第二十六話;切り裂かれた思い出
・・・ラウンが来てから三日が経つ・・・・。
国軍最高司令部はいつにも増して‘ある意味”にぎやかだ。
そう‘あ・る・い・み”で・・・・
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
・・・・。
ラウンの悲鳴が城中に響き渡る。
家政婦達が特捜部隊のようにラウンの部屋に直行した。
『どうなさいました!?』
家政婦達が扉を開けるとラウンが怯えたように靴を指差す。
『ミ、ミズ・・・』
『水?』
家政婦達がラウンの言葉に首をかしげながらも靴を見た。
・・・底の所で何かが大量にうごめいている・・・。
それは、泣く子も黙る大量のミミズ・・・。
家政婦・・・硬直。
『な、なんか・・・お、おれが靴が履こうとしたらミミズが入ってたし、こ、この前なんて部屋の前にでっかい蛇がとぐろ巻いてたし・・・ここは本当にお城なんですか!?』
『博物館では・・・ないですが・・・』
家政婦が苦笑いしながら答える。
ラウンは納得のいかないように家政婦を見た時だ。
背後に突然人の気配が立つ。
『ラウン、どうしたのぉ〜』
クリスがにっこり笑う。その微笑みは悪魔のよう・・・
ラウンは引きつった笑みをこぼしながら後ずさりしてしまう。
『い、いや・・・そのぉ』
『えぇ?なに、聞こえな〜い。あっ!もうお昼じゃない!!』
クリスがわざとらしく声を上げた。
ラウン・・・呆然。
『お昼・・・た〜べよ・・・』
にや・・・。
クリスが全身全霊で殺意をあらわにする・・・。
これは・・・また何か企んでいる意だ・・・。
『ぎやぁぁぁぁぁ』
『早くこっち来い、おらぁ!!!』
ラウンが逃げようとするがクリスはその襟首を掴みずりずりと強制連行していく。
ラウンの泣き声と共にクリスの怒鳴り声と高らかな笑い声が廊下中に響き渡ってる。
鬼・・・としか言いようがない。
『姫様、ずい分明るくなりましたね〜』
『これもラウン様の尊い犠牲のおかげですよ』
『ディオ様の言う通りですね。‘面倒な荷は同年代の子供にまかせるのが一番いい”一時はどうなるかと思いましたが結果的に‘そこイジメ”という事で解決しましたわ』
おほほほ・・・
家政婦達の笑い声があくまでも上品に響く。
こいつら・・・みんな鬼だ・・・。
ここの人達はだんだんディオに似てきてる。
執事の影響はここまで偉大なのか・・・・
ハァ・・・―
ラウンのため息が屋上にこぼれる・・・。
ついさっき、ご飯を食べようと大食堂に行ったら自分の食事が生きたカエルにすりかえられクリスに無理矢理食わされそうになったのだ。
あきらかにこれは自分に対するクリスの嫌がらせだ。
『おれ・・・なんかやったんかな・・・』
ラウンはそうつぶやきながら下を見るとクリスが一人、剣術の練習をしてる。
その姿は真剣そのものだ。
≪おれの事いじめてもちゃんと剣の訓練するんだ・・・≫
ラウンがじっと見ているとある事に気づいた。
クリスがいつも持っているテディーベアーが今、クリスの手元にない。
まあ、剣の練習をしているのに手にぬいぐるみを持ちながらやっていたらその方がすごいが、地面にも、どこにもテディーベアーが置いていないのだ。
『・・・・』
ラウンは何を思ったのか無言で立ち上がる。
『‘イースト”・・・』
すっ・・・
ラウンは屋上から消えた・・・。
・・・ラウンがさっとある部屋に現れる。
そう・・・ここは、クリスの部屋・・・。
ラウンは慎重に辺りを見渡す・・・その姿はまるで泥棒だ・・・。
そしてそんなラウンの目にベットの上に置いてあるテディーベアーが映る。
ラウンはゴクっとつばを飲み、ベットに近づいた。
≪いつもおれにさんざん悪戯してんだ・・・これくらいしたって・・・≫
ラウンの手がテディーベアーに触れようととした時だ。
『・・・それにさわるな・・・』
低く・・・怒りに震えた声がラウンの後ろで聞こえた。
・・・クリスが光の剣をラウンに向けてきつくにらみつけている。
『私が気づかないとでも思ったか?お前の未熟なテレポートぐらい簡単に見抜ける事が出来るんだぞ・・・。』
クリスの言葉にラウンのゴクッとつばを飲む・・・。
クリスからは本気の殺意で溢れかえっている。
『姫の部屋に入ったのだから私がここでお前を殺しても何も言われる筋合いは無いというものだ。‘セシル”といえばお前は消し炭になるし、ここで私がこの剣を振り下ろせばお前が串刺しになる・・・。お前に選ぶ権利をやろう・・・どちらがいい?』
