうな。


 不意に、そんな想いは頭を過った。


 特に目的もなく、気ままに旅をするつもりだった。よく考えて見れば俺は、その時既に、自分が置かれている状況から逃げたかったのかもしれない。


 記憶を失っていたから、自分でもはっきりとした答えは出なかった。でも、きっとどうにかして、俺は『ノース・ロッククライム』を出て、『セントラル・シティ』からさえも逃げたかった。


 此処ではない、何処かへ。


 黄金色のバリアは遂に壊れ、俺は真っ赤な翼目掛けてハンマーを振り抜く。


 確実な粉砕。あまりにも短い時間で破壊された『紅い星』の外殻を、俺は眺めながら落下していった。


「おお…………!!」


 下に居る仲間達の間に、ざわめきが起こった。


 でも、結局物事を追い掛けていくうち、俺は自ずとこの問題に足を踏み入れる事になっていた。それは、初めてゴボウと出会った時からずっと――――俺の中に、あった事なのかもしれない。


 足を突っ込んでいるのに、何も解決しない。そんな状態で逃げる事を、やはり記憶の無い俺はどこかで否定していたのかもしれない。


 俺は『紅い星』そのものを、遥か遠くまで殴り飛ばした。既に凍り付いて固まった銃口は何処を向くこともなく、ユニバース大陸の外れに向かって吹き飛んでいく。


 やっぱり、どんな絶望を前にしても、逃げるなんてのは駄目だ。


 気持ち悪いじゃないか。


 地面に着地し、俺は仲間達の少し前。大草原に降り立った。


 遥か遠くに、吹き飛んでいる『紅い星』の姿が見える。八枚の赤い翼は曲がり、既に浮遊する能力を失っている大戦艦。俺はその空飛ぶクジラのような外見に向かって、左手を向けた。


 なら、俺は、導け。


 出来るだろう、今の俺なら…………!!


 中指と親指の腹を、合わせた。




「<超・強化爆撃イオン>」




『紅い星』の周囲で、閃光が巻き起こった。これが都市だったら、丸ごと無くなってしまうのではないかと思える程に凄まじい爆発が起こり、遅れて落雷のような爆音が俺達の耳に届いた。


 生み出された風は、俺の髪を撫でる。ゴーグル越しに見えた『紅い星』は、間違いなく赤い翼の一部を破壊され、黒雲と化していく煙を銀色のボディからもうもうと吐き出しながら、地面へと落ちて行った。


 森の向こう側に、巨大な戦艦は墜落し。


 ……そして、それきり。


 動かなくなった。


 静寂が訪れた。俺はその場に立ち尽くしたまま、ゴーグルを額の上に押しやり、その状況を確認した。草原に吹く風が、頬を撫でる。束の間の平和が、そこにはあった。


 願わくば、これで終わって欲しい。


「…………終わったのか?」


 レオが、ぽつりと呟いた。こんなにもあっさり、と言外に含めるかのようだった。呆然と森に突っ込んだ巨大なオブジェクトを見守る中、初めに声を出したのはチークだった。


「…………す、すごいよラッツ!! 何、今の!? もうどんな魔法でも使えるの!? 圧勝じゃん!!」


 周囲は、穏やかな空気に包まれていった。チークの言葉をきっかけに、ロイスやベティーナ、魔族達。破壊された『紅い星』を見て、笑顔を見せ始めていた。


 だが、俺はその場に立ち尽くしていた。何より、リリザ、マウス、ガング、それからフィーナも。『境界線』を超えたメンバーは、誰も勝利を喜ぶような真似はしていなかった。


「ぬか喜びするな!! 本番はこれからだ!!」


 叫んだのは、マウスだった。その言葉に、一同は瞬間的に静まり返った。


 何処までも広がる、大草原。その向こう側に、魔力の流れを感じた。気を奮い立たせ、俺はただ、遠くから近付いて来る『紅い星』を待つのみとなっていた。


 ……大丈夫だ。


 心の何処かで、自分が自分を励ました。


 見ろ。これが、今の俺の実力だ。圧倒的じゃないか。


 俺達の旅は、こんな所で終わりにはならない。そんな事に、させてはならない。


 爺ちゃんは、俺に全ての望みを託して消えた。誰からも思い出される事のない、永遠の無にその身を投じた。


 その事実を、無駄にしてなるものか。


 俺達なら、出来るはずだ。


『紅い星』は、唯一の脅威。なら、俺達は数で攻めれば――――――――


 刹那。


 俺は目を見開き、その信じられない光景に両の拳を強く握り締めた。


 結局の所、奴等のやっている事は『進化』の紛い物でしかない。進化の過程は。俺達生物が持つ、唯一で最強のものだと。動き出した時間を経験へと変えて行く事が出来るのは、俺達だけだと。


 心の何処かで、慢心していただろうか。


「いくら何でも、これは…………」


 ぽつりと俺は、そのように呟いていた。


 遥か遠くに感じられる魔力は、『境界線』を越えた性質のものだった。地平線に、帯のように、魔力の反応を感じていた――……


「馬鹿な。『紅い星』は、一体でした。間違いなく、唯一無二の存在だった筈です。……こんな、筈は」


 珍しく、ガングが慌てている。……そりゃ、そうだろう。こんな状況で、慌てるなって言う方が無理だ。


 遠く向こう側に見えるのは、無数の人影。……人の姿をしていた。しかし、それは人間ではなかった。


 地平線から、太陽の逆光を受けて、それらは歩いて来る。


 銀色で、瞳孔を持たない死んだ魚のような眼を持っていて、銀色の光を反射するそれは。俺達を見て、妖しく嗤った。


 ――――畜生。


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