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第二十三話;恐怖の誕生日

・・・薄暗い闇の城の中で一人の少女が闇の剣を磨いている。

月夜に照らされたその少女の姿はどこか不気味だ。

『姫様?何をなさってるのです?』

『見て分からない?剣を拭いているの・・・』

リリースはくすっと笑う。

クリス同様、美しい黒髪でおかっぱ頭のリリースだが子供とは思えない残忍さが感じ取れる。

『知ってる?明日は光の姫・ルーンベルトの誕生日なんだって・・・』

『それが何か?』

『まだ分からないの?』

リリースは家政婦を見てくすくすと笑い出す。

これは子供の笑いじゃない・・・

悪魔の微笑だ・・・。

『最高の誕生日プレゼントを渡してあげようじゃない。私とルーンベルトの感動の出会いと言う事でね・・・・』

リリースは磨いていた闇の剣を見つめにやっと笑った。



[国軍最高司令部]

『姫様!お誕生日おめでとうございます・・・!!!』

家政婦さんたちが一斉に声をあげる。

その中でクリスは六本のろうそくをいっきに消した。

その場の者が一斉に拍手する。

『では、プレゼントの方を・・・―』

『ねぇ・・・』

クリスの幼い声が家政婦達の言葉をさえぎる。

『リニアさんは?さっきまでいたはずなんだけど・・・』

クリスの言葉に皆が一斉に周りを見渡した・・・。

どこにもリニアの姿がない・・・。

『フレンテなら、今の今までここにいたのに・・・』

一人の家政婦がつぶやくとクリスは大きな椅子から降りて一人駆け出す。

『ひ、姫様!?』

『リニアさん探してくるぅー!!』

クリスは後ろで叫んでる家政婦をシカトして城の中を駆け回る。

≪まったく、私の誕生日なのにどうして側にいない訳?≫

クリスがそんなことを思いながら外を見た時だ。

リニアが下で何かやっている。

『リニアさん、みーっけ!!!』

クリスはそう叫ぶとベランダから飛び降りる。

リニアはふぅ〜と息をつき、腰を伸ばそうとちょうど上を見た。

べちゃ・・・。

リニアの顔面にクリスがへばりつく。

『リニアさん、何してるの〜!!!』

『そういう姫様は・・・一体どこから来たんですか・・・』

『ん〜とね、上!』

『そ、それはそれはご苦労様で・・・』

リニアが引きつった笑みをこぼす。

こんな事までされてよく黙っていられるものだ。

しかしクリスはそんなことなどお構いなしにリニアの後ろを覗き込む。

『ところで・・・リニアさん何してたの?』

クリスのあどけない言葉がその場に響く。

リニアは慌てたように顔からクリスをはがした。

『な、なんでもありませんよ!さっさと城に戻りましょう』

『なにやってたのさぁ〜』

クリスがリニアにコアラのように足にしがみつくがリニアは無理矢理歩いていく。

クリスはしがみつきながらリニアの後ろを見ると、何やら大きな箱が花壇の中に埋もれていた。

≪なに・・・?あれ・・・≫

『リニアさん、あの箱なんな・・・―』

ズシッ・・・

重苦しく邪悪な気がクリスにのしかかる。

鼓動が高鳴り、全神経がざわざわと騒ぎ立てた・・・。

≪なにか来る・・・≫

クリスはリニアの足から離れ、じっと外壁を見つめる。

『どうしたんですか?』

『何か・・・来る・・・』

クリスがそうつぶやいた時だ。

何かが塀の向こうにいる門番を斬られた・・・。

その者は黒いコートを着て、仮面をつけているクリスと変わらない小さな少女だ。

『何でしょう・・・あの者は・・・』

リニアが聞くがクリスは答えない・・・。

その者はゆっくりクリスに近づいてくる・・・。

『クリス・ルーンベルトでしょ・・・?』

『あなたは・・・―』

クリスはリリースを睨みつけながらその手に握られている黒い剣を見た。

本で何度も見た・・・闇の姫の持つ、闇の剣・・・

『フィア・リリース・・・闇の姫ね』

クリスの言葉にリニアは思わずリリースを見た。

『や、闇の姫だなんてまさかここを攻めに来たんじゃ・・・』

『ご安心を・・・今日は姫君の誕生日だというので軽くご挨拶に来たまで。』

リニアの言葉を否定するリリースの声はどこか楽しんでいるように聞こえる。

『なに・・・最高のプレゼントを用意して来ましたよ。光の姫と闇の姫がたった六歳で戦争にのりだした・・・後世そういわれるでしょうね・・・』

『それはそれは・・・大変うれしいことですこと・・・』

クリスは口元だけで笑うと手を真上に差し出す。

・・・光の剣がクリスの手元にすっと降りてきた・・・。

クリスは剣を構えリリースをにらみつける。

その目は六歳児のあどけない目じゃない・・・

戦いの時を待っていた光の姫としての目だ・・・

『ひ、姫様!!やめて下さい!!こんな幼いうちから戦うなどあってはいけません!!』

リニアが止めようとするがクリスはじっとリニアを見た。

『リニアさんだって気づいたはずだよ・・・門番の人たちこいつに殺されたことを・・・。無関係な人を巻き込むそんな非道な人をほっといていいの?私は光の姫だもん・・・みんなを守らなきゃ。子供だからとかじゃなくて姫として戦わないと・・・』

