第十一話;死の恐怖
「死んだか?」
クローゼが視線の先にいる愛を見つめた・・・。
血だらけになった愛がヨロヨロと立ち上がる。
「・・・‘セシル”3発・・・その他暴行を加えたのにまだ立てるなんてさすが
姫だけあるじゃない・・・。
普通の人間なら死んでるわね・・・。」
クローゼはくすくすと肩を揺らしながら微笑む。
愛はギリッとクローゼを睨みつけた。
体中が痛み、少しでも気をぬいたら気を失いそうだ・・・。
<だめだ・・・どうせこいつからは逃げられない・・・。せめて・・・
誰かに助けを呼ばなきゃ・・・>
愛の中にある考えが浮かんだ・・・。
諒も・・・クローゼも・・・‘セシル”と言えばなにやら光が飛び出し、
爆発が起こる。
自分も・・・人間じゃないとすれば出来るのかもしれない・・・。
だが、万が一それが自分に出来たとすれば諒の言ってる事は正しく自分の
過去が偽者だと認める事になる・・・。
<どうする・・・やってみる?でも・・・もし出来たら・・・>
愛はチラっとクローゼを見た・・・。
このままではどの道、殺されてしまう。
愛は意を決してクローゼに手を向けた・・・。
「せ、‘セシル”!!」
愛が叫んだ・・・がしかし何も起こらない・・・。
「バカね・・・まともに術も使えないってのに」
クローゼがそんな愛を見てバカにしたように見つめた。
<使え・・・ない?じゃあ諒君の言った事は嘘だったの・・・?>
・・・ほっとした反面愛は己の無力さを改めて痛感した。
このままでは何も出来ないままクローゼに殺されてしまう・・・。
「さあ・・・首を飛ばす?それとも下半身?いや、手足から順序に飛ばしていく?」
クローゼが怪しく微笑みながら愛に近づく・・・。
愛は体を引きづりながらも後ずさりしていった。
<ヤバイヤバイヤバイヤバイ・・・!!>
愛が後ずさりしていると足に何かがあたった・・・。
廊下に常備されている消火器・・・。
愛は何を思ったのか消火器を手に取り、黄色いピンを外した。
<イチかバチか・・・!!>
消火器の口がクローゼに向けられる。
「こ・・・のぉ!!」
・・・白い粉がクローゼを、周りを白く濁らせ何も見えなくなる。
「くっそ!!!」
クローゼの声が白い煙の中から聞こえる。
愛は体を引きずりながらも1階へ向かっていく・・・。
「誰か・・・誰か助けて!!!!早く!!!」
愛が涙声で叫ぶが応答はない・・・。
今日はよりによって職員会議が放課後にある日・・・。
先生達はここから離れた場所で会議をやっていて気づくわけも無い。
他の生徒だってこの時間帯は部活をやっていて吹奏楽部と美術部ぐらいしか
校舎にいないだろう・・・。
愛は息を切らしながら階段を下りていき、再び消火器を見つけると今度は
階段に向かって吹き付けた・・・。
階段が白い粉におおわれ見えなくなる。
愛は空になった消火器を捨て、再び歩き出す・・・。
壁や床などに愛の血が落ちるが、消火器の粉のおかげで目隠しに
なってくれた。
愛は資料室のドアをあけ、サッと入る・・・。
中には体育祭で使う大玉や看板があり愛がその後ろへ座り込んだ・・・。
体全体が心臓のように鳴り・・・震えが止まらない・・・。
「誰かぁ・・・助けて・・・。春・・・花ぁ・・・」
愛の目から涙が落ちる・・・。
自分は何もしていないのに・・・なぜ殺されなければならないのか・・・。
考えれば考えるほど、悲しくなってくる。
その時、資料室のドアの前にクローゼの黒い陰が浮かび上がる・・・。
愛は思わず頭を抑えかがみこんだ。
死にたくない・・・死にたくない・・・!!
