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さた遊紀

空太夫 《セイア》

作者: さた遊紀

 馬車はゴトゴトと微かな轍を残しながら、麦畑の中を進んでいた。

 男は微かに眉の根を寄せて、御者台の後部、つまり荷台で眠りこけている少女を僅かに振り返り、そして大振りな溜め息を吐く。

 山越えをする途中に立ち寄った村で買い取った【商品】なのだが、少々顔立ちのいい若い娘であるということ以外に売り文句になるものが一つもない。

 接してきた態度からして気はたいそう強い方だ。が、それは【良質の商品】には必要のない項目である。身を売るほどの貧しさの中にあったのだから、肉付きも血色も良いはずが無く、容姿も人目をさらうほどのものではない。

 人の身なんて当分扱う気はなかったというのに、村にはそれ以外で売り物になりそうな物がなかったという、とんだ悲劇である。

 こんなガリガリの田舎娘に、いったいどれだけの値がついてくれるのやら。

 何だかんだで大体の相場は知っているものの、男はどう駆け引きすればいいのかさえ皆目見当もつかない状態だった。もう一度、今度は短く吐き捨てるような溜め息を吐いて、男は真っ直ぐ道の先を見つめた。

 山の冬は思ったより厳しく、余計な足止めをくらってしまったが、あともう少しで目的の街に着く。あの海町は外国との貿易も盛んだし、いくらか馴染みの豪商たちもいるから、彼らの力を少し借りれば、まぁなんとかなるだろう。

 馬車は多少の砂埃を起こしながら、麦畑の中を進んで行く。

 そうして静かな時を過ごし、行く手に小さな教会を見つけた男は、そこで今晩を越すことに決めた。




*+*




 食事に金はかからないとのことだったので、無言で遠慮しようとする少女を何とか言いくるめて連れて行く。

 今にも餓死してしまいそうな風体なものだから、売りに出すときには、とりあえず血色だけでもよく見えるようにはなって欲しいと思う。

 彼女は相も変わらず一言も喋らなかったが、それならそれで構わない。

 男と少女は黙って席につき、神父が祈りをあげている間は一応じっと座っていたが、自らも祈りを捧げるなんてことは一切無く、黙ってもくもくと食事をして、沈黙の中でそれを終えた。


 教会では、タダで寝床と食事を与えて貰えるかわりに、少しの労働を提供しなければならない。まぁ、労働というよりはただの手伝いだ。

 男と少女は、夕食のそんな対価として、神父と共に礼拝堂のそうじをすることになった。外は日がすっかり沈みきって、礼拝堂を照らすのは、時折揺れる蝋燭の灯りだけである。神父の穏やかな声に、男は無礼にならない程度で相槌をうち、少女は相変わらず黙っていた。

 ――そんな中。

 ゴン、ゴン

 閉じられた重い木の扉を、外から誰かがノックする。あまりに遅い訪問だと分かっているのか、少し躊躇いがちなノックだった。

 残念ながら神父は扉から一番遠い場所にいて、突然の来客のために扉へ駆けつけたりするわけもないので、彼が扉に到着する前に、ゴン、ゴン、と再びノックの音が響く。それから、