クリスはそういうとリリースへ向かって駆けて行く。

今のクリスは人の話を聞かない姫でも、ついさっき顔に落ちてきた姫でも、コアラのように足にしがみついていた姫でもない・・・。

戦場に立つという理不尽な役割を背負わされた哀れな少女だ。

『ああああああああぁぁぁぁ!!!!』

クリスが剣を向け、リリースに突進していく。

リリースはにやっと笑い闇の剣を大きく振りかざす。

『‘セシル”!!!』

リリースが闇の剣を大きく振ると黒い三日月型の光がクリスに向かって解き放たれた。

クリスは空高く飛び上がる。

足元を黒い光がかすった。

白いドレスを着たクリスが宙を舞う姿はまるで天使が空を飛んでいるかのようだ。

クリスはすばやく身をひるがえし地面に着地すると迷わずリリースにまわし蹴りをかます。

リリースはその足をかわすとすばやく闇の剣を突きたてる。

激しい剣術戦が二人の間で飛び交った。

これはもう子供のチャンバラごっこじゃない・・・

正真正銘の死と隣合わせの戦いだ・・・。

『へぇ・・・なかなかやるじゃない。ドレス着ててそこまで動けたらたいしたものね』

リリースがくすっと笑う。

クリスの頬に剣がかすった・・・

頬に血が滲む。

『それはどうも・・・。だけどあなたはどうも足元まで気が回らないようね・・・』

クリスはそういうとリリースの足に自分の足をかけた。

『しまっ・・・―』

リリースの金きり声がクリスの耳元で聞こえた。

リリースの体制が崩れていく。

それと同時にクリスは光の剣を構え、突き刺そうとする。

≪こいつは闇の姫だ・・・!!≫

≪私の父や母を殺した家の娘だ・・・≫

≪こいつがいなくなればもう剣の勉強も呪文の勉強もしなくていいんだ≫

≪こいつがいなくなれば私は自由になれる!!≫

≪殺せ・・・!!刺し殺せ・・・!!!≫


ピタッ


クリスの持つ光の剣がリリースの額にささる直前で止まる。

光の剣がどうしてもリリースにさせない。

クリスの手がプルプルと震えている。

≪どうして・・・どうして刺せないの!?≫

≪こいつが消えれば私は自由になれるのに・・・なんで・・・≫

クリスの手から光の剣が落ちた。

光の剣が地面に突き刺さる。

≪どうして可哀想だって思っちゃうの?≫

クリスの足は力なく崩れ落ちた。

自分が無性に情けなく思えた・・・

ディオから闇の姫の恐ろしさは耳にタコが出来るぐらい聞いている。

それなのに殺せないのはただの馬鹿としか言いようがない。

しかし、リリースは怪しく微笑みながら立ち上がった。

『光の姫さんよぉ・・・敵に同情して討てないなんて戦場に向いてないんじゃないの』

リリースの言葉にクリスは何も言えない。

『じゃあ・・・私が戦場という場所から解放してやるよ・・・』

リリースの闇の剣がまっすぐクリスに降りてくる。

クリスが気づいた時にはもう遅かった・・・

≪ダメ・・・!やられる!!!≫

クリスが目を閉じた時何かが自分を抱きしめる。

そしてその直後、なにかが斬れる音がした。

恐る恐る目を開いたクリスの目から光が消える・・・

リニアがクリスを力強く抱きしめリリースの闇の剣からクリスを守っていた。

リニアの息切れがクリスの耳元で聞こえる。

クリスの白いドレスが赤い血で汚れていく・・・。

『リ、リニア・・・さん』

クリスが呆然とその名前を呼ぶ。

リニアはクリスを安心させるつもりなのかそっと微笑んだ。

その顔からは血の気が引き、冷や汗が流れてる。

『姫様・・・ご無事でよかっ・・・―』

不意にリニアの身体から力が抜けた・・・。

クリスの顔が極限まで引きつる。

ドサ・・・

リニアがクリスの身体から離れ、横に倒れた・・・。

クリスは呆然とリニアを見る・・・

≪うそだよね・・・こ、こんなことって・・・≫

震える手でリニアに触れるがその手が赤い血でそまった。

『う、ウソだ・・・リニアさん‘友達”として側にいさせてって言ったもん・・・。そんな自分から離れるなんてそんな、そ、そんな・・・』

クリスがうわ言のようにつぶやく中でリニアから生気が薄れているのが感じられる。

あらためて自分の能力が不気味にかんじられた瞬間だった。

『いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

クリスが絶叫する・・・。

それと共にあたりは曇りだし、ぽつぽつと雨が降り出す。

それはまるでクリスの心のように冷たく雷を伴った激しい雨がその場に悲しく降りしきった。





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