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第二十八話;あなたのためなら

『ルーンベルト様!・・・おい、ルーンベルトぉ!!』

ラウンがクリスを寝かせて思い切り揺らす。

クリスはそれに答えてやることが出来ない。

肺に息が入ってるはずなのにその息はどこかへ抜けているみたいだ。

≪息、苦しい・・・な、なんでだろう・・・≫

ラウンも何も答えないクリスに異変を感じていた。

するとクリスの口元に手をあて呼吸を確かめる。

続いて心臓の音を聞こうと胸元に耳をあてた。

クリスの手が思わず数センチ浮いてしまう。

『おい・・・バカ姫・・・死ぬんじゃねぇぞ。いつもよりみたいに嫌がらせしてみろよ』

ラウンの声が裏返った・・・コートを慌ててぬぎクリスにかけてやる。

『とりあいず司令部に戻んないと・・・そ、それで・・・―』

『それは困る』

ラウンのうわ言がリリースの声によってさえぎられた。

ラウンの顔がバッと持ち上がる。

『せっかく後少しですべて力を奪えると思ったが、お前が私を突き飛ばしたショックで逆に戻ってしまった。まぁ・・・それはそれで力の減少、増加が一度に起こりルーンベルトは死ぬ寸前・・・結果オーライというべき・・・―』

