表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

#4



 美空は重い体をベッドに預け、枕に顔を埋めた。


 何もかもが一度に起こりすぎて、頭の中がパニックになっていた。


「どうすればいいの?」


 美空は首だけを横にして、机の上に飾っているフォトスタンドを見た。高校に入学した時に、玄関先で圭太郎と一緒に撮ったものだ。


 美空は跳ねるようにベッドから起きると、ローチェストの上に並べてあった十六冊のフォトアルバムのうち一冊を手に取った。一年で一冊がいっぱいになるペースで圭太郎は美空の写真を撮っていたのである。赤ん坊の頃から昨日までの思い出が詰まっていた。


「何が『過去は振り返らない』よ。毎日私の写真ばっかり撮っていたくせに」


 美空に母親のことで寂しい思いをさせないため、圭太郎がついた嘘であることは気付いていた。もしかしたら圭太郎は予測していたのかもしれない。雪妖の血に目覚めた美空が自分のもとを去るかもしれないと。


 そう思うと涙が止まらなかった。


 美空には今の生活を捨ててまで雪妖の長になることはできなかった。しかし、それでは雪妖たちは人間たちへの報復を止めないだろう。そうなれば尾仁市は壊滅してしまう。


 どちらを選択しても、今までのように普通の生活は送れなくなる。


「あー、もうわけわかんない!」


 美空は銀色の髪の毛をかきむしった。悩むのは苦手だった。いつも思いつきで行動し、何とかその場を凌いできた。しかし、今回ばかりは慎重にならざるを得なかった。


 美空は窓を開けた。突風が室内に雪を運んでくる。止むことのない雪。いつもと違う白銀色の景色。


「あれは……」


 どこからか煙が上っているのが見えた。


 消防車のサイレンが木霊して聞こえるが、この大雪では現場に辿り着くのも困難だろう。


「郁巳くんがやっているの?」


 信じたくはなかった。だが、それが真実ならば。


「止めさせなきゃ!」


 美空は階段を駆け下りていった。










「幸弥さんは郁巳くんの気配がわかるって言ってましたよね?」


 美空はリビングにいる幸弥に呼びかけた。


「はい。おおよその位置はわかります」


「私を彼の所へ連れて行ってください!」


 幸弥が怪訝な顔を見せる。


「危険です。僕が行って火を消してきますので、美空様はここに」


「郁巳くんをあんな風にしてしまったのは雪妖なんでしょう? だったら、私にも責任があるもの」


「美空様……」


「長になるとかまだ決めてないけど、今私がやらなきゃいけないと思うのは郁巳くんを止めることなの。あの子、お母さんを求めて泣いていたのよ。できるかどうかわからないけど、助けてあげたいんです」


「僕は少々焦っていたようです。あなたを困惑させてしまい、申し訳ありませんでした」


 片膝をついて謝罪する幸弥に、美空は戸惑う。


「やだ、そういうのされちゃう方が困っちゃいますよ。頭を上げてください。本当なら私がお詫びしなきゃいけないのに」


「いえ、僕の迂闊な言動が美空様を苦しめてしまったのですから」


「幸弥さんって、超がつくほど真面目な人なんですね」


 美空は幸弥の両手を取って立たせると、思わず苦笑する。そんな性格だからこそ、母は幸弥を信頼して、美空を託したのだろう。


「では、案内しましょう。少年の所へ」


「はい、お願いします」


 美空は和室で仏壇に向かっている圭太郎の背中に声をかける。


「お父さん、私行ってくるね。すぐに帰ってくるから」


「帰ってきたら、美空の好きな寿司でも食べに行くか?」


「うん」


「圭太郎さん、美空様は命に代えても必ず守ります」


「手、出すなよ」


 ボソッと聞こえた圭太郎の声に、美空と幸弥は顔を見合わせて頬を紅潮させた。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