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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第七章 初心者と英雄気取りの極悪人と新たなる魔界の王
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I142 たったひとつの結末

 選んだのは、<キャットウォーク(+10)>。発動は自由に扱う事のできるフルリュの魔力を使い、媒介は相変わらず俺の心臓。大地の魔力を目一杯吸い上げ、俺は走り出した。


 同時に、レオも全身から迸るような赤の魔力を噴き出させた。俺に一歩遅れて、レオが魔法を発動させる。


「<チェンジビースト>!!」


 そうだな。この状況なら、<タフパワー>よりも<チェンジビースト>だろう。今はただ、殴る事の強さだけを追い求める必要がある。


 ゴールバードは肩に自身が放った針の攻撃を受けながらも、体勢を立て直した。ゴールバードの真下から突如として伸びた壁が、俺の行く手を阻む。


 最強・自動の鉄壁。だが、そういつまでも無敵ではいられないだろう。


 咄嗟に、壁を避けてゴールバードの裏側へと回った。奴の壁による防御も、壁からゴールバードまでの距離が着実に短くなってきている。それは俺達がゴールバードを追い詰め、距離が縮まったから――――という理由に他ならない。


 今はもう、壁さえ破壊してしまえばゴールバードまでは目と鼻の先程の間隔しかない。


<キャットウォーク(+10)>では、壁を破壊するだけの攻撃力を持つことはできない。最速を意識してゴールバードの背に回るが、そこには既に新しい壁が出現していた。


 …………追い詰められてなお、この速さか。


 上から攻めても、駄目だろう。<重複表現デプリケート・スタイル>を使っていた時と同じ現象が、また起こるだけかもしれない。<暴走表現オーバーヒート・スタイル>を使ってもなお、凌駕は出来ないということだろうか。


 しかし、ある疑問が俺を冷静にさせていた。


「<ドラゴンブレイク>!!」


 レオが黒刀に炎のような魔力を宿して、ゴールバードの出現させた分厚い壁を打ち破る。それは壁を通り抜け、ゴールバードへと目掛けて向かっていった。


 俺が<限定表現レストリクション・スタイル>に鈍器を持ち、ようやく壊した壁。レオの<ドラゴンブレイク>なら、壊した上で貫通攻撃を仕掛ける事も出来るのか。


 頼もしい。ゴールバードは苦しそうに呻きながら、両手でレオの黒刀をガードした。


 真っ直ぐに通り抜けて振り向いたレオが、ゴールバードへと追撃を仕掛ける。


「<ウェイブ・ブレイド>!!」


 この広場を取り囲むように存在していた、十数体の化物。『イカロスの羽』と言っただろうか。その全ては敗れた。化物共は今や、広場の外へと飛ばされたものと、壊されて機能停止したものとに分かれていた。


 その操作者である、元エトッピォウ・ショノリクスの一番弟子、アドワン・ノヴァ。そしてガング・ラフィストの親族である、メアリィ・ラフィスト。その二人の呪縛も解き、広場の隅で眠っている。


 レオの<ウェイブ・ブレイド>が、ゴールバード目掛けて疾走る。当然、ゴールバードはレオの放った波動を伴う斬撃攻撃を、壁を出現させることで防御する。


 ――――やはり、そうだ。


 ゴールバードは、はじめに俺とガングが二人で戦った時、自身を取り囲むドームのように壁を出現させ、その身体を守っていた。それなのに、今はレオの攻撃ならレオの方向へ、俺の攻撃なら俺の方向へと、一枚の壁を出現させる程度に留めていた。


 それは、どういうことか。


 この速度、この人数。捲し立てるように展開される戦闘に、最早ゴールバードの魔法は付いて来られていないのではないか。


 だからこその、精一杯の防御。だとするなら、この戦闘は既に俺達の勝利だと思っていい。


 だって、戦っているのは俺とレオだけではないのだ。


「小癪な……!! 私がこれ以外にスキルを持っていないとでも思ったか!! <フレイムラピッド>!!」


 レオに向かって、ゴールバードが右腕を銃に変形させ、炎の弾を幾つも撃ち込んだ。……なるほど、剣士に飛び道具で戦うというのは、最も理に適った戦法ではある。


 ……戦う相手が一対一なら、の話だが。


「<ソニックブレイド>!!」


 銃をレオに向けて放ったゴールバードは、俺から見れば隙だらけだ。


 短剣を使い、目標目掛けて一閃を放った。壁は出現せず、その短剣はもろにゴールバードへと食い込み、そのまま通り抜ける。


 ゴールバードの身体から、血が流れた。苦痛に顔を歪め、しかしゴールバードはレオを倒すことに集中しているようだった。


 だが、大丈夫だ。


 前衛として突っ込む俺とレオを、ひとつ後ろでササナが見守っている。


「<シンクロ・ノイズ・ノイズ>」


 ササナが繰り出した音の雲が、ゴールバードの<フレイムラピッド>を捉える。銃弾は雲の中程で停止し、その勢いを失った。努めて冷静なままでササナは弾速を殺し、銃弾を広場に投げ捨てる。


