第二十二話;初めての友達
光の国・・・それは‘光の人間”の血が流れる者達で造られた国。
闇の国・・・それは‘闇の人間”の血が流れる者達で造られた国。
この国々は千年も前からお互いを消し合おうと戦争を続けていた。
‘光の剣”‘闇の剣”を授かりし二人の少女によって・・・
そんな光の国には国軍最高司令部という物がある。
そこは軍の出陣や最終決断が下される場所。
しかしそこはもう一つの役割も持っていた・・・
それは光の姫が育つ城がわりにもなるという事・・・。
しかしそれは
光の姫にとって苦痛きわまりない事だった・・・
・・・一人の少女が花壇を何やら熱心にいじくってる。
この少女こそクリス・ルーンベルト(5)・・・・
髪はおかっぱで白いドレスを着て、頭にはティラがのせられていた。
そんなクリスに家政婦さんが恐る恐るクリスに近づく・・・・。
『ひ、姫様・・・ドレスが汚れてしまいます。というより何をなさっているのです?』
『んーとね、動く紐があったから捕まえてたのぉ〜』
クリスは家政婦を見向きもしないで答えた。
動く紐・・・
家政婦はクリスの言葉の意味が分からない。
『姫様、動く紐とは一体・・・』
家政婦がおずおずと聞くとクリスは振り向きにこ〜っと笑う。
その笑顔はそこら辺で暮らしている子供と同じだ。
『これ〜!!!!』
クリスが満面の笑みで差し出したのは一匹の蛇・・・
幼いクリスの手に頭を掴まれた蛇は離せとばかりに身体を左右に激しく揺する。
それを見た家政婦さんは・・・
『いやぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!!!!』
・・・そのまま気を失ってしまった・・・・。
クリスは首をかしげ蛇を見る・・・。
『可愛いのにねぇ』
[事務室]
『何?また姫が悪さをしたと?』
18、19ぐらいの男が家政婦の愚痴を聞いている。
ディオ・ブラウン・・・
この者はいわゆる執事という職に就いていて幼いクリスの代わりに光の国の政治を動かす人だ。
なぜこの若さでこの職に就いているかはもう少し先の話で分かる。
『まぁ、姫は人と付き合ったことがないからな・・・。どうすれば相手が悲しむかが分からないのだろう・・・ほっておけ』
『し、しかし・・・!!!』
家政婦が反論しようとするがディオはさっと書類を持ってくる。
その書類は一人の女性の履歴書だった。
『なんです?この女は・・・』
『つい最近この司令部に入るために国家資格を取った新人の家政婦だ・・・。そういう面倒な荷は新人に押し付けるのが一番いい・・・』
・・・。
ある意味、悪魔的な発言・・・。
家政婦もそんなディオの言葉に呆然としてしまう・・・。
姫を面倒な荷扱い・・・どれほどの腹黒なのだろうか。
『‘リニア・フレンテ”か・・・ご愁傷様ね』
家政婦は履歴書の名前を読み、ディオの机の上に置いた。
[一週間後・姫の部屋にて]
『ブー、ブー、キキィー』
クリスが一人おもちゃの車で遊んでいるといきなり部屋の扉が開いた。
一本縛りの若い女の人が部屋の中に入ってくる・・・
クリスはチラっとその人を見るが、また遊び出した。
『ブ〜ン』
『姫様、私が今日から姫様のお世話係として新しく入りま・・・―』
『キキーイ』
『新しく入り・・・―』
『ドーン、わぁ〜ぶつかっちゃったぁ・・・』
『あ、新しく・・・』
『気をつけろ〜‘セシル”ぶっぱなしてケシ炭にするぞぉ!?』
・・・。
クリス・・・まったく聞いちゃいねぇ・・・
リニアは戸惑うようにクリスを見た。
『ひ、姫様!!私の話を聞いてください!!』
リニアが叫ぶとクリスの手が止まった。
『聞いてるよ?だってわざとだもん』
『えっ?』
クリスは平然と答え、リニアを見た。
その目はどこか悲しみが溢れている・・・・。
『私ね、耳いいの。だから遠くの方で誰かが銃で撃ってもその風の音で分かるんだ。だけど聞こえたくない物のたまに聞こえちゃう・・・。家政婦さんの私への悪口とかね・・・あなたも今私の前じゃこうしてるけど部屋を出て行ったら悪口いうんでしょ?悪口言われるぐらいなら最初からお世話係なんていらないもん・・・』
クリスはそういうとまた一人で遊びだす・・・。
リニアは黙ってその様子を見ていた。
そして深く息を吐き、クリスの隣に座る。
『姫様は・・・いつもお一人なんですか?』
『・・・そうだよ』
『遊ぶ時は・・・―』
『・・・一人だよ。だってあそぶ人いないもん』
『姫様はお世話係はいらないって言いましたよね?』
『・・・うん』
『なら・・・』
リニアが車を片手に取り、にっこり笑う。
クリスはそんなリニアを驚いたように見上げた。
『私を遊び相手として側においてください。‘友達”ということで・・・』
『と、友達?』
クリスがリニアの言葉を復唱する。
この時のクリスにとって友達というものがどういうものか分からなかった。
でもそれが自分の求めているものの一つだとなんだとなんとなく分かっていた。
『友達って遊んでくれるの?』
『ええ、遊びますよ』
リニアの言葉にクリスはにこっと笑う。
『じゃあ、私に遊びを教えて?一人じゃ出来ない遊びをいっぱい教えて?』
・・・それからリニアはクリスに色々教えてあげた。
遊びや歌、城の外がどうだとかそんなたわいのない話をして、一日の大半を終えていた。
唯一の幸せ・・・
クリスが生まれて初めて感じた幸せだったかもしれない。
ただ話しているだけなのに毎日がこんなにたのしいなんて思いもしなかったから・・・・。
自分に母親がいてくれたらこんな人だったのかもしれない・・・
いつの間にかそんな事を考えだすクリスだったが・・・
リニアが死んだのはそれから一ヶ月後だった。