第二十話;クローゼの恐れるもの
・・・長い沈黙が流れる・・・
愛は痛みにこらえながら立ち上がろうとするが足が言う事を利かなかった。
春花はそんな愛を横目で見る。
「そのケガ・・・涼蘭にやられたの?」
「そ、それは・・・」
愛が答えようとするが、春花は言う前に立ち上がった。
春花の足がゆっくり涼蘭へ歩み寄る。
「涼蘭・・・なんで愛にこんな事すんの?私に恨みがあるなら私をやればいいじゃない!!」
春花が声を荒げた。
涼蘭は何も言わない・・・。
「は、春花・・・ここから離れて・・・!春花はここにいちゃ危な・・・―」
「愛は黙ってて・・・!!!」
愛が春花の手を掴もうとするが思い切り振り払われた。
愛は思わず呆然としてしまう・・・。
「そんなに私から幸せを奪いたいの・・・!?」
春花の言葉にずっと下を向いていた涼蘭の顔があがった。
その顔は戸惑いで溢れてる。
「わ、わたくしは・・・―」
「あんた本当に何者なの!!?なんのために愛を・・・愛をこんな目に!!!」
春花の手が涼蘭に伸びた時、愛が慌てて押さえつける。
「や、やめて!!」
「愛!なんで・・・なんで止めるの!?離して!!」
「ダメだよ!!」
「あんた、そんなケガまでしてんだよ!?そこまでやられてなんで黙っていられんの!!!」
春花と愛が言い争っている間、涼蘭は下を向き手を震わせている・・・。
歯を噛み締め・・・苦悶の表情を浮かべていた。
「あああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
涼蘭がいきなり叫ぶ。
愛と春花は驚いたように涼蘭を見た。
「い、いきなりどうし・・・・―」
愛がそうつぶやいた時だ・・・。
春花を握っていた手から感触が消える・・・
愛は自分の身に何が起きたのか分からなかった・・・
いや・・・
<これは私がやられたんじゃない・・・>
春花の眼鏡が愛の足元に落ちた。
目の前で春花が黒い光に飲み込まれていく・・・。
春花の口から血がふきだした。
愛はまるで時が止まったかのように体が震えて動けない・・・。
<う、うそだ・・・>
<は、春花がそんな・・・>
時が動き出す・・・。
ドカァァァぁぁぁン・・・・
ものすごい光が春花を屋敷の中へ弾き飛ばす。
愛はハッと我に返った。
「春花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
愛が屋敷内に向かおうとするが目の前で今まで春花のいたところに手を向け、身体を震わす涼蘭が目に入った。
<こいつ・・・春花は普通の人間だって知ってるくせに!!!>
愛の足は勝手に涼蘭へ向かっていく。
涼蘭の目には涙すらたまっていた。
「クロー・・・―」
「私はわ、悪くない・・・」
涼蘭が愛から後ずさる。
「あ、あの人が悪いんだ・・・」
涼蘭はまるで自分で言い聞かせるかのよにつぶやく。
愛はそんな涼蘭の様子に怒りの手を緩めてしまった。
「あ、あの人が私の気持ちを分かってくれないから・・・」
涼蘭の白い肌はいっそう青ざめ・・・
「あんたが側にいるとあの人はダメになってしまう。だから・・・だから私は・・・」
不安をあらわにして震えている。
この間、春花と涼蘭が顔を合わした時より冷や汗が流れ、唇や肌が青ざめ、身体を震わせていてかなり尋常じゃない。
<涼蘭は何にそんな怯えているんだろ・・・>
<春花の事がそんなに怖いの・・・?>
愛がそんな疑問を抱く・・・。
しかしもうそんな余裕すらなくなった・・・。
・・・黒い陰が外からゆっくりこちらに入ってくる・・・。
愛の身体に悪寒が走った・・・。
闇の姫・リリース・・・
「なんの騒ぎと思ったら・・・クローゼ・・・貴様か・・・」
リリースのねっとりとした口調がその場に響く・・・。
涼蘭の身体がビクっと跳ね上がった・・・。
愛はこの時涼蘭が怯えていた理由が分かった・・・。
涼蘭は春花に怯えていたのではなく、春花を跳ね飛ばすエネルギーを感じ取ったリリースがこの現場に来る事を恐れていたんだと・・・。
リリースは血だらけの愛をジロっと見ると涼蘭を見る。
「クローゼ・・・私の言った事を覚えているか・・・?」
リリースが腰から黒い剣を抜きながらいう・・・。
その剣は愛の持つ光の剣とうりふたつだがどこか冷酷な冷気を感じさせる。