「あのー、どなたかいらっしゃいませんかー。えーっと…夜分遅くにすみませーん」

扉越しにくぐもった誰かの声が続いて、男は少し目を見開くことになった。神父もそうだったのか、軽く首を捻って扉の鍵に手をかける。

 扉越しに聞こえてきたのは、明らかに少女の声だったのだ。


「そんなに酷くは無いですから、一晩ゆっくり休めば大丈夫でしょう」

 そう言って包帯の端を結び合わせた神父に、少女が頭を下げつつモゴモゴとお礼を言う。極力声を出すまいとしているかのような、変な喋り方だった。

 深夜にやってきた二人組みは、男と少女と同じように、少女と男という組み合わせで、男の方に意識はなく、頭部から血を垂らしていた。

 少女の話では、道中盗賊に襲われなんとか逃げ切ったはいいものの、襲われた時に負傷した男が途中で意識を失ってしまったのだそうだ。

 もちろんその話は少女から神父にされたものだったが、男は男を運ぶのを手伝ったまま、何と無しに部屋に居残っていたので、結果、事情を聞くことになったのだった。

「あなたもゆっくり休んでください」

 立ち去る神父に続きながら、扉の手前で肩越しに少し振り返る。少女は一応頷く動作を見せたが、寝台脇に置いた丸椅子から動く気配はなく、横たわる男の額に巻かれた包帯を、ただじっと見つめていた。




*+*




 小鳥が何処かで(さえず)って、朝が訪れたことを知らせる。

 男はしばらく毛布に包まったままうだうだして、眠りに諦めが付いたところでようやく緩慢に身を起こした。脇の椅子の背にかけていたシャツを身に纏う。向かいの寝台では、既に目覚めているのだろう少女が、端のほうで膝を抱えていた。

 買い取った時からずっとこの調子だ。こちらと目を合わせもしない。それに不満があるのかと言うと全く持ってないわけだが。

 しかし。それはそれとして。

 男はつと昨夜の二人組みがいる部屋の方向に目を向ける。

 恐らく自分と同業者だろう青年とその連れの少女。父娘にも見えず、夫婦の様でもない。自然に考えられるのは、【商人】と【商品】という、男と少女と同じ関係だ。

 そこでふと閃く。

 彼らがどこから来たのか知らないが、ここからもう少し南に進んだ街道は盗賊被害で有名なところだ。つまり男がこれから通ることになる、海街へと続く道。彼らがそちら側から来たとして、これから東に進んで行くのだとしたら。この先にある人売り市場の規模は高が知れている。小さな規模のセリでは、【良質の商品】にもそうそういい値がつかない。

 男は昨日僅かに聞いた少女の声を思い出す。

 容姿は少し痩せすぎな気があったが、少し肥やせば申し分ない。あれはいい値が付くだろう。

 そうして男の頭の中は、その【商品】をどうやって譲ってもらうかの算段でいっぱいになった。


 【商品】自身との交渉が一番楽だという男の目論みに反して、朝食の席では、既に青年が目覚めていた。

「昨日はご迷惑をお掛けしました。あなたが運んでくださったそうで、感謝しています」

 早朝の食事の後、例の手伝いで礼拝堂を開く準備をしていた時のこと。男の傍にやってきた青年は、丁寧に腰を折って礼を述べた。

 どことなく育ちの良さを感じさせるような口調と仕草に、男は少し驚く。

 ひょっとすると行商人ではないのだろうか。

「気にしないでください。困った時はお互い様ですよ」

 軽く笑顔を返すと、青年も人の良さそうな微笑を見せる。

 ――これは。自分の見立ては完全に見当違いだったのかもしれない。

 まさかこんな性格で、行商人などやってはいられないだろう。だがしかし一方で、たとえ彼が行商人でも何でもないにしても――。

 男は仕事を再開した青年の後姿をしばし眺めて、ほんの微かに、口角を吊り上げた。

 商人たるもの、【良質な商品】をそう簡単に諦めはしないものだ。




*+*




「ねぇ、」

 ほとんど音になっていない、囁くような声とともに袖口を微かに引かれる。

 振り返ると、橄欖(かんらん)石を思わせるオリーブ色の瞳が真っ直ぐこちらを見上げていた。

「ん? どうかした?」

 まるで声を出すまいとしているかのような喋り方が少し気にかかりつつ目線を合わせると、オリーブの光が微かに揺れて、けれど結局彼女は小さく首を振った。

「……なんでもない。ごめん」

 擦れた声で返答して踵を返す。少し眉を寄せてその後姿を見送った彼は、ちらりと視界に入ったものに、

「……あー」

 視線だけで天を仰いで短く嘆息をもらした。




*+*




「いつ頃発つ予定で?」

 そろそろ日も高くなり始めた頃、馬を荷馬車に繋なぎ終えた男が、同じく馬の準備を始めていた青年に声をかけると、彼は温和な笑みを浮かべて、連れの目が覚めたら、と答えた。