 俺のギルドで、最強の盾だ。拡散された攻撃や範囲攻撃を捕まえる事を得意とし、その攻撃を無効化する事に長けている。歌をメインにしたササナの魔法は、滅多な事では破られない。


「くっ…………!! <ライトニング・アロー>!!」


 ゴールバードの左腕が、今度は弓に変化した。……まさか、様々な武器をその身体で体現する事が出来るのか……!? 変形と攻撃を同時にやってのけるゴールバードは、リュックを背負うという俺の戦術と同じだけのバリエーションを持ち、そして機動力の面で俺を凌駕していた。


 加えて、放たれるのは<ライトニング・アロー>ときた。落雷の矢は俺を捉え、一直線に突っ込んでくる。……レオが駄目なら俺を、と思ったか。


 しかし、俺は笑みを浮かべたままでいた。リュックに短剣を戻し、長剣を取り出す。ゴールバードが次の手に移るタイミングで、遅れを取る訳にはいかない。


「<ラジカルガード>!!」


 離れた所からでも支援できる、最強のパートナー。フィーナが、俺を守ってくれる。


暴走表現オーバーヒート・スタイル>に、何かを重ねている訳ではない。<重複表現デプリケート・スタイル>を積めれば楽だったが、フルリュの魔力をトリガーにして使うのは避けた。フルリュに何があるか分からないのは、ちょっと嫌だ。


 だが、通常状態の付与魔法を使う事くらいは可能だろう。


「<ホワイトニング>!! <ダブルアクション>!! <マジックオーラ>!!」


 ゴールバードの放った<ライトニング・アロー>は、フィーナの鉄壁の防御に阻まれる。俺はその横をすり抜け、ゴールバードへと向かった。


 慌てたゴールバードは、弓に変化した左腕を更に変化。先程は牙だったが、今度は先の鋭い刃物のように変化させて、俺の動きを受け止める。


 レオも、既に向かって来ている。ゴールバードの右腕は――――同じように、刃物に変えた。


 連続した剣技の音が、広場に響いた。左腕を俺が、右腕をレオが攻める。二刀構えているとはいえ、ゴールバードは同時に二人から繰り出される剣技に、後退していった。


 ……これだけの人数を揃えても、まだ抗うのか。そう思いながらも、俺は一歩、ゴールバードを抜いていく。左腕の剣技をすり抜け、ゴールバードの懐に飛び込んだ。


 左から右へ、長剣を振る。


 ゴールバードはバックステップで、俺の攻撃を避けようとした。


 させるものか。今、俺は<キャットウォーク(+10)>状態。ゴールバードが如何なるスキルを使っていようと、純粋な速度で今、俺に敵う者は居ない。


「届けっ――――――――!!」


 そう叫んだ俺の剣は、ゴールバードに接触した。


 その長剣はゴールバードの紫色のシャツに引っ掛かり、ボタンごと服を引き裂いていく。


 ゴールバードの、銀色に輝く左胸が露わになる。ひとつの謎を解くたびに、新しい謎の現れる男。ゴールバード・ラルフレッド。


 ようやく、手が届いた気がした。


「くっ…………!!」


 歯を食い縛り、ゴールバードが俺の事を憤怒の形相で睨み付ける。鳩尾の辺りに切り傷を付ける程度ではあったが、確実に俺の攻撃はゴールバードに届いた。


 それは、つまり。


 鉄壁の防御、際限無く増幅していくスキル、強制的に無効化する魔力。その、反則的な幾つもの戦術を掻い潜り。


 不意打ちや偶然ではなく、俺が俺の戦術に従い、確かな一撃をゴールバードに与えた事を意味していた。


 ゴールバードと、視線を合わせる。


 さあ。


 決着を、付けよう。


「お兄ちゃん、どいて!!」


 キュートもいる。<キュートダンス>によって俺とレオの速度に付いて来ていたキュートが、疾風の蹴りをゴールバードに放った。意識の外でも半ば自動的に使われるのか、ゴールバードは外部から向かってくるキュートに向けて、地面から外壁を繰り出したが――――しかし、それはブラフだ。


