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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
第七章 初心者と英雄気取りの極悪人と新たなる魔界の王
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I125 王国招集と奇妙な違和感

 そういえば、結局ゴンは『荒野の闇士』のギルドへと戻ることになった。解散表明は既に出してしまったので、また一からギルドを作って行くんだと、話していたのだが。


 攻城戦を終えて、正気を取り戻したリスク・シンバートンは、ゴンが自分を助けてくれた事に感謝していた。やはり薬が無くとも、一度はギルドリーダーの喪失で離れ離れになっていた心。ロゼッツェルは、そこに取り入ったのだろう。


『スロウビースト』は致死性は低いが、長く身体に留まり、また依存もする薬品らしい。どうにか、リスクが立ち直ってくれれば良いのだが。


 最後にゴンは俺達の所に現れ、リスク・シンバートンと共に、俺に頭を下げた。


『――――やっぱり、あっしは荒野の闇士の仲間達を、忘れる事ができません。……ラッツさんの言う通り、もう一度やり直してみようと思うんです』


 リスクもまた、ロゼッツェルに唆されたとはいえ、自分の犯した過ちを悔いているようだった。


『ジョンさんが居なくなったのは、ゴンのせいじゃない。……俺は、それを勘違いしていたみたいなんだ。迷惑掛けて、すまなかった』


 仲直り――――と言うよりは、新たな始まり。『荒野の闇士』は死んで、新しく生まれ変わったのだ。


『何かあれば、呼んでくだせえ。いつでもあっしらは、協力しに参りますんで』


 だから、もう大丈夫だろう。


 そうして、攻城戦に事実上勝利した俺達は――事実上、というのは、リスクが正気を失っていたことと、ゴン・ドンジョの不在が重なったことで、今戦えばどうなるかは分からないという意味だが――何れにしても、周囲から突然にその実力を発揮した、隠れスターのようなギルドになってしまっていた。


 特に、数秒の間で架け橋の端から砦までを移動し、ギルドリーダーをその身で打ち取った俺のことは、それはもう大した騒ぎになってしまったのだ。


 騒ぎになってしまったので、外に出られない俺だった。


 ……殆ど全ての目的を、達成してしまった俺。仲間を救出し、ゴボウこと神具の少女とも再会し、立派な砦まで手に入れた。……これ以上、何を望むというのか。


「ラッツ」


 俺が望んでいた事は、家族とも思える仲間と愉快に、楽しく過ごす事ではなかったのか。……だったら、これでいいじゃないか。


「ラッツ。……ねえ、ラッツがおかしくなっちゃったよ。誰かハリセン持って来てラッツを殴ってよ。ってベタすぎるわー!!」


 チークが青い顔で、俺に突っ込みを入れた。……が、あまりに場違いなチークの言葉に、周囲は静まり返るばかりだ。


 俺は無心で朝食を頬張り……そして、カップに入ったスープをただひたすらテーブルクロスに零しながら、考えていた。


 どうしても、ハンスが去り際に言った言葉が引っ掛かる。纏わり付いたように俺の思考に張り付き、引っ掛かって離れなかった。


 少女の封印を解く為には、『五つの神具』が必要。


 そして、その神具は既に揃っている。俺の持っている二つと、ロゼッツェルとハンスが抱えている三つで、封印を解くことができると。


 …………ロゼッツェルは、キュートの住んでいた街を滅茶苦茶にした奴なんだぞ。


 俺の隣に居る、元・ゴボウ少女……名無しの少女は、俺と同じように悶々と何かを考えながら、朝食を口にしていた。俺と少女がそんな状態だからか、周囲も俺達を気にしていたが、特に喋る事はなかった。


「あの人、誰なんですか……?」


 フルリュがそっと、ササナに耳打ちした。


「知り合い……らしい……」


 ササナも小声で、フルリュに返す。


 まあ、こいつの姿を見ているのは俺だけだからな。事情を知っているのは、呑気に飯を食っているガングだけ。レオは黙っているべきと判断しているのか、変な顔をしているが口を挟む様子はない。フィーナはすました顔をしているし、ロイスも挙動不審な動きを見せながら、様子を伺っていた。ベティーナは意味を理解していない。


 キュートは、不機嫌な顔をしていた。


「こらあ――――!! ちょっと、何かあるんだったら話し合おうよ!! これだけ人数揃ってて別々に考えてるんじゃ、見付かる答えも見付からないぞ!?」


 テーブルを叩きながら喋るチークの言葉は、確かに的を射ている。


 意を決したのか、キュートが俺の目を見た。咎めるような視線は、しかし寂しそうな意味合いを伴っていた。石造りの部屋に敷かれた絨毯を蹴って、椅子から立ち上がった。


「……ねえ、お兄ちゃん。……まさかとは思うけど……ロゼの仲間になるなんてことは、ないよね?」


 ハンスから言われた言葉を、気にしていたのだろう。俺は苦笑して、キュートに首を振った。


「それは、ないよ。……だけど、あいつらが何を企んでいるのかは、どの道知らないといけないかと思ってる。言ってしまえば、良い機会ではあるんだよな」


 ロゼッツェルとハンス。その二人のどちらと戦っても、今なら勝てる事が分かった。奴等にとって驚異である以上は、無闇に攻撃を仕掛けて来たりしない。


 それもあって、ハンスは俺に声を掛けたのだ。その驚異が味方になれば、奴等にとってはこの上ない戦力の強化となるのだから。


 しかし、そうすると気になる点はどうしても、ある。


「問題なのは、どうして『神具』を集めたいのか。それだけだ」


 俺がそう言うと、ササナが何かに気付いたような顔をして、俺を見た。


「あれは……『反乱軍』では……ないの……?」


 …………え?