 どうやら【あの子】は、昨夜けっきょく一睡もしなかったようだ。

あの子(・・・)は街で?」

 買い取られた場所に戻しても仕方がないので、一応の確認をとる。青年は一瞬きょとんとした表情を見せたものの、すぐに笑顔に戻って「いいえ」と首を振った。

 訊ね返すでもない返答がくるということは、相手はこちらの言いたいことを理解しているのだろう。

 全く向いているとは思えないが、やはり青年も商人だったようだ。

 それならば。

「ウチのと交換――なんてさすがにそれは無理ですかね」

 軽く笑いながら一番の理想を言ってみるが、それは彼が予想以上の馬鹿でない限り受け入れられるものではないと重々理解しているので、青年の顔が緩い微笑みから変化しなくとも男は気にしなかった。

「私も手持ちがそう多くは無いものですから……幾らでなら譲ってもらえますか。できれば商品と物々交換してもらえると嬉しいんですが。

 今なら西の良質な毛織物も少しあるんですがね。これはこの先の街で高く売れますよ」

「――毛織物か……でももう季節も終わるころでしょう」

「いやいや、東の山脈はまだまだ冬も最中ですよ」

 それは事実、本当のことだ。自分の持ち物に興味をもってくれたらしい青年に、男は饒舌になって自分が主に生業地域としている土地の知識を披露する。

 東に連なる山脈地域は、標高が高く、気温もそう上がらない。しかし地域監査の役人は肥えていて、有力者もなかなか多い。西の有名な毛織物となれば買い手も付き易いだろう。

 男のそんな話にも青年の笑顔は変化しなかった。これは読みを誤っただろうかと男が内心舌を打ったとき、青年が穏やかに口を開いた。

「そんなにあの子が気に入ったんですか?」

 ほんの少し苦笑が混じっているような口調に、男はさっき感じた思いを打ち消す。

 ついついやり手かもしれないなどと思ってしまったが、アレの価値に気付いていないとは。やっぱり素人並だったらしい。内心ほくそ笑みながらも、顔には人好きのする笑顔を浮かべて、男は頷いた。

 アレの声は格別にいい。必死で隠そうとしていた様子だったが、昨晩扉を叩いた時に男はしっかりと耳にしていた。見た目も悪くはない。アレなら色街に高値で売りつけられるだろう。

「毛織物だけでは何ですから、ウチの【ヤツ】も付けましょう。……まぁ、そういい値はつかないでしょうから、なんなら荷馬車を見てもらって――」

 男がみなまで言い終わらないうちに、青年は馬の手綱を引いて歩きはじめる。てっきり了承してくれたのだと思っていた男は、少し驚いて青年のあとに続こうと一歩足を踏み出した。が、前を行く青年が立ち止まったのでそのまま固まることになってしまう。

 そんな男を、青年は相も変わらずの柔和な笑みで振り返った。

「そんな売れ残りと引きかえに、あの子を売ったりしませんよ」


 青年が爽やかに立ち去った後も、男は恥辱に震えながらしばらくそこに突っ立っていた。

 まさか商談を断られたうえ、自分の持っている品をああも馬鹿にされることになろうとは思いもしなかった。自分が見下してかかっていた相手だけに、内心の怒りはそうやすやすと収まってくれそうにない。

「くそったれの青二才が……!」

 唾と一緒に吐き捨てた男は、踵を返して、ふと立ち止まった。

 青年の持つ【アレ】が高値で売れることは確実で、それなりのリスクを背負ってでも手に入れる価値は十分にある。そして相手はあの優男だ。あれだけ能天気でぼんやりしてそうな奴から、逃げ切れない訳がないだろう。いざとなれば、体格も力も体力も、勝っている自信は十分にあった。