クリスは容赦なく光の剣を向けてる。
ラウンはその剣の先を見つめ、震えをこらえるが冷や汗が流れる。
『ひ、姫様は・・・いつもそうやって人を脅すのですか・・・』
『は・・・?』
『そんな事をしてると周りから人が逃げますよ・・・』
ラウンの言葉にクリスは言葉を失う。
そんな事はクリスにだって分かってる・・・。
逃げてもらわなければ・・・困るのだ・・・
自分に近づきすぎ、命を落としたリニアのようになる前に・・・
『貴様に何が分かるんだ・・・』
クリスの声が震えている・・・。
『幸せの中で生き、人の命の最後を見たこともないような貧弱男に何が分かるんだ・・・』
クリスの声はまるでそのうち枯れて聞こえなくなるのではと思うほどかすれている。
『姫はこの間から私の事を貧弱、貧弱と言っていますが私はあなたと違います・・・』
ラウンも負けじときつくクリスを睨みつけてきた。
『あなたは魔力が強いだけで、実際には心がボロボロすぎます・・・そんな惨めな心でいるとそのうち音をたてて崩れていきますからね・・・』
『うるさい!!これ以上ざれ言をほざくことは許さんぞ!!!』
クリスが思わず声を荒げた。
しかしラウンは意志の強い瞳でじっとクリスを睨む。
長い沈黙が流れた・・・。
するとラウンはいきなりテディーベアーを手に取った。
クリスはその行動に一瞬呆然としてしまう。
『なっ!?離せ・・・っ!!』
『姫様がおれに悪さした分このぬいぐるみを痛めつけます・・・!!』
ラウンの腕にクリスが掴みかかるがラウンに突き飛ばされてしまう。
クリスはじゅうたんの上に転がり、光の剣を手から離してしまった。
金属が落ちたような鈍い音がクリスの耳で響く。
『きっ・・・・さまぁぁぁぁぁ!!!』
クリスはラウンを睨みつけるとテディーベアーを無我夢中で掴みむ。
ラウンの手を振り払おうとするがラウンも負けずに引っ張る。
『離せぇ!!!』
『いやです!!』
『お前にこれを触る権利はない!!』
『それを言うなら姫様がおれに嫌がらせする権利だってない!!』
『居候の分際で何を偉そうに・・・―』
ビリッ・・・!!
突如、そんな音がクリスの言葉をさえぎる。
二人が恐る恐るテディーベアーを見ると首の部分が破け、綿がでていた。
ラウンは思わず手を離し、後ずさりしてしまう・・・
『ご、ごめん・・・お、おれそこまでやるつもりじゃ・・・』
ラウンがいうがクリスはその場に崩れ落ちた・・・。
手にしっかりとテディーベアーにしっかり抱きしめ、顔をうつむかせている。
『ひ、姫・・・ほ、ほんと、お、おれ・・・』
『・・・い、』
クリスがうつむきながらボソッという。
『これしか・・・リニアさんとの思い出ないのに・・・。私を悲しみから救ってくれるのはこれしかないのに・・・ひどい・・・ひどすぎるよ・・・』
『ひ、姫・・・』
ラウンが触れようとするとクリスは思い切り突き飛ばす。
『ラウンのばかぁぁぁぁぁ!!!』
クリスはそういうと部屋を飛び出した。
ラウンはクリスが逃げる時、その頬に涙がつたっていたのを見逃さなかった。
その頃、クリスは自分の部屋から遠く離れた廊下に座りこみ声を殺して泣いている。
手には破れたテディーベアーがしっかり握り締められていた。
≪ひどいよ・・・リニアさんがくれた奴なのに・・・≫
クリスがそんな事を思った時だ。
いきなり城中に甲高いサイレンが響き渡る。
クリスは不安をあらわにして辺りをきょろきょろと見渡した。
生まれて初めて聞くサイレンの音・・・
なんとなく‘これ”の意味が分かった・・・。
‘『緊急出動命令!!繰り返す、緊急出動命令!!』”
城内にそんな放送が響き渡る。
‘『国境付近で闇の姫と思しき人物が邪魂<じゃこん>を引きつれ光の国に攻めてきてる模様。邪魂の数は約50体弱、周辺の国民はすでに非難させました。ただち出陣の準備を!!繰り返す・・・―』”
クリスはこの放送を聞き全身の神経が逆立った・・・。
≪あいつが来る・・・。≫
≪リニアさんを殺したあいつが・・・≫
クリスは溢れる憎しみを押さえ、静かに立ち上がる。
脳裏にあのリリースの微笑みが蘇る・・・。
≪今日こそ・・・消してやる・・・!!!≫
クリスはテディーベアーを握り締めると誰もいない通路を駆け抜ける。
同じ頃、ラウンも城内を走り出す。
≪姫様・・・!!≫
二人の思いが効鎖する中、サイレンのおとだけが物悲しく響き渡っていた。




