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第二十七話;霧の中へ沈む心

・・・軍人達の乗ったトラックとクリスとディオの乗る乗用車が林道を走っている。

緊急出動のかかった一部軍人とクリスは光の国と闇の国の境、つまり国境に向かっているのだ。

しかし・・・今は車に乗ってだいぶ経ち、都会染みた建物もここからでは見る事は出来ない。

そのかわり今は濃い霧が辺りを包み込んでる怪しい林道を通っているだけだ。

そんな景色をクリスは険しい顔で見つめていた。

≪さっきまで晴れてたのに・・・どうしてこんなに霧が・・・≫

クリスは不安をまぎらわすかのように破れたテディーベアーを抱きしめる・・・。

‘破れた”と言えば大切なテディーベアーを破ったラウンを思い出す。

しかしラウンも頭に来るがそれ以上にリリースの事を思い出してしまうのだ。

大好きなリニアを目の前で殺したリリース・・・。

そのせいで今は動きも、しゃべりも、笑う事すら出来ないこのテディーベアーしか友達がいないのだ・・・。

≪今日こそ、奴を殺す・・・。そのために私は・・・―≫

『ああぁぁぁぁー!!ムカツクぅぅぅぅ!!』

いきなり隣で車を運転していたディオが声を荒げた。

クリスは思わずギョッとしてしまう。

『たかがザコキャラ50体とガキ一人のためにな〜ぜこの私と姫様がこ〜んな田舎に来ねばならんのだぁぁ!!国境警備隊やらこの近くにだっていんだろ!?ここまで来るのにガソリン代は、雑費だってかかっとんのじゃぁぁぁ・・・。リリースめ・・・ガキとは言え光の国に攻めてくるときはガソリン代、雑費、その他けが人に医療費くらい持ってこいての!!!』

・・・。

≪ガキじゃなくてもわざわざ金を払う敵なんていないだろ・・・≫

クリスは心の中でつっこむ。

金汚い執事に対してクリスは深くため息をついてしまった。

しかしその直後・・・。

前のトラックが急ブレーキをかけたのでそれに続きディオも慌ててブレーキをかける。

その衝撃でクリスがフロントガラスに顔面衝突してしまった。

『い〜・・・っ』

『大丈夫ですか!?』

『大丈夫なわけないだろう!!このばかっ!』

クリスは光の剣の柄で思い切りディオの頭を殴る。

・・・ディオ・・・そのまま気絶・・・。

『本当に使えない奴だな・・・』

クリスはそう言いつつ前のトラックを見た。

霧も多いせいで前のトラックの様子も見えない。

クリスはしばし考え込み、そっと車の中から降りた。

光の国の軍人がまとう白いコートがクリスにはおられ風でゆれている。

しかしそんなクリスの足が止まった。

トラックが激しくゆれだし軍人達の悲鳴が耳に入ってきたのだ。

『なっ・・・!?』

クリスが光の剣を鞘から抜いた時だ・・・。

トラックがいきなり爆発する。

クリスが爆風にはじき飛ばされた・・・。

一瞬何が起こったのかわからなかった・・・。

クリスの身体が地面を転がる・・・。

『・・・っ・・』

クリスが痛みをこらえて目を開けると、霧の中でトラックが炎上していた。

中の軍人は・・・恐らく生きていないだろう・・・。


『まずは軍人か・・・か・・・』


突如、そんな声が耳に入った・・・。

そして黒いコートが霧の中でたなびく・・・。

クリスの目が極限まで見開いた。

一ヶ月以上・・・奴とは会っていなかったがあの姿は夢の中でも鮮明に出てくる。

あの黒いコート・・・素顔を隠す仮面・・・リニアに致命傷をあたえた闇の剣・・・。

『リリース・・・』

クリスは光の剣を握りしめ・・・立ち上がる・・・。

クリスの中に憎しみが萌えてくる・・・どくどくと・・・どす黒い感情が・・・――。

『あああぁぁぁ!!!!』

クリスが駆け出した・・・そして光の剣を今まで以上にキツくにぎりしめる。

次の瞬間、光の剣を前に突き出すが・・・当たる前にリリースは霧の中へと姿を消した。

リリースの甲高い笑い声が四方八方から聞こえてくる・・・。

クリスは剣をかまえ、辺りを睨みつける。

『リリース!姿を現せ!!それとも私がこわいのか!?』

クリスが挑発のつもりで言うがリリースの笑い声が一層強くなるばかり・・・。

クリスは思わず顔をしかめた。

『私がお前を恐れる?馬鹿を言うな!!』

リリースが呆れたようにクリスに吐き捨てる。

リリースの声が分身でしているかのように四方八方から聞こえ、重なっている。

『私がお前を恐れているんじゃない・・・お前が私を恐れているんだろ・・・?』

リリースの言葉にクリスはギリッと歯を噛み締めた。

≪私がリリースを恐れてるだって・・・?≫

『バカ言ってるのはどっちだ!!私がお前を恐れるわけ・・・―』

『いや、恐れてる・・・』

リリースはまるで楽しんでるかのように言った。

『お前は次に私から何を奪われるかと思って怯えているんだろ?この間のように・・・』

リリースの言葉にクリスは固まる。

‘この間”・・・それはリリースがリニアを殺した時の事だろう・・・。

クリスの手がカタカタと震えだす。

『そ、そんなのデタラメだ!!!』

『デタラメか・・・それはお前をかばって死んだあの女との関係じゃないのか?』

リリースの声が再び笑う・・・

クリスはリリースの言いたい事が分からない。

『私らは人間共のいう‘化け物”だ。人間離れしたこの魔力、聴力・・・そして年齢を問わない学習能力と運動能力。確かに私らは戦争のためだけに生てる化け物だ。そんな化け物に近づいてくる人間がいるとでも?』