 ククッと男の咽喉から押し殺した笑いが漏れる。

「妥協しなかったことを後悔するがいいさ……ッ」

 再び歩みを進めだしたそのとき、男はその口元に、下卑た笑みをのせていた。




 連れの少女に青年を見張らせて、男は彼らの部屋に忍び込む。

 その両の隅に置かれている寝台の片方で、青年の話した通り、【その子】は眠りこけていた。

 規則正しい穏やかな寝息に合わせて、被った毛布が上下する。

 男はニヤリと口角を吊り上げ、その毛布に包まる少女の肩に手をかけた。

「――おい、起きろ」




*+*




 何かおかしい。

 キギスは自分の横にひたすらついて来る子供を見下ろして、僅かに眉根をよせた。

 いったい何をしたくてこの子は自分について来るのか。それも確かに問題なのだが。

「……何で君は」

 出発の準備をしていた手を止めて話しかけると、子供は相変わらず一言も発しなかったが、少し首をかしげて彼を見上げた。

 キュッと眉根を寄せたままにその蒼い瞳を見つめながら、キギスは一度切った言葉をもう一度紡ぎ直す。

「何で君は、女の子の格好をしているんだい?」

 そのキギスの発した問いに対し、子供はもともと大きな目をさらに見開いて、ぽかん、と口を開けた。

 そのままキギスを凝視して、でもやっぱり口をきいてはくれない。

「いや、見間違いだったら申し訳ないし、込み入った訳があるなら別に話さなくてもいいんだ。――ただ、ちょっと気になっただけだから」

 軽く苦笑して作業に戻ったキギスの脇で、子供は今しばらくキギスを凝視したあと、

「……なんで分かった」

 少女というには些か苦しい声音で、ボソッと呟いた。そんな反応にキギスは束の間手を止め、きょとんとした表情を見せたが、すぐに人の良さそうな笑顔を浮かべて今はもう馬車に繋がれた馬の背をポンポンと軽く叩く。

 そうしてちょっと困った風体で頭を掻いた。

「何でって訊かれても困るんだけど……」

 まぁ、なんとなく? と全く答えになっていない答えを小首を傾げつつ答えるキギスに、〝少年〟の眉間が深くシワを刻んだ。

「あんた、ぽやっとしてるようで実は違うんだね。一番性質悪いよ」

 苦々しく吐き出された言葉にも、キギスは何も言わず微笑みだけを返す。それを見上げて呆れきった表情を見せた少年は、直後、瞳に嫌悪感を滲ませた険しい顔をつくった。

「気付いてるかもしれないけど、オレの【所有者】は仁義なんて持ち合わせてないよ。オレにあんたを見てろって言ったってことは、あんたの持ち物に手を出そうとしてるのかもしれない」

 ――何かしつこく売ってくれって言われたものない?

 そう訊ねて、心当たりがあるようなら注意しておいたほうがいいと言おうと思っていたのだが、少年がその全てを伝えきる前に、キギスは姿を消していた。

「……っな!? ……いつの間に」

 あまりの素早さに唖然とした少年は、しかし一瞬の後に我を取り戻し、自分も慌てて走り出した。




*+*




「キギスがそうしろって?」

 抵抗するようなら気絶でもさせようと思っていた男だが、予想に反して少女はとてもおとなしかった。自分に着いて来るようにと告げた男に対して一言発したきり、文句も言わずに着いて来る。さしずめ自分は売り渡されたのだと思っているのだろう。オリーブ色の瞳は曇っていたが、売られる少女などそんなものだ。価値が下がったりはしないはずだ。

 心の内だけで笑っているつもりだった男は、その笑みがしっかり表情に滲み出ていることにも、少女がそれをばっちり目撃して訝しげな表情を浮かべたことにも、全く気付かなかった。