『そこに隠れてるのは分かってるんだよ・・・さっさっと出て来な!』
クローゼがどかどか鍵のかけたドアを蹴っ飛ばす。
愛はただ恐怖に震えるしかない・・・。
しかし、その体が急に上に持ち上げられる・・・。
「い、いやぁぁ・・・・!!」
愛が悲鳴を上げるとその口は押さえ込まれ、強く抱きしめられる。
すっ・・・愛とその者は消えた・・・。
すっ・・・どこかの倉庫なのか暗い場所に愛が現れる。
愛が目を硬く閉じ、震えていると温かい手が愛の頬に触れた。
「もう・・・大丈夫ですよ・・・」
血だらけの諒がそっと微笑む・・・。
「り、諒君・・・。」
「怖かったでしょ・・・ここまで来れば奴らもそう簡単には見つけらんないと
思うから・・・。」
諒がどっこらと座りこむ・・・。
「まったく・・・とんでもない奴らですよ・・・。まさか学校にまで」
「諒君・・・」
愛の声が諒の声をさえぎる。
「なんで・・・助けてくれたの・・・?私ヒドイ事したし、な、殴ったのに・・・。」
「なんでって・・・オレのたった一人の上司だから・・・。」
諒は愛がなんでこんな事を聞くのか不思議そうに見てきた。
「おれには・・・両親がいないんです・・・。母さんはおれを城に預けたっきり
帰って来なかった・・・。
殺された・・・らしいんです・・・。奴らに・・・。
だからおれは、部下として引き取ってくれたあなたに恩を返そうと命に代えて
も守ってみせるって決めた・・・。
例え、記憶を失っても姫様は姫様だから・・・」
諒の言葉に愛は言葉を失う・・・。
自分は自分の事で精一杯なのに・・・否定している自分を姫と言い、
守ってくれる。
バカ・・・もいいところだ・・・・。
「こんな私に・・・敬語使わないでよ・・・。まともに自分の身一つ守れない私なんか・・」
「いいのかぁ??実は言うと同年代に敬語使うってホントしんどくてさぁ〜」
・・・・・。
順応早・・・・!!!
愛はそんな諒を見て思わずふきだす・・・。
諒もなんとなく場の雰囲気に流されて、ははっとチカラなく笑った・・・。
「そーいえば、なんでそんなに血だらけなの?」
愛が諒を指さすと諒は苦笑いする。
「リリースに不意打ちくらってこの有様・・・。あいつの攻撃・・・おれには
押さえきれないんだ・・・。
よけるだけよけて見たけど・・・当たりまくって、体制を立て直そうとあの部屋
に行ったら鈴崎もいたって訳・・・・!」
「諒くんもリリースにやられてたんだ・・・・。」
愛はそうつぶやくとしばし黙り込む・・・。
奴らは本気で自分達を殺そうとしている・・・人を殺す事になんの疑いもない
のだろうか・・・。
昔からそんな事ばかりしていたのか・・・・。
そして諒も理由はどうあれ敵を殺そうとしている・・・。
そういう・・・問題なのか・・・。
なぜ話合い分かりあろうとしないのだろう・・・。
ガタン・・・
突如・・・倉庫の入り口の方で物音がした・・・。
<なんで・・・ここにはウチラしか・・・>
愛がそう思った時、入り口に誰かが立っている・・・。
・・・クローゼだ・・・
「くそ・・・もう見つかったか・・・」
諒は舌打ちすると、愛を箱と箱の間につっこむ。
「諒君・・・!?」
「隠れてろ・・・クローゼぐらいなら俺一人でも大丈夫だ・・・。」
諒は優しく微笑む・・・。
体は傷だらけ・・・その上リリースが戦闘中にこないと言う保証は無い。
「だけど・・・!!」
「今の鈴崎を戦場に立たせようなんて無理な話なのに、おれ・・・バカだ。
そのせいで、鈴崎につらい思いさせちまったし・・・
万が一・・・おれに何かあったら鈴崎・・・お前一人でも逃げろ・・・。
本当にごめんな・・。」
諒はそういうとクローゼに向かっていく・・・。
「あんたもバカね・・・あの女さえ捨てれば見つからずにすんだのに・・・。
あいつの気は他の人間とケタが違うぐらい分かってんでしょ?」
クローゼの言葉に諒は何も言わない・・・。
ただ・・きつくクローゼを睨みつけているだけだ・・・。
「あの女ともども、きれいに消してやるよ・・・!」
「望むところだ・・・」
諒とクローゼは手のひらをそれぞれに向ける・・・。
二人の間に、気絶しそうなぐらいの沈黙が流れた・・・。
こんにちは!みなさん!!
今回愛はクローゼに窮地に追い込まれましたが、
皆さんの経験した窮地ってなんですか?
私は・・・前、女友達と野球をしていた時期がありまして
その時経験したのは・・・
2アウト満塁の絶対的チャンスで空振り3審した事ですね・・・。
その後、本当に殺されるかと思いました(笑)
皆さんはこんなヘマしちゃだめですよ〜!!
それでは、ご感想お待ちしております!!
byざしきのわらし