「‘ルーンベルトに手を出すな”私はこういったはずだ・・・・。」
リリースの言葉に涼蘭の肌が更に青ざめた・・・。
「なのにお前は一度ならず二度まで、いやそれではきかぬか・・・ともかくルーンベルトに手を出した。いわゆる・・・『命令違反』と言うわけだ・・・。私の命令をきかなかった者が今までどんな目にあっていたかお前なら分かるだろ・・・?」
リリースの声はどこか笑みさえ混じってる・・・。
愛はリリースが今から何をしようとしているのか分かった・・・。
悪寒が止まらない・・・。
「や、やめてください!!わ、わたくしは・・・・」
涼蘭が後ずさりながら金きり声をあげるがリリースは黒い剣を振り上げる。
「貴様は用済みだ・・・」
黒い剣が涼蘭に振り下ろされた・・・。
キーン・・・
愛は光の剣を両腕で握り、涼蘭の前に立つ。
黒い剣を抑える光の剣がふるふると震えている・・・。
「る、ルーンベルト・・・」
涼蘭が驚いたように愛を見た。
「は・・はやく、逃げて!!」
「私は、あ、あんたを・・・」
「いいから・・・!!」
愛が声を荒げると涼蘭は屋敷の裏口へ逃げていく。
愛はキっとリリースを睨んだ。
「なんのつもりだ・・・」
「あなたにクローゼ・・・いや涼蘭を殺させない・・・!!!」
「相変わらず変わった女だな・・・貴様の立場を分かっているのか?」
「分かってるよ!!不気味な力を持って・・・その力さえ使えないマヌケな化け物だよ!!!だけど・・・!!」
愛の目が決意に燃えている。
「私には大切な親友がいる、それと同じぐらい大切な想い人もいる。大好きな後輩や友達だっている。だから私はこの力をみんなを守るために使いたい。クローゼはともかく涼蘭は友達だもん・・・誰も死なせたくない!!!」
愛は声を荒げながら剣を振り払らう・・・。
リリースはさっと身をひるがえし地面に足をつけた。
「ふん・・・昔と変わらないきれいごとだ。なぜ私はお前のような奴を何年も倒せなかったのだろうか・・・まったく人生の汚点だ・・・」
リリースは愛を見下すように見るとすっと消える。
愛はゆっくり光の剣を降ろした。
<人生の・・・汚点か・・・>
愛は息を深く吐き、春花を探しに行こうと屋敷内に入ろうとした時だ。
裏庭の方で涼蘭の悲鳴が響く。
愛は慌てて裏庭へ駆けていった。
<な、なに!?まさかリリースの奴いなくなったんじゃなくて涼蘭の所に行っちゃったんじゃ・・・!!>
愛が裏庭に顔を出した。
シュバッ・・・
愛の頬に鮮血がはねる・・・
目の前で涼蘭が血だらけになって倒れた・・・。
その向こうでリリースが剣を構えている・・・。
仮面の向こうに潜む冷酷な目・・・
血に染まる視界・・・
「い、ややああぁぁぁっぁぁぁぁ」
愛が絶叫した・・・。
頭が真っ白になる・・・自分の手に涼蘭の血がいつの間にかついている。
声が震える・・・体中に悪寒が走った。
‘『ルーンベルト様・・・』”
若い女の人が優しく微笑みかける・・・
とても懐かしく一番幸せだったような気がする・・・。
だが、その姿は不思議と血だらけの涼蘭と重なった・・・。
「あっ・・・ぁ」
涙ともならない声が喉から漏れた。
なんだろう・・・
涼蘭のショックだけでなく何か別のもののショックが混ざっているようだ。
‘『ラ、ラウン・カーウィンと申します・・・』”
まるで七五三で着るような服を着た幼い諒が自分を見ている。
その様子は緊張でもしているようだ。
しかしその姿はすぐ炎に飲み込まれた。
城のみんなや軍人が次々に死んでいく・・・。
リリースは黒いあの剣を振り回し人を斬っている。
黒いコートを赤黒く染めながら・・・・
自分の目の前で・・・
涼蘭と同じように・・・
不意に黒い陰が愛を覆った・・・。
リリースが愛の頭に手を向けてじっと愛を見据えている。
これから自分にどんなことが起こるかわかっていたが・・・
放心・・・
というのか分からないが虚ろな目でリリースを見上げる事しか出来ない。
「・・・‘セシル”・・・」
愛を巨大な黒い光が飲み込む・・・
身体が宙に浮くのが感じられた・・・
口の中に血の味が充満する・・・
意識が暗い闇の中へ沈んでいく・・・
しかしそんな愛の脳裏で幼い諒がにっこり笑った・・・
『私は何があっても姫様の側にいますから・・・』
『だから姫様もずっと私の側にいてくださいね・・・?』