 目を丸くして、俺は頭に疑問符を浮かべた。その言葉に反応したのは、フルリュとキュート。……つまり、魔族側は把握している、ということか。


 フルリュが焦ったような顔で、ササナに問い掛けた。


「ちょ、ちょっと待ってください。……反乱軍って、『真・魔王国』ですか? あの独裁国に、まだ反発するような魔族が居るとも思えません」


 ササナはフルリュに流し目を送ると、無表情のままで呟いた。


 そうか、ササナはまだロゼッツェルに会ったことが無かったから、知らなかったのか。


「ううん……聞いたこと……ある……。『真・魔王国』から、『旧・魔王城』と『魔王国監獄』を買い取った男の……話……。どこからか、金を工面して……新しい魔王から、買い取った……」


 俺は、腕を組んだままでササナの話を聞いた。ベティーナが身を乗り出して、手を挙げた。


「ねえ、ちょっと、私達にも分かるように説明してよ」


 ササナは頷いた。


「もう、ずっと昔の話……。王様が消えて、個々の種族がバラバラで生活するようになってから……『新しい魔王』を名乗る奴、現れた……。そいつが、色んな種族の使える人間だけを集めて……『真・魔王国』を、つくった……」


 フルリュが一同を見回して、ササナの言葉に補足した。


「沢山の人が引き抜かれ、しかし暴力を前に屈服するしかなく、手出しをすることが出来ませんでした。今なお人々が帰って来る事はなく、その生存も不明なままになっているんです」


 その生存も、不明。


 滅茶苦茶だ。……そんな事をすれば魔界中が混乱してしまい、まともに機能しなくなってしまうのではないか。小さな村なんかは、まだ良いかもしれないが……


 ササナがフルリュの言葉を聞いて、ふと表情を曇らせた。


 ……あ。そうか。だからササナの住んでいる『人魚島』は、あんな状態になってしまったのかもしれない。


 ササナの話には、確かに信憑性がある。ササナが知らない事ではあるけれど、ロゼッツェルはアサウォルエェを従え、不当に金を巻き上げていた。もしも勝手に金が入って来るシステムを、アサウォルエェだけでなく、幾つか構築出来ていたのだとすれば。


『魔王城』と『魔王国監獄』を買い取ったという事実も、分かる。


 他にも――……


 戦う事になるだろうか。……いや、それはないだろう。ハンスの手の内は読めた。行動パターンも――……いつも二人で行動している所を見ると、あの二人、特にハンスよりも強い存在なんて、グループの中には居ないだろう。


 なら、結果は火を見るよりも明らかだ。戦うだけ無駄だというもの。


 そうでなければ、俺を必要とするのもおかしい。俺がキュートの味方であることは既に知られている事だし、協力しない、という返事も既に分かり切っている筈だ。


 それでもなお、俺にそんな事を言う。


 誘い出して戦いたい訳ではない。それなら一人で来いと告げる筈だし、不意を衝いて思い出し草の効果範囲に俺を入れてしまえば容易い――――魔界になら強力な味方が居るという線も、奴等がここに四人で現れなかった時点で有り得ない。


 …………有り得ないのだ。大切な『神具』を奪うための戦略。もしもそんな味方が居るなら、ロゼッツェルと二人では現れないはずだ。


 奴が、何を考えているのか分からない。


 俺は、席を立ち上がった。


「その、古い『魔王城』とやらに、行くか。……どうにも、ご指名は俺だしな」


 いざとなった時戦えるように、がっつり装備を整えて行こう。そうすると、『ゲート』を潜る必要があるな。人魚島からレインボータウンを繋ぐゲートは、ちょっと使い辛い……とすれば、どこか別の場所を探すしかないか。


 幸い『真実の瞳』を使って、『ゲート』の位置を炙り出す事はできる。


「それなら、私もお供しましょう。……あのロゼッツェルという男には、『百識の脳』を奪われていますから。悪戯に、あの知識を使われては堪りませんし」


 ガングがそう言って、席を立った。……しかし、ゲートを使うなら四人までしか移動できない。どうパーティーを組むべきか……


 キュートが腑に落ちないような顔で、眉をひそめて言った。


「あたしも行く。……あいつから、お兄ちゃんを護る。この耳と尻尾は、そのためにあるんだ」


 俺のことより、ロゼッツェルの事の方が気になると、顔に書いてある。キュートも、ロゼッツェルには一度殺されそうになっている身だ。やっぱり、放ってはおけないのだろう――……




 ――――――――あれ?




