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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第七章 初心者と英雄気取りの極悪人と新たなる魔界の王
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I141 種明かしは仲間とともに

 俺の心臓を賭けて大地の魔力と自身の魔力を融合させた事もあったが、それでも魔力に制限はあった。リミットそのものが無い、なんていうことは……。本来、有り得ない筈だ。


 それだけが、たった一つの疑問。それ以外の謎は、全て解いた。リュックから今一度長剣を取り出し、俺は構える。


 これが、その証拠だ。


「<ソニックブレイド>!!」


 疾風の一閃が、真っ直ぐにゴールバードへと向かっていく。だが当然、ゴールバードはそれを避けようともしない。


 直前で失速する事を知っているからこその、余裕の態度。


 俺は、笑みを浮かべた。


「なっ…………!?」


 俺の放った<ソニックブレイド>は勢いを失わず、ゴールバードに向かっていく。初めて、対応し切れなかったゴールバードが俺の攻撃をもろに喰らった。


 スーツごと、その奥に傷を付ける。


「――戦闘中だぜ。戦う前から勝ったような顔してんじゃねえよ」


 特に、威力はない。ゴールバードにも傷が付く程度ではあったが――――ゴールバードはこの上ないと言うほどに驚愕し、目を見開いて俺を見ていた。


 誰が来ようとも、この状況は変わらないと思っただろうか。


 分からないのだろう。<ソニックブレイド>の発動に使ったのは、<マジックリンク・キッス>を通したフルリュの魔力ではないのだから。


 相変わらず、ゴールバードの謎である『どうしてそれを、無制限に使う事が出来るのか』という謎は解けない。


 だが、今はそんな事を言っていても仕方がない。これを使う事で、ゴールバードとの『戦闘』が成立すると言うのであれば。やるべきだ。


 フルリュの魔力をトリガーに使ったとしても、<暴走表現オーバーヒート・スタイル>を使う事は出来ない。使うためには、フルリュの魔力を俺の体内に宿す必要がある。


 完全に、大地の魔力だけを利用して使えるスキル。


 ならば、こっちだ。


「<限定表現レストリクション・スタイル>!!」


 俺はフルリュと共有した、フルリュの魔力を使って<限定表現レストリクション・スタイル>を発動させる。媒介にするのは、俺の両腕。フルリュの身体の上で、フルリュの魔力と大地の魔力を融合させる。そのうち、大地の魔力だけを俺の両腕へ。


 コントロールは難しいが、フルリュを大地の魔力の吸い上げの為に利用する。


 それが、フルリュと一緒ならできる。<マジックリンク・キッス>を使う事によって、俺とフルリュの戦闘方法は無限に広がっていく。


 いや、フルリュだけではない。


 頭を使うんだ。今この場に居るメンバーは、全て俺の味方。突っ込むのは、唯一魔法を使う事のできる俺でもいい。それなら、他の奴等を援護に回せ。


 仕掛けは暴いた。ここからは、反撃の狼煙を上げる時だ。


「ガングさん!! フルリュを連れて、ゴールバードの範囲外に連れて行ってくれ!! フィーナ、ガングと一緒に外側でサポートを頼む!!」


 フルリュがゴールバードの魔力無効化空間内に入る事で、<マジックリンク・キッス>そのものが解けてしまったら困る。フルリュに護衛を一人付けて、かつフィーナはサポート。


「ラッツさん、こちらは任されましたわ!!」


「ササナ、お前のカウンター攻撃なら役に立つ場面があるかもしれない!! 近くに居てくれ!! キュートは傷がひどい、一度フィーナに治療して貰え!!」


 次々に、指示を出していく。仲間が全員、俺の目の届く範囲に居るこの状況なら、俺はすべてのメンバーに一声掛けるだけで指示を出す事ができる。


 最後に、レオを一瞥して俺は言った。


「レオ。……お前の剣が必要だ。俺に力を貸してくれ」


限定表現レストリクション・スタイル>状態と言えど、俺一人の力ではゴールバードの制限の無い魔力に打ち勝つ事は出来ないかもしれない。


 レオは当然だと言わんばかりに余裕の笑みを見せて、俺に向かって親指を立てた。


「任せろ」


 とはいえ、レオは魔力を使えない。持前の筋力と体力を使って、剣士として動くのが精一杯だろう。


 だが、大丈夫だ。俺が真正面からゴールバードと対峙すれば、ゴールバードとて魔力無効化空間を維持することは難しい、筈だ。その証拠に、ゴールバードは今まで俺とガングに大した攻撃をしてきていない。


 また、ロゼッツェルとの戦闘時も、<タフパワー・プラス・プラス>を打ち破るために一度使ったきりだった。その後に俺が放った攻撃に対しては、無効化を使わなかった。


 その推測から導き出される結論は、一つだ。


 どのような魔法公式なのかまでは特定できないが、『魔力無効化空間』を使う事は、ゴールバード側にもリスクがあるということ。それが、ロゼッツェルとの戦闘でゴールバードが、最後の最後までこのスキルを使わなかった理由の一つなのではないか。