 壁に当たる瞬間、キュートの姿が消える。まるで反対側からキュートは現れ、ゴールバードの脇腹目掛けて蹴りを放った。


 キュートの右脚が、ゴールバードにめり込む。


「ぐあっ…………!!」


 良い動きだ。攻撃スキルなんて無くても、攻撃する事はできる。それを体現するかのように、キュートは僅かに飛び跳ねながらゴールバードに向かい、構えた。


「ササナさん!! 協力してください!!」


 フィーナがササナの所まで、走って来ていた。ササナの隣に位置し、その手を取った。


 驚いたササナに、フィーナは僅かに笑みを浮かべた。


 瞬間、ササナとフィーナを中心に、魔力空間が生み出される。それは俺とレオ、キュート、そしてゴールバードをも包み込み、ドーム状に変形すると魔法を発動させた。


 聞いた事がある。魔力を持つ聖職者が、魔力の高い第三者と連携することで使われるスキル。


「<テンペスト>!!」


 そして、聖職者唯一の攻撃魔法とも言われる。


 蒼の光が、辺りに散りばめられた。聖なる十字が吹き荒れ、フィーナの認める人物以外に攻撃を仕掛ける。勿論この場合、敵はゴールバード・ラルフレッド。ただ一人だ。


 ササナは意味が分かっていないようだったが、魔力さえ利用出来れば充分なのだろう。まるで星空がまるごと降り掛かって来たかのような、幻想的で恐ろしい攻撃。


『裁き』と呼ぶに相応しい聖なる光が、ゴールバードを襲う。


「すげえ…………」


 思わずといった様子で、レオが呟いた。光り輝く空間は俺達の視界を埋め尽くす。ゴールバードは身動きを取ること、防御することさえ出来ずに、<テンペスト>の直撃を受けていた。


 そりゃ、そうだ。<テンペスト>を撃たれるということは、詠唱なしの大魔法を連続して撃たれるようなものだ。


 大魔法は、基本的に詠唱を持っているものだ。長い魔法公式を組み立てるからこそ、それだけの威力を持つのであって。瞬間的に発動させるタイプの魔法で、魔法使いの大魔法を超えることが出来る範囲攻撃は非常に少ない。


 その数少ない魔法のうち一つが、<テンペスト>。昔、フィーナが目を輝かせて、俺に話していたのを覚えている。


 聖なる光は、悪を裁くのだと。


<テンペスト>が終わると、ゴールバードの全身は傷だらけになっていた。先程までの常勝、絶対的存在は今や、風前の灯火。立っているのがやっと、という状況なのだろう。


 まさか、『反乱軍』が自身を打ち破るなどと、想像もしていなかったのではないだろうか。


『最強』とは、或いは『正義』、或いは『悪』のように。己の内側だけでしか信じられず、また存在する事さえ出来ない、幻にも似たモノなのかもしれない。


 どんな戦術にも、弱点はある。俺達は、いつだってそれに気が付いていないだけだ。まるで目の前に居るものが『最強』だと思い込んだ時、人は諦め、絶望し、仕方なく強者の言葉を受け入れる。


 そうやって、『真・魔王国』は出来上がっていったんだ。


 それは、自然災害のようなものだと。決して駆逐する事などできない、絶対の存在であると。


「レオ、行こう」


「おうっ…………!!」


 ――――今、覆す。


 湧き上がる、夥しい量の魔力。その全てを、俺は両腕に集中させた。レオもまた、自身の持っている魔力を全て、その黒刀に注ぎ込んだように見えた。


 ゴールバードは、まだ意識を持っている。血走った瞳で俺を睨み付けると、歯を食い縛った。


「後悔、するぞ…………!! ラッツ・リチャード!! そこの女が記憶を取り戻した時、お前は困惑するだろう!!」


 目を見開いた。


 ビリビリと、全身の神経が緊張を感じている。それは、恐怖によるものではなかった。


 それは、怒り。目の前に居る、ゴールバード・ラルフレッドという人物、そのものに対しての。


 ゴールバード・ラルフレッドは、果たして人類にとって『悪』だったのだろうか。


『悪』とは。人を、『正義』や『悪』などといった曖昧な言葉で判断する事などできない。誰もが『正義』に、そして『悪』に成り得る事を、俺は理解している。


 しかし、大掛かりな仕掛けを用意し。無差別に関係のない人間を巻き込む事を、『災害』以外の何と呼ぶのか。食べる目的以外で、人は生物を殺す。ならば、生物にとって俺達は確かに、『悪』かもしれない。


 ならば、ゴールバード・ラルフレッドは人類にとっての『悪』とも言えるのだろうか。


 …………まあ、いい。


 俺は、俺を護る。俺達を。家族を。


「平和か……!! 良いだろう!! お前の希望は叶わない!! 例えどのような逆境を前にしても、お前に、人類に、神の裁きを与えて――――」


 すう、と、大きく息を吸い込んだ。




「うるせえ――――――――――――!!」




 二人、駆け出す。


 俺とレオの長剣は交差し、ゴールバード・ラルフレッドへと向かった。


 その左胸に光る銀色を見据え、その腹へ狙いを定める。


 ゴールバードが目を見開いて、俺とレオを睨む。


 ――――ゴールバード・ラルフレッド。


 そこに、どんな障害があろうと。


「<ソニックブレイド>!!」


「<ドラゴンブレイク>!!」


 俺はお前を、超えて行く。


 引き抜いた長剣は、ゴールバードを腹から分断した。まるで機械のような、ずしんと重たい手応えが、長剣を握り締める両腕へと響いた。


 人以外の、何かの存在のようにも思えた。人であって、人ではないモノのような――……。その、黒く濁ったものを浄化するかのように。


 俺は、俺達は、ゴールバードを打ち破る。


 それが、たったひとつの結末だった。




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