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第一話:「剣」との出会い

これは、時に残酷な運命を歩む少女の物語・・・




「こらー!!愛、また私のプリン食べたでしょ!!」


いきなり響く幼い少女の怒号。

辺りがしらける中、その声は木霊こだまのようにきんきんと響いている。

何事かと思い声の主に目を向ければ髪が肩ほどのメガネをかけた少女。―――だが、同じく二つ縛りの少女を怒鳴りつけていた。

この眼鏡をかけた少女は、『新藤 春花』。目にはかすかな涙さえ浮かべ、かなりのお怒り模様である。

それに対し怒鳴られている少女、『鈴崎 愛』は冷や汗を流しながらも余裕の表情だ。

「いやぁ、最後まで残してたからてっきり喰わないかとぉ」

「私は、好きな物さいごに食べる派だって知ってるでしょが!」

「そうだっけぇ?」

愛があくまでもとぼける。

前文から分析する限り、給食を盗られたことについての口論だ。

こんな二人だが『鈴崎 愛』と『新藤 春花』は学校でも有名な親友同士である。有名になったその経緯は愛と春花の起こした様々な武勇伝(?)によるものであり……―― まぁ今はおいて置こう。

ついでに周囲曰く、このふたりのことを『正反対な奴ら』とか言うけど彼女達には知っちゃない。

そんな事など承知の上で学校生活を共に暮らしているのだから。

「あぁぁ!その言い訳この間のゼリーの時と一緒じゃんッ」

「最近物忘れひどくてぇ」

「ちょい待てこらぁッこれで何回あんたに給食とられていると思ってんのさ!」

「私、日本語ワァカリマセン」

「ああぁぁぁいいぃぃぃッッ!?」

怒り狂った春花がいよいよ愛を殴ろうとする。

これにはさすがの愛も逃げないわけにはいかない。

しかし春花は蛇の目の如く獲物をしっかりと見据えていた。

「う、うそだって。春花ぁ……怒っちゃ駄目よぉ」

この様子に愛は冗談抜きで震えが止まらない。

だが、春花は容赦なく間を詰めてくる。

「今日と言う今日は許さ―――」

――頭が真っ白になる。

不意に春花と愛の襟首が何者かにつかまれた。

春花の言葉は切れ、愛も何が起こったかわからず混乱している。

二人は持ち上げられた首を錆びれた器具のようにぎこちなく後ろに向けることしか出来ない。

背後にいたのは―――……


目の前に映りしは、恐れ多く我が担任教師……


「貴様らは落ち着いて飯も食えんようだな……」

担任の口元はひくひくと痙攣しながらも淡々と言葉を続ける。

二人はあまり恐怖に何もいえない。


……。


「すみません……。」

二人が縮こまりながら言うと、クラスのいたる所から笑い声がもれた。



    △ ▼ △



「あぁ、また怒られちゃったよ」

愛が、はぁっとため息つく。

辺りは大分暗くなり、下校中の小さな二つの影は商店街へ買い物に来たおばさんで溢れ返っている。

耳に入ってくるのも八百屋の威勢のいい掛け声とおばさんたちの世間話ぐらいだ。

いたって平凡、普通、平凡。

「愛が、私のプリン取るからでしょ!」

春花の怒鳴り声で愛の思考は再び現実に引き戻す。

だが、愛にとってそれはもう終わったことだ。

よってこの言葉しかない。

「……。過去を悔やむな!」

「愛が悔やましてるんでしょうがぁッ」

愛の自己中心的な誤魔化しに当然ながら春花の怒号。しかしこんな事を言っているが本人ももう気にしていないのは明白だった。

「……もういい。明日からは愛の給食取ってやるッ」

「まぁせいぜい頑張ってくださいよ。絶対無理だろうけどね」

「うっさい!」

春花は氷を思わせるような鋭い眼力で愛を睨みつけると何かを思い出したのかはっと口に手を押さえた。

「えっ何?どうしたん」

「忘れてた……」

「は?」

「あんたのせいでバイト忘れちゃったじゃないのぉぉぉ!」

まだ中三なのだが、春花は学校に秘密でバイトをしているのだ。

――と、気づく前に春花は愛を突き飛ばし商店街の薄暗い夜道をあっという間に走り抜けてしまった。

<なんなんだよ……今回はほんとに私は何もしてないし>

呆然と倒れていた愛だが、周りの目がずいぶん痛く感じて顔を赤めた。

とりあいずこの場を離れようとよたりながらも立ち上がる。

先ほどまで薄暗かった辺りは、日が暮れてパチパチと電灯がつきはじめていた。

<さっさと帰ろうっと>

愛は、バックを背負い直し足早に歩き出した時だ。

路地裏に・・・異様な光がもれてる・・・。

この辺の路地裏には家はない。ただ、今は使われていない工場があるだけだ。

工場が使われているのなら音がするはずなのに何も聞こえない・・・。

愛は、しばらくその光を見ていたがそっと暗い路地裏に入っていく。

春だと言うのにじめじめしていて生ぬるい風が愛の頬をなでる。

愛はほとんど好奇心で動いていた。これで春花がいたら何と言うか・・・。

そして、曲がり角の向こうから光がもれている。

<ここを曲がった所に何かが・・・>

愛はゴクっとつばを飲み曲がり角を曲がった。


そこには、まるでプラチナのようにきれいな刃を持つ剣が持ち主を求めるかのように光っていた。


この剣との出会いが愛の生活を大きく狂わせるとは愛は知るよしも無い・・・



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