第十六話;人の命
・・・二人はあの後近くにある公園に来ていた・・・
耳を澄ますと遠くの方で消防車やパトカーのサイレンが聞こえる。
恐らくあの倉庫街に行ったのだろう・・・
愛はベンチに座り込み声を殺して泣いていた・・・。
自分は人間なんかじゃない・・・
リリースやクローゼと同じ邪悪な人間だ・・・
そんな思いが消しても消しきれない・・・。
すると突然、自分の頬に冷たい物が当たる。
「いつまで泣いてんだ?」
諒が優しく微笑みながら愛に缶ジュースを差し出す。
愛は慌ててゴシゴシと目元を拭いた。
「だ、だって・・・だって・・・」
「大丈夫だよ。誰もたった一人の人間であそこまでなったなんて思わないさ・・・」
諒の励ましのつもりで言った言葉が愛に重くのしかかる。
『たった一人の人間で・・・』
確かに・・・愛があの倉庫街を消した事に気づく訳も無い・・・。
でも愛一人であそこを跡形もなく消したのは事実だ・・・。
尋常じゃない殺意があの事故を生んだ。
自分でも分からない殺意があの事故を・・・―
<私は人間なんかじゃない、人間兵器なんだ・・・>
そう思うと自然に涙が出てくる。
諒はそんな愛の気持ちに気づいたのかそっと愛の頭の上に手を乗せて来た。
「お前は優しいんだな・・・」
「えっ・・・」
諒の言葉の意味がよく分からない。
愛は困惑するかのように諒を見る。
「人を殺してしまってなんとも思わない奴はいないさ・・・。オレだって未だに人を殺した事なんてない。」
諒は疲れたように力なく笑った。
<人を殺した事が・・・ない?で、でも諒君は・・・>
愛は諒の見せたクローゼ達に対する諒の態度を回想する。
「おれさ・・・鈴崎が姫だったころよく怒られてたんだ・・・。‘敵に同情するな”ってうるさいぐらい言われてた。今思い出せばクローゼを殺すタイミングなんていくらでもあったかもしんない。だけど殺せなかった・・・。あのクローゼだってそうさ・・・」
「えっ・・・」
「あいつも・・・殺意むき出しにして襲ってくるけどまだ人を殺した事はない。」
<あ、あのクローゼが・・・>
あのクローゼが愛や諒に対する殺意を持ちながらも未だに人を殺した事がないというのは意外としか言いようが無い。
・・・それほどまでに覚悟がいると言う事か・・・
「鈴崎だってなんだかんだ言って人は殺した事ないと思った。」
「ほ、ほんとに!?」
「・・・・んな事でウソついてどうすんだよ・・・」
・・・そりゃそうだ。
愛はほっとしたかのように大きくため息をつく。
<よ、よかった・・・本当によかった・・・>
安心、というのだろうか・・・。あの殺意を感じてからもし自分の知らないところで誰かを殺していたらどうしようかと思っていたが・・・あくまでも予想で終わった事が何よりもうれしかった。
「鈴崎のさっきの涙はあの倉庫街がどうのこうのよりも‘自分が人を殺めた”事を恐れてた涙だったんだよ。そういう事が出来る鈴崎と出来ないリリースは訳が違うな・・・」
「ど、どういう意味?」
「あいつは・・・人を殺しすぎなんだ。何の罪のない人まで平気で殺す・・・」
諒がギリっと歯を噛み締めた・・・。
そういえば諒の母親は奴らに殺されたと言っていた・・・。
クローゼは人を殺した事がないとすれ諒の母親を殺したのは・・・
<リリース・・・なの?>
愛は心の中で諒に聞く。
諒はただ顔をうつむき、暗闇に影を落としている。
その顔は悲しみと憎しみが入り混じった表情をしていた。
「あーぁ、こんな話や〜めた」
諒は愛が心配そうに自分を見てる事に気づき、苦笑いしながら立ち上がる。
「ごめんな?こんな話して・・・」
「ううん。返って気が晴れたよ・・・ありがとう。」
愛がにこっと笑うが諒は呆然と愛を見ている・・・。
その目はまるで恐ろしいものを見ているかのよう・・・
「ど、どうしたの?」
「い、今・・・あ、あ、あ、あ、あ、ありがとって・・・」
「・・・‘ありがとう”がどうかしたの?」
ズザザザザザザザアアアァ・・・・
諒がものすごいスピードで後ずさる・・・。
愛・・・呆然。
「あ、あの姫様があ、あ、あ、ありがとうだなんてェ・・・。やばいぞ・・・槍でも降ってくるか・・・
いや、ダイナマイトかも・・・!いやいや、原子爆弾!?」
「はりたおすぞ、コラぁ・・・・!!!!」
諒の独り言に愛はボキボキと指を鳴らす。
その顔はまさに鬼・・・。
「人を人間不信みたいにいうなぁぁ!!」
「あれ?人間不信じゃなかったけ?」
「ちがうわ、どアホ!!!!」
シャーーー・・・愛が威嚇していると諒はポンっと手を叩く。
「そうか!今記憶ないからいつもの姫様じゃないのをすっかり忘れてた!!気にすんな?」
「今頃遅いよぉ!めっちゃ傷ついた!!」
愛が、ぶ〜っとふくれるがピタッと止まる。
諒の知ってる愛は普段‘ありがとう”を言わないということか・・・?