 俺の心臓を賭けても、使える大地の魔力には制限があったのだ。……それなら、制限を超えた使い方をするとどうなるのかなど、想像しただけでも恐ろしい。


 きっと、ゴールバードにリスクはある。長時間使えないか、代わりに何かの制限が掛かるのか。そういった何かは、存在するはずだ。


 ならば、俺は戦える、はずだ。


「行くぞ、ゴールバード!!」


 フルリュの魔力なら、あまり無理はできない。最小限に留め、代わりに大地の魔力を力強く吸い上げる。


 随分と、扱える魔力の幅に融通が利くようになっていた。本来は俺の魔力ではないものを、恰も俺の魔力のように使用すること。そんなことは、日常茶飯事だった。


 リュックから取り出した長剣を構える。……付与魔法は使えない。だが、それでも構わない。ゴールバードの防御を上回る攻撃力さえあれば、勝機は見えてくる。


 相手は、人なのだから。


「その魔力は、誰の魔力だ……!? 制限がないってことは、お前の魔力って事はないだろうよ……!!」


 言いながら、俺は走り出した。ゴールバードの領域内に入る事で、フルリュの魔力は利用不可能になる。……しかし、フルリュ自身は今、ゴールバードの領域の外にいる。


 だから俺は、大地の魔力だけを利用し、スキルを発動させることができる。フルリュを中継点にして、恰も自分の魔力のように。


 これが、一つの答えだ。


 地面に転がった鈍器を今一度手にして、俺はその重みを確かめた。ゴールバードが、僅かに焦りの表情を浮かべる。


 分からないのだろう。どうして俺が、この空間内で魔力を使えるのか。


 そして、その理由に気が付くに違いないのだ。


 俺も、ゴールバード・ラルフレッドと同じ力を使っているからに他ならないと。


「レオ、俺が壊す!! お前は斬ってくれ!!」


「了解……!!」


 啖呵を切って、走り出した。鈍器を構え、ゴールバード目掛けて俺は走り出す。当然、ゴールバードは左手を真下に。何度でも作り出す事の出来る、巨大な壁を出現させた。


 そうだ。やはり、大地の魔力はゴールバードの周囲でも、何一つ遜色なく使う事が出来る。それは、ゴールバードが大地の魔力を利用しているから、という理由に他ならない。


 奴も、使っているんだ。俺と同じ、本来自分自身が抱えていて使用する事の出来る魔力量というものを、超えるための手段を。


 そして、それこそが『何故、特定の魔力だけが無効化されるのか』という問い掛けに対する唯一の答えだ。


 ゴールバードは、扱う魔力の量に制限はない。


 俺達は、扱う魔力の量に制限がある。


 ゴールバードは、その空間の中でも自由に魔法を使う事ができる。


 俺達は、その空間の中では一切の魔法を使う事ができない。




 そして、ゴールバードは簡易的な防御に、毎回『地中から壁を出現させる』という手段を使っていた。




「『魔力』を使う人間が本当に愚かかどうか!! その目で確かめてみろよ……!!」


 魔力無効化空間。そのトリックの実態は、『特定のまとまった魔力量』という判断基準をもって、魔力の無効化を行っているということだ。


 大地の魔力を利用可能なら、魔力量を判断基準にしてしまえば。それよりも小さい魔力を無効化することも、魔力量の差から言えば可能だろう。


 そして、恰もゴールバードだけが魔法を使えるかのように見せた。


 それが、印など付けられる筈もない『魔力』を区別するための、たった一つの方法だったんだ。保有している魔力量ということなら、地面に設置している限り、大地の魔力で魔法が使える。


 俺と一緒だ。


「<インパクトスイング>!!」


 俺の両手に構えた鈍器が、ゴールバードの分厚い壁を打ち砕く。俺の役目はここまでだ。


 今度の壁は、<ブルーカーテン>によって弱体化させた訳でもない。それでも打ち砕きはしたが、勢いは殺される。まして『鈍器』では融通が利かず、ゴールバードに向かって器用な攻撃を繰り出す事もできない。


 俺の代わりに、レオが背後から現れ。俺の背中を越えていく。


「ガングの爺さんと女の子、護らねえとな」


 レオが、ぽつりと呟いた。


 これまでの話を自然と統合して、無意識のうちに考えていた。


 神具の少女と、俺の爺ちゃん。そして、ガング・ラフィスト。この三人は、関係性を持っていた。


 ならば、ゴールバード・ラルフレッドと合わせて、四人。これが、答えなのだろうか。


 時空を操る、若者。……どうにも、ゴールバードはそのようには見えなかったが。長い時が経ち、新たな能力に目覚めたということもあるのだろうか。


『紅い星』には、四人で挑んだ。それは、ガングの話によれば確かなのだから。


 …………なら、どうして『四人』なんだ。


 四人であることに、意味はあったのか。仲間を沢山集めれば、『紅い星』に勝つ事だって出来たんじゃないのか。それとも、一般の人々は戦闘に参加することも出来ない程、異次元的な強さを持った凶悪な何かだったのか。


