コペンで挙式
〇あなたはもう忘れたかもしれないが?
翌朝早く件の青年が現れました。
「よろしければ会館まで行きましょうか?すぐ近くです」
「よっしゃ、マメタン行ってみよう」
何か見覚えがあるなと思ったら、あのホモおじさんの家の近くで
こぎれいな和式の平屋が見えてきた。前庭があって清楚な感じだ。
寺という感じでも教会という感じでもない。純和風。
母屋の入り口ドアを開けると、曇りガラス戸の向こうの仏間で、
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、・・・・・」
と数人の元気の良い題目の唱和が聞こえる。青年が右手の居間を指差した。
あるある日本の雑誌、単行本、新聞などなど。長く欧州を旅していると
誰でも日本食が恋しくなる。と同時に活字にも飢えてくる。
あれば1ヶ月前の雑誌でもむさぼり読むのだ。ここの雑誌はまだ新しかった。
夢中になって二人で本を読んでいると、例の青年が管理人さんを連れてきた。
「やあごくろうさんでんな。はじめてでっか?」
「どっかでみたことありますね?」
「インマーマンシュトラセの日本食品店につとめてます」
「ああ、あの店の・・・。何か日本の本が一杯あると聞いてきたんですが、
2,3冊借りていっても良いですか?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「じゃ、これとこれとをお借りします。12月25日頃に返しにきますので」
題目の声に圧倒されて挨拶もそこそこに靴を履きかけた、とその時。
仏間の曇りガラスがすっと開いて、なんと驚いたことに題目を元気
一杯に唱和していたのは3人の長髪ヨーロピアンヒッピーでした。
てっきり日本人かと思っていましたが青い目のヒッピーだったとは全く想定外。
会釈をしてそろりそろりと外へ出ました。
○あなたはもう忘れたかもしれないが
おおつき、おがわ、ぼんぼん、ひょうきん、山男、
映画俳優、イスラエル。みんなよく頑張ってくれました。
ついにクリスマスも終わりデュッセルに集結しました。
大成功でした。もうお札を数えるのも面倒な状態でしたが、
総売り上げは日本円で1000万円を超えていましたね。
みんなを引き連れて再びコペンへ凱旋。盛大に結婚式をやりました。
とても寒かったですね。そう、あなたはウェディングドレスの下は
下着だけでしたから。大通りを歩き、人魚姫のまえでお姫様抱っこ。
あちこち写真を取りまくっているうちに、あなたはその晩高熱を出しました。
さあ、日本に帰るぞ!何とかローマ行きの飛行機に飛び乗って、
「今どこら辺?」
「デュッセルの真上くらい」
二人はそろって真下に手を合わせました。
「デュッセルドルフ、ありがとう!」
-完-