「ねぇねぇ・・・」
「ん?」
「私って昔どんな人だったの?」
・・・・・。
愛の質問に諒が固まる。
そして10秒後・・・
「た、大変お優しい方でしたよ?(棒読み)」
「何さっきの間は!!しかも棒読みじゃん!!」
愛が思わずツッコむが諒は顔を反らし口笛を吹いてる。
その顔からは冷や汗が滝のように流れていた・・・。
「は、腹へったろ!?おれなんか買ってくる!!」
諒はものすごいスピードで暗闇の中を駆けて行く。
「ちょ、ちょっとぉ!!?」
愛が呼び止めようとした時はもう諒の姿はない。
愛はぶーっとふぐのように頬を膨らませて一言・・・。
「逃げた」
「ありがとうございましたぁ!」
諒は大きなため息をつきながらコンビニから出てくる。
手には大量のお菓子やらパンの入った袋を持って・・・。
<これだけありゃ鈴崎を黙らせられるだろ・・・。まさかあんなとこツッコまれるとは・・・>
諒が再びため息をつくが一瞬にして目つきが変わる。
後ろから聞こえる足音・・・
諒が小走りするとその足音まで早くなる・・・。
間違いない・・・つけられてる。
諒はピタッと止まり、後ろを振り向くと何かが慌てて物陰に隠れた。
「誰だ・・・言っとくけど金は全部使っちゃ・・・―」
くすっ・・・
物陰の向こうで微かな笑みが聞こえた。
諒が目をこらすようにその者を見ようとすると何かが物陰から出てきた。
電灯の明かりがつややかな黒髪をてらす・・・。
「あんたは確か・・・高倉 涼蘭・・・」
諒は呆然と涼蘭を見つめた・・・。
「遅い!!!!」
愛は公園のブランコに乗りながら一人叫ぶ・・・。
その姿はむなしい・・・。
「遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅いぃぃぃぃ!!!」
愛はブランコを限界までこぎながら怒鳴ってる。
だからむなしいって・・・!!
<どこのコンビニまでいったのかな・・・>
「とりゃ!!」
愛は空高く飛びあがり、ブランコ前の地面にスタッと着地した。
<・・・迎えに行くか・・・>
愛はため息をつきながら立ち上がった時だ。
ゴッ・・・!!
頭の後頭部に遠心力がついたままのブランコが激突する・・・。
「〜〜〜っ!!」
・・・愛、言葉にならん痛みに襲われその場にしゃがみこむ。
だいたいブランコを限界までこいでて止めない方が悪い・・・
皆さんはしっかりブランコを止めてから降りましょうね〜
数秒後・・・
<諒君が来ないから私がこんな目にあったんだぁぁ>
愛は頭に巨大なたんこぶをつくり、涙目でずかずか進んでいく。
だからそれは自分で悪いんだって・・・。
しかしそんな愛の足が止まった・・・。
目の前で諒と涼蘭がなにやら話してる・・・。
愛は無意識に物陰に隠れた。
<ってなんで私は隠れてんのさ・・・普通に声かければいいじゃん・・・>
・・・そう自分にツッコむがどうしても声がでない・・・。
ここから見える二人はまるで恋人のようだ。
「だから!!なんでオレをつけてたのか訊いてんの!!」
「・・・・」
「なんとか言えってぇぇぇぇ!!!」
諒の怒鳴り声が愛の方まで聞こえてくる。
<つけてた・・・?高倉さんが諒君を・・・―>
「鈴崎・・・そこにいんの?」
諒の声に愛はびくっと物陰から飛び出してしまう。
愛は、ははっと渇いた笑いをこぼした。
「なんで隠れてんだよ?」
「い、いやそのぉ・・・い、行きづらくって・・・」
諒の質問に愛は戸惑いながら答える。
「そ、そーだ!聞いてくれよ、こいつがオレをつけてたんだ!!」
「高倉さんが?」
諒が涼蘭を指さしながら怒鳴る。
しかし、涼蘭が微かに微笑んだのを愛は見逃さなかった。
<な、なに・・・さっきの笑いは・・・>
愛がその笑みに不気味さを感じた時だ。
「あら?桜井先輩、ゴミがついていますわ・・・」
涼蘭の細く白い手が諒の肩を掴む。
「は、はぁ!?ゴミなんてついてねぇじゃ・・・―」
諒の言葉が途切れる・・・。
愛はその光景に呆然と立ち尽くしていた・・・。
涼蘭の唇が諒の唇に触れている。
<うそだ・・・うそだ・・・うそだ・・・>
愛の目に涙を浮かべ、手で口を押さえる。
諒の事は前から好きだったのに・・・ずっとずっと好きだったのに・・・
なんでこんな光景を見なければいけないのか・・・
『涼蘭は愛の思ってる子じゃない』
春花の言っていた言葉が愛を更に重くのしかかっていた・・・。
こんにちは!!15話の後書きをカットしてしまい申し訳ありません!!時間がなくて正直あせってまして。
ってな訳でやっと『運命の歯車』の前半が描き終えました!!今後もどんどん突き進んで行こうと思ってます!!怪しげな笑みを浮かべた涼蘭の正体・・・そして愛の恋・・・あと後半のメインである愛の過去・・・。
そしてすべてを知った愛に襲い掛かる衝撃の事実・・・
話もこれからパワーアップしていくのでぜひ最後までお読みください!!
それではたくさんのご感想をお待ちしております。
byざしきのわらし