『・・・――ない』

・・・ラウンがボソッと何か言う。

動く事の出来ないクリスをおぶり、キッとリリースをにらみつけた。

リリースの殺しの眼と違う、心優しい光の眼。

『この人は・・・死なせない!!!』

ラウンが駆け出す・・・後ろからリリースが追ってきた。

人を背負っていてはそれほどスピードなんて出せない・・・なのに・・・

ラウンはクリスを捨てようとしない。

≪な、なんで・・・≫

クリスはラウンの背中で疑問を唱える。

≪私・・・意地悪ばっかしたのに・・・いじめてたのにどうして≫

≪助けようとするの・・・≫

クリスは次第に意識が遠くなっていくような感覚に襲われていく。

まだ、まだまだラウンに聞きたいことがあるのに・・・深い闇がクリスを覆っていく。

とても怖くて・・・もう二度と起きれないのではと不安になってくる。

『ラウン!!早く司令部へ行け!ここは私にまかせろ!』

突然前の方で声がした。

ディオがリリースに手を向けている。

気絶していたディオはたった今、目を覚ましたらしい。

ラウンはうなづくとだっと飛び上がる。

『‘イースト”!』

すっ・・・ラウンはクリスを背負ったまま深い霧の中へ消えていった。



・・・――。

ラウンがドシャっと地面につぶれた。

顔を上げると3キロほど離れた所に国軍最高司令部が建っている。

ラウンの今の力ではクリスと一緒に司令部までテレポートするのは不可能に近い。

『・・・っ!くっ・・・そぉ』

ラウンがクリスをおぶり歩き出す。

テレポートが出来ないのなら歩くしかない。

しかし・・・5分も経たない間にまた転んでしまった。

いくら魔力がどうたらこうたらと言っても6歳児の身体には同年代のクリスを長時間おぶう力などないのが現実だ。

ラウンは息を切らしながら地面に転がったクリスに手をのばす。

クリスは顔を青くし、その上呼吸が浅い。

『ど、どうしよ・・・ま、まじでヤバイぞ・・・。か、母さんに電話・・・―』

ラウンがオロオロしながら立ち上がった時だ。

・・・クリスの口がかすかに動く。

ラウンは慌てて耳を傾ける。

『姫!?』

ラウンが耳を澄ますとクリスがかすれた声で何か言っている。

 『リ・・・』『ニ』『・・・ア』『さ・・・』

クリスははっきりそういった。ラウンが呆然としているとクリスがラウンの手を弱々しく握ってくる。

ラウンを・・・リニアだと思っているのか・・・。

ラウンはしばし固まり、そしてクリスの顔にそっと自分の顔を近づけた。

≪・・・・・・・・・・えっ・・・≫

ラウンの手がクリスの喉元を後ろへ反らしたと思うとラウンの口がクリスの口に触れている。

温かい空気がクリスの身体へ入ってきた。

クリスの手が数センチ浮くがラウンへ触れる前に力尽きて地面に落ちてしまう。

クリスの意識は・・・そこで切れてしまった。





・・・クリスの目が・・・ゆっくり開いた・・・。

そこは暗闇に包み込まれた自分の部屋・・・。

クリスは起き上がろうと身体を持ち上げるが激しい目まいに襲われ再びベットに寝込んでしまう。

クリスが息を切らしながら首を動かすと点滴台が真っ先に目に入った。

≪私・・・なんでここに・・・≫

確か、林道の中にいて・・・リリースが自分に何かした・・・。その後、ラウンがいて・・・―

・・・あまり、よく覚えていない。

『姫様〜元気に・な・り・ま・し・た・かぁ〜?』

突然、クリスの横であのテディーベアーが左右に動いた。

声が異様に高く、時よりかすれている。

クリスが呆然としているとテディーベアーの後ろからラウンがにっこり笑った。

『ほら!見てください!!おれの母さんに言ったら直してくれたんですよ!』

ラウンがクリスにテディーベアーの破れ目を見せびらかす。

もうそこはキレイに直されており、よく見なければ破れた後など分からない。

ラウンは布団の中からクリスの手を出すとテディーベアーを握らせた。

クリスはテディーベアーを力なく握り締める。

『ラ・・・ウン・・・』

『それ・・・姫様の大切な物なんでしょ?なのに・・・おれは・・』

ラウンは顔をうつむかせながらボソッと言う。

『ごめんなさい・・・』

ラウンがそっと頭を下げた。

クリスは驚きと困惑の色を隠せない。

≪ごめん・・・って・・・私の方が一番悪いのに・・・≫

『ちょ、ちょっ・・・』

『じゃあ、おれ部屋に戻ります。まだ身体の調子が良くないんですからあまり無理しないでくでさいね・・・』

ラウンが苦笑いしながら立ち上がった。

時計を見ると深夜1時すぎ・・・恐らく昼間、司令部にクリスを連れて来てからずっと側で見守っていたのだろう。

≪なんで・・・そんな事を・・・≫

クリスがじっとラウンを見ているとラウンの背中が次第に小さくなっていく・・・。

暗闇のなか、ラウンが部屋のドアへ向かっていく。

なんだかとても心細くて・・・不安になってくる・・・。

クリスはラウンから目を離し、窓から外を見たときだ。

風と一緒に黒い陰が揺らぐ・・・その陰がにやっと笑う。

クリスの背中に悪寒が走った。

『い、いやっ・・・・』

クリスの口からそんな声が出たと思った時にはいつの間にかベットを離れていた。

気がつくとラウンの服の裾を掴み、床に座り込んでいる。

ラウンが驚いたようにクリスを見下ろしている。

クリスの顔がカーッと赤くなった。

『い、いや・・・そのぉ・・・え、ええーと・・・』

クリスはなんと言っていいか分からずあいまいな言葉を繰り返すしかない。

ラウンはそんなクリスに一言・・・。

『姫様、もしかして怖いの・・・?』

・・・。

図星だ。クリスは慌てて手を離し、目を泳がせる。

『怖くなんか・・・ない。ただ・・・』

『もういいですよ。姫が寝るまで側にいます』

ラウンがクリスの頭をなでてきたのでクリスはびくっと身体を震わせた。

なんだかラウンが妙に優しい気がするし、自分もさっきから赤くなってばっかりだ。

『ら、ラウンは怖くないのか?』

『何が・・・?』

『一人というか・・・暗い部屋の中にいて・・・』

クリスが目を泳がせながら言うとラウンは苦笑いしながらクリスの前に座る。

『やっぱり姫様、怖いんじゃん。おれは別に怖くないです、周りが暗いからって何かが来るわけじゃないし、むしろ昼間と違う司令部はどこかおもしろいですよ?』

ラウンの言葉にクリスは固まる。

人気のない司令部を一人で歩くなんて信じられない。

『ラウンは・・・強いんだな。なんでそんな・・・―』

『おれは強くなんてありませんよ・・・』

ラウンがうつむいた・・・クリスにはその言葉の意味が分からない。

『姫だってご存知でしょ?魔力を持つのは姫だけ、しかし時折普通の子供も魔力を授かるって。おれも最初の頃はうれしかった・・・でもこの力のせいで母さんもおれも村を追い出されてしまったんです。魔力は魔力を呼ぶ・・・つまり敵が攻めてくるんです。だから母さんはおれをここに預けた・・・おれが無事なようにって。もし本当に強かったらそんな奴ら・・・消しています』

