表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/44

最終回後半;光の中で…

……。

瓦礫の中で、諒の手がわずかに動く。

目が…ゆっくり開いた…――

諒は苦痛に顔をしかめながらも体を起こす。

…辺りは、不気味なほど静かだ。

周囲の破損は酷いが、‘あの日”よりはあきらかにましだと思う。

「くそ…ふざけやがって……」

諒は袖で額の血を拭きながら悪態をつく。

しかし…――次の瞬間、言葉を失った…

――愛が、血の海に座っている…。

声にもならぬ、声を漏らし…泣いている…。

そんな彼女の膝に抱かれているのは…――

赤黒く染まった、‘リリース”こと…‘春花”だった。





「うぅ・・・は、春、花・・・」

声が震えて、名前しか出てこない・・・。

愛の頬を伝う一筋の涙。その涙はあごを伝い、地面に広がる血の海に溶け込む・・・。

春花は弱々しく息を吐き、愛に手を伸ばしてきた。

「あ、い・・・。怪我は――」

「ば、馬鹿ぁッ!!なんで、なんで・・・こんな事を!!」

愛の怒りが爆発した。

黒いコートを握る手が、生暖かい物で汚れる・・・。

もはや愛の手も春花の手も、赤いペンキの中に手を突っ込んだみたいだ。

しかも、血の匂いで鼻が利かない。

「だって・・・私の、大切な・・・『友達』を、‘死”なせたく・・・なかった」

春花が泣きながら話す。

口からは血が漏れ、時より苦しそうにむせ込む。

愛は、何を話せばいいか分からない。

「春、花・・・」

「‘愛”は・・・私が・・・。憎いよね・・・すべてを奪い去った、私が・・・」

春花が、体で大きく呼吸する。

もう目が虚ろで、その目に愛は映っていない・・・。

愛はだた首を横に振る。

もう、頭が真っ白だ。

「い、今助けるから・・・ッ少し待っ――」

愛が立ち上がろうとするが春花は静かに首を横に振った。

その顔はわずかに微笑んでさえいる。

「もう、いいよ・・・。このまま・・・私を、死なせて・・・」

春花の声はほぼ息をするのと変わらない。

そんな春花を見ると、再び涙がこぼれてくる。

「いやだよ・・・。春花は、私とずっと一緒だって・・・約束したじゃん・・・」

愛は、泣き顔を見られたくなくて顔を反らす。

そんな事をしたって・・・泣いているのは分かるのに・・。

「だけど、ね・・・」

春花が、苦笑いする。

額から冷や汗が流れた。

「この、‘黒い軍服”を・・・着て・・・。‘闇の剣”を持つ以上、私は『闇の姫』・・・だから――」

血だらけの手が愛の頬に触れる。

涙はその血に飲み込まれ、変わりに赤き血が頬についた。

愛は黙っている。

「愛は・・・きっと信じてくれない・・よね。あっちの世界で・・・愛と過ごしてきた日々は、とても・・・楽しくて、大切な‘思い出”だった・・・。それは・・・‘リリース”としての・・・闇の感情がよみがえって・・・こうしてる今も―――」

愛の顔が、ゆっくりと持ち上がった。

涙がくっきりと形を取り、側にある髪さえ巻き込む。

驚く愛に対し、春花は優しく微笑んだ・・・。

弱々しく・・・いつ途絶えてもおかしくない笑みを。

「今日は、‘愛”に殺され、に来たんだよ・・・?」

「な、何言って――」

愛は春花の言葉の真意を聞きたくなかった。

これ以上、春花の声を、聞きたくなかった。

「私は・・・もう‘疲れた”よ・・。」

愛の思考が、春花の言葉によりさえぎられる。

「愛といっしょに・・・『当たり前の、毎日』も過ごせたし・・・‘闇”に生まれた私にとって・・‘最後の幻”だった・・・。それ、に・・私は、異界のはざまで死ぬべきだった・・。私は生きている限り・・・関係のない人を、殺めてしまう・・・。だ、だから――」