 頭の中は、ただただこれを売って手に入る儲けのことでいっぱいだった。

 借りていた部屋から礼拝堂に入り、出口を目指してずんずん進む。

 しかし久々の豪遊を楽しむ男の想像は、突如、蹴破らんばかりの勢いで開け放たれた扉の音と、そこから飛び込んできた人物の「サナギ!」という声と、全く思いもよらなかった強烈な左ストレートの顔面襲撃という、一瞬にしては多すぎるほどの要因によって、中断されることとなってしまった。

 頭蓋骨をも揺るがさんばかりの振動と激しい痛みに、脳が束の間機能を停止する。

 真っ白な頭で尻餅をついた男は、視界が戻っても呆けたまま、立ち上がることもできずに自分を殴り倒した青年を見上げていた。思考回路は回復しても、現状の処理が追いつかない。瞬きを繰り返すばかりの男の傍らで、もともと青年の連れであるはずの少女も、瞠目して固まっていた。

 そんな少女を、青年の腕が優しく捕まえる。そうして安堵したような息を漏らした後、彼は途方も無く冷え切った目で男を見下ろした。

 床に座り込んだままの男は、その視線から言いようの無い恐怖を体中に注ぎ込まれ、何も言われぬうちからコクコクと小刻みに頷いてしまう。

 まるで別人だった。誰だ、こいつは。

 あの温厚そうで温和そうで実直そうで、絵に描いたような「良い人」だった青年は一体どこへ消え去ってしまったのか。

 無言の牽制――もとい脅しに対する無言の同意を受け取った青年は、腕の中で身動ぎした少女に視線を落とし、開放する。その時にはすでに、緩々の雰囲気が戻ってきていた。

「出発の準備ができたよ、サナギ」

 つい先ほどのでき事をまるで無かったことのように振舞う青年に、少女は若干たじろいたように見えたが、短く嘆息して男を一瞥した後、微かに笑って頷いた。

 そうして二人して、何事も無かったかのように出て行く。

 その後ろ姿を見送りながら、男はやっぱり惜しい品を逃したと考えられずにはいられなかったが、紫の鋭い眼光が網膜の裏で睨みをきかすので、震えが来る前に頭からその考えを追い払った。




*+*




 馬車はゴトゴトと微かな轍を残し、麦畑の中を進んでいた。

 男は暢気な顔で空を見上げて、ついでに御者台の後部、つまり荷台で眠りこけている少女をチラッと振り返る。そしてそっと息を吐きつつ、とても柔らかな笑みを表情に滲ませた。

 眠る少女の頭の下で枕と化している一着の服から、鮮やかな帯の端が風に攫われ踊っている。

「わざわざ拾ってくれなくったって村までなら一人で帰れるよ」

 御者台の、青年の隣に腰掛けた少年が困惑顔で開口する。

 それを期に宵闇を思わせる紫色の視線が少年に向けられ、笑みに細まった瞳が彼の姿を映した。

「君の村にはいい染物がありそうだから」

 風に踊る帯に少しだけ視線を流して飄々と答える青年に、少年は困惑顔をただの顰め面に変える。

 そんな様子に一瞬だけ悪戯っ子のような笑みを見せた青年は、眼前の道を見据えながら言葉を続けた。

「あのまま一人で歩いて帰るなんて、ちょっと無謀だと思うなぁ。……それに、もし【あの人】に追いかけられたりしたら大変じゃないか」

 むしろそうなったら面白いのにとでも言っているかのような口調に、少年は苦笑気味に溜め息をついて、

「三日間は目を覚まさないくらいにぶん殴ってくれば良かったのにさ」

 蒼い空を見上げながら愉しそうに笑った。


 馬車は多少の砂埃を起こしつつ、麦畑の中を進んで行く。 


            


                                  〈セイア・了〉


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