雨女
戦後七十年の年に書いた短編です。
ユミと徹は幼馴染、少し恋後心が芽生えてきた年ごろ。夏の課題で地域の伝説を調べに雨漏り神社に来ていたが、突然雨が降り出し神社の中に避難した。するとずぶ濡れのモンペ姿をした女の人がやって来る。見ると足が無い、二人は恐怖にかられるが女の人はユミを見ると「恵美ちゃん」と声をかけてきた。恵美はユミのおばあちゃんだった。女性は山形ツネと言い、恵美おばちゃんの友達で、亡くなった娘は幸子という。爆風で家族は全員亡くなったが、飛ばされた幸子は少し遅れて亡くなった。家族の遺体は見つからなかったが、幸子が最後まで握っていた着物の端切れと一緒に、恵美おばあちゃんの一家は幸子を埋葬した。ユミと徹は幸子の墓に案内した。ツネは七十年の間幸子を探していて、恵美の孫であるユミを恵美と思い霊に魅かれ現れたのだった。墓の前で祈るツネに、上空から光がさし、その光の中に子供の姿があった。あの世からツネの魂を迎えに来た幸子だった。二人はユミに頷くと、空へ上って行った。徹とユミは新しい伝説を作ったのだ、そして自分たちの伝説も。
知ってますか?雨が降ると出てくる、時々子供を連れて行ってしまう妖怪らしいです。でも本当は元は人間だったそうですよ。
「わあ、夕立だ」
「本当だ、早くこっちへ来いよ!」
ぼくはユミを古ぼけた神社に招いた。
「さっきまで晴れていたのにねえ。」
「山の天気は女心と同じってね。」
思いっきりユミにつねられた。
「徹、意地悪!」
これでも僕らは幼なじみ、恋のようなそうでない様な、不思議な感覚の年頃なんだ。
僕らは夏の課題で、古い伝説やら民話を調べていた。
この神社も、今は使われていないのだけれど、ぼくらは子供のころから遊んでいた。
「雨森神社、ホント雨漏りしそうだわ。」
「じいちゃんの子供のころはお祭りがあったみたいだよ。」
子供たちにとったら、大人が来ない秘密基地だ。雨はだんだんしとしと状態
「止まないねえ。」
「しょうがない濡れてもいいから帰ろう。」
「あれ、誰か人が来るよ。」
「ああ、あの人も雨宿りかな?」
神社の境内に女の人の人影が見えた、ずぶぬれになっている。着物がぐっしょり、長い髪もざんばらで雫が落ちている。
「なんか怖いわ。」
あれ?歩いているのに、地面に足がついてない、、、、
「きゃあーーーーーーーー!!!!!」
「来るなあ!」
「徹ちゃんこわいよお。」
ずぶ濡れ女は、地面を浮いてるようにこちらにやって来た。
「ねえ、私の子を知らない?あなたはお友達でしょ?」
「違うよぉ、おばさんの子なんか知らないよお!!」
「もしかして恵美ちゃん、隣町の酒屋の恵美ちゃん?」
ずぶ濡れ女はユミに尋ねた。
「恵美じゃない!私はユミ!」
普段ならうれしいと思うくらいに、ユミは僕にしがみついている。だけど、こんな状態じゃあ嬉しさなんてどうでもいい。
「でも似てる、恵美ちゃんでしょ?私の子供幸子のお友達でしょ?」
ずぶ濡れ女はしつこくユミに聞いている。
「おばさん!違うよ、この子は本当にユミって言うんだ!」
ずぶ濡れ女はよく見るとまだ若い。それにしてもなんで着物なんだ?おまけに胸に名前を書いた布が縫い付けてある。しかももんぺ姿。
雨森町山形ツネ
雨森町?ここだな?山形?確かにここには多い名前だぞ?