 奇妙な違和感が、頭を過った。違和感の正体を特定するまでには至らなかったが、何か、とてつもない、方向性の違いのようなもの。はっきりとは言えないが、とにかくそのようなものが、あった。


 気持ちが悪い。……だが、特定のしようもない。ハンスに確認しなければならないことが、一つ増えたような――……。




 ○




 久しぶりのゴーグルを装備して、再び元の完全装備に戻った俺。目を覆っていたそれを一度額まで上げると、リュックからタオルを取り出して、濡れた頭を拭った。


 まさか、ペンディアム・シティの砦の近くに『ゲート』があるなんて、思っても見なかった。久方振りの洞窟の中で、俺は<ライト>を使って辺りの空間を照らした。


 もしかして、『ゲート』って海の中や山の中にある事が多いのだろうか。ペンディアムの海に、魔力反応があった。ササナに潜って貰うと、確かにその場所に『ゲート』の存在を発見したのだ。


 相談の結果、パーティーは決定した。俺、ガング、キュート、そして――……


 転移の光に包まれて、少女がその場に現れた。洞窟の中に転移した事を知るや、銀色の髪を絞り、張り付いた服を気持ち悪そうに引っ張っていた。


「下着が透けちゃいますわ……」


 やっぱり、フィーナは回復役として居ないと困る。そのような結論に達したのだった。


 すすす、と俺のそばに寄って、ぴったりと身体をくっつけるフィーナ。心なしか、僅かに頬が赤くなっているように見えた。


「……何でしょう」


「いえ、寒いですわね」


 そうか……?


 再び、洞窟内に転移の光が現れる。アイテムエンジニアのコートに身を包んだガングと、懐かしい獣族の民族衣装を着ているキュート。二人ともずぶ濡れだったが、何故かガングの包帯は透けていなかった。


「いやー、濡れちゃいましたね」


 そりゃ、海に突っ込んだからな。ガングはいそいそと屈むと、スーツケースの中を漁り……程なくして、拳銃のような……銃口の非常に大きなアイテムを取り出した。


「テケテテン! 『ドライ・ライ・ライト』!!」


 お前はチークか。


 ……なんだか知らないけど、アイテム作る系の職業ってアイテムを見せる時、やたら得意気だよな。


「これを使えば、どんな濡れ場も一瞬にして乾燥! しかもお肌に優しい弱酸性、至高の逸品ですよ」


「いや、乾燥したらまずいたろ。濡れ場は……」


 ガングと、無表情のままで目を合わせた。吹き出すフィーナと、一人だけ意味を理解していないキュート。


 何事も無かったかのように、ガングは俺に向かって、『ドライ・ライ・ライト』と呼ばれるアイテムの引き金を引いた。


「あら不思議、温度高いわ」


 パチン、と音がした。


 いつもの奇妙な口調でガングはそう言ったが、温度が高い以前に眩しい。


「ぐォァ!!」


 目が死んだ。


 ……それでも、暫く待っていると目が慣れてくる。一言、眩しいから目を閉じろと忠告してくれりゃ良いのに……見ると、確かにガングの言った通り、濡れた服が一瞬にして乾燥していた。


 便利なアイテムもあったものだ。


 さて、この場所がどこだか分からないが――……


「おお……!! おお……!! 懐かしい……!! 『小岩の洞窟』か!! 『魔王城』も近いではないか!!」


 俺は、目を輝かせてそう言う少女に、怪訝な表情を浮かべた。


 どうやら、この少女は『ゲート』の人数制限に引っ掛からないらしい。彼女自身がまだ、『神具』に封印されているからなのか。……だとするなら、今目の前に見えている彼女は、一体何なんだ。


 どうにも、この『決断の指』の近くでなければ、行動が出来ないようだし……。


「主よ。知らぬ間に、人間界と魔界を繋ぐ穴はこんなにも小さくなっていたのだな。……人魚の娘に<ドリームウォール>などと言ってしまったのは、悪かった」


「それ、少しだけ気になってたんだけどさ。お前の言う、<ドリームウォール>ってのは……」


「うむ、まだ人間界と魔界の区別が曖昧なころ、人間界から存在を隠すために張られた魔力結界だ。見違えたものだな」


 それ以前に、どうしてお前は魔界の存在を知っているのか。俺としては、そっちの方が気になる。


 過去の、賢人。『ダンジョン』そのものを作り、人間達から魔族を隔離した張本人だと言っていたが……しかし、その張本人が創り出したものは、彼女の範疇を超えて進化しているようにも感じられた。


 それは、当人である筈の少女が驚いていたからに他ならない。


 だったら、彼女の知っている世界というものは、本当に、本当に遠い過去の話だということになる。


「もう、『魔王城』に魔王はおらぬのだな……。確かに、少しばかり時が経ち過ぎた……」


 そう言って、ふと昔を懐かしむような顔になる。


 ガングの話では、『紅い星』とやらと戦ったこともあるという彼女は。俺と再会して、元気を取り戻した代わりに。


「行こう、主よ。私も、懐かしき『魔王城』が見たいぞ」


 戻らない彼女の『記憶』について、暫しの間、忘れる事にしたようだった。


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