『リ、リニアさんはこんな私を友達と言ってくれたんだ!愛されないお前に何が分か・・・―』

『ふふ・・・ははははははは!!』

突然リリースが笑い出す・・・。

『‘愛されてない”だと?私はお前とちがって愛されたいとも思わない。そんな感情、戦場に邪魔なだけだ!だがな・・・愛されてないのはおまえもだろ?』

『何が言いたい・・・?』

クリスがボソっとつぶやくとリリースの笑い声が止む・・・。


『分からないのなら教えてやる。‘愛情ごっこ”それがそいつの‘仕事”なんだよ・・・』


クリスが硬直した・・・。

手から光の剣が落ちる・・・。

≪それが‘仕事”・・・だって?まさか・・・そんな・・・≫

クリスが動揺しているとリリースはさらに語りだした。

『そいつは仕事上の任務のしてお前の側にいただけなんだよ・・・。バカなお前は少し遊ばれたくらいでそいつを気に入り、ずっと側にいさせようとした・・・奴からすれば遊んでやるだけで大金がガバガバ入るもんなぁ・・・そうとういいポディションだったろうに・・・』

クリスの頭が真っ白になり、リリースの言葉が永遠とこだます。

≪それが・・・‘仕事”・・・≫

リニアの優しいあの笑顔は偽りだったのか・・・


―― 『では私を‘友達”としてお側に置いてください』

すべては金目当てで・・・クリスに優しくしていたとしたら・・・

―― 『私トオ前ガ友達?ソンナノ嘘ニ決マッテンダロ?』

聞こえるはずのないリニアの声がクリスを蝕む<むしばむ>。

クリスは両手で耳をおさえた。

首をひたすら横に振る。

『ウソだ・・・ウソだ、ウソだ、ウソだ、ウソだ、ウソだ!!!』

クリスは泣きながら首を横に振る。

しかしリリースは最後の一言をクリスに吐き捨てた・・・

『それがおまえの言う‘ウソだ”という証拠は!?女も死んでどこにその証拠がある!!?』

・・・リリースのいうとおりだ・・・

リニアが死んでしまった以上・・・それがウソだという証拠はどこにもない。

しかし・・・リニアはなんのために国軍最高司令部に入ったのだろう・・・

金がいいから?そのためなら化け物とだって友達になるのか・・・

そんな考えばかりがクリスの心をよぎる・・・・。

・・・クリスは崩れるように地面に足をついた・・・

心が音を立てて崩れていく・・・

『人間は愚かでバカな生き物さ・・・』

リリースがクリスの前に現れる・・・。

しかし攻撃する気力もない・・・

リリースはその様子を見て思わず口元を緩ます・・・

『私にお前の光の力をよこせ・・・』

『私の・・・力・・・?』

クリスは希望を失った虚ろな目でリリースを見上げた。

リリースはうなづくとコートからしろく細い指をだす。

その手がクリスの頬にふれる・・・。

『お前の力を使ってこの世界の人間、すべてを滅ぼしてやろう・・・。そうすればお前を裏切る者はこの世からみんないなくなる・・・。』

≪人間が・・・いなくなる・・・≫

何の抵抗もしないクリスを見て、リリースはまた笑った・・・。

こんなクリスから力なんてたやすく奪える。

しかしクリスが力を失った時・・・待ってるのは‘死”のみ・・・

リリースの手から黒い光が漏れ出した。

クリスは思わず顔をしかめた。

≪な、なんだろ・・・・目の前がくらくらする・・・≫

クリスは体中の力が抜けていくような感覚に襲われだす。

『うっ・・・・ああああぁぁぁぁぁ』

クリスが絶叫した。

リリースの手を離そうとするが手に力が入らない。

黒い光が更に飛び交う。

『いやぁぁぁぁぁぁぁ』

視界がかすむ。

もう声まで出ない・・・

≪もう・・だめ・・・・≫

クリスの意識が深い闇の中に落ちようとしていた時だ。

『ひ、姫から離れろぉぉぉぉぉぉぉ』

突然そんな声が霧を切り裂く。

そしてリリースに誰かが体当たりした・・・

リリースはそのまま地面に転がる・・・・・。

それと同時に支えを失ったクリスの身体が地面に崩れそうになった時その者がさっと支えた。

≪だ・・・れ・・・?ディオ・・・≫

自力ではもう大して開く事の出来ないまぶたを恐る恐る開けた。

ディオよりもかなりチビであきらかに子供だ。

『姫!姫さま!!しっかりしてください!!』

身体も・・・声さえも動かせなかったがそれが誰なのかがはっきり分かった。

ラウンだ・・・ラウンがクリスをしっかり支えている・・・。

≪ラ・・・ウン・・・?≫

クリスはもうろうとする意識の中でラウンの暖かさを感じ取っていた・・・・


























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