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第三十一話;残された者の心

・・・邪魂の数がさきほどよりかなり増加していて司令部の庭は黒いヘドロのような者でいっぱいだ。

そいつらの足元というべき場所には軍人達の無残な死体がある。

恐らく、邪魂に食われたが・・・または一定の距離を保てず自滅したか・・・。

すると、その中を白い小さな影が駆けて来た。

クリスだ。

クリスは途中途中で邪魔な邪魂を光の剣で斬り、敵陣をくぐり抜ける。

口を開けて迫ってくる邪魂を、クリスはスライディングしてよけるとそのまま司令部へ逃げ込んだ。

クリスの荒い息切れだけが誰もいない司令部内に響き渡っている。

『ちく、しょ・・・』

クリスの体が壁をつたわりながらずりずりと床に崩れた。

よく見ると体中キズだらけで白いコートが破けている。

≪くそっ・・・。リリースとの戦いに集中したいのに邪魂が多すぎる≫

≪ディオも、ラウンの奴も、応援部隊も来ないし、このままじゃ被害が広まるだけだ≫

≪せめて・・・邪魂だけでもいなくなれば・・・≫

クリスは身を固めながら、じっと考える。

この状況ではあきらかに‘光の国”が不利だ。

こうしている間にも市民や軍人達が死んでいく・・・。

‘絶対絶命”・・・まさにこの事を言うのだろうか。



『ふん、これだけの敵兵を前にしてまでまだあがくとは・・・』

リリースがざくざくと音を立てながら司令部の庭を歩いている。

リリースが一歩踏み出すと同時に邪魂がサァーッとよけた。

辺りを見渡すがクリスはいなく、気配もしない。

これはあきらかに気配を消し、身を潜めている・・・。

『あいかわらず、剣術と気配を隠すのは達者・・・――』

しかし突然背後に何者かが立った。

リリースは目を細め、闇の剣を抜こうとするがその手は後ろにいる者によって掴まれる。

『――ッ!』

リリースの体が地面に押し付けられた。

腕が背中に回され、動かせられない。

『何者だッ!私を闇の姫と知っての行為・・・』

リリースが声を荒げるとその者はにっと笑う。


『‘光”と‘闇”を滅ぼす組織の者です・・・闇の姫には全罪をかぶり、光の姫共々死んでいただけたい・・・』




その頃クリスは誰もいなくなった司令部をさまよっていた・・・

いつもなら無駄口たたいている家政婦達でにぎわっている廊下も、軍人達の食事している大食堂も・・・今は誰もいない、ただの空間だ。

家政婦達がどこに行ったのかも分からないし、軍人達はほぼ全滅・・・。

また、リニアのように助けられなかった。

自分の非力のせいで・・・

       自分の魔力のせいで・・・

              守れなかった・・・

すると足に何かがあたった。

クリスの顔がのろのろとそれを見下ろす。

『・・・・・・拳、銃?』

クリスはゆっくりそれを手にとった。

恐らく、突然の襲撃に軍人が落としていってしまったのかもしれない。

クリスは自虐的に笑う・・・。

『・・・人間は、こんなもの使わないと自分の身一つ守れないんだな・・・』

≪こんなもの使ったって、邪魂は倒せないのに・・・≫

≪人間は、バカで、愚かな生き物だ≫

するとクリスの目から涙がこぼれてくる。

その愚かな人間を守るために、自分の‘光の力”は存在するのに・・・

守れたためしがない・・・

自分は姫なのに、他の者より魔力があるのに、なぜ守れないのか。

なんで・・・――・・・

すると、クリスの頭が勢いよくあがる。

暗い廊下の向こうから、一歩、また一歩と何かが近づいてくる。

クリスは光の剣を抜き、さっと構える。

そしてそのゆらめく姿をとらえた。

リリースが、こちらに闇の剣を向けながらゆっくり歩み寄ってくる。

『リリース・・・』

クリスはきつく剣を握り締め、憎しみをこらえる。

しかし、その憎しみの根源であるリリースの様子がおかしい。

時よりうめき声を漏らし、足場が不安定だ。

≪こいつ・・・?≫

クリスがリリースの様子に異変を感じたときだ。

リリースが今まででは考えられないスピードでクリスに迫ってくる。

『おぁッ!?』

クリスが慌てて光の剣で防御するが、間に合わず肩に深い傷を負ってしまう。

クリスはすばやく光の剣を左手に持ち替えるが右肩の痛みに顔をしかめた。

≪くそッ・・・!!≫

クリスは体制を整えようと、後ろに後退するがリリースはそのスピードさえついてくる。

いつもなら、余裕で間合いがとれるのに・・・。

しかもリリースの技はどれも正確で、速くて、どうしてもよけきれない。

≪な、なんだこいつ!!≫

≪いつもと攻撃パターンがぜんぜん違・・・――≫

        グサッ!