突然、春花は盛大にむせこんだ。

口から、大量の血が噴出す。

白いコートにもわずかながらに跳ねた・・・。

「は、春――ッ」

「わ、たしの・・・最後の願いを・・・聞いて」

春花は青白い顔で、愛の腕を掴んだ。そして無理やり這い上がり、愛の肩に自分の頭を預ける。

起き上がったよ同時に、血が蛇口をひねるかのように流れた。

愛は動けない。

「私を・・・‘殺して”・・・」

春花はかすれた声でつぶやく。

愛は思わず身を凍らせた・・・。

春花はこう言っていても・・・心は闇の中で震えている。



怖い


帰りたい


死にたくない


死なせたくない



なぜだか分からない・・・でも聞こえる。

春花の心の声が。

「そ、そんなの・・・」


「愛」


春花が笑う。

「‘悲しみの涙は出すだけ出して・・・幸せの笑顔は、心にためておけ、いつか必ず・・・悲しみを笑顔に変えられる・・・”私の大好きな、言・・・葉・・・・」

―――。

突然、春花の全体重が愛にのしかかる。

手が、血の海へと沈む。

愛は固まった・・・そして、顔がゆがんでいく・・・。

戦の顔が剥がれ、15歳の少女となっていく。

「うそでしょ・・・?お、起きてよ・・・春花。・・・早く起きてよぉ・・・」

愛が呆然とつぶやく。

涙がぼたぼたと春花の顔に落ちた。

・・・だけど春花は、目を開けない・・・

命が薄れていくのが、感じられる。

「誰か・・・助けて、よ・・・。春花が、死んじゃ・・う・・・」

愛が泣く。

しかし、だれも来ない・・・

誰も助けてくれない・・・

しかし―――

「・・・?」

愛の目が見開く。

涙と血に染まった視界に飛び込んできたのは・・・諒。

諒は静かに歩みより、春花の脈を取る。

「ラ、ウン・・・」

「まだ・・・脈がある」

諒はぼそっと言った。

それと同時に愛が諒の肩を掴む。

春花の血が、諒の軍服にまでついた。

「春花を、助け、て・・・ッ。早く、タンカを・・・」

愛がかすれた声ですがる。

しかし、諒は動かない。

黙って・・・目を反らす。

「ラウンしか、頼る人がいないの…春花を・・・助けるためならなんでもするから・・・ッ」

愛が悲痛なおもむきで再び声を荒げた。

すると諒は、落ちていた光の剣を差し出す。愛の顔が引きつった・・・。


「‘闇の姫”は・・・‘光の姫”しか、『封印』出来ない・・・」


愛の中で・・・何かが崩れた。

…愛は、その場に座りこむ。

血が、さらに愛の白いコートに染み込んだ。

心が萎れていく・・・。

<そうだ・・・>

<私が光の姫である以上・・・・>

<春花が闇の姫である以上・・・>

<私は彼女を、救えない>

<救っちゃ、いけないんだ・・・>

‘それ”が、愛と春花の背負う‘運命”。

親友を殺さなくては・・・光の国は救われない・・・。親友を救えば・・・光の国に平和は来ない。

一国の姫として、親友として、決めなくては・・・いけない。

「ごめんな・・・」

諒が静かに愛の頭をなでた・・・。

「おれには、どうする事も出来ないんだよ・・・。せめて・・愛ぐらいの力があれば、お前につらい思いさせなくてすんだのに・・・」

諒はひたすら謝る・・・。

力の足りない諒には・・・これしか出来ることがない。

愛が、涙を流す・・・。


――春花は、自分に頼んだ・・・


―――殺してくれ・・・と・・


愛は赤く染まった春花を見た。

今でも思い起こせる・・春花の笑顔。

あの日、指きりした・・・白く細い指。

暗闇を抱える・・・黒い瞳。

きっと、春花は・・・‘春花”として死にたかったんだろう。

そして・・・それを、愛に託した。

宿敵である‘ルーンベルト”に・・親友である‘愛”に・・・すべてを終わらせてほしかったのだ。

謝罪と、感謝を込めて―――。

・・・愛は、立ち上がる。

そして、一言つぶやいた。

「剣を・・・」

後ろに回された愛の手に、光の剣が渡される。

諒は複雑な気持ちで、愛を見た。

愛は、震えている・・・。

震えながらも、しっかりと剣を握っている。

愛は・・・そっと春花の頬に触れた。

「私には・・・助けられそうに、ないや・・・」

愛は自虐的に笑った。

しかし、声は笑っていても・・・目からは涙がこぼれる。

春花のコートにいくつもの雫が落ちた。

そんな愛に諒が声をかけようとした時だ。

愛はギリっと歯をかみ締める。

それと同時に光の剣が地面に突き刺さった。

――光が、まるで蛍のように飛び交い始める・・・。

「あ、い・・・」

諒は呆然とする。

今、この空間にはありえない強さの光の力に満ちていた。

暖かく、優しい日の光・・・。

愛がゆっくり顔をあげる。


「‘レイズ・パリセア”」


唱え、た。

光が、辺りを飲み込む。

あまりの光に目を開けられない。

開いたとしても、何も見えないだろう。

視界が・・・真っ白に染まる。

・・・―――。

愛は、自分が立っているのかも分からない。

ただ・・・分かるのは、次第に薄れ行く闇の気配と、春花の生気。


『愛・・・』


誰かが呼んだ。

愛はそっと目を開ける。

何も見えない・・・でも、聞こえる。


『今まで、ありがと・・・』


・・・愛の顔が引きつった。

口元が震え、涙が零れる。

「ずるい、よ・・・」

静かにつぶやく。

光の中で・・・春花を想いながら――。

「私は・・・‘ありがとう”も、‘さよなら”も・・・言えなかったのに・・」

愛の悲痛の心は、真っ白な光に飲み込まれていく。

これが、最後・・・。

‘最後”・・・なのだから。













光闇暦―983年、『光の姫・‘クリス・ルーンベルト”、闇の姫・‘フィア・リリース”の封印に成功した』










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