ラウンは苦笑いしながらクリスを見た。

クリスはなんと言っていいか分からず黙り込んでしまう。

≪私はそんな事も知らないで・・・ラウンを追い出そうとしていたの・・・≫

そう思うとなんともいえない罪悪感に襲われてしまう。

その上、昼間のリリースの件だってラウンに助けてもらってる。

こういうとき・・・なにかいうべきなのか。

『わ、悪かったな・・・』

クリスが顔を赤めながら言う。

むしょうに恥ずかくてラウンの顔が見られない。

『はい?』

『だからぁ!そ、そのぉ・・・悪かったって・・・』

『なにがです?』

・・・ラウンにはクリスが何について謝っているのか分からないのか・・・?

クリスは少し不安になりチラッとラウンを見る。

ラウンの顔がにやにや笑っている。

クリスはすべてを悟り、顔が更に赤くなった。

『お、おま、お前!だ、騙したな!!』

『なにがですぅ〜?姫は一体何について謝りたかったのかなぁ〜?』

『もういい!!私は寝るぞ!!』

『じゃあ寝てください?おれ部屋に戻るんで・・・』

・・・・。

『ちょっ・・・!それとこれでは話が違っ・・・―』

クリスがあせったようにラウンを掴もうとする。

しかしラウンはすっと立ち上がってクリスに手を指し伸ばしてきた。

『オレ・・・ついさっきまで姫の事わがままで残酷なんだなと思っていました。だけど今は・・・もっともっと姫様の側にいていろんな姫様を知りたい。本当の姫様ってさびしがりやで心優しい人だって、今鳴らそう思いますし相手役として側にいられます。だから・・・――』

ラウンがにこっと笑う。

『間違っても一人ぼっちだなんて思わないでください。あなたを誰よりも守ります・・・誰よりも大切にします・・・だから死のうなんて考えないでください。あなたが死んだら、オレの居場所がなくなってしまいますから・・・ね?』

ラウンが苦笑するがクリスは固まっている・・・。

なぜラウンがここまで自分につくすのかが分からない

あんなにいじめたのに・・・つらい思いをさせたのに・・・。

なんで・・・・――。

ポタッ・・・と栗栖の手に涙が落ちる。

涙が次から次へと溢れていく・・・。

嗚咽が・・・沈黙を打ち破る。

『わ、わたしは・・・』

クリスの喉から声がすぼrる。

『私は・・・ラウンの思っているような、や、奴じゃない・・・。きっとまたいじめるぞ・・・お前が帰りたいって言うまで・・・ずっと・・・ずっと・・・』

『かまいませんよ?』

ラウンが挑戦的に笑う・・・。

もしかしたら、リリースがリニアの事を言っていたようにラウンも金目当てで自分に付き添おうとしているのかもしれない。

でも・・・栗栖の目に映るラウンはただ純粋にクリスに従おうと決意した者の姿。

またリニアのような悲劇が生まれるかもしれない。どれでも・・・


               独りぼっちは・・・もういやだ・・・


『うっ・・・わぁぁぁ、あぁぁぁ』

クリスが泣き崩れる。

ラウンはそんなクリスを優しく抱きしめた。

クリスの涙がラウンの服を濡らす。

『オレ、ずっと姫様の側にいます。だから姫様もずっとオレのそばに居てくださいね』

ラウンが優しく微笑む。

クリスはぎゅっとラウンの服を握り締めた。

温かい・・・

なつかしい安心感ふぁクリスを包み込む。

クリスはこの時、いや・・この前からラウンのことが好きだったのかもしれない。

静寂を打ち破る童女の声、それは心の扉が開いた合図・・・。

その後ラウンはクリスが泣き疲れて眠ってしまうまで側にいたそうだ。



        




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