「おばさん、おばさんはここに住んでいるのですか?」
「そうよみ、雨森の紺屋の山形よ。ゃっぱりあなたたちは幸子のお友達かい?知ってたら教えて、早くしないとまた敵の爆撃機が来るのよ。」
「敵?というか、雨森町って言ってるけど、ここらは天神市雨森じゃないか。」
「ほらB29がやって来るわよ、あなたたちも早く逃げなきゃ、ねえ、早くったら。」
「B29!!」
僕とユミは声をそろえてしまった。
「だって今は米英と戦っているのよ。」
長い沈黙のあとユミは
「もしかして紺屋の山形って、亡くなったばあちゃんの幼なじみ?」
「おばあちゃん?」
「ばあちゃん、確かに恵美だわ。聞いたことがあるの、仲良しだった子が戦争で亡くなったって。その子は確か染物屋の子で幸子って言ってたわ。」
「本当か!じゃあこの人は」
「幽霊!!」
また声がそろってしまった。
ずぶぬれ女は山形ツネ、家は染物、つまり紺屋を営んでいた。終戦の年、一家はB29の爆撃で全滅した。一人娘の幸子は親から離れたところで遺体が見つかったという話だ。
ユミのおばあちゃんの幼なじみだった。ユミの家では、可哀そうに思い、恵美の亡きがらだけはお墓に埋めてあげたのだ。だけど他の家族の遺体は、焼け跡からも見つけられなかったのだ。
僕とユミの話を聞いた後、ずぶ濡れ女は深いため息をついた。
「私は、何十年もこの世をさまよっていたのね。」
「雨女よ!」
「雨女?」
「そうよ、やはりそうだわ、ほら雨森神社って伝説があるの。子供をなくした女の人は雨女になって雨が降ると現れるんだって。雨森神社は、子供に会えずに亡くなった人の霊を鎮めるために作られたのだってはなしだったわ。」
「じゃあ、この人はきっとユミとユミのおばあちゃんが似ているから、なんか同じような霊を感じたんだね。それで現れたんだ。」
「ツネさん、幸子ちゃんはこの神社の裏山に葬られているわ。ツネさん、そこに行ってあげて、そうすれば娘さんとまた会えるわ!」
僕たちはまだ小雨が残る中、暗くなった山道を駆け足で登って行った。ユミと僕、そして浮いているようなツネさん。見ている人がいたら、どう思うんだろう。
「あったわ!覚えてる、ばあちゃんに連れてもらってきたことがあるよ。」
山の中腹に小さな石塔、そこには、山形幸子と。
ツネさんは墓石にすがりついた
「幸子、、、会いたかった、ごめんよ、お母さんはあんたを一人にさせてしまった。ごめんよ、苦しかったろ。」
「ツネさん、それは違うわ。」
「え?」
「おばあちゃんから聞いたの、爆撃は一瞬でお家を吹っ飛ばしたの。恵美ちゃん以外はみんな一緒に亡くなったの。恵美ちゃんは爆風で家の外にふきとばされたんだって。その時ツネさんの着物の袖の切れ端を握っていたんだって。お墓にもツネさんのお着物の袖も一緒に埋葬したんだって。」
「そうか、吹き飛ばされたから時間が少し経ってから恵美ちゃんは亡くなったんだね。それでツネさんは七十年たっても恵美ちゃんを探してたってわけか。」
「あんたたちありがとう、わたしはこれでこの世から成仏できるわ。あの世で幸子、それとあなたのおばあちゃんに会えるわ。本当にありがとう。」
静かに頭を下げるツネさん。いつの間にか雨が止んでいた。
雲の切れ間から、月が顔を出しました。光の筋が一直線に伸びてツネさんと墓石をつつみました。
光の中にツネさんと、もう一人、小さな人影が浮かびました。そう、幸子ちゃんです。
二人は手をつなぐと僕とユミの方を見てこくりと首をかしげると、上へ上へと登って行きました。
雨女は雨が止んだら子供に会えるんですね。
僕とユミとで新しい伝説を発見しました。
そして僕とユミの伝説もね
戦争童話シリーズの1つになります。シリーズは後日まとめます。