突如、何かが刺さる致命的な音がした・・・。

『ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

クリスが絶叫する。

左肩に闇の剣が突き刺さり、そのまま壁へと押し付けられた。

白いコートが、見る見る赤黒い血で染まっていく。

『あっ・・・あぁ』

クリスの手から光の剣が落ちた。

足元で、カランっと剣の落ちる音がする。

リリースはクリスの肩を闇の剣が貫通し、壁で固定されているのを確かめると足元に落ちている光の剣を手にとった。

『死ネッ・・・・!!』

リリースが光の剣をクリスの喉下に突き立てた。

クリスは思わず目を閉じる。

≪だめだ・・・刺されるッ≫

『どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ』

突如、そんな声が廊下に響きわたった。

クリスが目を開けると、リリースに何かが体当たりして突き飛ばされる。

クリスにはそれがだれなのかすぐに分かった。

八年前と、同じ光景・・・

『姫様ッ!!』

ラウンがクリスにさっと触れるが、後ろでリリースが起き上がろうとしていることに気づきクリスを抱きしめた。

≪・・・・・・えっ≫

『‘イースト”!!!』

・・・クリスとラウンが、そのまま薄暗い闇へ消えていく。




クリスが次に目を開けると、ラウンが息を切らしながら自分を抱きしめている。

『ラ、ラウ・・・ン』

『姫様・・・少し我慢してください』

ラウンはそっとクリスを床に座らせクリスの肩に突き刺さる闇の剣に触れた。

そして、慎重に剣を抜く。

『ああ・・・ぐッ』

クリスは歯をかみ締めじっとこらえる。

ラウンは闇の剣を抜くと、その場に捨てた。

『姫様!ご無事でし・・・――』

『ぶ、無事に見えるのか・・・バカ』

クリスは肩を押さえ、苦しそうに壁によりかかる。

ラウンはその姿を心配そうにみつめた。

『・・・。すみません』

『なんで、お前が謝る・・・』

ラウンがいきなり謝りだしたのでクリスはぎょっとしていまう。

『おれが、クローゼなんかにてこずってなければ姫様は・・・』

≪クローゼ・・・?≫

ラウンの言葉に首をかしげるがラウンの白いコートを見ればだいたいわかった。

所々に破け、傷口が見えるコート・・・いままで、クローゼとたたかっていたのだろう。

『お前のせいじゃない・・・ちょっと、油断しただけだ』

クリスはプイッとそっぽを向いた。

ラウンはそんなクリスを見て、苦笑いする。

『おれは、幸せ者ですね・・・』

『は、はぁ!?』

『部下のミスを自分のミスだという姫の下につけて・・・』

カァァ・・・。クリスの顔がいっきに赤くなる。

思わず顔をうつむかせて、顔を隠した。

『バ、バカ・・・!!私はそんなつもりで言、言ったんじゃない。お前のヘマはこれがはじめてじゃないし、呆れて責める気もうせて・・・』

クリスが一人でぶつぶつ言っていると、クリスのコートにしずくが落ちてきた。

クリスは思わず固まった・・・。

外は雨も降っていないし、司令部が雨漏りなんてするはずがない。

これは・・・ラウンの、涙・・・。


『もう、バカといわれるのも・・・最後なんですね』


≪えっ・・・≫

≪どういう意味だよ・・・≫

クリスが顔を上げると、ラウンはそっと背を向けた。

『おれが姫の下へ来たのは・・・ある作戦を伝えるためなんです・・・』

『えっ・・・』

『おれが、外でリリースとクローゼをおびきだします・・・。そこで閃光弾を放つんで、その間に姫様はここから逃げてください』

クリスが固まる。

ラウンの言っている事が分からない・・・いや、分かりたくない。

『ふ、ふざけるな!!敵に尻を向けろというのか!?しかも、そんな事をしたらッ・・・!!』

≪ラウンが、ラウンが死んじゃう≫

クリスは肩の痛みも忘れてラウンのコートを掴むが、ラウンは思い切りクリスを突き飛ばした。

クリスの体が床に転がる。

『――ッ!!』

クリスは肩を抑えながらも再びラウンのコートを掴もうと手を伸ばす。

ラウンはその姿を見て、肩を震わせながら背をむけた。

『・・・あなたは、死んでいい人材ではありません。あなたの光の力さえあれば、たとえここが滅びようとも未来への架け橋となるでしょう・・・』

『ら、ラウン!!わ、私なんか生きてても仕方がな――』

『姫様・・・』

ラウンは顔をうつむかせながらそっと振り向く・・・。

『おれ、姫様につかえて幸せでした・・・。後・・・』

ラウンは顔を上げ、微笑む。

本当は笑えないくらいつらいのに・・・。

『一回でいいから・・・この光と闇の戦いがすべて終わった後、姫様といろんなまちへ行きたかった・・・。姫様、戦場に行く途中しか町に出たことないでしょ?』

『ラウンッ!!!』

クリスは思わず必死になって身を乗り出す。

しかしその手は無空をかき・・・ラウンはその場からきえてしまった。

クリスは呆然とラウンのいた場所を見つめる。

『なんで・・・なんで一人にすんだよ・・・』

クリスの目から、途絶えることのない涙がこぼれる。


・・・人はなぜ、自分を犠牲にしてまで他人を守ろうとするのか・・・

生きてほしいから?‘自分”という存在を・・・誰かに思い出として覚えてもらいたいから?

どちらにしろ、残された者の希望は何一つ尊重されていないのではないか。


『私は、お前がいてくれたからずっと戦えていたんだぁぁぁぁぁ!!!!』

クリスの叫びはラウンに届くことなく、爆音の中へと消えていった・・・。












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