 それは、有り得る。だからこそ特別な場所で、四人で戦ったのかもしれない。


 謎は尽きない。……しかし、今言えることは。


 ゴールバード・ラルフレッドは、どうやら俺の爺ちゃんから何かを言われたらしい、ということだけだ。


「くっ……!! 魔力が使えない状態で、私に勝てると思うな!!」


 ゴールバードがレオに向かって右手を出すと、その掌からツノか牙のような物質が出現した。それは真っ直ぐに伸び、予想もしない手段でレオへと攻撃を仕掛ける。


 レオは――――落ち着いている。僅かに身体を揺らす事で、直線的な牙の攻撃を避けた。剣で防御するまでもない、ということだろうか。


 俺も、負けていられない。鈍器を戻し、短剣を構える。一度ゴールバードの間合いに入ったなら、もう引き離させる訳にはいかない。


 そう何度も、あの壁を壊してはいられないのだから。


 レオは鋭い目つきで、ゴールバードの懐に入った。流れるように黒刀を動かし、その腹目掛けて格闘技のように素早い斬撃を放つ。


 ゴールバードは洗練されたレオの動きに驚き、焦る。だが、レオの剣先に自身の左手を合わせた。


 鉄と鉄がぶつかり合うような音がして、レオがゴールバードを通り抜ける。……ゴールバードには、傷が付いているようには見えない。


 左手の先から、例の硬い物質を出現させたのか。自由自在に形を変化させる事ができ、攻撃にも防御にも使える。……これなら、鍛冶屋はいらないな。


 続けて、俺も飛び込んだ。<限定表現レストリクション・スタイル>によって強化された両腕を、縦横無尽に振り回す。


 連続して、ゴールバードと俺の間に火花が飛んだ。斜めから斬り付けて入り、返しの一撃は水平に。長剣ではなく短剣を選んだのは、ゴールバードの懐に入って喧嘩のように動きたかったからだ。


 この距離なら、ゴールバードは際限なく使える魔力を、存分に発揮することができない。何しろ、ひとつ間違えれば自分自身にダメージがあるかもしれない状況だ。


 無効化には、無効化。これだって立派な無効化だ。目には目を。俺はスキルが使えるのだから。


 両手で防御する事しか出来ないゴールバードに、俺は短剣を構えた。


「<チョップ>!! ……俺ばかりに気を取られていて良いのかよ!!」


 後ろからは、既にレオが攻めてきている。


 気付いたゴールバードだったが、時は既に遅い。ゴールバードの背中が変化し、亀の甲羅のように円形の盾が出現した。レオは……やはり、落ち着いている。元から戦闘時には、ただひたすら無言で内に秘めた炎を燃やすタイプだったが……強くなったことで、より集中力が増しているようだ。


 そういえばレオは、いつか俺のパーティーに入るんだとアカデミー時代から何度も言っていた。


 ……もう、俺の方が足を引っ張っているかもしれないな。


「ぐおおっ…………!!」


 レオは一閃、ゴールバードの背中から前へと通り抜けるように剣を振るった。魔力を使っていなくとも、この速さ。やはり、剣士は魔力に頼らずとも、十二分に戦う事の出来る貴重な存在だ。


 ついにゴールバードの鉄壁の防御を破り、その背中に深い傷を付けた。


 その時、変化があった。


 ゴールバードは斬り付けられながらも、レオの背中に向かって右手を重ねた。その右手から恐ろしい勢いで、針のようなものが飛んできた。


 ――――毒か!?


 咄嗟に、レオへと走る。


「レオ!! 避けろ!!」


 振り返ったレオは、唐突な反撃に目を見開いた。


 だが――――俺は、その場に立ち止まった。


 水色のオーラを纏った少女がレオと針の間に割り込み、両手を針に――――そして、その向こう側に居るゴールバード・ラルフレッド目掛けて突き出した。


 ゴールバードはすぐ近くに居るというのに、魔力が減衰する様子はない。


「<トリック・オア・マジック>!!」


 放たれた針は、まるで同じ速度、軌道を描いてゴールバードへと一直線に飛んで行く。


 その、肩に刺さった。ゴールバードが目を見開いて、異常事態に驚愕していた。


 俺のパーティー唯一の、トリッキーな戦術。自身は攻撃手段を殆ど持たず、撹乱とカウンターに全てを賭けているかのような技構成。


 ササナ・セスセルトが、透き通るような眼差しをゴールバードに向けていた。


「良かった……使えなかったら……少し……まずかった……」


 ――――魔力が、戻ったのか!!


「畳み掛けるぞ、ラッツ!!」


「分かってる!!」


 その瞬間、俺は自分の身体に変化を感じていた。おそらく、レオもそうだったのだろう――……


 全身に、魔力が蘇る。フルリュと合わせた俺の魔力は、吸い上げた大地の魔力に負けずとも劣らない勢いだった。透明なオーラに緑のオーラが混ざり、俺は宣言する。


「<暴走表現オーバーヒート・スタイル>!!」


 この機を逃す訳には、いかない。






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